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王領にて
第60話
しおりを挟む王弟レイモンドと、王弟妃マキュラが庭園に設置された壇上に姿をあわらすと、わっと歓声があがった。リツェルも食事の手を休め、悠々として語るレイモンドの声に耳をかたむけた。きらびやかな衣装を身につけたマキュラは、きつねのような顔をした女性だ。キリッと吊りあがる目で、背筋をのばして壇上を見つめる貴族の群れをながめる。たいして内容のないレイモンドのあいさつのあと、王位継承権を有するミシェルが登場すると、ひときわ甲高い声がリツェルの鼓膜を刺激した。息子は父親似で、たぬき顔だった。
娘をもつ大貴族の当主は、ミシェル王子に紹介するため息巻いたが、婚礼の儀が執りおこなわれると判明するや否や、こんどは側室候補にと、しつこく推薦した。王族や権力に興味のないリツェルは、食事を再開した。王宮専属の料理人が用意した品目は多彩で、さまざまな食文化と融合した味つけは見事である。夢中でフォークを口へ運ぶリツェルは、アルバートの視線に気づかず、長机を行ったり来たりした。
「彼は今、なにを?」
「リツェルくんは、騎士団の宿舎の厨房で働いていますから、パーティーでふるまわれる料理の味をみて、彼なりに勉強しているのでしょう」
「ふむ。たとえそうだとしても、あのような早食いでは、いけないな。品位に差し支える。……彼は料理人なのか。おもしろい。ぜひ、わたしも食べてみたいね」
「リュディカ州へお越しのさいに、機会があればと、私からリツェルくんに伝えておきますよ」
アルバートは有力な公爵につき、個人的な関心を向けられることは身にあまる光栄として受けとるべきだが、グレリオはリツェルの安全を優先した。下手に近づかれては、立場的に断れない状況に追いこまれる危険があった。なるべく世間話をしてアルバートの足止めをするグレリオの配慮をよそに、リツェルの背後から声をかけるものがくわわった。
「ねえ、あなたは、どなた?」
長い金色の髪を高く結んだ少女である。リツェルがふり向くと、声の主は見えず、視線を落として少女と目が合った。好奇心旺盛な顔つきで、リツェルを見あげてくる。
「ちょっと、あなたはって、きいてるのよ。はやく名乗りなさいよ」
なかなか気の強い少女である。リツェルの記憶では初対面のはずだが、遠慮のない態度で「レディに先に名乗らせるなんて、あり得ないんだから!」といって、足をじたばたさせた。
「わ、悪い。おれはリツェルだ。リツェル・エストラバ。……きみは?」
名前を問われた少女は、途端にパッと笑顔になった。リツェルの名前に関係なく、本当の目的は正体を当ててほしかったようだ。
「えっへん! あたしは、ローレライよ」
「ローレライ・エッヘン……?」
「ちがぁう! なんでそうなるのよ。あたしは、ローレライ・アレクシス! ア、レ、ク、シ、ス!」
一瞬、手にしていたフォークを地面へ落としそうになったリツェルは、「なんだって?」と声にでた。アルバートの娘だとしてもローレライの外見は幼く、躰つきも未成熟の子どもである。貴族層には孤児や少女を養子にして(性的な意味で)愛でる野蛮人もいるため、よからぬ想像をしたリツェルは眉をひそめた。
《つづく》
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