向こう岸の楽園

み馬下諒

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第54回[謎解き]

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 見知らぬ男に救出された青年は、どのような人生を送ったのか。あくまで、夢でみた話だが、舞台となった場所は廃村であり、青年の容姿は飛英と似ていた。

「……あの集落は、たぶん、わたしの故郷なのでしょう。他者によって根づいたものがいまわしい変災ならば、わたしは、戻らなければ……、」

「戻って、どうするつもりだ?」

「奥地のほうに、池がありました。……水底に、男性が沈んでいる可能性があります。」

「水中に死体があるのか? そいつはまた、穏やかな話じゃないな。いったい、なんの犠牲者だ?」

「そ、それは……、」

 飛英が口をつぐむと、克衛は変な顔をした。壁時計の秒針が、コチコチと音をたてる。時刻は、男娼が客を求めて動きだす頃合ころあいにつき、うす暗い路地では肉体がまぐわい、劇場では、ストリッパーたちが大胆に腰をふって踊る。はなやかな衣装を身につけた椿が登場すると、列席者から拍手喝采かっさいがわき起こった。飛英が抜けたところで、舞台に大きな影響はなく、非日常の闇市へ足を踏み入れた人々は、火遊びに夢中になっていた。感情のたかぶるまま活力をみなぎらせ、一夜ひとよかぎりの快楽に陶然と酔いしれる。

 ぼんやりとした電灯がともる克衛の生活空間は、質素しっそな暮らしぶりを思わせた。贅沢な私物を持たない克衛は、静かに飛英の返答に耳をかたむけている。なりゆきとはいえ、自分で云いかけた以上、はぐらかすわけにもいかない飛英は、いつまでも沈黙を保ってはいられなかった。織原の人間として、廃村の後始末あとしまつを引き受ける義務と責任が発生していると思いこみ、礼慈郎の公的立場を考えると、悪しき実態の解明は、必然的だと思えた。

「……すべての謎は、きっと、もうすぐけます。わたしが行って、終わりにしてきます。」

「ひとりで行くつもりか? 危険だろうに、」

「どうか心配しないでください。わたしは、けっして、ひとりではありません。」

 飛英の表情から迷いが消えると、克衛は小さく息を吐き、戸棚から財布を取りだして、紙幣を引き抜いた。

「かならず帰ってこいよ。おまえには聞きたいことが山程あるからな。あの紳士と白髪男についても、屯所とんしょに通報したとはいえ、本人が被害届を出さなけりゃ、まともに調べやしないだろう。くれぐれも、背後に気をつけろよ。……ひとまず、今夜は休め。どの道、そんな恰好では外を歩けんだろう。露店で適当な着物を探してきてやる。」

「……あ、ありがとうございます。」

「礼にはおよばん。いいモノ、、、、を見せてもらったからな。」

 飛英は首をかしげたが、克衛は、ふくみ笑いをして部屋から出ていった。飛英は全裸でいた時間が長いため、克衛なりの冗談だが、素肌をさらすストリッパーを経験した本人は、あまりにも無頓着だった。

「……礼慈郎さん、まだそこに、、、いますか? ……あと少しだけ、お待ちください。どうか、あと少しだけ、わたしに時間をください。」

 受け取った紙幣を見つめ、礼慈郎の無事を切に願う。ひたいあざの謎は解けたに等しいが、池の件は未確認である。もし、男性の遺体(あるいは人骨)が発見された場合、飛英の夢は、現実に起きた内容と一致することになる。また、座敷牢で聞いた声の正体は、誰だったのか。英理えいりという別人格を認識できず、頭を悩ませる飛英は、かつてない経験を集落でげることになる。


✓つづく
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