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第62回[契り]
しおりを挟む一夜の情交を、定められた宿縁として考えることにした礼慈郎は、飛英の意識がないうちに英理と抱きあった。互いを求める息づかいはすぐさま乱れ、口づけを何度も交わし、つなげた肉体の動きは激しさを増してゆく。人間の欲望を照らす月明かりは、灰色の雲によって翳りをみせたが、ふたりは性行為に集中し、ひと晩で三度も絶頂を遂げた。先に体力の限界を感じた英理は、手足を投げだし、満足そうに高笑いした。
『あーっはっはっ、やればできるじゃないか、さすが軍人さん。下半身まで、よく鍛えてあるわぇ。最高の気分だよ!』
「……まだ余力が残っているようだな。口がきけなくなるまで悦がらせるつもりだったが、どうやら時間切れだ。」
『くすくすッ、精力の強い男ってのは、勃起の大きさも硬さも最高だわぇ。射精後の不応期も短いときたもんだ。あははっ、受け身の都合にかまわず、好きなだけ続けたって、よかったのに……、』
余裕ぶって笑う英理だが、手ぬぐいで汗を拭く礼慈郎の横顔を見つめ、微かに眉をひそめた。抱きあっているとき、軍人は眼裏に誰かの姿(もうひとりの面影)を追っていた。最初は激しいと思われた腰つきも、いくらか手加減していることに気がついた。しかし、生身の礼慈郎から存分に刺激と快感を享受された英理は、文句を云わず、がまんした。
「……それで? おれはこのあとどうなる。」
『どうって、なんだい急に? べつにどうもしないわぇ。』
「そうは思えないから、訊いているんだがな。」
『案外、用心深いこと。……それとも、あたしのことばなんて、信じられないかぇ。』
礼慈郎は脱がされた衣服を着こむと、英理の下半身へ目を留めた。股のあいだから流れる体液に、わずかだが血液がまざっている。数々の男を誘惑してきたであろう肉体は、新鮮で豊富な栄養(礼慈郎の精液)を摂取したばかりである。火照る肌を横たえる英理は、真剣な表情を向けてくる軍人を見つめ、小さく笑った。
『まったく、口説き甲斐がある密男だよ。……でも、そうさねぇ。ほしいものを呉れたんだ。こんどは、あたしの番ね。……織江の儀式なんて、知ったことかい。あたしは、好きな男を死なせやしないよ。廃村におしとどまったところで、解決する事柄なんて何もないから、はやくお帰り。まぬけな飛英とも、二度と戻らないと約束おし。』
英理の意見は、あくまで礼慈郎の身を案じての結論であり、飛英の思いとは差異があった。とはいえ、廃村で起きた過去の出来事は、あまりにも婬靡につき、説明するほうは億劫でしかない。英理は、差しだされた梅小紋に袖を通すと、帯を結ぶまえに礼慈郎のほうへ向き直った。
『ねぇ、あたしの下肢、拭いておくれよ。このままだと、着物が汚れるわぇ。』
「自分でやれ。」
『これは軍人さんの役目だわぇ。……見てのとおり、淫呪の血は穢れている。浄化できるのは、ひとりしかいない。』
めずらしく神妙な顔で見据えられた礼慈郎は、旅行鞄から水筒を取りだすと、手ぬぐいを洗った。太陽を背にして立つ英理の前で片膝をつき、下腹部の体液を丁寧に拭き取った。太腿の内側へ指を添えると、細い腰がピクッと反応した。礼慈郎は少し迷ったが、性器を拭くため手のひらで軽く持ちあげると、「ひゃっ」と、青年が変な声をだした。
「……織原か、」
顔をあげた礼慈郎は、困惑の表情をして咽喉をふるわせる飛英と目が合った。
✓つづく
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