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第 14 話
しおりを挟む夕刻になり、神殿から帰宅したザイールは疲れた顔をしていたが、恭介は領収証の件で詰め寄った。
「おかえり、ザイール。早速で悪いが、これはどう云うことなんだ? 説明してもらおうか。」
「説明とは、また、なにを……、」
ザイールは恭介が手にする紙片の束を見て、ほんの少し表情が硬張った。
「いいか、ザイール。キミは趣味や娯楽に金を使いすぎている。月々の主な支出は食料や光熱、家事用品に被服などだが、病気やケガをした時に備えての医療費や、将来のための貯蓄を、しっかり考えているんだろうな。」
「キョースケさま? 突然、どうなされたのですか。わたしはただ、」
「ただ?」
「必要なものだからこそ、手に入れているだけで……、」
「ふうん? じゃあ、これは何だ?」
「そ、それは!」
恭介は、寝室で発見した無駄遣いの証拠を突きつけた。
「そ、それは、わたしの大事な、おチンチン人形です!」
なにやら卑猥な科白を叫ぶザイールだが、恭介はなるべく平常心で対応した。
「これのどこがそんなに大事なのか、オレには理解できんぞ。」
「なぜです? とても可愛らしいではありませんか! われわれ神官のあいだでは、大ヒット商品なんですよ!」
そう云って人形に抱きつくザイールは、ぎゅっと瞼をとじた。チンチン人形とはその名の通り、男性器そっくりに作られた40cmくらいのぬいぐるみである。先端には茶色の丸い目があり、口はない。ザイールにとっては大事な人形らしい。
(それであの時、オレの股間が気になったのか……?)
しかも、ザイールは人形に“アルトゥル”と名前をつけており、いつも枕もとに置いて一緒に寝るのだと打ち明けた。さらに、人形には専用の着替えも売っており、ザイールは季節ごとに何十着と買い揃えている。
「アルトゥルは、まさに神の化身なのです。どんな時も、わたしの心を癒やしてくれます。一生、手放せません。」
「神ねぇ? オレにはよくわからねぇけど、それなら、こっちのは何だよ?」
次に、恭介がバラバラと机にひろげたものは、2~3センチほどの小さな石で、色も形もすべて異なっていた。同じく寝室の箱の中から見つけたもので、あまりにも大量すぎて数えきれていない。ザイールはアルトゥルを抱きしめたまま、きちんと説明した。
「それでしたら、浄化の天然石です。毎日、身につけるものですから、だんだん増えてしまって……、」
「お守りみたいなモンか? なら、ひとつあれば充分だろう。なんでこんなに買ってくるんだよ。」
恭介が石のひとつを手にしてながめると、ザイールは血相を変えて身を乗りだした。
「いけません、キョースケさま! その石に長く触れないでください!!」
「なんで? ただの石だろう。」
「違います。箱の中は、わたしの穢れを浄化した使用済みの石なのです。うかつに触れては、キョースケさまの身に悪影響を及ぼします。」
「それって、どこ発信の情報だよ。」
「城下町の宝飾店です。そちらの店主いわく、わたしの魂は不浄な悪魔に狙われているらしいので、毎日、新しい天然石を買いにくるよう云われました。」
あきらかに悪徳商法である。パワーストーン糸のアクセサリーは恭介の生まれた世界でも商品として販売されていたが、毎日買う必要はないはずだ。ザイールは浪費癖があると云うより、騙されやすい性格なのかも知れない。
恭介はため息を吐き、宝飾店にはもう行くなと忠告したが、ザイールは涙目になってしまう。
「どうして、そんなことを云うのですか。キョースケさまは、わたしが悪魔に拐われて、あんなことや、こんな目に遭わされてもかまわないと云うのですか?」
「あんなことって……、」
思わず聞き返して後悔した。ザイールは、恭介の顔面に向かってチンチン人形を投げつけた。
(おいっ!? 神の化身なんだろうが! もっと慎重に扱えよ!?)
「キョースケさまの、恥知らず! わたしはまだ、未経験なんです! 何かあってからでは遅いのですよ!?」
(あっ、ザイールは童貞なのか……。しかも、なんか受け身っぽいな……)
恭介はアルトゥルを机に置き、配慮に欠けた発言を謝罪した。
「悪かったよ。これ以上、キミの趣味を否定するつもりはない。頼むから泣かないでくれ。」
「わ、わたしは、泣いてなどいませんっ。」
と云って強がるザイールは、丸眼鏡の下で涙をこらえると、寝室に閉じこもった。
(ああ、やばい、手遅れか……)
ザイールの機嫌を損ねてしまった恭介を、机の上のアルトゥルが見つめていた。
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