恭介の受難と異世界の住人

み馬下諒

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第117話

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「え? ユスラくんも文官になりたいのか?」 
「はい。事務内官のお仕事は続けていきたいと思ってますが……、あれ? キョースケさんも興味がありますか?」
「うん? いや、オレはべつにねぇよ。」

(あぶねぇ。いきなりバレるところだった!)

 ユスラは大量の伝票を片付けながら、今後の抱負ほうふを語る。その隣で作業する恭介は、心拍数がドキドキと上昇した。気づかれないよう、資料を探すフリをして席を離れる。

(……さすがに、まさかの展開だろ。こんな身近にライバルが出現するなんてよ)

 ただでさえ、せま関門かんもんを突破する必要があるため、他者を気づかう余裕はない。

(……にしても、なんでまた、このタイミングでなろうと思ったンだ? しかも、ユスラには5回もチャンスがあるンだよな。……うらやましいぜ)

 文官の採用試験には年齢制限がある。19歳のユスラが同じ目標を立てるとは思わなかった恭介は、ガクッと肩を落とした。複雑な感情になったところで、アミィが出勤してくる。

「ふたりとも、おっはよ~。」
「おはようございます。」
「おはようございます。アミィさん、ほっぺに何かついてますよ。」

 アミィの顔を見た恭介は、自分の頬を指さして云う。ぽややん気質の上司は、朝食のパンくずを顔につけている。「あら、ほんと? やだぁ」と云って、パパッと手のひらではらったが、まだ取れない。執務室に鏡はないため、恭介が近づいて、
「ほら、ここですよ。」
 と、アミィの腕をつかんで誘導した。恭介のほうが背が高いため、アミィは自然と上目遣うわめづかいになる。ふと互いの目が合うと、なぜか恭介は突き飛ばされた。

「きゃーっ!! キョウくんったら、いやらしいわぁ!!」

「い、いやらしい?」

 不当ふとうな扱いを受けてよろめき、背後の長机テーブルに手をついた。アミィの不自然な反応に驚いたユスラは、恭介を心配した。
「大丈夫ですか!?」
 あわててそばまで駆け寄ってきたが、とくに傷を負ったわけではないため、恭介は苦笑にがわらいしておく。
「ああ、大丈夫だ。少し、面喰めんくらったけど……。」
「アミィさん、なぜ、キョースケさんを突き飛ばされたのですか?」
「えぇ~っ? だってぇ、キョウくんったら無自覚なんだもの~。」
「オレが無自覚?」
「そうよ~、あたしに最後まで云わせないでぇ~。」

 アミィは腰をひねりながら指定席につく。恭介はポカンとほうけたが、かたわらのユスラは「もしかして……」と、つぶやいた。

「アミィさんって、キョースケさんのことが、お好きなのではないでしょうか?」

「冗談だろ。」

「す、すみません。おかしな意味ではなく、ぼくもキョースケさんが好きですから、なんとなくそう思っただけで……、その、うまく説明できず申し訳ありません……。」

「いや、そんな必死にかしこまらなくて、、、、、、、、いいって……、」

 深々と頭を下げるユスラを見た恭介は、返す言葉に詰まった。

(……ユスラのやつ、サラッと告白したな? 変な意味じゃねーのはわかってるけどよ。なんつーか、異世界こっちに来てから、やたらオレのかぶが上がってねぇか?)

 好転と悪化はつきものである。油断大敵とばかり、恭介は思考をめぐらせた。アミィの極端な恥じらいは、恭介の存在が日増しに頼もしく成長してゆくからである。共寝を経験した恭介は、風格にみがきがかかっていた。人生で初めてのモテ期が訪れていたが、すでにジルヴァンという男の恋人がいるため、周囲から向けられる好意に無頓着だった。

 現在、それなりに責任ある立場にいるアミィだが、智に働けば角が立つとばかり、気楽なようすで第6王子の側仕そばづかえを兼任していた。その役目を恭介が求めているとは、微塵みじんも思わない。
 コスモポリテスに限らず、学は多きにあらず、人生はいちどきりである。オギャーッと泣き叫びながら産まれた以上、いつか消え去ってしまう前に幸福な記憶を増やすべきなのだ。

(心が変われば行動が変わる……か。誰かが、そんな言葉を残してたっけ。その通りだな。オレが異世界ここにいる理由は、ジルヴァンを幸せにするためなのかも知れない。……それが、オレのいちばん満足する結果でもある)
 
     * * * * * *
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