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第144話
しおりを挟む恭介と執務室へ身を置くまえのユスラは、外壁塗装や工事を担当する施工職人の経理事務をしていた。コスモポリテス城の外壁修理中、大柄な男性陣に囲まれながら現場の手伝いをしていると、身分の高そうな人物が女官を従えて通りかかった。
ユスラは作業の手をとめ、その場にひざまずく。ほかの職人も深々と頭をさげていたが、歩いてきた第4王子は、小柄な少年へ意識が及んだ。
『そこのおまえ、面をあげよ。』
『は……、はい、』
『名と年齢は?』
『ユ、ユスラです。ユスラ=ゾーイ=クィンシーズと申します。先月、19歳になりました……。』
『ほう、まだ未成人か。……宿花の返らぬは齢なりけり、だな。』
『え?』
『……ふむ、それもまた一興か。おまえには黄金の輪具をやるとしよう。……私はシグルトと申す。ユスラよ、いや、情人よ。あすの夜、西棟の華栄門へ来るのだ。』
『はい、わ、わかりました……?』
ひざまずくユスラは、ビクビクしながら会話に応じたが、自分が何を云い渡されたのか、正しく理解できなかった。シグルトが立ち去ると、ひとりの女官が引き返してくる。
『ユスラ様。お声をあげずにお聞きください。あなたはたった今、第4王子で有らせられるシグルト様のご指名により、情人候補に選定されました。後日、謁見の間にて御検べがございますので、どうか恙無くお過ごしください。』
(うおぉぉぉ、マジか……!? ユスラも、ずいぶん急だったンだな。ってことは、オレの時みたく、王様と王妃の前で衣服を脱いだのか? あれは苦い記憶だぜ……)〔第25話参照〕
執務室にて、ユスラの打ち明け話に耳を傾ける恭介は、自分の過去と重ね合わせ、なつかしく思えた。また、情人として公認されたユスラは、義父から雑に扱われて身に受けた不都合が、露見することになる。
「……初めての夜、ぼくの痣だらけのカラダを見て、シグルト様は落胆されました。……当然ですよね。ぼくみたいな人間が情人に選ばれること自体、まちがいなのに……、」
「うん? なんで選ばれた事実を否定するんだ? 情人ってのは立候補もできるのか?」
「いいえ、挙手制ではありません。シグルト様によると、情人になりたくて近寄ってくる人は時々いるそうです。」
「ふうん? そいつはまた、相当な自信家だな。」
恭介もユスラも、自己顕示欲が強い人間ではない。ふたりが王子の目に留まった理由は、それぞれ異なっていた。
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