恭介の受難と異世界の住人

み馬下諒

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第154話〈北の自然領域へ〉

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 墓地の近くに建つ監視塔サーベイランスに身を置くゼニスは、辞表じひょうを提出し、長らく世話になった関係者への丁寧な挨拶をすませた。帯巻きベルトつるぎをさげると、荷物をまとめて森へ向かう。いくらも歩かないうち、こちらに近づいてくる足音を発達した聴覚ちょうかくとらえた。〔第74話参照〕

「……シリルか?」

 ゼニスは、片方の耳から詰め物を取り除くと、西緯にしの方角へ視線を向けてつぶやいた。足音はまだ遠く、はっきりと断定できない。だが、軽やかにぐ走ってくる足音が聞こえるため、シリルではないかと察した。

頃合ころあいだろうと思って職を離れた途端とたん、まさかのドンピシャとはな。」

 ゼニスもまた、獣人族けひとぞくの領地を目ざして歩き出していた。ふたりが合流した場所は、アカデメイア川だった。向こう岸にたたずむゼニスの姿を見つけたシリルは、パァッと表情が明るくなる。

「ゼニスだぁっ!!」

 アカデメイアの川幅かわはばは数十メートルほどあるが、シリルは勢いよく飛び込むと、バシャバシャと力強ちからづよ前脚まえあしで水をき、びしょ濡れになったままゼニスへ抱きついた。

「ゼニス!! ゼニスっ!! ゼニスぅ!! ぼくを待っててくれたの!?」
「ああ。……少し落ちつけ、シリル。」

 再会を喜んで大興奮するシリルだが、ゼニスの鼓膜こまくには痛いほどビリビリと声音が響く。同時に、シリルの声に変化を認めたゼニスは、かすかに眉をひそめた。背丈せたけこそ最後に会った時と同じようだが、全体的にふくよか、、、、からだつきに成長していた。いつ女体化してもおかしくはない状況につき、ゼニスはすぐに計画を説明した。

「シリル、聞け。これから北緯きたへ行くぞ。」
「うん、いいよ。それじゃあ、出発しようか!」
「理由を最後まで聞かないのか、」
「うん、大丈夫だよ。ゼニスが決めたことなら、まちがいないから平気だもん。だから、ぼくは北緯きたへ行くよ。」

 相変わらず無条件で信用されているゼニスだが、こんな時、シリルのあやうさをどういさめるべきか悩んでしまう。ふたりきりの危険な旅が、再び始まった瞬間だった。

     * * * * * *
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