恭介の受難と異世界の住人

み馬下諒

文字の大きさ
341 / 365

第340話〈ふたりの秘め事〉

しおりを挟む

 第6王子ジルヴァンの沈黙は長く続いた。それも当然の流れだった。情人イロとして身を捧げた男の正体が、別世界からやって来た日本人だと判明したのである。元はといえば〈石川恭介〉という名前こそ、あまりにも風変わりな響きだった。ただし、恭の字は“礼儀正しく慎ましく”といった意味合いをもつ。両親は、恭しく素直で思慮深い子に育つようにといった願いを込めて、恭介と命名した。これといって不自由なく成長した恭介は、真面目まじめで正義感のある大人おとなになり、どちらかといえば苦労を買いやすい性格の人間になっていた。名は体を表す。物や人の名前は、その性質を的確に表すことが多い。次いで〈レ・ジルヴァン〉とは、“輝ける存在”という意義をもっている。恭介とジルヴァンの立場は、名前だけでも理想の主従関係が成り立つといっても過言ではない。

(……ジルヴァン、オレのこと嫌いになったのか? どうしていつまで黙ってるンだ。頼むから、何か云ってくれ……)

 共寝の直後、肉体的な快楽と満足を得ていたが、互いの心は揺らいでいた。恭介は、きょうほど夜が長く感じたことはない。しんッ、と、静まった室内に、カチコチコチと、壁際の置き時計が秒針をきざむ。ジルヴァンは背中を向けて横になっていたが、ぎしっ、と寝台ベッドを軋ませて起きあがると、椅子イスに腰かけていた恭介を目に留めた。燭台が照らすほのかな暗がりを、ゆっくり裸身はだかのまま歩み寄ってくる。

「……ジルヴァン、」

 恭介の前で立ちどまり、スッと、右腕を差し出した。もういちど第6王子に忠誠を誓うため、手の甲に口づける必要があった。ジルヴァンは無言で恭介を見据えたが、その意味を正しく理解して片膝かたひざをつくと、両手を添えて指先に口唇くちびるせた。ジルヴァンは左手の人差し指に琥珀アンバーの指輪をめている。それは恭介からの贈物おくりもので、情人のあかしとして送られた黒翡翠ジェダイト輪具リングよりずっと安物やすものだが、大切に扱っていた。

「ジルヴァン……、オレは……、」

 顔をあげた恭介の目の高さに、ジルヴァンの下半身があり、思わず息を呑んだ。これほどまで無防備に肌をさらす真似は、信頼されている証拠でもあり、恭介は欲望のを再認識した。ただ、これまでの説明不足を詫びるだけでなく、もっと重要な伝えるべき言葉が頭の中に浮かんできた恭介は、無意識に笑みがこぼれた。ジルヴァンが何も云わない理由は、恭介に失望したからではない。

「ありがとうジルヴァン……。キミを好きになって本当に良かった。これからもよろしく頼む。」

 わざと軽いノリで感謝の意を告げる恭介に、ジルヴァンは「無論」とこたえた後、「ふっ」と、微笑した。ふたりは熱い口づけをわすと、恭介は帰るべき場所(御室堂)へ引き返した。

    * * * * * *
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

処理中です...