異世界マナー無双 ~マナー違反でマナが奪われる世界。魔法の力でムカつく貴族達をマナー違反させまくって貧乏領地から成り上がる~

座佑紀

文字の大きさ
23 / 43

第23話 - 交渉:世界三大商会 ウルグス副総統②

しおりを挟む
「いえ、そういうわけではございません。そもそも、前提が間違っているのです」
「……前提、だ?」
「我々は領地交換を拒否するつもりです。ウィンブームは、手元に残りません」

 ウルグスの片目が、ぎろりと、睨みつける。

「……ふざけてんのか、お前。話が滅茶苦茶だ。尚更、てめえらに貸す理由がねえじゃねえか」
「でしょうね。見えているものだけを数えたら、そうなるかもしれません」

 何を言っているのかわからない、というふうに、ウルグスは眉をしかめる。
 それをみて不敵に笑い、キースは続けた。

「あの港町と、こんな不毛の土地を交換するんですよ? 尋常ではない。ここには必ず、何かがある。それも、王子同士のパワーバランスが傾くほどの、何かが、です。これは戦争ですよ、副総統。金を貸す、貸さないではない。こんな大一番に、アリアクラフトは賭け金を乗せなくてよいのですか?」
「……馬鹿らしい」

 きっと、彼は領地交換の話など、とうに掴んでいただろう。何か陰謀がある、というのも、同じように思い至っていたはずだ。だから、キースの言っていることは、理解できてしまう。

「その何か、ってのは、なんなんだ?」
「お答えできません。最上級の機密になります」
「……あんたらはそれを、掴んでいるのか?」
「それをお答えすることもできません。我々が情報を持っているのかどうか、ということ自体が、情報になってしまいますので」
「ふざけんじゃねえぞ! 何が賭け金、だ! 勝算があるかどうかすらわかんねえ駄馬に、金なんざ積むわけがねえだろうが!」
「――駄馬かどうかは、これを見て、ご判断ください」

 そう呟くと、キースは、卓上に二枚の紙を出した。
 そこには借金の契約書で、その末尾に署名されている名前も、見えた。
 そこには、ハミルトンと、シェラードの名が、それぞれ記されていた。
 途端に、ウルグスの態度が、変容する。それまでの勢いが止まり、鋭い眼光が、二枚の紙きれに釘付けとなっている。それを見てキースは、ほくそ笑んだ。

「私は、先日この高名な二名の貴族の方との【テーブル】に打ち勝ち、このような債権を保持するにまで至りました」

 多少、事実を歪めて報告する。ここで広げている契約書はほんの一部で、マナの売買については記されていないので、真実は露見しない。

「あの、第六領の重要な地を管轄する貴族に食い込むことに成功しました。これは大きなアドバンテージです。確かに私は猿以下かもしれないが、まあ、ナイフとフォークを持てるくらいには成長しましたよ」

 ウルグスは再び、ぎろり、と睨みつけた。

「……気に食わねえなぁ、王子」
「ふふ、なにが、でしょうか」
「……俺がこの世で許せねえことが、三つある」

 ウルグスは、ごつごつとした手を掲げ、順々に指を折る。

「一つ、約束を守らねえ奴。二つ、手前の無能に無自覚な奴。三つ、貴族とは名ばかりの腐った奴、だ。ハミルトン、シェラード。こいつらはよォ、いつの日かこの手でぶちのめしてやろうと決めてる奴らだボケナス」

 怒髪天を衝く勢いであった。血管が浮き出るばかりに怒りを剥き出しにし、机を叩く。

「その債権がありゃあよ、あのクソ共の首輪を握るのも容易いわなぁ! それを担保にすりゃあよ、あんたらがヘマしても、俺らは怨敵の弱点が手に入るんだ、こんないい取引はねえわなあクソヤロウが!」

 ――そう。これが、唯一、この男に対して持ち出せる取引材料であった。
 ある筋から、特にウルグスは、この二人の貴族とは独特の敵対関係にある、ということを掴んでいた。であれば、この債権は、金額面だけではない価値を見出してもらえるのではないか、と考えたのだ。
 キースは、ここに至るまで、細い糸を手繰った。ウルグスが展開した論理を否定し、別の軸の交渉に塗り替えること。そして、その上で、彼に、最大の威力で打ち出せるようなタイミングを、作り出していたのだ。
 きっと彼は、キースのことを酷く軽んじていただろう。それがどうだ、別軸の提案を示し、【テーブル】の技術面の成長も示唆した上で、この二人の貴族を憎んでいるという情報を掴む力があることもアピールした。
 だがそれでも、これを受け入れるかは五分五分だ。出来るならば、マナーバトルは無く、話を結びたい。三大商会と争うのは愚の骨頂であり、話合いだけで済むのが最上だからだ。
 欲を出したウルグスが魔法を使うかどうかは、祈るしかない。
 しばらく、静まり返る。永遠にも思える時間の果てに動き出したのは――ウルグスであった。
 彼はおもむろに手を伸ばし、卓上に並べられたサンドイッチを掴んだ。そして大きな口を開き、がぶり、と食らいつく。
 そして予想外の一言を発したのだ。

「なんだこりゃ。クソ不味いな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...