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第31話 - 暴露
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身を隠している茂みの傍を、男たちが走り去っていく。
その者たちは剣に手をかけていたり、魔法の展開準備をしていたりと、明らかな臨戦態勢を取っている。それらに共通しているのは、紫のローブを羽織っていることで、口々に叫びながら、慌ただしく奔走していた。
「どこに消えた! 最後に目撃した場所は!」
「ここより北東、ほんの少しの距離です! 私の鳥も見ていました! 別動隊が追い立てているので、このあたりに逃げ込んでいるはずです!」
その言葉のやり取りから、紫色の彼らが追う側で、口ぶりからは、追われる側は極少数、あるいは個人である可能性が推測できた。
「なーんか、嫌な感じの連中だなぁ。オイ王子様、奴らに見覚えは無いのかよ」
「悪いが、知り合いではないな。黒衣とはまた違う連中……ここにきて現れた、新勢力だ」
キースとマリアは、ひそひそと静かに言葉を交わす。依然、なにもわからないというだけの話をしているだけだが。
と、その時、紫色の男の一人が、ごきりと首を鳴らした。
「じゃあ、このへんにいるってことっすよね。そんなら簡単だ、あたり一帯を吹き飛ばしゃいい。――北方魔術【紫電の奔流】」
その男が掲げた手の先に、激しく火花を散らす雷電の球が浮かび上がり、それが爆ぜた。網膜を焼き尽くすほどの白光があたりに充満し、遅れて空を打ち砕くかのような轟音が響く。
紫色の他の仲間たちは、木の陰に隠れたり、その場に素早く伏せたり、自身の魔法の障壁を展開したりと、各々回避行動を取っていた。
「……お前っ! いきなりそんなものを出すな!」
「えぇ。いいじゃないすか手っ取り早くて。ていうか。あれ、なんなんすかね」
飄々とした口ぶりで仲間の怒りを交わしながら、その紫電の男は、ついと向こうを指さした。
そこには、地面に伏せるキースと、青き美女マリア。その脇には、鋭く尖った鉄の棒なようなものが、佇立していた。
(避雷針……?)
あの激しい電流から逃れられた理由はそれだった。マリアが出現させた鉄の針が、彼の攻撃を防いだのだが、同時に、それは自らの存在を声高に主張する目印となってしまっていた。
「なんすか、こいつら。なーんか、明らかに、隠れて俺らのこと見てましたよね」
「山登りで迷った、わけではないだろうな。なんにせよ怪しい、すぐに捕まえろ」
「隊長! 前方に、目標の姿が確認できました!」
キースたちを捕らえるよう指令を下そうとした男が、別の報告を受ける。そちら側を見ると、黒く焦げ付いた木々の中で一人、膝をつく者がいた。
艶やかな茶髪。厳しさと寛容を両立させている父親譲りの相貌。
紫色の集団に追われていたのは、ルイス・クラインであった。
「ルイス……?」
「……ッ! 東方魔術【――」
なにかしらの魔法を発動させた彼は、次の瞬間、透明人間になったかのように姿を消し、皆の視界から消えた。
「班を分けるぞ! 俺たち四名で目標を追う! 残り三名は、この異物を捕らえろ!」
隊長と呼ばれた男の素早い指示に従い、彼らは動く。ルイスの影を追う部隊と、キースたちに立ちはだかる部隊。
指定された三名は連携のとれた所作で近付き、躊躇なく手の暗器を振るおうとする。
「邪魔くせえ」
が、それも、いつの間にやら逆に接近したマリアが、手に出現させた鉄剣で受け、弾き返す。
キースは、マリアに向かって叫んだ。
「マリア、僕らもルイスを追おう。先に捕まえるんだ」
「はっ! 早い者勝ちか、いいね! 喜びな王子様、それは私の得意分野だ!」
期待通りの命令にご満悦の表情となった彼女は、猛獣のような獰猛な笑みを浮かべ、眼前に立ちはだかる三人の邪魔者を睨みつけるのであった。
※
「あァ、気を遣わなくていい。【テーブル】も開かないんだ。気楽にやろうや、クロシェ」
「ガハハ、そんなに怯えられては、我々も困りますぞ」
応接間で、ミゼルとガレンは、奇妙なほどににこやかに、供された紅茶を啜っていました。
その対面で座るのは、私一人だけ。
かつての、苦痛に彩られた記憶が襲い掛かります。心臓が壊れそうなほど脈打ちます。私の心の弱い部分が、なにもかもを投げ出してしまえと誘ういます。
でも、お兄様に、ここを任せると行ってもらったから。相手が誰であろうと、領主代理として、恥じぬ振る舞いをしなければいけません。
かつてのトラウマと睨みあうことくらいはできるようになった自身の成長に驚きつつ、それでも震えてしまう指先を意識しないようにしながら、ミゼルの言葉に返しました。
「どのような、御用でしょうか」
「はっ! 世間話もできないのか、つまらない女だね。ま、いいさ。今日はお前に、とっておきの秘密を教えてあげようと思って来たのさ」
そう言うとミゼルは、滴る血のように赤い、花びらでした。
(赤い、花)
お兄様が見たという、秘密の農園に咲く花。その色も赤かったと仰っていました。
偶然の一致なわけがなく。ミゼルは、悪魔のように笑っています。
「全部喋ってやるよ。お前らが探ってるものの正体を」
その者たちは剣に手をかけていたり、魔法の展開準備をしていたりと、明らかな臨戦態勢を取っている。それらに共通しているのは、紫のローブを羽織っていることで、口々に叫びながら、慌ただしく奔走していた。
「どこに消えた! 最後に目撃した場所は!」
「ここより北東、ほんの少しの距離です! 私の鳥も見ていました! 別動隊が追い立てているので、このあたりに逃げ込んでいるはずです!」
その言葉のやり取りから、紫色の彼らが追う側で、口ぶりからは、追われる側は極少数、あるいは個人である可能性が推測できた。
「なーんか、嫌な感じの連中だなぁ。オイ王子様、奴らに見覚えは無いのかよ」
「悪いが、知り合いではないな。黒衣とはまた違う連中……ここにきて現れた、新勢力だ」
キースとマリアは、ひそひそと静かに言葉を交わす。依然、なにもわからないというだけの話をしているだけだが。
と、その時、紫色の男の一人が、ごきりと首を鳴らした。
「じゃあ、このへんにいるってことっすよね。そんなら簡単だ、あたり一帯を吹き飛ばしゃいい。――北方魔術【紫電の奔流】」
その男が掲げた手の先に、激しく火花を散らす雷電の球が浮かび上がり、それが爆ぜた。網膜を焼き尽くすほどの白光があたりに充満し、遅れて空を打ち砕くかのような轟音が響く。
紫色の他の仲間たちは、木の陰に隠れたり、その場に素早く伏せたり、自身の魔法の障壁を展開したりと、各々回避行動を取っていた。
「……お前っ! いきなりそんなものを出すな!」
「えぇ。いいじゃないすか手っ取り早くて。ていうか。あれ、なんなんすかね」
飄々とした口ぶりで仲間の怒りを交わしながら、その紫電の男は、ついと向こうを指さした。
そこには、地面に伏せるキースと、青き美女マリア。その脇には、鋭く尖った鉄の棒なようなものが、佇立していた。
(避雷針……?)
あの激しい電流から逃れられた理由はそれだった。マリアが出現させた鉄の針が、彼の攻撃を防いだのだが、同時に、それは自らの存在を声高に主張する目印となってしまっていた。
「なんすか、こいつら。なーんか、明らかに、隠れて俺らのこと見てましたよね」
「山登りで迷った、わけではないだろうな。なんにせよ怪しい、すぐに捕まえろ」
「隊長! 前方に、目標の姿が確認できました!」
キースたちを捕らえるよう指令を下そうとした男が、別の報告を受ける。そちら側を見ると、黒く焦げ付いた木々の中で一人、膝をつく者がいた。
艶やかな茶髪。厳しさと寛容を両立させている父親譲りの相貌。
紫色の集団に追われていたのは、ルイス・クラインであった。
「ルイス……?」
「……ッ! 東方魔術【――」
なにかしらの魔法を発動させた彼は、次の瞬間、透明人間になったかのように姿を消し、皆の視界から消えた。
「班を分けるぞ! 俺たち四名で目標を追う! 残り三名は、この異物を捕らえろ!」
隊長と呼ばれた男の素早い指示に従い、彼らは動く。ルイスの影を追う部隊と、キースたちに立ちはだかる部隊。
指定された三名は連携のとれた所作で近付き、躊躇なく手の暗器を振るおうとする。
「邪魔くせえ」
が、それも、いつの間にやら逆に接近したマリアが、手に出現させた鉄剣で受け、弾き返す。
キースは、マリアに向かって叫んだ。
「マリア、僕らもルイスを追おう。先に捕まえるんだ」
「はっ! 早い者勝ちか、いいね! 喜びな王子様、それは私の得意分野だ!」
期待通りの命令にご満悦の表情となった彼女は、猛獣のような獰猛な笑みを浮かべ、眼前に立ちはだかる三人の邪魔者を睨みつけるのであった。
※
「あァ、気を遣わなくていい。【テーブル】も開かないんだ。気楽にやろうや、クロシェ」
「ガハハ、そんなに怯えられては、我々も困りますぞ」
応接間で、ミゼルとガレンは、奇妙なほどににこやかに、供された紅茶を啜っていました。
その対面で座るのは、私一人だけ。
かつての、苦痛に彩られた記憶が襲い掛かります。心臓が壊れそうなほど脈打ちます。私の心の弱い部分が、なにもかもを投げ出してしまえと誘ういます。
でも、お兄様に、ここを任せると行ってもらったから。相手が誰であろうと、領主代理として、恥じぬ振る舞いをしなければいけません。
かつてのトラウマと睨みあうことくらいはできるようになった自身の成長に驚きつつ、それでも震えてしまう指先を意識しないようにしながら、ミゼルの言葉に返しました。
「どのような、御用でしょうか」
「はっ! 世間話もできないのか、つまらない女だね。ま、いいさ。今日はお前に、とっておきの秘密を教えてあげようと思って来たのさ」
そう言うとミゼルは、滴る血のように赤い、花びらでした。
(赤い、花)
お兄様が見たという、秘密の農園に咲く花。その色も赤かったと仰っていました。
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