ナイトホークス

*kei

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ドアマン山口大輔

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 玄関エントランスに設置されているドアデスクに戻って来ると、大輔はデスクの鍵付き棚から大きなレバーファイルを取り出した。
 徐に開くと、「レクサス2012、レクサス2012」と呪文のように繰り返しながら、レバーファイルのリフィルを指でなぞる。
 覗きこんでみると、リフィルには、ビッシリと企業名、役職名、名前、車種、色、車番ナンバーが書かれていた。

 一体、何人分のストックがあるんだろう?
 そんな事を考えながら、結菜は捲られていくリフィルを見つめる。

「あった!LSエルエス460のホワイト、品ナン品川ナンバー2012、五十嵐ホールディングスの佐々木実。同じくLSエルエス460のホワイト、品ナン品川ナンバー2015、村田良一。いつもこの二人だな」
「その二人が、日本鉄鋼エンジニアリングの人達と会っていると…」
「まーな」
「それにしても山口さん、相変わらずの記憶力ですね」
 感心半分、呆れ半分含めて言うと、
「バーカ、ドアマンは車番覚えてナンボなんだよ」
 大輔にデコピンされた。


 葉月玲の同期である山口大輔は、185センチは超える長身でスタイルも良く、趣味はサーフィンということもあり、肌は焼けて健康的な褐色。
 黒々とした髪を撫でるように後ろに流し、鉄紺の燕尾スタイルの制服姿は、まるで彼のために誂えたかのよう。
 外見だけでもドアマンらしいドアマンだが、中身も相当だった。

 財界、政界、皇室関連を中心に、ホテルを利用するVIPの車種、車番をこれでもかと頭に詰め込んでいる大輔は、例え名前が思い出せなくても、乗っている車は覚えているという事が多く、車から人物を逆引きするという特技を持つ。

 そんな彼が愛して止まないのが、会社四季報と日経新聞の人事欄。

 たがら、彼をよく知っている友人達は、自分達が所有する車を教えない。
 ラブホテルに停めていた車を目撃され、その事を指摘されるなどはまだ笑い話にできるが、車で簡単に居場所が特定されるなど、一歩間違えればストーカーである。


 そんなストーカー気質の才能溢れる大輔は、だけどおかしいんだよな、とぽつりと零した。

「日鉄エンジってここ数年、業績悪いんだよ。売上高も年々下がってるし」
「え?そうなんですか?」
「俺の勘は日鉄エンジで間違いないと言っているんだけど、業績悪いってのがなー。まぁ、悪くても、日鉄エンジが持っている海外市場はそれなりに価値があんのかも」

 悠真が言っていた買収しようとしている企業は、やはり日本鉄鋼エンジニアリングなのかもしれない。
 社内で買収するかしないか意見が二分されていると言っていたのは、業績が問題になっているのではないだろうか?

「買収相手がそんな会社でも、五十嵐ホールディングス側は痛くも痒くもないのかもな。役員の羽振りはすげーイイみたいだし」
「…山口さん、いつも思うんですけど、そう言う情報何処から持ってくるんですか?…気持ち悪いですよ」
「お前、自分から聞いといて気持ち悪いはねーだろ!」
「だって、日経新聞の人事欄愛読しているとか、あたしの周りで山口さんくらいですよ!ってゆーか、人類レベルでも稀ですよ、稀!そんなマイノリティって誰にも響きませんから!」
「うるせー!俺は人事欄だけじゃなくて、毎日隅から隅まで読み込んでるっつーの!」
「いや…それもどうかと思いますよ……」
 若干引き気味な結菜に対し、
「役員の羽振りがイイって言ったのは、根拠があんだよ」
 不貞腐れたように大輔は言う。

「さっき言った役員の一人、佐々木実。この前うちのホテルにプライベートで来たんだけど、そん時ベンツのSクラス乗ってた」
「それって珍しいんですか?」
 あまり車に詳しくない結菜にはピンと来ない。

「ただのSクラスじゃなくて、今年出たばっかりの600新型。俺も乗ってるヤツ初めて見た」
「羽振りが良いってことは、結構なお値段ってことですよね…」
「新車販売価格で2000万くらいか?」
「にせんまんえん?!」
 想像以上の価格に驚く。

 大輔の補足によると、佐々木はベンツを自分で運転しており、更に一緒に居たのは若い女性だったため、完全にプライベートだろうとのこと。
 また、『わ』ナンバーでもなかったので、間違いなくレンタカーでも無いと言い切る。
 しかも今年出たばかりの型なので、納車期間も考えれば購入したのはここ一、二ヶ月くらいの話だろうと締めくくった。

 ――うーん、スゴい。
 車一台でここまで分析しちゃうんだもんなー。
 プロと言えば聞こえが良いけど……経団連辺りにはこの男の存在を教えておいた方が良い気がする。
 財界のみなさん、うちに車で来ると要らぬ事まで情報収集されちゃいますよーっ!

「お前…また失礼な事考えただろ」
「イイエ。メッソウモゴザイマセン」
「まぁ、いいけどよ。結菜が何でこんなこと知ろうとしているのか判んねーけど、気になるなら『月白げっぱく』に連絡してみろ。会食してんのはいつもそこだから」


 大輔からの新たな情報に心からお礼を言うと、結菜はドアデスクを離れた。
 それと同時にリムジンバスがアプローチへと入って来る。
 振り返ると、バスの誘導をしに歩き出す大輔の姿が見えた。

 ――――慌ただしいホテルの一日が今日も始まろうとしていた。


 
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