17 / 25
ホテル従業員と宿泊客≠友人
しおりを挟む悠真の連絡先が判らないので、結菜はレセプションへ寄ってレジカードをこっそり見に行ったが、五十嵐ホールディングスの名と会社と思われる電話番号、住所が記載されているだけだった。
悠真の個人的な連絡先は皆無。
こんな情報だけで良いのかと思ったが、悠真の身元がハッキリしているので許されているのかもしれない。
所詮、悠真との関係はホテル従業員と宿泊客と言う痛い現実に直面した結菜は、オペレーター室に戻って来た。
こうなったら、悠真でも足立でも向こうから連絡が入るのを待つしかない。
「玲さん、五十嵐様か足立様から連絡ありました?」
「今日?ううん、連絡無いけど、どうして?」
「えーっと、どうしても伝えたいことがあって…何とか連絡取りたいんです!」
「と言われても…」
「やっぱり連絡来るの待つしか無いですよね…」
肩を落とす結菜を見て玲は少し考えると「そうだ」と、何かに気付いたように、
「五十嵐様ってハイヤー使っているのよね。それなら、ハイヤーの運転手と連絡取れれば、五十嵐様に繋がるんじゃないかしら」
そう言う玲の言葉にハッとなる。
「玲さん、頭イイ!」
「それならやっぱり…」
「判ってます。山口さんですよね!?」
「そう言うこと」
悪戯っぽく玲が笑う。
大輔には向井からの言付けも伝えなければならない。
結菜は焦がれるように学会が終わるのを待った。
念のため宴会場のクロークに連絡を入れ、間違いなく学会が終わり人も捌けていると確認が取れると、結菜はドアデスクの内線を鳴らした。
出たドアマンに大輔を呼び出してもらうと、まず向井からの伝言を伝える。
双葉銀行の林について話すと「またあいつか」と悪態をついた。
『ストライプ』の部分が意味不明だったが、大輔曰くいつもストライプのスーツを着ているからとのこと。
宴会セールスとドアマンの間では『ストライプ』で話が通じるらしい。
そして、悠真と何とかして連絡が取りたいので、ハイヤーの運転手を捕まえて貰えないかと依頼すると流石に渋った。
大事な伝言を預かっているので、一度ホテルのレセプションに連絡を取って欲しいとだけ何とか伝えてもらえないかと頼み込む。
悠真がレセプションに連絡を入れてくれれば、結菜が客のフリして残したメッセージを受け取ることが出来る。
「この前も思ったけど、一体お前は何を企んでるワケ?」
「企んでいるとか人聞きの悪い事言わないでください」
「で?何をやってる?」
「……すみません、今は話せないんです。でも、どうしても連絡が取りたいんです。今夜、双葉銀行の人がホテルに来る前に」
「……そういや、ストライプが会うのは日鉄エンジの社長だよな?」
「そうです」
「結菜、イイコト教えてやろうか?」
「良い事、ですか?」
急に嬉々とした声音に変わった大輔に訝しむ。
「去年、倒産した大和電気覚えてるか?」
話題が変わったことを不思議がりながらも記憶を辿る。
結菜が覚えている限りでは、大和電気は従業員800人近く抱える大手の電機メーカーで、業績不振により年末に倒産した会社と言うことだけだ。
大手だったこともあり大々的にニュースをやっていた。
その事を伝えると、
「倒産する迄の数ヶ月間、ストライプと大和電気の役員はうちのホテルで頻繁に会ってたんだぜ?」
と答えた。
「え?!」
「どう解釈するかは任せるけど、お前が言いたい事は判った。仕方ねーからレミーマルタンで手を打ってやる」
「ええーっ!」
「お前な、理由も言わずに俺に協力しろとか言っておきながら見返り無しかよ。レミーマルタンなんて安いもんだろ」
「…判りました。ラウルに言っておきます」
「前回の情報料もこれでチャラにしてやる」
「…アリガトウゴザイマス」
「それから、変な入れ知恵した玲にいつか覚えてろと言っとけ」
判ったな、と念を押すと大輔は電話を切った。
言われた事を玲に伝えると「そう言って大ちゃんはいつも忘れちゃうのよね」と、のほほんとしたものだ。
これで悠真との連絡は何とかなるだろう。
後はレセプションにメッセージ残し、さくらに先日と同じような事を頼むだけ。
――――それにしても、山口さんが言った事が気になる。
業績不振に陥っている日本鉄鋼エンジニアリング。
にも関わらず融資担当と会っている社長。
会う理由は?…融資を頼もうとしているのかしら?
だけど、五十嵐ホールディングスの役員はどうしてそんな会社を買収しようとしているんだろう?
――――ダメだ、全然判らいない。
悩んでも仕方ない、ここは行動あるのみ!
結菜は再びインカムを掛け直すと、さくらと連絡を取るべく『月白』の内線を鳴らした。
結菜は私服に着替えると、『ストライプ』こと、双葉銀行の林が来ると思われる前に『月白』へ向かった。
先日とは違い今回はいつものパンツスーツ姿だ。
レストランの前に悠真の姿は無い。
メッセージ受け取ってくれていれば、そろそろ来るはずなのだが…。
捜すようにキョロキョロしながらレストラン入り口に近寄ると、さくらが小走りに駆け寄ってきた。
何だか焦っているように見える。
「結菜、ごめん!」
目の前まで来ると、両手を合わせて申し訳なさそうに言う。
「どうしたの?」
「それが『ストライプ』のヤツ、予約を懐石料理に変えちゃって、席がお座敷の個室になっちゃったの」
ここでも林は『ストライプ』で通じるのかと思いながら、「お座敷?」とさくらに尋ねる。
「そう。しかも、もう今夜は席が空いていないから結菜達を懐石に入れる事が出来ないの…」
「え?!」
「ホント、ごめん…。あたしも忘れてたんだけど、『ストライプ』っていつも個室予約してるんだよね。今回はお連れ様のリクエストで、天麩羅セクションになるはずだったんだけど…」
ただ単に自分の好みを優先したか…もしくは、何かとても大事な話があるのかもしれない。
お座敷の個室なら周りからシャットアウトされている上、襖を閉めればスタッフは開ける前に必ず声を掛ける。
ここまで来て――――。
どうしようかと悩んでいると、背後から「結菜」と呼ばれた。
ずっと聞きたかった声に心臓が高鳴る。
我に返って勢い良く振り返ると、そこにはスーツ姿の悠真が立っていた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる