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第10話「キンモクオドシ①」

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【変更点】

※登場人物が多くなり、セリフがごちゃつくので、セリフの前に人物名を入れるようにします。

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俺には格闘経験なんて全くない。そのはずなのにナキガシラを肉弾戦で二体も討伐できたのは、恐らく俺の持つゲームスキルのおかげ。前回使ったのはRPGモード。今回はファイターモードをセレクトしたのだが、恐らくこのファイターモードは、生身による格闘が可能になるということなのだろう。

トール「シラーさん、なんとか倒せたみたいです」

シラー「そうみたいね………」

ここでじっとしている訳にもいかない。俺はシラーを抱き抱えた。

トール「た、立てますか?」

シラー「ええ、なんとか……………」

シラー「………………貴方、今まで実力を隠していたの?」

トール「えっ?いやいや!戦闘経験もこれで二回目ですよ」

シラー「嘘。あの身のこなしは素人にできるものじゃない。幾ら魔力量が高いとは言え、ナキガシラと生身でやり合うなんて、聞いたことがないわ………」

トール「そ、それはきっと、俺のスキルに秘密があるんですよ」

トール「ソウルギア……でしたっけ?あれが発現したのはこれで二回目で、俺自身この力を上手く使いこなせてないんです……」

シラー「何故貴方がここまで強いのか……。貴方は一体何者なのか………。その答えは貴方が失った記憶にありそうね」

トール「いやだから!俺は異世界から来たんですって!」

シラー「相当強く頭を打ったのね……」

トール「うぐぐ…………。じゃあもうそういうことでいいですよ………」

二人で支え合いながら、ベースキャンプ場に向かっていたその時、ドドドドドドドドという轟音が鳴り響き、フタバ原野一帯が大きく揺れ始めた。

トール「うわっ!なんだ!?地震か!?」

俺とシラーはとりあえず、その場にしゃがんで辺りの様子を見回した。
遠くからメキメキメキという木々がなぎ倒される音が聞こえてくる。

トール「な、何だこの音!?」

シラー「なにかがコチラに近づいてきている……!!しかもこの地響き、かなりデカい!」

ズシーンという重く大きいなにかの足音が聞こえてくる。どうやらこちらに向かっているようだ。

シラー「あっ!!あれは……」

トール「なんじゃこりゃあ!?」

シラーが指さす方向にいたのは、全高20mはあろうかという巨体を持つ四足歩行の魔物。頭部はタツノオトシゴに似た見た目をしており、首から下は羽の生えた麒麟のようである。なにか神話にでてきそうな、とても神々しい見た目をしているが、明らかにさっき倒したナキガシラよりもヤバそうだ。

魔物の体力ゲージには【キンモクオドシ】と記されている。

シラー「キンモクオドシ………!ありえないわ……」

トール「な、なんなんすかコイツ?」

シラー「本来ならここに居るはずのないキンモクオドシという魔物よ。討伐ランクはA+。体から特殊な鱗粉を出し人に幻覚を見せ、触手を使って捕食しようとするとても危険な魔物よ」

キンモクオドシの背中をよく見ると、何人か人間の死体が刺さっているのが見えた。

トール「あ、あれは………」

シラー「あれがキンモクオドシの習性よ。触手で捉えた人を背に開いている穴の中に入れて置く。穴の中には特殊な溶解液が流れていて約2日で全身が溶ける」

シラー「穴に入れられて1日では、人はまだ完全に死なない。あの穴入れられた人間は『助けてー』と周りの人間に助けをよぶ。このことからキンモクオドシはタスケセセリとも呼ばれることもある」

トール「そういえばさっきから上で助けてーって声が……」

シラー「もう無理ですね。1度あの溶解液に触れれば二日で全身に広がる。残念ながらあれを治療する方法は見つかっていません」

トール「……………てか、何故にまたA+なんて高ランクの魔物が……」

シラー「…………………魔物には解明されていない謎がとても多いの。もしかすると、魔物達の中で何か変化が起きているのかもしれないわ。なんにせよこれは異常事態よ」

トール「どうします?もう間近まできていますよ?動けますか?」

シラー「なんとか………」

トール「少し急ぎましょう。このままじゃ追いつかれる!」

背後を振り返ると、キンモクオドシが長い触手をコチラに向かって伸ばし始めた。

トール「えぇ!ちょっ、来てる来てる!触手来てる!」

キンモクオドシの歩く速度より、触手の伸びる速度の方が早い。このままではあの触手に捕まってしまう。

と、その時─────、

キンモクオドシの触手の前に黒い影が横切った。次の瞬間、キンモクオドシの触手が突然パタリと切り落とされた。

トール「な、なんだ?何かが横切った??」

よく耳を澄ましてみると、「助けて~」という悲鳴以外にも、別の人の声が何人か聞こえてくる。

トール「他にも誰かいるのか?」

俺は1度足を止め、キンモクオドシの足元をよく見てみた。するとそこには、武器を使ってキンモクオドシに攻撃をする4人の男達の姿があった。

???①「クソが!!さっさと止まりやがれこのジャジャ馬!!」

???②「お前のそのヘッポコ武器がアカンのちゃう?」

???①「テメェ!!俺のソウルギアに文句あんのかコラ!?」

???③「仲良く喧嘩しとけ馬鹿ども!コイツはワシが倒す!」

???④「ノーん!コイツ、ミーガ倒シマース!皆サン弱~イ!スッコンデテクダサイ!」

???①「んだとこの似非忍者野郎!!」

4人の男達は恐らくプレイヤーだ。皆それぞれ各々のソウルギアを持っている。4人はなにか激しく言い争いをしており、とにかく連携が取れていない。パーティ同士で組んでいるという訳ではないのだろうか。なんなら互いに足の引っ張り合いをしているようにも見える。

トール「なんだアイツら?なにやってんだ………」

俺は男達の頭上にある、体力ゲージを確認した。

【ファイヤーマーチン】
逆立った真っ赤な髪の毛が特徴的な男。非常に凶悪そうな顔つきで、顔には魔物かなにかに与えられたであろう大きな切り傷があった。裸の上に革ジャンという、どこぞパンクロッカーのようなファッションをしている。両手には真っ赤な炎を纏ったナックルを装着している。きっとあれが彼のソウルギアなのだ。かなりの荒くれ者なのか、さっきから他のメンバーに怒鳴ってばかりだ。

ファイヤーマーチン「テメェら全員俺の言うこと聞いてりゃいいんだよ!」

【ライジングボルト】
黄色く、トゲトゲした髪の毛が特徴的な男。サメのようにギザギザと尖った歯に、鋭い猫目の三白眼。彼もファイヤーマーチンに負けず劣らない悪人面だった。上半身は裸で、半ズボンと草履を着用している。背中には乙姫のような羽衣を羽織っており、全体的に日本画などでよく見る雷神を思わせるような出で立ちをしていた。両手に電撃を帯びた太鼓のばちを持っており、恐らくはあれが彼のソウルギアなのだろう。口の悪い関西弁で、さっきからファイヤーマーチンとの言い争いが絶えない。

ライジングボルト「誰がお前みたいなど阿呆の言うこと聞くんじゃボケ。だまって働いとけや」

【ハイドロ】
短く刈り上げた黒い短髪に、柔道服に似た服を着用している男。厳つい髭の生えたとても濃い顔をしている。人の背丈程もある大きな筆を持っていて、筆から墨汁を出しながら戦っているようだ。言い争うファイヤーマーチンとライジングボルトに呆れているようで、他のメンバーよりも厳格そうだった。

ハイドロ「馬鹿どもが………」

【マイケルスター】
ピノキオのように長く伸びた鼻と、ツンツンの金髪に碧眼の男。顔は少し面長で、白人に近い外見をしている。口調もどこか海外人風だ。額にはナ○トとかが着けていた額当てを装着しており、服装は水色の忍装束。首元にはトリコロールのマフラーを巻いていた。
手には巨大な手裏剣を持っている。きっとあれが彼のソウルギアだ。彼の動きはとても素早く、目にも止まらぬスピードで辺りの木々を移動している。さっきキンモクオドシの触手を切り落としたのも恐らく彼だ。軽やかな身のこなしで敵を翻弄するその姿はまさに「忍」そのものだ。

マイケルスター「皆サン、引ッ込ンデテ下サイヨ~。ミーの邪魔デス」

トール「(変な名前の奴ばっかだな)」

俺は見上げて、キンモクオドシの体力ゲージを確認した。まだ半分以上残っている。
彼らの連携が取れてないとは言え、攻撃はちゃんと命中している。それだけキンモクオドシの耐久力が高いのだろう。

俺はメニュー画面を開いた。
俺のスキル、Aランクの魔物相手にどこまで通用するのか、試してみるいい機会だ。
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