タダノムラ・ビートの冒険!

闇次 朗

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第3章 フォールーンの騎士編

第5話 擬態せし物。

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 勇者ビートが『助けに来ました……的な?』とのたまってしまう数時間前━━。
 勇者ビート一行はサクラに引かれた馬車に乗り、一路フォールーン砦に向けて街道をひた走っていた。

「うぇっぷ、ぎもち悪い」

 勇者はまだ馬車に慣れていなかった。

 軽快に走っていたサクラが何かに気付いて減速し始める。街道の先で騎士達が検問のような事をしているようだ。

 騎士達の前で馬車を止めると、我々が何処へ向かっているのか尋ねてきた。
 シスターモモがリュックの中から手紙を取り出して騎士の一人に渡すと急に態度が変わった。少しばかり横柄な感じ思えた騎士達の背筋がピンと伸びたのだ。

「あなた様がダグの村に召喚された勇者さまでしたか! お噂は伺っております。たった一人で数千体の魔物を撃破し、広大な魔物の住む森を一瞬にして焼き払い、嵐を操る山ほどもある巨大な魔獣を打ち倒したと。更にエウロト村では南部地方を荒らし回っていた盗賊団を壊滅し、山中に潜んでいた魔物共を山ごと吹き飛ばしたとの事。今までの者達とは違う、正に真の勇者と呼べる活躍です。我々皇国に仕える騎士達は皆、勇者様に尊敬の念を抱いております。直にお会いする事ができ、恐悦至極に御座います」

 うおぉぉ、背中がかゆい━━! 盛りすぎ、尾ひれ付き過ぎぃ。日比斗は全身にむず痒さを感じて身悶えしてしまう。何とか誤解を解きたいと思ったものの、ここでこの騎士達に説明した所で、他の騎士達にはまた同じ説明をせねばならない。大元の情報を訂正せねばならないと━━ここは笑顔でスルーする事に決めた。
 日比斗が長年社会人として都合の悪い事は笑って誤魔化す時に使ってきたスルースキルがこの場で発動していたのだ。

 握手を求める騎士達に笑顔で応じると、そそくさとその場を立ち去る態勢に入っていた。
 そんな時だ、手紙を仕舞い終えたシスターモモが御者台に戻ると余計な一言を漏らした。

「私達はエウロト村近くで召喚した巨大な悪魔を探しています。フォールーン砦の方角に向かって飛び去ったのですが、何かご存知ではありませんか?」

 騎士達は目を白黒させたかと思うと突然、全員揃って顔を強ばらせ詰め寄ってきた。

 騎士達の行動にどきまぎしたシスターモモは馬車を降りて土下座してしまう。自分の頭の高さに耐えられなくなったようだ。
 もう悪い予感しかしない俺は眉間を押さえて頭を抱えるしか無かった。

「ま、まさか……あの巨大悪魔も勇者様の御使みつかいでしたか!」

 ほら来た……って、えっ?

 予想とは違う騎士達の反応に俺もシスターモモもキョトンとしてしまう。騎士達は深々と頭を下げてきたのだ。

「この度は召喚獣を使い、我らが砦を守って頂き誠にありがとうございました。砦に住まう全市民に代わり御礼を申し上げます!」

『へっ……なにそれ……!?』

『もーっ、マスターってば!!』

 声にこそ出さなかったものの、あまりに予想外の展開で俺はとんでもなく間抜けづらを晒していた。そしてその顔を見て『いつもの事ながら』とティーもあきれ顔でため息を吐く。

 彼らの話しによると、砦に侵攻して来た魔物の軍勢を俺の召喚した巨大悪魔が撃退したようだ。三千もの大軍による侵攻で、逃げる訳にはいかなかった騎士達はもちろん、逃げずに街を守ろうと残った市民達も死を覚悟していたのだという。

「もう頭を上げて下さい。(俺の召喚しでかした悪魔で)砦に被害がなくてなによりでした」

 ホッと胸を撫で下ろしたものの、俺の笑顔は苦笑に満ちたままだ。

 しかも何、敵軍三千……て。
 
 もう一人の勇者でどうこう出来る数じゃないじゃん。普通に死んじゃうじゃん。しかも俺に経験値ひとつたりとも入ってないし。

 へこむ……。マジで凹むわ。

 ガックリと肩を落とす日比斗をよそに騎士達は巨大悪魔くんの活躍を意気揚々と語り続けた。圧倒的な数で押し寄せる魔族軍と命果てるまで戦い続けた彼の勇姿を。

 俺としては自分が何か努力した訳でもなく、むしろ失敗した事が褒め称えられて何とも居心地の悪い気分でいっぱいいっぱいだ。
 なんとか話題をそらそうと、こんな人気ひとけのない場所で何故検問をしていたのか尋ねた。

 騎士達は事のあらましを話して良いものか、こそこそと相談していたが、砦にいる城主代行に召喚獣【ダイニーでんでん】を使って連絡を取ったようだ。

『是非とも協力してもらえ!』と許可を得た騎士達は、城主であるライラック大隊長が行方不明となった経緯を説明した。

『マスター緊急ミッションです!』

[クエスト一覧]
【緊急クエスト】
 ◎フォールーン砦の城主
【ライラック大隊長を救え!】
 成功報酬〔100G〕

 ティーが開いたウインドウを見て、驚きで思わず声を上げてしまった。

「ひゃ、100ゴールド? 大盤振る舞いですか? 一千五百まんですよ、エルルさん!」

 馬車の中でごそごそ何かやっているエルムの方を振り返ると、手に持ったタブレットをそそくさとしまっている。

「今か? いまそこで聞いて緊急ミッションを入力してたのか? いつもそんな感じで状況見てミッションを入力してるのか??」

「えへへへ……」 

 そういえばこいつの送った神の御信託もノートパソコンで入力した有り難みの欠片もない感じのものだった。

『まあ、いい。気にしたら負けだ。成功報酬がこれだけいいんだ。やらない理由なんてあるものか』

『ま、マスター、心の声が完全にお金に目がくらんでるよ。ボクちょっぴり悲しい』

 サクラとシスターモモにも念話が届いている。勇者がお金を必要としている理由を知ってはいるが二人とも苦笑ぎみだ。

 俺達も捜索に加わるとの事を騎士達に告げると大層喜んで捜索状況の詳細を教えてくれた。

「━━という様な状況で砦からこのあたりに掛けてかなりの数の部隊が捜索に当たっています」

「了解だ。俺達は俺たちなりの方法で捜索に加わるので、いちいち他の騎士達に不審者と見咎みとがめられぬ様に通達を頼みたい」

「「「はっ、了解致しました!」」」

 直立不動で敬礼している騎士たちに見送られながら俺達は馬車をゆっくりと発車させた。

「オーナー、目的地は如何致しますか?」

「大隊長たちが調査に向かったという元城主の別荘だな」

 ゆっくりと馬車を引くサクラに目的地の指示をだす。オルクさんに売ってもらった皇国の地図もサクラにはインプット済みだ。一度訪れた場所には更に書き込みが行われ、この国のどの地図より詳細なものとなっていた。

「砦の騎士団が既に調査済みとの事で、門も扉も閉まっていて誰もいなかったというが、隠し部屋や隠し通路の類いがないとも限らない。又、そこから移動した等の痕跡こんせきが見つけられるかも知れないしな。普通の騎士たちには分からなくとも俺達にはティーやエルムがいる。エルムは精霊に頼んで別荘の周辺の索敵を頼む。かなりの数の騎士達が捜索にあたってるんだ、盗賊や魔物も近くには潜んでいないとは思うが、ティーは馬車周囲の警戒にあたってくれ!」

『マスター、了解です。ボクに任せてよ!』
「私も、りょーかーい」

 サクラ、エルム、ティーに指示を出した俺をじっと見つめる瞳があった。『私にも、私にも!』と訴えてくる目線がかわいいのだが、痛い。

「えーと、フィ、フィーには……そうだ、いざという時の為の戦闘準備と、救護が必要になるかも知れないので救護活動用の備品を準備しておいてくれ。足りない物があればサクラに相談するように。サクラには後で前金を渡しておくから足りなくなりそうなら報告を宜しく!」

「「はい!」」

 嬉しそうに荷物をごそごそと漁るシスターモモが可愛くてつい口元が緩んでしまう。

「オーナーはお優しいですね」

 サクラがマップの映っていた背面モニターにキャラクターを移して語り掛けた。
『そんな事……』と言い掛けて口ごもる。先ほどの騎士たちの時もそうだが、こうした自分のような者を褒め称えられる事に慣れていない為、口ごもり固まってしまうのだ。

 そんな俺を見て彼女達みんなはニコニコと笑う。

 俺はこの世界に来て向こうの世界では得られなかった物を、彼女達からたくさんもらっているのだと実感していた。


 そうこうしているうちに目的地へと近づいてきた。街道から脇道へと入るとすぐに別荘へと続く直線道路となる。左右を森に囲まれその最奥に円形に整地された土地が広がる。その中央に周りを高い壁と柵で囲まれた豪華な三階建ての屋敷が見えた。

 だが、その屋敷を見たエルムの表情が凍りつく。

「皆さん、あの建物良く目を凝らして見て下さい!」

 サクラは停車し、全員が屋敷を見て目を凝らす。なんだろう、輪郭がボヤケて揺らいで見える。

「あれは、巨大な魔樹木ドリアードが屋敷に擬態しています!!」

「「「!!!」」」

 そのあまりにも巨大な化け物を前に全員が息を飲んだまま固まってしまった。





 ━つづく━

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