雷槌のロビンと人形遣い

かもめ

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プロローグ

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 甲高い音が響いていた。それから何かが挽きつぶされ、砕ける鈍い音。
 ここは片田舎の港町で、時刻は深夜3時。
 雲がかかりがちな夜空にはその隙間から明るい月が照っていた。
「はっ!!」
 声が響く。港町の港湾区にあるフェリー乗り場、そのアスファルトの広場で何者かが踊るように体を翻していた。
 街灯に淡く照らされたその手に握られていたのは一般人には見慣れないものだ。
 普通の生活において滅多に目にかかることのないもの。
 戦うための武器。その中でもなおマイナーなもの。銃でも剣でもない無骨な鉄の塊。それは大きなハンマーだった。
「C、敵性体の数が増え続けています。周辺の状況はどうなっているのですか?」
『んー、これといった異常はないんだけどね。魔力の異常な流れもなし。時空間魔術の形跡もなし』
「では、単純にここで待ち伏せされていたと。情報が漏れていたのですか?」
『えぇー!? 『組織』の情報が漏れるなんてことないと思うけど。そんなスパイを潜り込ませるような相手ではないし。個人だよ?』
「むぅ、謎は深まりますね」
 そう言いながら人影はハンマーを思い切り振り下ろした。
 その先に居た何かに。
 何かは鈍い音を立ててハンマーに押しつぶされた。それは人ではなかった。
 例えるなら服屋にあるようなマネキンだった。顔のない、のっぺらぼうのようなマネキン人形がハンマーによって叩き潰されたのだ。
 見れば、辺りはそんなマネキンがまだたくさん居た。
 それらは明らかに敵意を持ってこのハンマーの持ち主を取り囲んでいた。
 この人影は今このマネキンたちと戦闘行為を行っているらしかった。
 片田舎のこの寂れたフェリー乗り場は今戦場と化しているらしい。
「量が多い。これは時間がかかりそうです。C、レベル2の使用許可を願います」
『良いけど、目立たないようにね? よろしく頼むぜ?』
「分かっています」
 人影が言うとその手元のハンマーが淡く光り始めた。いや、光っているのではない。それは閃光を散らしていた。有り体に言うなら恐らくは放電していた。ハンマーに電流が溜まっているのだ。
『ミョルニル、レベル2!』
 人影は叫び、そのハンマーをマネキンではなく足下に思い切り叩きつけた。
 その瞬間、爆雷が落ちたような轟音ともに目映い閃光が辺りを埋め尽くした。
 放たれた電撃は周囲を蹂躙し、街灯や植木、アスファルトを破壊した。
 そして、その閃光が消えると辺りにはパチパチという軽い音と、煙が残った。
「敵性体の消滅を確認。戦闘を終了します」
 そして、人影を取り囲んでいたマネキンたちは消し炭に変わっていた。
 人影はパンパンと手を払った。どうやら、全ての敵は倒されたらしかった。
『まぁ、やっぱりレベル2で目立つなって方が無理だよねぇ。人払いにも限界があるよ』
 大きな音と巨大な閃光、周囲の民家に明かりが灯るのが見える。
「事後処理はお願いします。私は任務に戻ります」
『はいはい、なんとかしとくよ。では改めて頼むよエージェント№9『雷槌のロビン』」
「承知しました」
 そう言って人影は真夜中の街を睨む。その目は澄んだ青色だった。
「必ず見つけ出しますよ『拝神允敏《おがみまさとし》』」
 人影は言った。
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