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正義感の強い国
必勝! 必ず受かる面接術っス!
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「ただいま~」
「ただいまっス」
ミドとフィオは宿に帰ってきていた。すると中からキールに声をかけられた。
「お、やったきたか。どうだった? そっちの方は」
キールの方が先に宿の部屋の中で待っていたようだ。部屋の椅子に座りながら何かの紙を読んでいた。ミドがフィオを見るなり読んでいた紙を机に置いて声をかけてきた。ミドは申し訳なさそうにキールに言う。
「ごめんキール、エイミーから何も聞き出せなかったんだ……」
「ん、そうか……」
キールが腕を組んで残念そうに言った。すると、ミドが言う。
「難しい質問じゃなかったはずなんだ。今日の下着の色と素材を聞いただけなのに……」
「なにを聞いてんだよぉおおおお! もっと他に聞くことあんだろぉおお!」
キールがミドの首元を摑んで揺らしながら怒ると、ミドはケタケタ笑っていた。キールが仕切り直して言った。
「ったく……オレは有力な情報が手に入ったぞ」
「本当っスか!?」
キールは右手で自分の左肩をほぐしながら言うと、フィオが目を輝かせて聞いてくる。
「情報屋ってのは探せば、どこの国にもいるもんなんだよ」
「え!? キール情報屋に会って来たっスか! 流石っス、早く教えて欲しいっス!」
情報屋という商売をしている人間は、どこの国に行っても大抵は見つかるものだった。
旅人がその国の詳しい情報を知りたいときには非常に頼りになる存在である。ありきたりな情報なら、その町の人間に直接聞けばいいのだが、そうではない場合の情報が欲しい時があるのだ。そう、非合法な場合だ。
非合法な情報や裏取引など、アンダーグラウンドな情報も金さえ積めば手に入る。
もちろんリスクの分だけ大金を積む必要があるが、それに見合う情報を何故か情報屋というのは持っているのだ。怪しいのは、むしろ情報屋の方ではないのだろうかと思うこともあるくらいだ。
情報屋の中には、殺人事件の犯人が誰であるかを知っている場合さえあるのだ。
彼らに「それを知っていながら、なぜ通報しないのか?」と問うと、「ただ通報したら金にならねぇだろ。衛兵の連中がコソコソ隠れて情報屋に頼ってきたらボッタくってやるのよ……へへへ」と言っていた。
情報を売る前に、犯人に標的にされないのか不安にならないのだろうか。その辺りの頭のネジが飛んでいるのだろうか。とにかく、それくらい非常識で非合法な連中ということだ。
「でも情報屋の居場所を知るだけでもお金かかったんじゃないっスか?」
「あ~、それなら問題ない。盗聴させてもらったからな」
キールも酒場の店主の元に行っていたらしい。最初は直接聞こうとしたのだが、店主の提示金額に不満があり、そのまま店を後にしたらしい。ただその際に、店主が立っていたバーカウンターテーブルの裏に盗聴器を仕掛けておいたそうだ。
その結果、少し待っていると衛兵と名乗る二人の男たちが情報屋の居場所を聞きに来て、情報を買っている場面に遭遇し、まんまと情報屋の居場所をタダで手に入れたのだ。
それを聞いたミドは「さすが、元盗賊だ~」と笑い、フィオは開いた口が塞がらなかった。
しかし場所と情報屋の特徴を手に入れたと思ったのだが、その人物は情報屋本人ではなく、その間を繋ぐ人間だった。キールは、そこからあちこち歩き回ってやっと最後に辿り着いた場所は、とある古本屋に辿り着いたそうだ。
見るからに古そうな本屋で丸い眼鏡をかけた老婆が一人、店のレジ前に座って眠りこけていた。
キールは古本屋の奥から、指定されていた『爆笑間違いなしのダジャレ集』というタイトルの本を老婆の前に持っていった。しかし老婆は気づかずに眠っている。
キールは古本を開き、その中から一つ選んで小さな声で呟いた。
「汚職と知って……オーショック」
老婆は片目を開けて、再び目を閉じた。キールは再び本から違うものを選んで、今度は少し大きめの声で言う。
「訴訟しよう! そうしよう!」
キールが顔を真っ赤にしていると、老婆はしばらく沈黙した後、ゆっくりと口を開いて言う。
「……何が聞きたいんだい?」
キールは、やっと情報屋に辿り着いたと悟って安堵した。そして情報屋の老婆から貧民街である噂が流れているらしいとの情報を入手したのだ。
すると、フィオが言った。
「ダジャレが合言葉だったんスか? 変なおばあちゃんっスね。どんなダジャレだったんスか?」
「……聞くな」
キールは言いたくないといった様子で頬を赤らめていた。
「えっと……とにかく情報の続きを教えてよ、キール」
ミドが話を続けるように促すと、キールが静かに頷いて続けた。
キールの情報によると、この国にいる金持ちはあまり多くないらしい。一〇人程度だそうで、その中には生まれが裕福だった貴族や、商人から成り上がった者もいるようだった。
富裕層というのは大抵一般人からは悪いイメージを持たれがちだ。世界中にある物語の中でも、金持ちは悪そうな顔をしていることが多い。その影響のせいか、どうせ悪いことをして金儲けしているに違いないと考える一般人が多いのだ。しかし、お金持ちがすべて悪いわけではない。大勢の人を幸せにした結果が大きな富を生んでいる場合もあり、一概に金持ちすべてが悪いとは言えない。
さらに、この国の『正しい人になろう』という文化の影響もあってか、貴族や商人は寄付活動に熱心らしい。むしろ、そういった慈善活動をしない貴族や商人は国民から大バッシングを受けて大変な事になるらしい。中には不正行為に手を染めたと噂された人物は、それに怒り狂った民衆によって火あぶりにされて殺されたという出来事も過去にはあったらしい。
そういう国民性の影響で、富裕層はあまり目立った行動はせず、定期的に寄付や慈善活動で良い人アピールをすることが多いみたいだ。
その中でも、この国で最も民衆から支持されている人物がいるそうだ。
その人物の名前は、
「――ザペケチ・ブマヌカって貴族らしい」
「ザペケチ!?」「ブマヌカ!?」
キールが言うと、ミドとフィオの二人がほぼ同時に声を発した。
「なんだ? 知ってんのか?」
「知ってるも何も、エイミーちゃんに魔法のローブをプレゼントした貴族っスよ!」
「なるほどな……」
キールはフィオの言葉を聞いて納得した様子だった。
キールが聞いた情報によると、ザペケチは使用人をほとんど雇わず、豪邸に一人で暮らしているらしい。私生活が謎の人物で情報屋ですら分からないことが多いらしい。
表の世界では、ザペケチという貴族は慈善活動に熱心で国の人たちからは非常に親しまれているようだ。恵まれない子どもたちに服や食事を提供するのは当たり前で、ボランティア活動も定期的に行っているらしい。国に対する貢献度で言えば、他の追随を許さないほどである。
ミドとフィオは、キールの情報を一通り聞いて感心している様子だった。
「オレが情報屋から聞き出せたのは、これで全部だ」
キールが目をつぶったまま腕を組んで言うと、ミドが言った。
「ありがとうキール。やっぱりキールは頼りになるね~」
「べ、別に……これくらい普通だ」
ミドがキールに感謝を述べると、キールは照れくさそうにしていた。
「じゃあ次の目標は、そのザペケチって貴族に接触することっスね!」
「ああ、そうだ。明日にでも潜入捜査開始だ」
「でも、どうやって潜入するっスか?」
「どうやら、ザペケチって貴族が新しい使用人を雇おうとしてるようだ。そこにオレたち三人で行く」
キールが最初に読んでいた紙をミドとフィオに突きつけた。それは酒場から剥ぎ取ってきたであろう依頼書だった。内容は『求む! 使用人生活初めて見たせんか? 未経験でも丁寧に指導します』と大きく書かれており、記載されているお給金は噂通り桁違いのものだった。
「ぶはっ!? なんスか、この金額!!」
「知るか。とにかく明日、この依頼書もって屋敷に面接に行くぞ」
フィオが驚いていると、キールが冷静に言った。
「こんな大金だしてると、逆に怪しい仕事に見えてくるっスねぇ」
「この国の連中に聞いたらいつも通りだそうだ。仕事内容もいたって普通らしいぞ」
「定期的に雇ってるっスか!?」
「期間限定でな、長期で雇うことはないらしい」
「連休中にやる短期アルバイトみたいなもんってことっスか?」
「そういうことだ。しかも三日程度でこの大金を出すってことだ」
「ますます怪しいっス!!」
キールとフィオが依頼書の給金の桁違いの金額に驚いていると、ミドがベッドにどっかりと座りながらつぶやいた。
「さて、一体どんな人なんだろうね……ザペケチさん」
「さぁな……だが、ザペケチって貴族野郎……あまりにも評判が良すぎるんだよ。警戒した方がいいな」
「……本当に良い人かもしれないよ。いや、『正しいことをしようとしてる人』……かな?」
ミドがニコニコしながら言った。その表情には、どこか悲しそうだった。
*
「うわ~、ココっスか……でかいっスね」
フィオがザペケチの屋敷を見てつぶやいた。
目の前にはザペケチの豪邸が堂々とそびえ立っている。広さは聞いた話以上に広く、どこまでが敷地内なのか分からないほどだ。
黒く巨大な門が目の前で閉ざされており、開く気配がない。呼び鈴がないか周りを確認したが見当たらない。
「皆さん、こちらです」
ミドたち三人が声の方向を振り向くと、メイド服姿のエイミーが立っていた。白と黒を基調としたメイド服でフリフリがついている。
エイミーは恭しく一礼すると、三人についてくるように言った。
「エイミーおはよう! 可愛らしい制服だね、この屋敷の主はボクと趣味が合いそうだ」
「メイドの制服なんて大抵こんなモンだろ」
ミドとキールが話し合っていると、エイミーが言う。
「向こうの本邸で、ザペケチ様がお待ちです」
ミドたち三人はエイミーについて行き、ザペケチが待つ本邸に向かった――
「ザペケチ様、お客様をお連れしました」
「おやおや、お客さんとは珍しい」
エイミーに連れられて本邸の玄関の中に入ったミドたちの目の前に現れたのは、灰色の長い髪を後ろで束ねた紳士といった風体の男だった。キールが前に出て言う。
「すまない、この依頼書を見てきたんだが……」
「なるほど、そうでしたか」
男がミド、キール、フィオと左から順番に眺めてから言った。
「改めまして、私がこの屋敷の主、ザペケチ・ブマヌカと申します。みなさん合格ですので、エイミーの指示に従って制服に着替えてください」
「え!? もう合格っスか!? 面接とかないんスか??」
「面接? ああ、今行いましたよ」
「まさかの舐めるように見られただけの面接だったっスぅう!」
フィオが何故か少しショックを受けている様子で言った。
「……想定外っス、『必勝! 必ず受かる面接術』の知識が一ミリも必要なかったっス」
「昨日、遅くまで何読んでんのかと思えば……そんな本、徹夜で読んでたのか……」
そして三人は制服に着替えるため、更衣室に向かったのだった。
「ただいまっス」
ミドとフィオは宿に帰ってきていた。すると中からキールに声をかけられた。
「お、やったきたか。どうだった? そっちの方は」
キールの方が先に宿の部屋の中で待っていたようだ。部屋の椅子に座りながら何かの紙を読んでいた。ミドがフィオを見るなり読んでいた紙を机に置いて声をかけてきた。ミドは申し訳なさそうにキールに言う。
「ごめんキール、エイミーから何も聞き出せなかったんだ……」
「ん、そうか……」
キールが腕を組んで残念そうに言った。すると、ミドが言う。
「難しい質問じゃなかったはずなんだ。今日の下着の色と素材を聞いただけなのに……」
「なにを聞いてんだよぉおおおお! もっと他に聞くことあんだろぉおお!」
キールがミドの首元を摑んで揺らしながら怒ると、ミドはケタケタ笑っていた。キールが仕切り直して言った。
「ったく……オレは有力な情報が手に入ったぞ」
「本当っスか!?」
キールは右手で自分の左肩をほぐしながら言うと、フィオが目を輝かせて聞いてくる。
「情報屋ってのは探せば、どこの国にもいるもんなんだよ」
「え!? キール情報屋に会って来たっスか! 流石っス、早く教えて欲しいっス!」
情報屋という商売をしている人間は、どこの国に行っても大抵は見つかるものだった。
旅人がその国の詳しい情報を知りたいときには非常に頼りになる存在である。ありきたりな情報なら、その町の人間に直接聞けばいいのだが、そうではない場合の情報が欲しい時があるのだ。そう、非合法な場合だ。
非合法な情報や裏取引など、アンダーグラウンドな情報も金さえ積めば手に入る。
もちろんリスクの分だけ大金を積む必要があるが、それに見合う情報を何故か情報屋というのは持っているのだ。怪しいのは、むしろ情報屋の方ではないのだろうかと思うこともあるくらいだ。
情報屋の中には、殺人事件の犯人が誰であるかを知っている場合さえあるのだ。
彼らに「それを知っていながら、なぜ通報しないのか?」と問うと、「ただ通報したら金にならねぇだろ。衛兵の連中がコソコソ隠れて情報屋に頼ってきたらボッタくってやるのよ……へへへ」と言っていた。
情報を売る前に、犯人に標的にされないのか不安にならないのだろうか。その辺りの頭のネジが飛んでいるのだろうか。とにかく、それくらい非常識で非合法な連中ということだ。
「でも情報屋の居場所を知るだけでもお金かかったんじゃないっスか?」
「あ~、それなら問題ない。盗聴させてもらったからな」
キールも酒場の店主の元に行っていたらしい。最初は直接聞こうとしたのだが、店主の提示金額に不満があり、そのまま店を後にしたらしい。ただその際に、店主が立っていたバーカウンターテーブルの裏に盗聴器を仕掛けておいたそうだ。
その結果、少し待っていると衛兵と名乗る二人の男たちが情報屋の居場所を聞きに来て、情報を買っている場面に遭遇し、まんまと情報屋の居場所をタダで手に入れたのだ。
それを聞いたミドは「さすが、元盗賊だ~」と笑い、フィオは開いた口が塞がらなかった。
しかし場所と情報屋の特徴を手に入れたと思ったのだが、その人物は情報屋本人ではなく、その間を繋ぐ人間だった。キールは、そこからあちこち歩き回ってやっと最後に辿り着いた場所は、とある古本屋に辿り着いたそうだ。
見るからに古そうな本屋で丸い眼鏡をかけた老婆が一人、店のレジ前に座って眠りこけていた。
キールは古本屋の奥から、指定されていた『爆笑間違いなしのダジャレ集』というタイトルの本を老婆の前に持っていった。しかし老婆は気づかずに眠っている。
キールは古本を開き、その中から一つ選んで小さな声で呟いた。
「汚職と知って……オーショック」
老婆は片目を開けて、再び目を閉じた。キールは再び本から違うものを選んで、今度は少し大きめの声で言う。
「訴訟しよう! そうしよう!」
キールが顔を真っ赤にしていると、老婆はしばらく沈黙した後、ゆっくりと口を開いて言う。
「……何が聞きたいんだい?」
キールは、やっと情報屋に辿り着いたと悟って安堵した。そして情報屋の老婆から貧民街である噂が流れているらしいとの情報を入手したのだ。
すると、フィオが言った。
「ダジャレが合言葉だったんスか? 変なおばあちゃんっスね。どんなダジャレだったんスか?」
「……聞くな」
キールは言いたくないといった様子で頬を赤らめていた。
「えっと……とにかく情報の続きを教えてよ、キール」
ミドが話を続けるように促すと、キールが静かに頷いて続けた。
キールの情報によると、この国にいる金持ちはあまり多くないらしい。一〇人程度だそうで、その中には生まれが裕福だった貴族や、商人から成り上がった者もいるようだった。
富裕層というのは大抵一般人からは悪いイメージを持たれがちだ。世界中にある物語の中でも、金持ちは悪そうな顔をしていることが多い。その影響のせいか、どうせ悪いことをして金儲けしているに違いないと考える一般人が多いのだ。しかし、お金持ちがすべて悪いわけではない。大勢の人を幸せにした結果が大きな富を生んでいる場合もあり、一概に金持ちすべてが悪いとは言えない。
さらに、この国の『正しい人になろう』という文化の影響もあってか、貴族や商人は寄付活動に熱心らしい。むしろ、そういった慈善活動をしない貴族や商人は国民から大バッシングを受けて大変な事になるらしい。中には不正行為に手を染めたと噂された人物は、それに怒り狂った民衆によって火あぶりにされて殺されたという出来事も過去にはあったらしい。
そういう国民性の影響で、富裕層はあまり目立った行動はせず、定期的に寄付や慈善活動で良い人アピールをすることが多いみたいだ。
その中でも、この国で最も民衆から支持されている人物がいるそうだ。
その人物の名前は、
「――ザペケチ・ブマヌカって貴族らしい」
「ザペケチ!?」「ブマヌカ!?」
キールが言うと、ミドとフィオの二人がほぼ同時に声を発した。
「なんだ? 知ってんのか?」
「知ってるも何も、エイミーちゃんに魔法のローブをプレゼントした貴族っスよ!」
「なるほどな……」
キールはフィオの言葉を聞いて納得した様子だった。
キールが聞いた情報によると、ザペケチは使用人をほとんど雇わず、豪邸に一人で暮らしているらしい。私生活が謎の人物で情報屋ですら分からないことが多いらしい。
表の世界では、ザペケチという貴族は慈善活動に熱心で国の人たちからは非常に親しまれているようだ。恵まれない子どもたちに服や食事を提供するのは当たり前で、ボランティア活動も定期的に行っているらしい。国に対する貢献度で言えば、他の追随を許さないほどである。
ミドとフィオは、キールの情報を一通り聞いて感心している様子だった。
「オレが情報屋から聞き出せたのは、これで全部だ」
キールが目をつぶったまま腕を組んで言うと、ミドが言った。
「ありがとうキール。やっぱりキールは頼りになるね~」
「べ、別に……これくらい普通だ」
ミドがキールに感謝を述べると、キールは照れくさそうにしていた。
「じゃあ次の目標は、そのザペケチって貴族に接触することっスね!」
「ああ、そうだ。明日にでも潜入捜査開始だ」
「でも、どうやって潜入するっスか?」
「どうやら、ザペケチって貴族が新しい使用人を雇おうとしてるようだ。そこにオレたち三人で行く」
キールが最初に読んでいた紙をミドとフィオに突きつけた。それは酒場から剥ぎ取ってきたであろう依頼書だった。内容は『求む! 使用人生活初めて見たせんか? 未経験でも丁寧に指導します』と大きく書かれており、記載されているお給金は噂通り桁違いのものだった。
「ぶはっ!? なんスか、この金額!!」
「知るか。とにかく明日、この依頼書もって屋敷に面接に行くぞ」
フィオが驚いていると、キールが冷静に言った。
「こんな大金だしてると、逆に怪しい仕事に見えてくるっスねぇ」
「この国の連中に聞いたらいつも通りだそうだ。仕事内容もいたって普通らしいぞ」
「定期的に雇ってるっスか!?」
「期間限定でな、長期で雇うことはないらしい」
「連休中にやる短期アルバイトみたいなもんってことっスか?」
「そういうことだ。しかも三日程度でこの大金を出すってことだ」
「ますます怪しいっス!!」
キールとフィオが依頼書の給金の桁違いの金額に驚いていると、ミドがベッドにどっかりと座りながらつぶやいた。
「さて、一体どんな人なんだろうね……ザペケチさん」
「さぁな……だが、ザペケチって貴族野郎……あまりにも評判が良すぎるんだよ。警戒した方がいいな」
「……本当に良い人かもしれないよ。いや、『正しいことをしようとしてる人』……かな?」
ミドがニコニコしながら言った。その表情には、どこか悲しそうだった。
*
「うわ~、ココっスか……でかいっスね」
フィオがザペケチの屋敷を見てつぶやいた。
目の前にはザペケチの豪邸が堂々とそびえ立っている。広さは聞いた話以上に広く、どこまでが敷地内なのか分からないほどだ。
黒く巨大な門が目の前で閉ざされており、開く気配がない。呼び鈴がないか周りを確認したが見当たらない。
「皆さん、こちらです」
ミドたち三人が声の方向を振り向くと、メイド服姿のエイミーが立っていた。白と黒を基調としたメイド服でフリフリがついている。
エイミーは恭しく一礼すると、三人についてくるように言った。
「エイミーおはよう! 可愛らしい制服だね、この屋敷の主はボクと趣味が合いそうだ」
「メイドの制服なんて大抵こんなモンだろ」
ミドとキールが話し合っていると、エイミーが言う。
「向こうの本邸で、ザペケチ様がお待ちです」
ミドたち三人はエイミーについて行き、ザペケチが待つ本邸に向かった――
「ザペケチ様、お客様をお連れしました」
「おやおや、お客さんとは珍しい」
エイミーに連れられて本邸の玄関の中に入ったミドたちの目の前に現れたのは、灰色の長い髪を後ろで束ねた紳士といった風体の男だった。キールが前に出て言う。
「すまない、この依頼書を見てきたんだが……」
「なるほど、そうでしたか」
男がミド、キール、フィオと左から順番に眺めてから言った。
「改めまして、私がこの屋敷の主、ザペケチ・ブマヌカと申します。みなさん合格ですので、エイミーの指示に従って制服に着替えてください」
「え!? もう合格っスか!? 面接とかないんスか??」
「面接? ああ、今行いましたよ」
「まさかの舐めるように見られただけの面接だったっスぅう!」
フィオが何故か少しショックを受けている様子で言った。
「……想定外っス、『必勝! 必ず受かる面接術』の知識が一ミリも必要なかったっス」
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