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竜がいた国『パプリカ王国編』
大いなる力は、人を怪物に変える
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――迷いの森……それは人生に行き詰り、生き方に迷った人間を呑み込む森。
森の入口には自殺者に対して、自殺を留まらせるような看板が立てかけられていた。旅人たちはそれをガン無視して森の中に足を踏み入れる。
先頭をミドが歩き、後方をキールが守る。中間にフィオがマルコが周りをキョロキョロしながら歩いている。
ミドは片手に特殊なランタンを持っていて、それは青鈍色のような光を発しており、微量な振動をしている。これは古代文明のオーパーツを搭載したランタンで、特殊な光と音がモンスターを寄せ付けないようにしている。
なぜミドたちがそんな便利アイテムを持っているのかと言うと、実は村の結界に使われてるランタンを一つだけ借りてきたのだ。キールが村を散策している時に、一つだけ光を発していないランタンがあり、気になったのでフィオにそれを見せると大喜びでいじりを始めたのだ。
どうやら部品の一つが不良状態だったようで、フィオは見たこともない工具が入った工具箱を持ってきて、あっという間に直してしまった。
現代の知識では、どのような構造になっているのか分からないと言われているオーパーツを使った道具だというのに、フィオにとっては工作レベルに過ぎないのだろうか。やはりフィオの専門分野なだけあってか、彼女の古代文明技術の知識は相変わらず侮れない。フィオに言わせてみれば「ただの配線不良っスよ!」とのことだった。
そのおかげか、森を歩く道中はとても静かで風で木の枝や木の葉が擦れ合う音すら聞こえない。モンスターどころか動物の気配も感じられなかった。
パキッ!
「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! モンスターだあああああああああああああああああああああ!!」
マルコは枝が折れる音に過剰反応し、飛び上がって目の前にいるミドに抱きつくように背後から飛びついた。
「――ッ!」
その時ミドの呻くような声が聞こえてくるとミドが突然硬直して動かなくなる、いや動けなくなったようだ。するとフィオが言う。
「マルちゃんひどいっス! あーしはモンスターじゃないっスよ!」
「え?! なんだ……フィオさんだったんですか。びっくりさせないでくださいよ……」
どうやら木の枝を踏んづけて折ったのはフィオだったようだ。真横にいたマルコはそれに驚いたのだ。マルコはミドから手を離してため息をつく。するとマルコの背後から声が聞こえてくる。
「あの、マルコ。ちょっと、いいかな~……」
マルコはミドの様子がおかしくなったことに戸惑ってしまう。
「え、どうしたんですか? ミドさん??」
「……ごめん…………そこ……どいて、もらえる……かな」
「へ?」
マルコはマヌケな声を発して横っ飛びに跳ねる。するとミドは全身から拘束具を外されたかのように動き出した。
「――ぷはぁっ!」
「ど、どうしたんですか、ミドさん??」
「いや、実はボクには珍しい持病がね……」
ミドは苦笑いすると、キールがマルコに言う。
「そうか、マルコにはまだ言ってなかったな。いいか、ミドの影は絶対に踏むな」
「影……ですか?」
「そうだ」
マルコは意味が分からずポカンとしている。キールは構わず説明を続けた。するとマルコが驚いて言う。
「女神の絵本……!?」
「ああ、ミドはその呪いのせいで“影を踏まれると”動けなくなっちまうんだ」
「冗談ですよね? 女神の絵本なんて実在するんですか?」
マルコが訝しげに言うと、キールがミドを見て「いいか?」と一言。ミドは平常運転に戻った様子で笑顔で頷く。
ミドは深く深呼吸をする。そしてマルコの見ている目の前で、女神の能力『森羅』を発動させた。マルコが真剣な表情でミドを凝視している。
――フワッ……。
すると、ミドの深緑色の髪の毛が風に吹かれたように持ち上がった。すると足元から草木が生え広がり、さらには色とりどりの花が咲き乱れる。ミドが地面に指先を触れると、そこから立派な木がニョキニョキと天に向かって伸びていく。
マルコは言葉を失い、目の前で起こっている超常現象に釘付けになっていた。するとミドがマルコに言った。
「これがボクの女神の力。自由に植物を生み出せる能力だよ。そして影を踏まれると動けなくなる。それが女神の呪い……」
ミドはマルコの目の前で拳をぎゅっと握り、ゆっくり開く。すると手の平からピンク色の花びらが周囲に舞い散る。ヒラヒラと揺れながら花びらは地面に落ちていった。
「まさか、本当に実在したんですね……」
「女神の能力者なんて出会う機会もそうそうないだろうし、驚いて当たり前だよ~」
「すごいですよ、その力があれば世界を救う英雄にだってなれるんじゃないですか!」
「………………」
「どうしたんですか? ミドさん……?」
「そんなことないよ……」
ミドは複雑そうな顔で笑い、足元に生み出した小さな花を見ながら言う。
「この力は、あくまでも『呪い』なんだ。良いものなんかじゃないよ」
ミドはあまり嬉しそうな顔をしなかった。
普通の人間なら特殊能力と聞くと羨ましがるかもしれない。人知を超えた特殊なチカラを発揮したいと思う者も多いだろう。だが、それは本当に良いものなのだろうか。
強大な権力を得た者は、他者に対する共感力を失うと言われている。自分は特別な存在であると勘違いし、他人に対して平気で残酷な決断を下せるようになる。
体格の大きい者も同様に共感力を失う可能性は十分に秘めている。いずれ、可愛がりと称して目下の人間に暴力を振るうことに躊躇いが無くなるだろう。
「――大いなる力は、人を怪物に変える」
ミドは言った。するとマルコが訊き返す。
「どういう、意味ですか?」
「ボクのじっちゃんの口癖。大いなる力には、大いなる責任が伴うんだよ」
悪い人格を持った人間が強大な力を手に入れたから間違った方向に使ってしまうのだと言う者もいる、それも正しいだろう。だが、元々普通だった人間が大いなる力を手にしてしまったが故に内面に眠っていた凶暴性が増すという事実も忘れてはならない。
マルコはしゃがんで、さきほどミドが生み出した花を手に取って言う。
「でも、ミドさんのそれはとても優しい力だと思います。だって花を咲かせられるなんてステキじゃないですか」
「……ありがとう。そう言ってもらえると、ボクも救われるよ」
ミドは微笑んで言った。
――パキッ!
「んぎゃあああああああああああああ……って、またフィオさんですか?」
「違うっス! 今度はあーしじゃないっスよ!」
再び木の枝の折れる音に反応したマルコ。フィオがまたやらかしたのかと思ったがどうやら違うらしい。よく聞いてみると確かに先ほどよりも、少し離れた場所から聞こえてくる。
――パキ、パキ……。ザワザワ。
今度は複数の音である。木の枝が踏まれて折れる音に加えて雑草の擦れる音が聞こえてくる。
「お前ら気をつけろ。何か来る――」
キールが後ろを睨みつけて言った。その時、音を出していた複数の正体がその身を露わにした。
「ガルルルルルルルル……」
「ウゥゥウウゥゥゥウ……」
黄ばんだと骸骨と牙、腹部には肋骨の形が見える。四足歩行動物のような動きを見せる。骸骨の両目からは紅い光が鈍く光る。それは四人の旅人を目視すると威嚇するように唸り声をあげた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!! 骨格標本が動いてるっスううううううううううううううううううう!!!」
第一声を放ったのはフィオだった。
モンスターを寄せ付けないランタンを持っているはずなのに、なぜモンスターが近づけるのか。ミドがランタンをよくよく見ると、青鈍色の光が弱くなっているのが確認された。
フィオが直した方法は、もしかしたら村人も既にやっていたのかもしれない。それでも光が消えてしまうため、放置していたのだろう。
ということは、もうすぐランタンの青鈍色の光は完全に消えてしまうことになる。どれくらいの時間で消えるのかは分からないが、モンスターがすでに近くにまで来てしまった以上、効力を発揮できていないのは明白だった。
「どうするミド、やるか?」
「そうだね……」
キールが片手から鬼紅線を鈍く光らせて、ミドに短く言う。ミドは微笑みながら顔を下げて思考している。
今できる手段は、
一、闘って目の前のモンスターを討伐する。
二、逃亡してモンスターを振り切る。
以上のシンプルな二択である。
戦うことも出来る。しかし相手がどんなモンスターか不明な場合、迂闊に攻撃して毒などをもらったら厄介だ。それにこれから先も進まなければいけないのに、いちいち倒していたら体力の消耗に繋がる。食べるだけで体力が回復するような便利アイテムなど持ち合わせていない。食べてもお腹が膨れて満腹感を得られるだけだろう。
ならば逃げようか、もちろんそれもいいだろう。無駄な戦闘を避け、体力を温存し、目的地に向かうというのもいい。しかし、キールが言う。
「ここは迷いの森だ。迂闊に違う道に入ったら、それこそ本当に抜け出せなくなるぞ」
村の男から聞いたルートを破る訳にはいかない。聞いたルートは一つだけだ、それを破って別の道を行ったら確実に迷いの森から抜け出せなくなる。
逃亡するということは、追ってくるモンスターにも気を配らなければいけない。それが注意散漫を引き起こして道を間違える可能性もある。
ただでさえ迷いの森は周囲がまったく同じに見える世界だ。注意して観察しながら正規ルートを通らないと、あっという間に迷って抜け出せなくなってしまうだろう。
それだけじゃない。仮に一切間違えずに正規ルートを通れたとして、もしそのルートの先からモンスターが現れてとうせん坊をしていたらどうすればいい。その時は倒せばいいと思うだろうが、それまでにモンスターから逃げてきている訳だから、背後からもモンスターの脅威があるのを忘れてはならない。
目の前にはとうせん坊のモンスター、背後からは追いかけてきたモンスター。つまり、挟み撃ちされている状況を自ら作ってしまうことになる。
現状、目の前に現れたモンスターは四足歩行型のオオカミモンスターが複数匹、逃亡しても振り切れるかは疑問だ。ミドとキールの二人なら、モンスターの一匹や二匹造作もなく倒せるだろう。ならば、今ここで討伐してしまった方が後々のことを考えると吉かもしれない。
ミドはこれを一瞬に思考した。その時――、
「わああああああああああああああああああああああああああああ! 嫌だあああああああああああああああああああああ!」
マルコがミドたちをおいて一目散に逃げだした。ミドがマルコを追いかける。
「マルコ、ダメだ!」
「おい待てミド!」
マルコを追って走り出すミドをキールが追いかける。そしてフィオも二人を追う。
「ちょ、ちょっと! あーしを一人にしないで欲しいっスよおおおおおおおおおお!」
マルコを追いかけて、ミドが動く。それを受けてキールがミドを追う。一人ぼっちになりたくないフィオが泣きそうになりながらミドとキールをがむしゃらに追いかけた。
森の入口には自殺者に対して、自殺を留まらせるような看板が立てかけられていた。旅人たちはそれをガン無視して森の中に足を踏み入れる。
先頭をミドが歩き、後方をキールが守る。中間にフィオがマルコが周りをキョロキョロしながら歩いている。
ミドは片手に特殊なランタンを持っていて、それは青鈍色のような光を発しており、微量な振動をしている。これは古代文明のオーパーツを搭載したランタンで、特殊な光と音がモンスターを寄せ付けないようにしている。
なぜミドたちがそんな便利アイテムを持っているのかと言うと、実は村の結界に使われてるランタンを一つだけ借りてきたのだ。キールが村を散策している時に、一つだけ光を発していないランタンがあり、気になったのでフィオにそれを見せると大喜びでいじりを始めたのだ。
どうやら部品の一つが不良状態だったようで、フィオは見たこともない工具が入った工具箱を持ってきて、あっという間に直してしまった。
現代の知識では、どのような構造になっているのか分からないと言われているオーパーツを使った道具だというのに、フィオにとっては工作レベルに過ぎないのだろうか。やはりフィオの専門分野なだけあってか、彼女の古代文明技術の知識は相変わらず侮れない。フィオに言わせてみれば「ただの配線不良っスよ!」とのことだった。
そのおかげか、森を歩く道中はとても静かで風で木の枝や木の葉が擦れ合う音すら聞こえない。モンスターどころか動物の気配も感じられなかった。
パキッ!
「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! モンスターだあああああああああああああああああああああ!!」
マルコは枝が折れる音に過剰反応し、飛び上がって目の前にいるミドに抱きつくように背後から飛びついた。
「――ッ!」
その時ミドの呻くような声が聞こえてくるとミドが突然硬直して動かなくなる、いや動けなくなったようだ。するとフィオが言う。
「マルちゃんひどいっス! あーしはモンスターじゃないっスよ!」
「え?! なんだ……フィオさんだったんですか。びっくりさせないでくださいよ……」
どうやら木の枝を踏んづけて折ったのはフィオだったようだ。真横にいたマルコはそれに驚いたのだ。マルコはミドから手を離してため息をつく。するとマルコの背後から声が聞こえてくる。
「あの、マルコ。ちょっと、いいかな~……」
マルコはミドの様子がおかしくなったことに戸惑ってしまう。
「え、どうしたんですか? ミドさん??」
「……ごめん…………そこ……どいて、もらえる……かな」
「へ?」
マルコはマヌケな声を発して横っ飛びに跳ねる。するとミドは全身から拘束具を外されたかのように動き出した。
「――ぷはぁっ!」
「ど、どうしたんですか、ミドさん??」
「いや、実はボクには珍しい持病がね……」
ミドは苦笑いすると、キールがマルコに言う。
「そうか、マルコにはまだ言ってなかったな。いいか、ミドの影は絶対に踏むな」
「影……ですか?」
「そうだ」
マルコは意味が分からずポカンとしている。キールは構わず説明を続けた。するとマルコが驚いて言う。
「女神の絵本……!?」
「ああ、ミドはその呪いのせいで“影を踏まれると”動けなくなっちまうんだ」
「冗談ですよね? 女神の絵本なんて実在するんですか?」
マルコが訝しげに言うと、キールがミドを見て「いいか?」と一言。ミドは平常運転に戻った様子で笑顔で頷く。
ミドは深く深呼吸をする。そしてマルコの見ている目の前で、女神の能力『森羅』を発動させた。マルコが真剣な表情でミドを凝視している。
――フワッ……。
すると、ミドの深緑色の髪の毛が風に吹かれたように持ち上がった。すると足元から草木が生え広がり、さらには色とりどりの花が咲き乱れる。ミドが地面に指先を触れると、そこから立派な木がニョキニョキと天に向かって伸びていく。
マルコは言葉を失い、目の前で起こっている超常現象に釘付けになっていた。するとミドがマルコに言った。
「これがボクの女神の力。自由に植物を生み出せる能力だよ。そして影を踏まれると動けなくなる。それが女神の呪い……」
ミドはマルコの目の前で拳をぎゅっと握り、ゆっくり開く。すると手の平からピンク色の花びらが周囲に舞い散る。ヒラヒラと揺れながら花びらは地面に落ちていった。
「まさか、本当に実在したんですね……」
「女神の能力者なんて出会う機会もそうそうないだろうし、驚いて当たり前だよ~」
「すごいですよ、その力があれば世界を救う英雄にだってなれるんじゃないですか!」
「………………」
「どうしたんですか? ミドさん……?」
「そんなことないよ……」
ミドは複雑そうな顔で笑い、足元に生み出した小さな花を見ながら言う。
「この力は、あくまでも『呪い』なんだ。良いものなんかじゃないよ」
ミドはあまり嬉しそうな顔をしなかった。
普通の人間なら特殊能力と聞くと羨ましがるかもしれない。人知を超えた特殊なチカラを発揮したいと思う者も多いだろう。だが、それは本当に良いものなのだろうか。
強大な権力を得た者は、他者に対する共感力を失うと言われている。自分は特別な存在であると勘違いし、他人に対して平気で残酷な決断を下せるようになる。
体格の大きい者も同様に共感力を失う可能性は十分に秘めている。いずれ、可愛がりと称して目下の人間に暴力を振るうことに躊躇いが無くなるだろう。
「――大いなる力は、人を怪物に変える」
ミドは言った。するとマルコが訊き返す。
「どういう、意味ですか?」
「ボクのじっちゃんの口癖。大いなる力には、大いなる責任が伴うんだよ」
悪い人格を持った人間が強大な力を手に入れたから間違った方向に使ってしまうのだと言う者もいる、それも正しいだろう。だが、元々普通だった人間が大いなる力を手にしてしまったが故に内面に眠っていた凶暴性が増すという事実も忘れてはならない。
マルコはしゃがんで、さきほどミドが生み出した花を手に取って言う。
「でも、ミドさんのそれはとても優しい力だと思います。だって花を咲かせられるなんてステキじゃないですか」
「……ありがとう。そう言ってもらえると、ボクも救われるよ」
ミドは微笑んで言った。
――パキッ!
「んぎゃあああああああああああああ……って、またフィオさんですか?」
「違うっス! 今度はあーしじゃないっスよ!」
再び木の枝の折れる音に反応したマルコ。フィオがまたやらかしたのかと思ったがどうやら違うらしい。よく聞いてみると確かに先ほどよりも、少し離れた場所から聞こえてくる。
――パキ、パキ……。ザワザワ。
今度は複数の音である。木の枝が踏まれて折れる音に加えて雑草の擦れる音が聞こえてくる。
「お前ら気をつけろ。何か来る――」
キールが後ろを睨みつけて言った。その時、音を出していた複数の正体がその身を露わにした。
「ガルルルルルルルル……」
「ウゥゥウウゥゥゥウ……」
黄ばんだと骸骨と牙、腹部には肋骨の形が見える。四足歩行動物のような動きを見せる。骸骨の両目からは紅い光が鈍く光る。それは四人の旅人を目視すると威嚇するように唸り声をあげた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!! 骨格標本が動いてるっスううううううううううううううううううう!!!」
第一声を放ったのはフィオだった。
モンスターを寄せ付けないランタンを持っているはずなのに、なぜモンスターが近づけるのか。ミドがランタンをよくよく見ると、青鈍色の光が弱くなっているのが確認された。
フィオが直した方法は、もしかしたら村人も既にやっていたのかもしれない。それでも光が消えてしまうため、放置していたのだろう。
ということは、もうすぐランタンの青鈍色の光は完全に消えてしまうことになる。どれくらいの時間で消えるのかは分からないが、モンスターがすでに近くにまで来てしまった以上、効力を発揮できていないのは明白だった。
「どうするミド、やるか?」
「そうだね……」
キールが片手から鬼紅線を鈍く光らせて、ミドに短く言う。ミドは微笑みながら顔を下げて思考している。
今できる手段は、
一、闘って目の前のモンスターを討伐する。
二、逃亡してモンスターを振り切る。
以上のシンプルな二択である。
戦うことも出来る。しかし相手がどんなモンスターか不明な場合、迂闊に攻撃して毒などをもらったら厄介だ。それにこれから先も進まなければいけないのに、いちいち倒していたら体力の消耗に繋がる。食べるだけで体力が回復するような便利アイテムなど持ち合わせていない。食べてもお腹が膨れて満腹感を得られるだけだろう。
ならば逃げようか、もちろんそれもいいだろう。無駄な戦闘を避け、体力を温存し、目的地に向かうというのもいい。しかし、キールが言う。
「ここは迷いの森だ。迂闊に違う道に入ったら、それこそ本当に抜け出せなくなるぞ」
村の男から聞いたルートを破る訳にはいかない。聞いたルートは一つだけだ、それを破って別の道を行ったら確実に迷いの森から抜け出せなくなる。
逃亡するということは、追ってくるモンスターにも気を配らなければいけない。それが注意散漫を引き起こして道を間違える可能性もある。
ただでさえ迷いの森は周囲がまったく同じに見える世界だ。注意して観察しながら正規ルートを通らないと、あっという間に迷って抜け出せなくなってしまうだろう。
それだけじゃない。仮に一切間違えずに正規ルートを通れたとして、もしそのルートの先からモンスターが現れてとうせん坊をしていたらどうすればいい。その時は倒せばいいと思うだろうが、それまでにモンスターから逃げてきている訳だから、背後からもモンスターの脅威があるのを忘れてはならない。
目の前にはとうせん坊のモンスター、背後からは追いかけてきたモンスター。つまり、挟み撃ちされている状況を自ら作ってしまうことになる。
現状、目の前に現れたモンスターは四足歩行型のオオカミモンスターが複数匹、逃亡しても振り切れるかは疑問だ。ミドとキールの二人なら、モンスターの一匹や二匹造作もなく倒せるだろう。ならば、今ここで討伐してしまった方が後々のことを考えると吉かもしれない。
ミドはこれを一瞬に思考した。その時――、
「わああああああああああああああああああああああああああああ! 嫌だあああああああああああああああああああああ!」
マルコがミドたちをおいて一目散に逃げだした。ミドがマルコを追いかける。
「マルコ、ダメだ!」
「おい待てミド!」
マルコを追って走り出すミドをキールが追いかける。そしてフィオも二人を追う。
「ちょ、ちょっと! あーしを一人にしないで欲しいっスよおおおおおおおおおお!」
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