ミドくんの奇妙な異世界旅行記

作者不明

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一攫千金の国『ベガ・ラグナス編』

キールの初恋と、明かされる過去

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「み、ミドさん……ダメですって……」
本当ホントはマルコだって興味あるくせに~」

 ──時刻は夜の11時58分。

 まんまるマンボウ号が夜の大海原を優雅に飛んでいる。夜空にはたくさんの美しい星が輝いていて、ダークグレーの雲が空を覆っていた。雲がゆっくり、ゆっくりと流れていくと、そこから満月が顔を出す。金色の光が降り注いでマンボウ号を照らし出した。

 いつもなら既に寝ている時間なのだが、マルコはミドの部屋で隠れて何かコソコソしていた。マルコはディスプレイの画面に釘付けになりながら言った。

「あっ、あぁ……すごい。女の子ってこうなってるんですね……」
「無修正もいいけど、モザイクで隠されてるのもおつなものだと思うんだよね~」
「むむむ、無修正!?!?? そ、そんなの……もはや、はは、犯罪じゃないですか!?」

 ガチャ! 

「!」「?」

 そのとき、部屋の扉がノックもなしに開いた。マルコがビクっと驚いて振り返り、慌てて画面を消そうとするが間違って一時停止を押してしまう。画面には素っ裸の男女が絡み合っているシーンで止まっている。ミドが入ってきた人物を見る。するとその人物は二人に言った。

「おい、いつまで起きてんだ。早く寝ろ、電気の無駄だ」
「キール~、ちょうどいいとこに来たね~。一緒に観ようよ」
「だから早く寝ろ」

  突然入ってきたのはキールだった。ミドは慣れているようで落ち着いてキールに言った。その間にマルコは茹でダコの様に全身が赤く染まっていった。両手で股間を押さえ、前傾姿勢にになってモジモジしている。

「つれないね~、キールは普段こういうの観ないの?」
「観ねぇ」

 ミドが訊ねると、キールは間髪入れずに言った。するとミドが少し考えて思い出したように言う。

「え? もしかして前に見せた男同士の格闘技ガチムチパンツレスリングの方が趣味だった? アレはおもしろ半分のネタとして見せただけなんだけど……」
「二度と観ねぇよ、あんなホモビデオ!」
「ノンケだもんね~キールは。歪みねぇな」
「思い出させんな!」
「あぁん? 最近だらしねぇな」
「いい加減にしねぇと、マジで怒るぞ」

 ミドはふざけて筋骨隆々の男性同士が絡み合うビデオの内容を思い出させるような発言を繰り返してキールにダル絡みする。キールはこめかみに青筋を立てて不快感を示した。

 あんまりしつこくするとキールがマジで怒りそうだったので、空気を変えようとしてミドは言う。

「それにしても本当にキールは硬派だね~。好きな女の子とかいたことないの?」
「………………」
「あ、あれ?? どうしたの? キールさ〰〰ん??」

 ミドは軽い気持ちで言ったのだが、キールが沈黙してミドが対応を間違えたと思って焦る。するとキールが静かに言った。

「別に、いなかったわけじゃ……ねぇよ」
「つまり異性に興味はある、と?」
「………………」
「本当は好きな女の子とスケベしたい気持ちはある、と?」
「………………………………………………………………………………////」

 キールは肯定しなかったが、否定もしなかった。そしてミドに背を向けるようにキールは顔を隠して部屋を出て行こうとした。するとミドがキールを呼び止めて真剣な表情で言った。

「──キール」
「な、なんだよ?!」

 キールが返事をするとミドが真顔で言う。

「ガマンは体に毒だよ……!」
「やかましい! 明日朝早えーんだから、お前らはさっさとヤルこと済ませて寝ろ!」

「大丈夫、むっつりスケベぇは恥ずかしくないよ! むしろ紳士的なスケベだ。自身の性欲を隠さず、いやらしい視線や質問で相手を困惑させるのが『開放的な性欲オープン・スケベ』なら、むっつりスケベはその逆。暴れん坊将軍な性欲を自制心によって制御、律する『閉鎖的な性欲クローズド・スケベ』だ。つまりスケベの礼儀マナーを重んじる最高の好色の紳士スケベ・ジェントルマンなんだよ!」

「スケベスケベうるせぇええええええええええええ! 途中から意味わかんねぇよ!」

 途中からミドの言ってることの意味が分からなくなったキールは、ミドを無視して飛び出すように部屋を出て行ってしまった。

 余談だが、マルコはミドから『モザイク処理、無修正、男同士の運動会ガチムチパンツレスリング、ノンケ等』様々な教養を得たと満足して自分の部屋に帰って行った。

 そしてその夜、キールに変な絡み方をした天罰が下ったのか、ミドは悪夢にうなされていた。
 時々「ホイホイ♂チャーハン!」や「巻いて喰えやプーさん!」、「行けぇ! なんばパークス!」といった奇妙な寝言を繰り返していた。
 最後に「アァーーーーッ♂」と叫んで飛び起きたミド。プルプル震えながら、情けなさそうに肛門と股間を押さえていたようである。

 一方、キールはマンボウ号の廊下を歩いて自室に戻った。落ち着いてベッドに座り、疲れていたのか、そのまま寝てしまった。

 そしてキールは夢を見た──。

    ×    ×    ×

 ──深い霧の世界。周囲は真っ白で何も見えない。

 するとキールの目の前に桃髪の少女の姿が現れた。キールは周囲を確認して再度少女を見る。

「ルル!」

 キールが思わず呼ぶと、少女が言った。

「申し訳ありません、キール様。ルルはけがれてしまいました。もう、キール様と会うことはできません」
「何言ってんだルル! けがれたって、どういう意味だ!?」
「白紙についた黒い汚れは、永遠に消せないんです……」

 キールは必死に叫んだ。しかし少女は一方的につぶやくだけだった。すると二人の距離がどんどん離れていく。キールは必死で少女を追いかけて走りながら叫んだ。

「待って、行かないでくれ! オレはずっと、ルルに謝りたくて──」
「さようなら。キール様」

 ルルはキールにそう言うと霧の中に消えてしまった。

    ×    ×    ×

 ガバッ!

「ルルっ!」

 キールが飛び起きるようにベッドから上半身を起き上がらせた。そこはいつもの自室である。キールは数秒の沈黙を経て今までの出来事が夢だと悟った。

 全身に汗をかいており、とても気持ちが悪かった。ゆっくりとベッドから足を出して座る。心臓が激しく鼓動しているのを感じる。

 ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン。

「………………夢か」

 キールはそうつぶやくと、服の袖で顔を拭いて汗をぬぐう。そして何気なく時計を見た。時刻は深夜2時22分。真っ暗な部屋の中に秒針の音だけがカチカチと響き渡る。時計の数字が揃っているのが妙に不気味だった。

 隣のフィオの部屋から「ぐご〰〰〰〰〰〰! がお〰〰〰〰〰〰!」と怪獣映画のような凄まじいイビキが聞こえてきた。

 キールは一度起きてしまったため目が冴えてしまった。さらに夜は吸血鬼族の血が騒いでしまうため一度起きてしまうと眠りずらくなる。しかもうるさいイビキで寝ることも困難だろう。シャワーを浴びて外の風に当たろうと思ってキールは部屋を出た。

 キールはシャワーを浴びて汗を流した後、部屋に戻って着替えた。そして廊下にでて、螺旋階段を上がっていく。甲板に出る扉を開くと夜風が心地よく吹いており、キールの白い素肌を撫でていく。

 扉を出て、壁に寄りかかるようにキールは片膝を立てて座った。そのまま物思いにふけるように空を見上げた。そのとき一瞬だがミドとマルコが見ていたエロビデオの一時停止した画面を思い出してしまう。

(オレだって、別に女に興味がないわけじゃない……好きな女くらい──)

 キールの脳裏に桃髪の少女が浮かび上がる。同時にその少女が消えていく夢のことも思い出してしまう。そして小さく小さく、つぶやいた。

「はぁ、もう忘れろよ。ルルは、死んだんだから……」

 キールは当時のことを思い出すように振り返った。

 ──
 ──────
 ────────────
 ────────────────────────





 ──あの頃のオレたちは、まだ幼かった。

「ルル、早く来いって!」
「まってくださーい。キールさまぁー! んきゃっ?!」

 広い庭の中を金髪でくせっ毛の少年を追いかけてもも髪の少女が走っていると、つまづいて転んでしまった。金髪の少年は駆け寄ってきて桃髪の少女の手を取って立ち上がらせた。少女は顔に泥と砂をつけたまま「えへへ」と恥ずかしそうに笑った。

 金髪の少年の名は『キール・エルディラン』、吸血鬼族の貴族である。人族の貴族の父と吸血鬼族の母の間に生まれた9歳のハーフ吸血鬼でした。貴族の出身で着ている服も生地がとても良いものでした。庭で遊んで泥だらけになるのは日常茶飯事で、いつも服を汚して怒られていました。

 もも髪の少女の名は『ルル・アーシュラ』、鬼族の奴隷である。鬼ヶ島出身の8歳の女の子でした。もも色の髪の毛は邪魔にならない程度に短くカットされいて、他人が見ても失礼でない程度にはキレイに整えられている。衣服は鎖で繋がれた奴隷が着ているようなボロ切れの服ではなく、メイド服をいつも着ている。

 ルルとの出会いのきっかけは、キールが誕生日プレゼントに「ペットが欲しい」と両親にねだったことでした。する父は何を思ったのかキールを連れて奴隷商会に連れて行ってくれた。

 奴隷商会には様々な奴隷たちがギュウギュウに詰め込まれていた。たしかに見た目の雰囲気はペットショップで檻の中に入れられた犬や猫に近いかもしれない。

 キールは父の後ろをついて歩きながら周囲の奴隷を見渡していると、とある種族で目が止まった。

「おにぞく?」

 その視線の先にいたのは〔鬼族 子ども メス〕という札がぶら下がった檻に入れられている桃髪の女の子だった。

 キールは当初、鬼族は噛みついてきたり、いきなり物で殴ってきたりするなど凶暴な種族だと聞いていた。そのため近づくのためらったのだが、聞いていた話と違うことに気づいた。鳥かごのような鉄格子の先で座っている桃髪の少女はひどく怯えていたのだ。

 もちろん『窮鼠きゅうそ猫を噛む』ということわざがあるとおり、どの種族だろうと追いつめられたら噛みつくのかもしれない。鬼族だから特別に気性が激しいというのはあるかもしれない。しかしキールが桃髪の少女に近づくと、噛みつくのではなく、その小さな体を震わせて両ひざを抱えて身を隠そうとしていたのだ。

 キールが桃髪の少女ばかりを見ていたためか、父が気を利かせて「このメスの鬼を貰いたい」と奴隷商人に言った。すると奴隷商人は桃髪の少女を鳥かごから出して、奴隷として主人に逆らえないよう呪印を施した。これで命令に背いた場合や、逃亡を図った場合、主人の意志で奴隷を殺処分できるそうだ。

 当時のキールには説明されてもよくわからなかったが、呪文と呼ばれる森人エルフ族が使うプログラミング言語を組んでいるらしい。

 そして無事に奴隷契約を済ませてキールと父は少女を連れて帰ることになった。契約の際に少女の名前が『ルル』だを初めて知った。ルルの首に無骨な鉄の首輪がつけられている。細い鎖が犬用のリードの様についており、父がそれをしっかり握っていたのを覚えている。

 現在では世界各地に鬼族の奴隷がいるのは珍しくない。

 数年前に彼女ルルの故郷である『鬼ヶ島』にとある人族の英雄が攻め入り、悪い鬼族たちを改心させた。罪滅ぼしとして鬼族は奴隷にされて世界各国に運ばれて鬼族たちは散り散りになった。

 鬼族がどんな罪を犯したのかは、キールが勉強している歴史の教科書には記されていなかった。先生に問いかけても「鬼なのですから、悪いに決まってます」の一点張りで話にならなかった。

 ルルは鬼族だけあって見かけによらず身体能力が秀でており、8歳でも人族の大人と同程度の腕力、脚力を持っている。そのため肉体労働の奴隷として力仕事全般をさせられていました。外の人に奴隷を見られたときに不快感を感じさせないようにするため、清潔感のある服として、ルルはメイド服を着せられていた。

 ルルは奴隷として肉体労働をしてるとき以外はキールの遊び相手でした。元々キールがペットが欲しいと言ったことがきっかけのため、キールの相手をすることがルルの最優先事項なのだ。

 先生や両親、知り合いの人たちは鬼族は悪い存在と言っていた。しかしキールがルルと接している限りでは彼女が理由もなく危害を加える存在だとは思えなかった。そのためキールはルルに対して悪い印象を持つことができなかった。契約上ルルは奴隷という扱いなのだが、キールにとっては年齢としが近い友達のような感覚でした。

 奴隷は基本的に屋敷の外に出ることは禁じられている。だが首輪と鎖をつけて主人の監視下にある場合に限り外出を許されていた。荷物持ちとして奴隷を外に連れていくこともあるからだ。当然だが主人と奴隷が離れて一定数の距離が生まれた場合、殺処分プログラムが発動するため、奴隷は主人から離れることはできない。

 キールはルルと一緒にいる時間を意図的に増やしていた。ルルを一人にすると父も母も、それ以外の屋敷の人たちも彼女を奴隷として雑に扱ったからだ。

 両親も他の人も悪気があるわけではない、むしろ常識人だと言える。この世界や国の常識に従っているだけだ。奴隷は奴隷として扱う。それが常識であり、奴隷を自分たちと同じように扱う方がおかしい言われる。

 確かにルルは奴隷なのだから乱暴に扱っても契約上は問題はない。それでもルルが辛そうにしているとキールは何故なぜか胸が苦しくなったのだ。

 キールとルルは毎日一緒にいた。その日に学んだ勉強の内容をルルに教えた。もちろんルルが悲しくなるような内容は教えなかった。庭で遊ぶときも必ずルルを誘い、食事をするときも同じテーブルで食べようとした。両親からは「奴隷と一緒に食事をするな」と注意されるので、そのときはキールも従う。

 ルルに与えられる食事は固い黒パンとコップ一杯の水だけだった。ルルは「いただけるだけありがたいです」と文句を言わなかった。足るを知るといえば悟りの境地のように聞こえてカッコいいかもしれないが、さすがに可哀想だとキールは思った。

 だから見つかったら怒られると分かっていながらお菓子や飲み物を隠れてルルに持って行った。柔らかい白パンや栄養価の高いミルク、ビスケットやシュークリーム等を懐に隠し、後でルルと分け合って一緒に食べていた。

「いいかルル。みんなにはぜーったい秘密だぞ」
「わかりました、キールさま!」

 キールが言うとルルはニッコリ笑って嬉しそうにシュークリームを頬張っていた。食べ方が下手くそで、鼻の先端や口の周りにカスタードクリームをつけていた。それをキールがハンカチーフで拭うのがいつもの流れでした。

 そんな日々を過ごしていると、ルルもキールの顔を見ると安心して笑うようになった。それを見るだけでキールも嬉しくなった。

「ルルを一人にしちゃダメだ。ずっとオレがそばにいてあげるんだ」

 キールは小さな胸の中で誓ったのだ──。



 ──しかし世界は残酷だ。別れの日は唐突に訪れた。

「イヤぁっ! はなして! キールさまあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「ルルを返せええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」

 その日、キールとルルは人さらいに襲われたのだ。全部オレのせいだ。オレがあの日、無理やりルルを外に連れ出さなければ──。
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