アビリティーズ — 異能力者の世界 

才波津奈

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覚醒

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心配してくれた人により救急車が呼ばれ、病院へ行ったがやはり体はなんとも無かった。医者が念のためと頭も調べてくれたが、そちらも特に異常は無かった。
それから数日は何事もなく平凡な毎日が続いた。しかし事故のショックが薄れ、忘れかけていたある日それは起こった。

夜中に自室で一人、VRの対戦型オンラインバトルの人気ゲームをプレイ中のことだった。
いつものようにフルフェイス型のVRデバイスを装着するとベットに横になり、“ワールド”へダイブする。数秒もたたぬうちに、俺は暗視ゴーグルを通して、眼前に広がる夜の廃墟フィールドに立っていた。

知り合いのプレイヤーと合流すると、手早く装備を固めていく。アーマドースーツの上に防御プロテクタを装備し、連射型のレーザーマシンガンを両手に携え、ポーチにスペアの電装マガジンを補充する。

夜空に瞬くサイネージ型信号弾を合図に、チーム戦が始まった。開始直後に互いのチームでメンバー数名が削られ、拮抗した状態が続いた後、俺たちは敵のチームを挟みこみ、逃げ場のない廃ビルの裏手に追い込むことに成功した。

後は慎重にプレイして仕留めるだけと思われた次の瞬間、突如ビルの一部が崩壊した。
舞い上がった粉塵がおさまり、周囲を見渡すと、味方メンバーの大半がビルの下敷きになり、俺も手にしていたレーザーマシンガンが瓦礫に埋もれてしまっていた。
形勢が一気に逆転し、絶体絶命と思われた瞬間にそれは起きた。

気が付くと”俺は”、数メートル前の”俺を”見ていた。
映し出された映像の中で、どの敵が俺のどこに撃ってくるのか、どの敵が味方にやられるのか、やられないのか、その全てを見ることができた。
そして映像がゆらりと乱れてすぐに消えた。

—あの時と同じ!

急激に現実へ引き戻される感覚で我に返る。説明できない現象に頭は混乱していた。
しかし、体は動いていた。無意識のうちに敵の集団に向かって走り出し距離を詰めていく。最初に仕留めるべき相手はわかっている、右から二人目の黒いヘルメットの男だ。
斉射されるレーザーガンの攻撃を躱し、冷静にレッグホルスターからレーザーハンドガンを引き抜く。一人、二人と続けざまに、正確にヘッドショットをきめていく。少し遅れて味方の攻撃が始まり、残りの敵を殲滅していった。
最後はパニックで棒立ちになった残り一人の敵の頭に銃口を押しあて、相手が武器を手放した所でゲームセット。見事勝利することができた。

残ったチームのメンバーが歓声を上げ駆け寄ってくる。しかし俺は喜ぶよりも、あっけにとられていた。あの現象が再度現れたことに、しかもオンラインのVRの世界の中で。
しかし、そのまましばらく呆然と立ち尽くした後に、俺はこの現象の意味を完全に理解した。

それからはほぼ敵なしだった。
危機的な状況になるほど、俺の動きは冴えわたった。相手の攻撃の全ての間合いと軌道を見切れるボクサーのように、敵の懐に飛び込み、攻撃を躱し、勝ち続けた。チートと怪しまれないよう(ある意味チートなのだが)適度に負けなければいけないぐらいにだ。
そして俺の存在は、デスペラード(命知らず)の二つ名で知れ渡り、ゲーム内でのランクを駆け上がっていった。気づけばメジャーなプロゲーマーのチームと契約するまでになっていた。

その後、何度かその現象が繰り返されるうちに俺は気がついた。現象が発動する直前に、脳の一部、後頭部のあたりに電流が流れるような感覚があることを。軽くビリっと痺れる感じだ。
それに気づいてからは、意識することで意図的にその現象を発動することができるようになっていた。見られる映像は10秒ほどの短い時間。回数も一分間に一回程度。あまり多発すると頭が割れるように痛くなり、気を失いそうになる事もわかった。
何度も訓練を繰り返し、正確に意識して使えるようになったことで、それはもはや“現象”ではなく、“能力”と呼べるものへと昇華していた。
俺はその能力を”ショートビジョン”と名づけると、その使い道をバトルゲーム以外にも広げていった。

例えばオンラインポーカー。
今、俺は“ワールド”へログインし、カジノの扉の先にある、ポーカーテーブルに座っている。参加しているのは、テキサス・ホールデムのリングゲーム。5人のプレイヤーでテーブルを囲んでいるが、現在はチップリーダーの相手とのヘッズアップ(1対1の勝負)となっている。

相手は、金色のクラウンを頭に載せたカエルのアバターで、大きな口から、ちろちろと赤い舌が見え隠れしている。向かい合うような形で座る俺は、黒光りする獣毛に覆われたブラックウルフのアバターで、葉巻をくゆらせている。

ゲームは佳境、テーブルには既に3枚のコミュニティカードが開かれ、かなりの量のチップが積まれている。そして、ウサギのアバターのディーラーが、4枚目となるターンのカードを開いた。

K♠︎

その1枚を加え、これでミュニティカードは、K♠︎9♣︎7♠︎3♠︎となった。

ミドルポジションのカエルが、ターンでめくられたK♠︎のカードを見てオールインしてきた。プリフロップからの動きを見る限り、ブラフでなければ、やつの手にあるカードはK♣︎K♦︎である可能性が高い。

一方、俺の手の中にあるのはA♠︎K❤︎のカード。
俺の読み通りならば、やつは既にセット(3カード)が完成し、俺はワンペア。現状では負けている。しかし、次に9以外の♠︎のカードが出ればナッツフラッシュで俺の勝ちが確定する。

オールインされたチップを確認し俺はカエル野郎を睨みつける。やつは俺と目を合わせようとはせず、ただテーブルの上のカードを静かに見つめている。テカテカと生々しく光るカエルの皮膚が、やつの息遣いにあわせて上下していた。黙ってカードを見つめる大きな目玉、その白目の中で黒目が小刻みにせわしなく動いている。動揺しているようでもあり、誘っているようにも見える。

俺は葉巻の煙をゆっくり吐き出すと意識を集中する。頭の後ろが痺れてきたのをトリガーに能力”ショートビジョン”を発動する。
すぐに映像が映し出される。俺の前で俺が、ブラックウルフが、アクションを開始する。
相手のオールインに対して、俺もオールインでコール。ディーラーによって、5枚目のコミュニティカード、リバーが開かれる。
現れたカードは…

J♠︎

10秒後の世界で俺のフラッシュが完成していた。
それを見届けると俺は、ニヤリと笑い、ブラックウルフの牙を相手に見せつける。そして、ゆっくりと自分の全てのチップをテーブル中央に押し出した。
結果は…、言うまでもなかった。

俺は、自分の人生が変わり始めたと感じていた。
永遠に続く俺のターン。
世の中の全てがスローモーションに見えた。
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