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新しい世界
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気が付くと、俺は公園で黒いスーツの男の横に座らされていた。サングラスの男と女は少し離れた所に立っている。
隣に座るスーツの男、年の頃は60から70ぐらい、白髪のオールバックでグレイの瞳、髭を生やしたその男が穏やかに話しかけてきた。
「気分はどうだい?」
「…」
「時間がないんで手短に、と言いたいが…一つだけ質問に答えよう。何か聞きたいことはあるか?」
「俺のことをどうして知っている?どうやって能力のことを?」
「そういう能力さ」
—能力?
「アビリティーズ、聞いたことないか?」
—!
聞いたことがある。一時よく耳にした言葉…のはずなのに、何故かそれが何なのか思い出せない。忘れたというより、情報を引き出せない、記憶にアクセスできない、そんな感覚だった。
「まあ、思い出せないのも無理はない。今は特殊な情報統制が引かれているのでね」
男の言っている意味がよく理解できなかった。
「言い換えようか。先ほど何が見えた?君が逃げ出した時に」
思い出したくもない。血だらけで地面に横たわる俺の姿…あれは、あの時見た俺は、明らかに死んでいた。
「インタラプト、相手の脳に強制的に割り込み、特定のビジョンを見せる能力だよ」
—インタラプト?能力?
「それがアビリティーズと呼ばれる異能力者の力だ」
少しだけ男の言うことが理解できた。俺のように特殊な能力を持つ者が他にもいるということが。
「君の能力、ショートビジョンもいい能力だ。だが、まだ使いこなしてるとは言えない。やっと入口に立ったという所かな」
そして男は、俺の目を見て言った。
「我々ならもっと伸ばせる」
—伸ばせる?この能力にはまだ先があるというのか…
さらに男は続ける。
「さて、ここからが本題だ。我々と一緒に来ないか?」
「来ないかって、どこへ?」
「我々が作る新しい世界さ。我々はこのアビリティーズの力を使って世界を統べるつもりだ」
世界?何を言ってる?この男の言う「世界」とは、この世界のことだろうか。
「テロとか、そういうことか?」
そういうのに関わるのはごめんだ。
「テロか、君の言うテロとは何だ?」
俺が黙っていると、男が口を開く。
「テロとは、政治的な目的を持った破壊行為、犯罪。といったところかな」
そう言って話を続ける。
「そこで質問だが、先の大戦、あれはなんだ?テロか?犯罪か?」
先の大戦…、3年前とある2国間で始まり、瞬く間に世界を巻き込む大戦へと拡大し、多くの国に甚大な被害を与え、その後、唐突に終息した世界戦争。さらに、それだけ大きな戦争なのに今だに、なぜ始まり、どう決着したのか、確かな情報がなく不可解な点も多い。
「答えられまい。そう誰も答えられない」
失望したような顔で男が続ける。
「皆、『ひとたび戦争になれば勝者も敗者もない』そんな悟ったようなことを言って回想するだけだ」
そういう男の口調にはいつの間にか怒気が混じっていた。
「あの時、各国が自分達の正義を語り、そして、殺しあった…。ただの殺し合いを正義だと…。テロとか、犯罪とか、正義とか、悪とか、何の意味もない、ただのラベルだ。都合よく自由に付け替えができるただのラベルだよ」
そして再び俺の目をまっすぐ見て言った。
「正義は偽りの言葉となり、政治は役に立たず、政府は信用できない。だから我々が変えるのだよ。新しい世界で、新しいシステムを構築するのさ」
狂信者の言葉…と笑って否定することはできなかった。「狂信もまたラベルにすぎない」とか言われてしまいそうな気がした。
しかし本気なのだろうか?もちろん冗談を言ってるようには見えないが…。でも、もしかしたら、異能力者、彼の言うところの、アビリティーズの力を使えばできるのかもしれない。
—だがそうだとしても、俺には関係ない
バイト生活を抜け出し、人気プロゲーマーとして賞賛を浴び、カジノで十分すぎる稼ぎを得ている。これ以上何を…
「それで君は満足か?」
男のその言葉で俺の思考は遮られた。
—まさか、心までも読まれているのか?
男の言葉がさらに追い打ちをかけてくる。
「君はこのまま、その小さなお庭の王様として、安全で退屈な人生を歩むのか?」
からかうような物言いに頭にカッと血が上る。だがその一方で…
「君がいるべき世界はそんな小さくないはずだ。それに…自分でも気づいているのではないか?」
男の言葉が耳でなく俺の心にささやきかけてきた。
—気づいている?
そう、気づいていたのかも知れない…
この一か月あまりの間で俺の中で起こっていたこと。それはあの能力の芽生えだけではなかった。バトルゲームでランクを駆け上がり、ポーカーで金を稼ぎながらも、感じでいた得体のしれない焦燥感、心のうずき…その正体に。
試したかったのだ、自分を、自分の能力を。極限まで高め試してみたい、自分に何ができるのかを。チートプレイヤーのようにこそこそするのでなく、全身全霊で本当の自分の力を試したい。
先ほどの怒りとは違う別の熱いものが、体の中を駆け巡っていった。男の言った「新しい世界」が強烈な磁力を発して、俺の心を吸い寄せていくのがわかった。そこになら俺の力を本気で試す場がある。そう思うと、湧きあがる興奮を抑えることができなかった。
しばらく続いた沈黙の後、俺は聞いてみた。
「もし断ったら?」
「別に、お帰りいただくだけさ。ただし我々に関する記憶は、消させてもらう」
記憶を消す?どうやって…いや聞くまでもないだろう。
「どうする?お庭に戻るか、それとも、我々とくるか」
俺は黙っていた。
一点だけ疑っていた。今俺の中にある興奮、この高揚さえも、彼らに操られたものなのではないかということを。
しかし…
「話は終わりだ。後は好きにしたまえ」
そう言うと男は立ち上がった。そのままサングラスの二人を伴い歩き始める。
去っていく男の背中を見守る俺。
考える…必要はなかった。
一度天を仰ぎ、ため息をつくと、俺は黙って男の後について行った。
隣に座るスーツの男、年の頃は60から70ぐらい、白髪のオールバックでグレイの瞳、髭を生やしたその男が穏やかに話しかけてきた。
「気分はどうだい?」
「…」
「時間がないんで手短に、と言いたいが…一つだけ質問に答えよう。何か聞きたいことはあるか?」
「俺のことをどうして知っている?どうやって能力のことを?」
「そういう能力さ」
—能力?
「アビリティーズ、聞いたことないか?」
—!
聞いたことがある。一時よく耳にした言葉…のはずなのに、何故かそれが何なのか思い出せない。忘れたというより、情報を引き出せない、記憶にアクセスできない、そんな感覚だった。
「まあ、思い出せないのも無理はない。今は特殊な情報統制が引かれているのでね」
男の言っている意味がよく理解できなかった。
「言い換えようか。先ほど何が見えた?君が逃げ出した時に」
思い出したくもない。血だらけで地面に横たわる俺の姿…あれは、あの時見た俺は、明らかに死んでいた。
「インタラプト、相手の脳に強制的に割り込み、特定のビジョンを見せる能力だよ」
—インタラプト?能力?
「それがアビリティーズと呼ばれる異能力者の力だ」
少しだけ男の言うことが理解できた。俺のように特殊な能力を持つ者が他にもいるということが。
「君の能力、ショートビジョンもいい能力だ。だが、まだ使いこなしてるとは言えない。やっと入口に立ったという所かな」
そして男は、俺の目を見て言った。
「我々ならもっと伸ばせる」
—伸ばせる?この能力にはまだ先があるというのか…
さらに男は続ける。
「さて、ここからが本題だ。我々と一緒に来ないか?」
「来ないかって、どこへ?」
「我々が作る新しい世界さ。我々はこのアビリティーズの力を使って世界を統べるつもりだ」
世界?何を言ってる?この男の言う「世界」とは、この世界のことだろうか。
「テロとか、そういうことか?」
そういうのに関わるのはごめんだ。
「テロか、君の言うテロとは何だ?」
俺が黙っていると、男が口を開く。
「テロとは、政治的な目的を持った破壊行為、犯罪。といったところかな」
そう言って話を続ける。
「そこで質問だが、先の大戦、あれはなんだ?テロか?犯罪か?」
先の大戦…、3年前とある2国間で始まり、瞬く間に世界を巻き込む大戦へと拡大し、多くの国に甚大な被害を与え、その後、唐突に終息した世界戦争。さらに、それだけ大きな戦争なのに今だに、なぜ始まり、どう決着したのか、確かな情報がなく不可解な点も多い。
「答えられまい。そう誰も答えられない」
失望したような顔で男が続ける。
「皆、『ひとたび戦争になれば勝者も敗者もない』そんな悟ったようなことを言って回想するだけだ」
そういう男の口調にはいつの間にか怒気が混じっていた。
「あの時、各国が自分達の正義を語り、そして、殺しあった…。ただの殺し合いを正義だと…。テロとか、犯罪とか、正義とか、悪とか、何の意味もない、ただのラベルだ。都合よく自由に付け替えができるただのラベルだよ」
そして再び俺の目をまっすぐ見て言った。
「正義は偽りの言葉となり、政治は役に立たず、政府は信用できない。だから我々が変えるのだよ。新しい世界で、新しいシステムを構築するのさ」
狂信者の言葉…と笑って否定することはできなかった。「狂信もまたラベルにすぎない」とか言われてしまいそうな気がした。
しかし本気なのだろうか?もちろん冗談を言ってるようには見えないが…。でも、もしかしたら、異能力者、彼の言うところの、アビリティーズの力を使えばできるのかもしれない。
—だがそうだとしても、俺には関係ない
バイト生活を抜け出し、人気プロゲーマーとして賞賛を浴び、カジノで十分すぎる稼ぎを得ている。これ以上何を…
「それで君は満足か?」
男のその言葉で俺の思考は遮られた。
—まさか、心までも読まれているのか?
男の言葉がさらに追い打ちをかけてくる。
「君はこのまま、その小さなお庭の王様として、安全で退屈な人生を歩むのか?」
からかうような物言いに頭にカッと血が上る。だがその一方で…
「君がいるべき世界はそんな小さくないはずだ。それに…自分でも気づいているのではないか?」
男の言葉が耳でなく俺の心にささやきかけてきた。
—気づいている?
そう、気づいていたのかも知れない…
この一か月あまりの間で俺の中で起こっていたこと。それはあの能力の芽生えだけではなかった。バトルゲームでランクを駆け上がり、ポーカーで金を稼ぎながらも、感じでいた得体のしれない焦燥感、心のうずき…その正体に。
試したかったのだ、自分を、自分の能力を。極限まで高め試してみたい、自分に何ができるのかを。チートプレイヤーのようにこそこそするのでなく、全身全霊で本当の自分の力を試したい。
先ほどの怒りとは違う別の熱いものが、体の中を駆け巡っていった。男の言った「新しい世界」が強烈な磁力を発して、俺の心を吸い寄せていくのがわかった。そこになら俺の力を本気で試す場がある。そう思うと、湧きあがる興奮を抑えることができなかった。
しばらく続いた沈黙の後、俺は聞いてみた。
「もし断ったら?」
「別に、お帰りいただくだけさ。ただし我々に関する記憶は、消させてもらう」
記憶を消す?どうやって…いや聞くまでもないだろう。
「どうする?お庭に戻るか、それとも、我々とくるか」
俺は黙っていた。
一点だけ疑っていた。今俺の中にある興奮、この高揚さえも、彼らに操られたものなのではないかということを。
しかし…
「話は終わりだ。後は好きにしたまえ」
そう言うと男は立ち上がった。そのままサングラスの二人を伴い歩き始める。
去っていく男の背中を見守る俺。
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一度天を仰ぎ、ため息をつくと、俺は黙って男の後について行った。
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