異世界を統べるのは人ではなく竜だ

第一部 第1章 竜の目覚め篇

第1話 目覚め

　何が起こったのだろうか。何かの声が聞こえ、目の前が真っ白になった。

　俺はさっきまで自宅でベッドに寝転びながらゲームをしていた筈だ。
　しかし、なぜ俺は今、森にいる？

　「八神竜斗やがみりゅうと」

　それが俺の名前だ。普通の大学に通う大学生で、特に何の取り柄もない平凡マンだ。学力は普通、運動はどちらかといえば苦手だ。友達はまあ普通にはいるが、悲しいことに女子に告白する勇気はなく、故に童貞である。
　好きなものはゲームをやることと、ファンタジー小説を読むことだ。
　俺は大学の春休みを利用して、一日中ゲームに明け暮れていた。だが、急に目の前が真っ白になり、体が光に包まれたのだ。

　そして何故か今、ここにいるわけだ。ここはどこなのだろうか。辺りには明らかに見たことがない植物が生い茂っている。空は青く、雲があり、太陽のようなものがある。
　俺はこういった状況に覚えがあった。最近読んだ小説でも似たような描写があった。そう、異世界転移というやつだ。

　まさか本当に自分が異世界に転移するとは微塵も思ってもいなかった。現実世界の窮屈さには飽き飽きしていた俺は、かなりテンションが上がった。現代の社会は目に入るものは全てが面白くない。ニュースを見れば、くだらない出来事や悲惨な事件ばかりが報道され、それに一喜一憂する人が沢山いる世界だ。俺が面白いと感じるのはせいぜい漫画やゲームくらいだろう。普通、こういう異世界に転移した系の作品の人ならば、どうにかして帰還方法を探し、帰還を目指すのだろうが、俺はそんな気にはならなかった。楽しもうではないか、せっかくの異世界なのだから。これから俺の異世界ハーレム生活が始まるんだ！

　「ん？なんだか、体に違和感が…」

　体に違和感を感じるがよく分からない。

　ふと前を見ると、綺麗な池があった。太陽を反射し、キラキラかがやいている。異世界だけあり、水も澄んでいるのだろうか。

　「丁度いい。なんだか、喉が乾いてきたからな」

　喉が渇いてきたので水を飲もうと考えた。いや、待てよ？この水は飲んで大丈夫な水なのだろうか？池の水を直で飲むなどお腹を壊すに決まっている。だが、俺は喉が乾いている。どうしても水が飲みたいなら背に腹はかえられない。一か八か、当たって砕けてみるしかない。

　色々考えた挙句、結局水を飲もうと水面を覗き込む。

　「えっ？」

　そこには驚くべき姿があった。

　水面には、小さなドラゴンが居たのだった。