なんちゃって灰かぶり

長月みのり

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いやお前がかい

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 がらんどうの居間を箒で掃きながら、私は一つため息をついた。
今日もお義母さまは私に掃除を言いつけて家にやって来た見知らぬ男性と言葉を交わしているし、上のお義兄さまは一度は婿入りしたにもかかわらずお家に戻って来ていて、下のお義兄さまは相も変わらずお部屋でだらだら過ごしている。

 お父様がご存命だったころはこんなんじゃなかったのに。

 私は暖炉の掃除をするために灰をかき出そうとして、後ろから体重をかけられバランスを前に崩した。ぼふっと言う音と共に私の顔はあっという間に灰まみれになる。

 すぐに犯人に目星はついた。振り向くと、ぎゃははと不快な声で笑う義兄と目が合う。

「よぉカテリーナ。灰を白粉代わりにするなんていかしてんなぁ」
「な、なにす…げほ、ごほ」

 口を開くと灰が中に入って来てせき込んでしまう。薄く涙を浮かべる私を愉快そうに義兄は眺めてきた。

「わりぃわりぃ。まさかこんなうまくいくとは思わんかったわ」
「さいて…っぐ」

 言い返そうにも口の中が不快感で一杯で満足に言葉を発せない。苛立った私は後ろにこんもりとあった灰を掴み、義兄に投げつけた。

「うわっお前やりやがったな」
「(あんたが先にやってきたんでしょ!)」

 お互い口を開けないので無言での応戦。しかしドタバタと足音を鳴らしながらだったので音を聞きつけたお義母さまがやって来てしまった。

 居間の惨状を目にしたお義母さまはふらりと後ろによろけかけたが、なんとか留まったよう。すぅと息を吸い込み、鼓膜が破れそうな勢いで怒鳴った。

「何をしているのこの子ザルたちは!」

 怒りで青筋を浮かばせているお義母さまに逆らっては命がない。私と義兄はぜんまい仕掛けの人形よろしく動きを止めた。

「「ウキッ」」



 お風呂に放り込まれた私たちは、お義母さま監修のもと居間の復旧作業を行っている。呼吸すらも許されない空間に閉じ込められた私と義兄は一刻も早くこの部屋から脱出するため一時休戦することにした。


 私の名前はカテリーナ・ドローゲン。ドローゲン子爵家の長女だ。
さっきのモノローグは感傷的な気持ちに浸りたかった私の妄想で事実には違いないけれど誇張が入りまくっている。

 まず魔王然のオーラを放つお義母さまは、昨日淑女らしからぬやらかしをした罰として私に居間の掃除をいいつけただけで、別にいじめられているわけではない。ちなみにやらかしとは義兄に煽られて一緒に木登りをしたこと。私への罰は甘んじて受けるけれど、義兄に罰がないのはずるいと思う。

 あと、見知らぬ男性とか言ってみたけれどただの商売相手だ。
ドローゲン子爵家は貿易で栄える家。毎日色んな男性や女性が行き来するのはむしろ健全な状態といえるだろう。
お父様亡き後、ドローゲン家は基本的にはお義母さまが舵を取っていて、私の得意分野になると意見を求められる。ゆくゆくは私か私の旦那様が家を継ぐことになるのでお義母さまの見事な手腕を学ばなければと思っているけれどあまり交渉の場には連れて行ってもらえない。人前にだすにはあまりに行儀がなっていないからと言われてしまえば、ぐぅの音も出ないではないか。

 厳しいけれどその言動に悪意はない、立派な女性だ。本当にスパルタだけれど。


 そんなお義母さまに連れられてやって来たのは二人の息子。
上がアーサーお義兄さまで、下がジークムント。こいつにはお義兄さまとかつける義理はない。

 アーサーお義兄さまはうちにやって来てすぐ婿入りしていった。かねてからお付き合いしていた女性が伯爵令嬢だったらしく、自らも子爵家の一員となったため相手方から婚姻の許可が下りたのだという。

 しかし最近は家から伯爵家に通っている。理由は、ほんっとうに呆れた話なのだけれど妊娠中の奥さんが心配で付きまといすぎて追い出されたから。
阿呆なのかしら。まあ、奥さんが妊娠中に浮気する男性よりはずっとマシだと思う。

 ジークムントは私より2つ上の19歳で、近衛騎士団に所属しており、今日は非番らしい。
非番の日は休みに徹する、とか言って自室でだらごろするか私にちょっかいをかけてくる。彼には友達がいないのだろうか。

 剣術の腕だけで近衛騎士団に籍を用意させたというのだからそこは素直に認めている。が、私を煽るときのジークムントはただのクソガキだ。燃えるような赤毛と甘いマスクを持ちながら女性の影は全くない。
本人曰く全てお断りしているとのことだけれど私は嘘だと思っている。見た目で寄ってくる女性もあのサル並みの残念な知能と性格を知って冷めてしまうに違いない。



 そんなことを考えているとあの灰まみれだった居間は元の姿を取り戻し始めていて、私たちは終わりの見えてきた労働に喜びを見せた。しかし、その喜びは一瞬で散っていく。

「舞踏会…?」

 お義母さまは大きく頷き、白い封筒を私たちの前に掲げた。

「お城からお達しがきたの。国内の全ての未婚の貴族男性は王女様の結婚相手を探すパーティーに出席するように、だそうよ」
「じゃあジークムントだけでいいじゃないですか」
「おいこらお義兄さまと呼べや義妹」
「はぁ?年齢がたった2つ上なだけで偉ぶるんじゃないわよ」

 バチバチと火花を散らす私たちだったが、絶対零度の視線を感じすぐに黙った。多分、次余計なことを口にしたら私たちは五体満足でこの部屋を出られなくなる。
大人しくなった私たちを前に満足そうな表情を浮かべるお義母さまは言葉をつづけた。

「何でも未婚でも婚約者がいる場合はパートナーの同伴も可能らしいの。だから、二人で参加して新作のドレスの宣伝をしてきなさい」

 今回、隣国で流行っているドレスの流通にドローゲンも一枚噛むことになり宣伝の場を逃す手はないのだという。

 王女の目に留まる必要はなく、とにかく国中の貴族が集まる場で広告塔をして来い。どこまでも商売人根性逞しいお義母さまの前に、私たちは静かにうなずくしかなかった。




 数日後、ダイニングで朝食をとった後いつも一目散に仕事に出かける(というか奥さんの様子をこそこそ伺いに行っている)アーサーお義兄さまがのんびりと食後の紅茶を楽しんでいることを不思議に思った私は声をかけた。

「珍しいですね、いつもなら食事もそこそこにお出かけになるのに」
「はは、本当は今すぐレティに会いに行きたいんだけれど、ついに出禁をくらってしまってね」
「あら、やっとですか」
「ひどいなぁ、カテリーナちゃんは。そうだ、折角だしお話ししようよ、本当に暇なんだ」

 マイペースが過ぎる。私は暇つぶし道具じゃない。私だって、何かしら用事はある―――あら、ないわ。
午後からお義母様の商談をこっそり盗み聞きしに行くくらいしかないことを思い出した私は、メイドに紅茶のお代わりを用意させ私的レアキャラ、アーサーお義兄さまの暇つぶしに付き合うことにした。
一応家族なのだが、全くそうは思えない。まだあのアホ猿のほうが親近感がある。それほど希薄な縁しかもたないお義兄さまとなにを話すんだろうとも思ったけれど、私は好奇心でその場に残った。


「聞いたよ、今度お城のパーティーにジークと行くんだって?」
「はい。お義母さまのお言葉に拒否権などありませんので」
「はは、いい感じに染まって来たね、カテリーナちゃんも。そういえばジークは元気にしているかい?最近顔を合わせていないからさ」

 ジークムントは基本的に寮生活なので、一時的に実家暮らしをしているが日中はほぼ伯爵家に詰めているアーサーお義兄さまと会う機会は少ない。先日の休みも早朝に帰って来て夕方には寮に戻っていってしまったし。
というか、そんな短い時間しかいれないのに片道1時間かけてわざわざ家に来て私をからかってお義母さまに怒られて帰るとか、なんて不毛な時間の使い方だろう。
やはり友達も恋人もいない寂しい男なのだろう、とアーサーお義兄さまに話すと、やれやれと呆れた顔をしていた。

「ジークはね、不器用なんだ。ねえカテリーナちゃん。もしアイツがこのまま独り身だったら…」
「みなまで言わずともわかっていますわ、お義兄さま。老後はちゃんと我が家に迎え入れて、私の孫の相手をしてもらいます。孤独死なんてさせませんから」
「ええ、そういう…?まあいいや、俺がそこまで面倒を見る筋合いもないし」

 微妙な反応をされたが、気にしないことにしてその後もとりとめのないことをだらだら話した。なんだか兄妹っぽい。
そのうち、採寸のために午後休を取ったのだというジークムントが乱入してきてまた私たちが小競り合いを初め、それを聞きつけたお義母さまに雷を落とされてしまったのだが。




 あっという間にパーティー当日になった。私の専門分野は食なので、ドレスなどは全くわからない。お義母さまに用意された微かに青がかった白地のドレスを身にまとい、同じくファッションに興味がなさ過ぎてよくわかっていなそうな顔をしているジークムントにエスコートされ馬車から降り立った。

 ドレスは胸元ががっつり開いていて、そんな貧相な体はしていないとはいえ恥ずかしい。装飾はほぼなく随分シンプルなつくりなのだが、これが隣国の流行りなのだという。ネックレスやイヤリング、髪飾りまでも新商品づくしの私が物珍しいのかジークムントは馬車の中にいる間ずっと私をじろじろ見ていた。
馬子にも衣裳ってか、と腹の立つ言葉も頂き危うく足が出るところだった。私の足を覆う、ガラスを使用しながらも履きやすさを追求したらしい靴がとんでもない金額だと聞かされていなければやっていた。

 そんなジークムントも立派にコーディネイトされており、どこに出しても恥ずかしくない貴公子の格好をしている。不覚にも胸元に光る銀細工が似合っていると思ってしまったのはここだけの話だ。
これで永遠に黙って動かずついでに呼吸もしなければご令嬢から大人気だったのに、と言ってやるとジークムントはしばらく考え込んだ後「それって俺死んでるじゃねえか」と突っ込んできた。
戦場では素早い判断が命を救うというのに未熟なものだ。

 ジークムントのエスコートを受けながら入った王城は言葉では言い尽くせないほど美しく、私はアホ面を曝け出してあたりを見回ってしまった。近衛騎士として王城に努めるジークムントは見慣れているのか興味なさげだ。なんて贅沢な男なのだろう。

 陛下の開会宣言と共にパーティーが始まる。
私たちに課せられたミッションは人目を集め購買意欲を高めること。そのためにお義母さまにサルと言わしめられた運動神経を生かしたキレッキレのダンスを披露して目立ちまっくた。それが裏目に出たのだろうか。今、私は1人会場に取り残され、ジークムントはなんと王女さまのお声がけを受けてどこかに行ってしまった。

 これではお義母さまの言いつけを破ってしまったことになる。
どうしたものかと壁に寄りかかっていると、すぐ近くのドアが開いて顔を真っ赤にしたジークムントに腕を掴まれた。

「ど、どうしたのよ。熱でも出した?」
「違う。…帰るぞ」

 ぐいぐいと私を会場から連れ出そうとするジークムントに困惑の色を隠せない。

「ええ、途中で帰ったりなんかしたらお義母さまに怒られちゃうわ」
「俺のせいにしていいから、とにかく早くここから出ねえと」
「出ないと?」
「俺が、王配にさせられる!!」

 私がぽかんとした隙にジークムントに体を引っ張り出され、そのまま王城の門へと引きずられる。

 どういうことだと聞いてみるものの、ジークムントはずんずんと早足で進むだけで何も答えてくれない。次第に後ろが騒がしくなり、ジークムントは速度を上げた。

「ちっ、急ぐぞ」

 全く訳が分からないが、ガチャガチャと剣を鳴らしながら私たちを追ってくる後ろの人たちの剣幕を見た感じ、捕まったらまずいことになりそうだ。私はささっとガラスの靴を脱ぎ、手に持つときらびやかな装飾の施された廊下を全力疾走した。

 町に降りてしまえば、追手も分散されてそう簡単に捕まることは無いだろう。
私とジークムントは路地裏に飛び込んでじっと息をひそめる。

 しばらくすれば私の息は整ってきたが、ジークムントの息は荒いままで瞳もうるんできている。額に手を当てると少し熱っぽい。頑丈が取り柄の癖して珍しいと思っていると、突然片腕を掴まれ背中を壁に押し付けられた。

「ど、どうしたのよ」
「やばい、走ったせいで、全身に回ったぽい…」

 要領を得ない返事だ。さっきから訳の分からない行動ばかりをとるジークムントに苛立ちを覚え、ついつい強い口調になってしまう。

「なにが回ったっていうのよ」
「多分、媚薬…」
「は、はぁ!?どういうこと」
「王女のとこ、連れてかれて、自分の注いだワインが飲めないのかって、脅されて、口をつけたらなんか、からだが、へんに…」

 力が入らないのか私に覆いかぶさるかのような体勢になり、ジークムントの顔が徐々に近づいてくる。

「ちょっと、しっかりして」
「もう、無理。カテリーナ…」

 砂糖を煮詰めたような甘ったるい声で名前を呼ばれ、私は咄嗟に反応できなかった。
気づけば私の視界一杯に瞳を閉じたジークムントがいて、唇が柔らかいものでふさがれていた。あまりの衝撃に固まっていると、それをこの行為への肯定ととらえたのかより深い交わりになる。慌ててジークムントの体を押し返すが、流石は近衛騎士、ピクリとも動かない。

 私は成す術もなく、ジークムントから与えられる暴力的なまでの快楽に身をゆだねるしかなかった。


 ゆっくりと離れていくジークムントの顔は、依然として興奮に濡れている。
その瞳に映る女の顔も、似たようなものだった。
私はひっぱたいてやろうと振り上げた腕を力なく降ろし、ジークムントに導かれるまま夜の街を足早に進んだ。追手はもうとっくに通り過ぎてしまったのか、静かな町に互いの吐息だけが嫌に響いた。


 やがて、小さな宿にたどり着き部屋に通された。
仕事柄大人と関わる機会が多かったため話には聞いていたが、これはもしかしなくてもそうなってしまうのだろうか、ジークムントと。

 私はどこか他人事のような思いで一つしかないベッドを見た。
しかし、ジークムントは一向に手を出してこない。むしろ、部屋を出ていこうとしている。

「どこいくの」
「頭冷やしてくる。すぐに戻るから」

 そう言ってぱたんと絞められた扉。
私はへなへなとその場に座り込んだ。

 ジークムントと、口づけをしてしまった。…それも、大人の。
恐らく口紅が落ちてしまっただろう唇をそっとなぞる。心臓はバクバクうるさいし、頬に集まった熱も引かない。いったい私はどうしてしまったのだろうか。

 不思議と不快感はなかった。むしろ、ちゃんと拒めなかったことが大問題だ。血は繋がっていなくても私たちは家族で、ジークムントは媚薬を盛られてそういう気分にさせられたから一番身近にいた私に欲をぶつけただけで、そこに特別な感情はない。

 それなのに私は浅ましく最終的には受け入れ、続きを期待してしまった。それは、好奇心からか、それとも相手がジークムントだからなのだろうか。


 自己嫌悪にさいなまれて床に座り込んでいると、小さな音をたてて扉が開いた。
扉のすぐ横にいた私にびっくりした顔をしたジークムントは、部屋に入ることなくその場に立ったままだ。

「中、入ったら」
「いや、このままで」
「折角ここまで来たのに廊下で見つかったら間抜けでしょう」
「だが、俺はさっきあんなことを」
「犬に噛まれたようなものよ。気にしていないわ」

 大嘘だ。気にしまくりである。でも、いつもの私たちらしい軽口ではないだろうか。しかし、ジークムントはそんな私の気遣いを無視した。

「俺は気にする。今だって、お前と二人きりになれば自分が何をするか」
「そんなにアレならお店に行っちゃえば」

 茶化してみるがジークムントは全く乗らない。むしろ苛立った顔をして部屋の中に入ってきた。結局入ってくるんじゃんか。

「お前だからこんな気持ちになるんだ。ああクソ、こんな風に言うつもりじゃなかったのに」

 私の隣にしゃがみこんだジークムントは、先ほどよりは落ち着いて見えるがその瞳はずっと甘い。炎を連想させる赤が溶けて絡んで私を逃すまいとしているように思えた。

「どうしたの、それじゃあまるで」

 告白しているみたいではないか。

 私がすべてを言う前にジークムントが動いた。私の手をそっと取り、角ばって美しいとは言いがたい武骨な手で包み込む。

「好きだ、カテリーナ。順番も何もかも間違っているのはわかってる。だけど、この気持ちは本当だ」

 私は言葉を失い、ジークムントに握られた手に視線を落とす。
それをどうとったのか、ジークムントはぱっと手を離してしまった。

「薬を盛られていたからとはいえ、俺のしたことは許されることじゃない。安心してくれ、もう二度と家には戻らないしお前の視界にも入らないから」

 そのまま出ていきそうな勢いのジークムントをどう引き留めて良いかわからず、私は咄嗟に肩を掴んだ。いきなりのことにジークムントはバランスを崩し、私はジークムントの上に馬乗りになる。

「カテリーナ…?」
「きゅ、急に言われたらびっくりするじゃない。いつも嫌がらせばっかりしてくるくせにそんなこと言われて受け入れられると思う!?」
「それは、すまん。どう接すればいいかわからなくて」
「普通に一緒にお茶したり、散歩したり、いろいろあるでしょうが!本当に私のこと好きなら、自分の頭で考えてもう一度やり直して頂戴」

 私は何を口にしているんだろうか。これではもう一度告白されたら受け入れる流れではないか。しかし、きっと私は呆気なく受け入れてしまうだろう。
自分がこんな単純な女とは知りたくなかった。ジークムントが魅力的だから、とは悔しいから思わないことにする。

「そっか。じゃあカテリーナが一発で頷いてくれるように頑張んねぇとな」

 にかりと笑い、すっかりいつもの様子に戻ったジークムントはさっさとソファを寝床にしてしまい、私は置いてきぼり。そういうところだぞ、と思わないでもなかったけれど、今はそんな気楽な態度がありがたい。

 私も考え込むのをやめてベッドに横になったが、いろいろとありすぎてさっぱり寝れなかった。ようやく眠りに落ちたのは朝と言っても差し支えのない時間で、私が寝ている間にジークムントは上手いこと手配してくれたのだろう、次に目を覚ました時私は見慣れた馬車の中だった。

 私が席から落ちないように支えてくれていたジークムントが大きなため息をつく。

「ぜってえ怒られるな。あーやだやだ」

 お義母さまがどれほどお冠か、恐ろしいのは私も同じだ。私はジークムントににやりと笑いかけた。

「私は悪くないからジークだけ怒られてね」
「っ…わかったよ」

 顔を赤くするジークに私は少しだけ気のすく思いをしたが、すぐになんて恥ずかしいことをしてしまったのだろうと同じく赤面する羽目になった。




 その後の話を少しだけすると、家に帰った私たちを待っていたのは角をはやしたお義母さまと、にやにやと愉快そうなアーサーお義兄さま。そして、顔面蒼白の王城からの使者だった。
王女さまの暴挙を知った陛下が、紙面上とはいえ謝罪をしたのだ。あと、あのパーティーは出来レースだったとの告白も。

 王城ですれ違っただけのジークに一目ぼれした王女様がジークを探すために陛下に頼んでパーティーを開いたとのこと。近衛騎士の制服を着ていたことは覚えていたため、貴族縛りをすればすぐに見つけられると思ったのだそう。

 実際目立つ髪をしていることもあってすぐに見つけられたが、傍に女がいたため、強硬手段に出たとか。とんでもない王女様だ。

 今回のことでジークはいくつか昇進し、ついでにドローゲン家も迷惑代としていくつか王城と契約を結ぶことになり、お義母さまは上機嫌で「よくやったわ子ザルたち!」とのお褒めの言葉をいただいた。
私たちは不問となり、ジークは異動のために慌ただしく王城へ戻っていった。


 それから少しして、私は近衛騎士の制服を着て手に花束を抱えたジークからプロポーズされるのだが、それはまた次の時に。

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