逃亡聖女はアンデッド従者たちと平穏な生活を望んでいます

時乃純之助

文字の大きさ
13 / 13

12 聖女を学ぶ、1

しおりを挟む
 日差しの穏やかな午後のことです。

「では、授業をはじめます」

 突然、カールが宣言しました。

 小屋から少し離れた木陰に教卓と机がひとつずつ並び、教卓にはカールが、机にはアリアロスが座っています。

「あの、カールさん?」

「今は『先生』と呼んでください」

「せ、先生……突然どうしたのですか?」

 カールに付いてきてほしいと言われ後を追いかけたら着席させられ、先ほどの宣言です。唐突すぎて訳が分かりません。

「ですから、授業ですよ授業。アリアロス様には聖女について学んでいただきます」

「聖女について……カールさん、教会の方だったのですか!?」

「いえ、わたくしは城勤めです。本を読んだり話を聞いたりで多少知識がある程度です」

 カールは教卓を離れウロウロと歩きだしました。

「本来なら教会できちんとした知識を学び、前任の聖女から力の指導を受けるのが慣例ですが……貴女はそうもいきませんからね」

 改めて自分が異端で逃亡中である事実をアリアロスは噛み締めます。

「なので、不肖このカールめが教師役をやらせてもらいます」

「……分かりました。よろしくお願いします、先生!」

 礼をするアリアロスにカールは満足そうに頷きました。

「でははじめていきましょう。まずは歴史から……そもそも聖女はいつ、どのように現れたのか分かりますか?」

「確か……大昔の戦争でたくさんの人が亡くなって、その人たちがアンデッドになって人を襲いはじめて、教会でお祈りをしていた5人の少女に女神さまが力を授けて聖女になった……ですよね?」

「一般的に習う歴史では正解です」

「一般的?」

「はい。学校で習うと色々と省略されますから……ひとつずつやっていきましょう。そもそも、『大昔の戦争』とはどことどこの戦争だと思いますか?」

 アリアロスはカールに言われて大事な部分が省略されていることに気づきました。

「考えもしなかったです……」

「省略されていても大筋は伝わりますし殆どの場合問題はありません。しかし、その部分を知っているのと知らないのとでは天地ほどの差が生まれます。なので、しっかりと学んでください」

「はい、先生!」

「では続きを……この戦争は現在も大陸に存在する我がマイメエントを含めた5つの国で起こった全面戦争のことです」

「ガエクムン意外とも戦争をしていたのですか!?」

「土地や資源の奪い合い、人間同士のいざこざ……今でそこ全ての国が和平条約を結んでいますが、当時は随分と殺伐としていたようです」

 カールは一度言葉を止め、アリアロスを正面から見つめます。

「さて、アリアロス様はアンデッドが発生する原因はご存知ですか?」

「えっと……死者に強い心残りや恨みなどがあるとアンデッドになってしまうと習いました。だから死者がアンデッドになってしまわないよう、丁寧に埋葬する必要があるとも」

「その通りです。アンデッドがなぜ発生するのか、そのハッキリとした原因はいまだに分っていませんがそれが主流の考えです」

 うんうんと納得したように頷き、カールは再びウロウロしはじめました。

「当時は大戦真っ只中。死んだ兵士の遺体が大量に野晒しにされても弔う余裕などなかったはずです。結果、大量の遺体はアンデッドへと変貌して人を襲いはじめたのです。そのほとんどはアンデッド化が早かったためか我々骨だけとは違い肉体を持っていたそうです」

 死んだ人間が動き出し襲い掛かってくる様子を想像してアリアロスは背筋を振るわせました。

「記録によれば日に日に増え続けるアンデッドへの対応でどこの国も戦争どころではなくなってしまい終戦となったそうです。当時アンデッドへの対応は教会で精製された聖水を使っていたそうですが数が多すぎてすぐに枯渇。仕方ないので大きな穴を掘ってそこに落としたり動けないようにバラバラにするなどしていたそうです」

「大変だったのですね……」

「それもほんの一時の時間稼ぎにしかならなかったそうですが……ちなみに、アンデッド1体につき最低3名での対応が望ましいと言われています。もっとも、当時それだけの人員配置ができていたかどうか……話がずれましたね」

 カールは一度咳払いをします。

「ともかく、アンデッドにより人々は追い詰められていきました。逃げ延びることができた者たちは高い外壁のある王都に立てこもり、群がるアンデッドに怯える日々を過ごしていたのです……しかし!!」

 カールは両手で教卓を力強く叩きました。

「ある時、教会で祈りを捧げる5人の少女の元に女神が降臨されたのです! 女神は風、水、火、土、光の5つの属性の力を授けました。少女たちは聖女となり、アンデッドたちを浄化し世界は平和になったのでした……」

「……そのとき闇の属性はなかったのですよね?」

「はい。これは教会の公式の記録を確認したので間違いありません。闇の属性が新たに現れたのは、初代聖女たちの活躍から約50年後……今から約100年前のことです」

 カールはどこか遠くを見るように顔をあげました。

「……100年前、わたくしたちが生きていた時代。戦争を控えていましたが世界は比較的平穏でした。アンデッドによる被害も減少傾向でした。そんな中新たな聖女の誕生にどのような意味があるのか、様々な憶測や議論はあったと思いますが……残念ながら、わたくしはそれを知ることなく戦死しました」

 骨だけとなった顔が、少しだけ寂しそうに笑っているようにアリアロスには見えました。

「……さて、座学はこれくらいにしておきましょう。そろそろいい時間です、お昼にしましょう」


しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

真咲
2020.09.07 真咲

最新話まで読みましたので感想を。
童話調の文章で話が進んでいくので、スラスラ読めて楽しかったです(*´ー`*)
アリアロス!頑張れ!
今後の展開が楽しみですね…!

2020.09.07 時乃純之助

ありがとうございます。
がんばります!

解除

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。 この度改編した(ストーリーは変わらず)をなろうさんに投稿しました。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。