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第1話 まさか見知らぬ男の人と
1-(3) え? キス?
テントに二人きりになると、魔法使いコスの男の人がテーブルの上の鈴をチリンと鳴らした。すると、簡素な鎧を身に着けた男が二人入ってくる。
「お呼びですか、大魔導士様」
おおー、魔法使いコスの人は『大魔導士』サマ役なのか。
「お茶と蜂蜜を二人分用意してください」
「え、二人分ですか?」
「聞こえなかったのですか。二人分です」
大魔導士サマがぎろりと男達を睨んだ。
「は! かしこまりました!」
鎧の男二人がビシッと音を立てて踵を揃える。それが敬礼みたいだ。
彼ら二人はそのシンプルな出で立ちからすると、一般兵士AとBといったところかな。
うーん、このお遊びにいったい何人参加しているんだろ?
二人はテントを出たり入ったりしてあっという間にお茶の準備を済ませてしまった。すっごく手際がいい。臨時で雇われたアルバイトとかではなく、もともとこのお金持ちらしきイケメンのところで働いている使用人さんとかだろうか?
「ご苦労様」
大魔導士サマがにこやかに言うと、二人はビシッとまた踵を鳴らしてから出て行こうとする。
出入り口で、兵士Bが僕を振り返って、ちらりと視線を寄越した。それはすごく汚いものを見るような目つきで、僕にはとてもなじみのある視線だった。あ、やっぱり、外国人の目にも僕はブサイクに見えているんだ。
僕は自分の体を見下ろした。頭からズポッと被るような貫頭衣を着せられている。貫頭衣は太ももまでの長さで、寒くはないけど少し足がスース―する。
川で濡れた学校の制服はどこにあるんだろう?
とりあえず、この粗末な格好からすると、僕の役柄は『村人A』とかかな?
「リュカ、飲みなさい」
大魔導士サマは紅茶に蜂蜜をたっぷり入れて、陶器のカップを僕に手渡してくれる。
「あ、ありがとうございます」
村人Aなんかが大魔導士サマのベッドに座っていていいんだろうかと思いつつ、カップを受け取る。紅茶は甘くてとてもおいしく、あまり熱くなかったから、一気に飲み干してしまった。
「お代わり、淹れますか?」
「あ、い、いえ、大丈夫です」
僕の手から空のカップを取ってテーブルに置くと、大魔導士サマは僕の隣にすとんと座った。
え、ちょ、近い近い。さっきの赤髪の人より近い……!
なんか、無駄にイケメンな顔が近くにあって、ドキドキしてしまう。
「本当に良かった……リュカ。あなたが意識を回復するまで、生きた心地がしませんでした」
と、大魔導士サマはすごく自然な動作で抱きしめてくる。
うひゃ、待って待って、うそでしょ。
びっくりしすぎて、固まってしまう。
ブサイクな僕のことは、親でさえも抱きしめたりしないのに。
「リュカ……」
大魔導士サマの体は僕よりずっと大きくて温かくて、ラベンダーみたいないい匂いがした。
あまりのことに反応できず硬直していると、大魔導士サマが長いまつげを伏せて顔を寄せ、僕の唇に優しく唇を重ねてきた。
え? なに?
ええ? 今のキス? キスなの?
ええええええ?????
びっくりしすぎて、脳がスパークしたみたいに思考が追いつかない。
く、くちびる……やわらかい……。
「どうしました? 私に触られるのは嫌ですか?」
僕は慌ててぶんぶんと首を振った。
嫌なわけない。嫌なわけない。むしろおこがましすぎる。こんなにきれいでかっこいい人が、こんな僕に触ってくれるなんて、ありえなさ過ぎて、くらくらしてくる。
「あ、あの……う、う、うれしい……」
大魔導士サマは軽く目を開くと、くすっと笑って僕の肩に手を回し、もう一度キスをした。
顔が熱くなって、体がふわーっと浮きそうだった。
ああ、僕のファーストキス、男の人に捧げてしまった……。
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よろしくおねがいします。