7 / 121
第1話 まさか見知らぬ男の人と
1-(6) い、異世界……
眩しさとともに、広大な光景が目に飛び込んできた。
息が止まった。
叫び声も出なかった。
目を見開き、両手で口を押える。
そこは、どこからどう見ても、日本では無かった。
エディのテントは少し高台になっている場所にあった。だから僕はそれの全体を見渡せた。開けた草原に数えきれないほどのテントが立ち並び、その間を数えきれないほどの兵士が動いている。多分、何万人という規模だ。
ごっこ遊びなんかではなく、一目でこれは本物の軍なんだと分かった。
平原の向こうに森があり、そのずっと向こうに西洋風の城というか、砦のようなものが二つ見えた。僕には詳しい知識が無いから、どの時代のものかは分からない。
これって、中世ヨーロッパ?
いわゆるタイムスリップってやつなの?
いや、待て待て待てよ、違うだろ。
地球のどの時代にも『魔法』なんてものは存在しない。
ということは……
「異世界……?」
口に出してしまうと、それは事実としてすとんと胸の内に落ちてきた。
「異世界、かぁ……」
つまり、ここは剣と魔法の世界。
勇者も魔導士もいて当たり前の、遥かなる遠い世界……。
僕だって、アニメも見るし、ゲームもする。
人並みに異世界への憧れもある。
でも。
憧れの異世界に来て一番最初にあったことが、魔法を使ったりドラゴンに遭遇したりとかいうファンタジーな出来事じゃなくて、会ったばかりの男の人との夜のアレコレだなんて……。
ううう、僕っていったい……。
「はは……」
乾いた笑いが喉からもれた。
何だか力が抜けて、その場にぺたりと座り込んでうなだれる。ふと、目に入ってくる自分の手足に違和感を覚えた。なんだか、やけに白っぽい肌だ。しかも、顔の横に落ちてくる髪の毛が日に照らされてキラキラしている……。
「え……?」
おかしい。僕の髪は右側だけ剃り上げられて、悲しくもオモシロい感じになっているはずなのに。
ゴクリとつばを飲み込む。
自分の白い手を掲げてまじまじと見る。細くて長くて形のいい指は、短くて不格好な僕のものとはまったく違っていた。
「うそ……でしょ……」
テントの中は薄暗くて気付かなかった……。というか、自分の体が自分のものじゃないなんて、普通は考えもしないし。
僕はキョロキョロとあたりを見回した。
鏡、鏡を見たい。
その時、急にどんと何かがぶつかって来た。
「邪魔だ! 朝っぱらから、いかがわしいカッコでうろついてるんじゃねぇ」
嘲りのこもった声に振り向くと、樽を抱えた男が、汚物を見るような目で僕を見下ろしていた。昨日、俺が着ていたような貫頭衣にくたびれた長ズボンを履いている。鎧を脱いだ兵士だろうか。
「愛玩奴隷は愛玩奴隷らしく、日が出ている内は引っ込んでろ!」
あいがんどれい?
どれい?
聞き返そうかと思ったが、男はざっと足で地面を蹴って僕に砂をかけ、ふんと鼻を鳴らして行ってしまった。
「よーう、かわいこちゃん。ご主人様に追い出されたのかぁ?」
それを近くで見ていたらしい兵隊達が叫び、笑い声をあげた。
「なんなら代わりに俺が飼ってやろうか?」
「毎晩、ひぃひぃ泣かせてやるぜぇ」
蔑まれたり、罵られたりするのは、慣れているんだけど……。
僕に寄せられる彼らの視線がねっとりとしていて、ゾゾッと寒気がした。
「リュカ!」
靴を履いたエディが後ろから走ってくる。
その姿が神々しく見えて、僕はすがりつくようにエディに飛びついた。
「エディ! エディ、僕は……」
エディの指先が僕の唇に触れた。
「ダメですよ、リュカ。人のいるところでは大魔導士様と呼びなさい」
一瞬、くらっと眩暈がした。
「それは……僕がその……ど、奴隷だから……?」
「ええ、人前では身分をわきまえないと」
エディはそれが常識だという様にうなずいた。
ひゅう、と喉が鳴った。
それは、ここが異世界だと分かったことよりも、ずっと怖い事実を知った瞬間だった。
「……僕が、奴隷…………?」
なんてこった。『村人A』ですらなかった。
奴隷っていったら、奴隷っていったら、つまり身分制度の最下層ってことじゃんか。
ごくっとつばを飲む。
奴隷って……なんだか、ひじょーにヤバイんじゃないの?
日本みたいに基本的人権なんて存在していないよね……?
「どうしたんです。そんな蒼い顔をして……。リュカ、昨日からおかしいですよね。何かあったんですか?」
エディは……この世界の大魔導士様は、奴隷の僕にも優しい声で尋ねてくれる。
周囲にいる兵隊はみんな怖くて、エディだけが命綱のような気がして、僕は必死にしがみついた。
「僕……分からない……」
「え」
「大魔導士様、どうしよう……。僕、自分のことも、この世界のことも、何もかもが分からないんです………」
エディはひょいっと僕を抱き上げ、周囲の兵士をじろりと睨んだ。
まるで殺虫剤をかけられたコキブリみたいに、兵士達がさささーと散っていく。
「とにかくテントに戻りましょう。リュカのきれいな体を、あんな下品な目にさらしておきたくはないですから」
いえ僕はひどくブサイクですけど……と言いかけて気付く。
ああ、そうか、今の僕はブサイクじゃないのかもしれない。なんか、手足はきれいな形だし、髪もキラキラしているし。もしかして、今の僕は、ちょっとくらいはきれいなのかな……?
エディの腕に抱かれて移動しながら、僕はそんなことを夢想していた。
とりあえず、確かなことは、僕の体はすごく細くて華奢だということだ。それほど大柄には見えないエディにも、軽々と抱かれているのだから。
・
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!
モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。
その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。
魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。
その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?!
ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
魔王に転生したら、イケメンたちから溺愛されてます
トモモト ヨシユキ
BL
気がつくと、なぜか、魔王になっていた俺。
魔王の手下たちと、俺の本体に入っている魔王を取り戻すべく旅立つが・・
なんで、俺の体に入った魔王様が、俺の幼馴染みの勇者とできちゃってるの⁉️
エブリスタにも、掲載しています。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。