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第2話 まさか癒しの大魔導士さまと
2-(2) つまり愛玩奴隷とは
「じゃぁ、俺はリュカに嫌われたわけじゃねぇんだな?」
勇者の大きな声で、びくっと我に返った。
ライオンみたいにふさふさの赤い髪が、凛々しい顔を飾っている。
こんなかっこよくて堂々とした人を、底辺の僕が嫌う?
そんなおこがましいこと、あるわけがない。
「……あの、あの僕、びっくりしただけです……」
勇者はホッとしたように笑って、僕の方に手を伸ばした。
「嫌じゃないならこっちに来い、リュカ」
僕は少し途惑ってちらりとエディを見た。
エディが微笑んでうなずいたので、僕はおずおずと勇者の前に立った。大きな手が僕の腰をぐいとつかんで引き寄せる。抱き上げられて、膝に乗せられた。
ひええええ、この年でお膝抱っこですかぁ?
「もーう、なんだよ、リュカぁー、俺は傷付いたんだからなぁー、嫌われていなくて良かったぁー」
甘えた声を出して、たくましい腕が後ろからギューッと抱きしめてくる。
フギャーと猫みたいに悲鳴をあげたくなったが、なんとかこらえて僕は目を白黒させて固まっていた。
「リュカ、腹減ってねぇか? 紅茶飲むか? 蜂蜜たっぷり入れるの好きだろ?」
勇者は自分の紅茶のカップに蜂蜜を注いで、膝の上の僕の手に握らせた。
「う、うん……お腹空いた……」
「リュカ」
エディが何か言いかけるように僕に手を伸ばした。
勇者がその手を制して、首を振る。
「気にしなくていい。リュカは今、記憶が無いんだろ? 俺達と一緒にいる時くらいは、言葉遣いなんてどうでもいいって」
しまった……!
奴隷には奴隷の話し方があるのか。
僕、エディにもタメ口で話しちゃったりした気がするけど、気を付けなくちゃ……。
「あの……お腹、空いています。ありがとうございます」
言い直すと、勇者は僕の頭をよしよしと撫でて、エディに向き直った。
「エドゥアール、俺も腹減った」
「はい、分かりました。お三方もこちらで朝食にしますか?」
「うむ」
「ああ、もらおう」
エディがテーブルの上の鈴を鳴らす。
昨夜の兵士AとB、それからもう一人、兵士ではなさそうな年嵩の男が入ってくる。
Bの奴は昨日と同じで、僕を見るとあからさまに嫌悪の表情を見せた。
奴隷の分際で、勇者様にお膝抱っこされているんだもんなぁ僕……。
なんか、B君の気持ちがよく分かる。朝っぱらから裸同然のカッコで頭なでなでされている美少年なんて、何て言うか、超いかがわしい……。
ああ、まさか僕が、そんな視線にさらされる日が来るとは夢にも思わなかったよ。
エディが朝食を四人分頼むと、昨夜と同じようにテキパキと準備が始められていく。
この世界は中世ヨーロッパっぽいけど、文明がどこまで進んでいるのか分からない。でも、フォークやナイフが並べられているから、手づかみ文化ではないのだけは確かだ。
まぁ、トイレは魔法の力ですごく清潔だったし、地球とは根本的に違うんだろうけど。
文化と言えば、何で僕はここの言葉が分かるんだろう? 異世界で、しかもヨーロッパ風のこの国で、言語が日本語なんておかしすぎる。
ここは僕の見ている夢の中の世界……? いやいや夢の中なら配役がおかしいし。僕の夢なら僕が勇者になっているはず。何で最底辺の奴隷なんだよー。
うーん、夢じゃないなら、僕がリュカの脳を使っているおかげで、みんなの言っていることが理解できるってことなのかな。僕も日本語を話しているつもりで、リュカの世界の言葉を話している……?
「リュカ、ほら、お口あーんして」
勇者がスプーンにスープをすくって、ふーふーと冷ましてから飲ませようとする。
僕がちらっとエディを見ると、エディはまた微笑んでうなずいた。
うう、素直に飲めって言うことか。
僕は恥ずかしさを我慢して、あーんと口を開けた。
朝食は硬いパンと、鶏肉みたいなものが入った塩気の強いスープ、それとピクルスみたいな野菜の酢漬けが出た。野営地だから簡素な食事なのかもしれないけど、この世界の料理に関しての文化は、それほど発達していないみたいだ。
テーブルの上に奴隷である僕の分は用意されていなかったけど、勇者がペットに餌付けするみたいにどんどん食べさせようとするから、お腹は充分満たされた。
昨日は派手な髪で声の大きい勇者が少し怖かったけど、今はお兄ちゃんみたいな感じがしてあまり怖くなくなっていた。食べ物につられるなんて、僕も単純だと思う。
「リュカ、かわいいなぁ。ここにパンがついてるぞ」
と、勇者が僕の口の端を舐めた。
ひょえ! と飛び上がりそうになる。
ぜ、前言撤回、やっぱり怖いっ。
「はは、そうやっておどおどしている顔も、新鮮でかわいいなぁ。今夜は俺んところへ来い、な、リュカ」
「レアンドル、何度も言わせるな、次は俺だ」
勇者が囁くのを聞きつけて、短髪の大男がじろりとこちらを睨む。
ううっ、この人、目つきが怖いよ。
パッと見はさわやかスポーツマンみたいなタイプのイケメンなのに、人を殺しそうな目のせいで怖さ倍増だ。
僕はどうしたらいいか分からなくて、ちらりとエディを見た。
エディがまた微笑んでうなずく。
「お二人とも、リュカを召し出すのは二、三日待っていただけませんか。リュカは記憶がまったく無いんです。病み上がりのようなものですし、体調を見ながら、私が最低限の常識を教えますから」
「またそんなこと言って。エドゥアールばかりリュカをかまっていないか? まさかお前……」
「いえいえまさか。天下の御三方を差し置いてリュカを独占するなんて、そんな恐ろしいことは考えていませんよ」
「分かっているならいいけどさ」
勇者が口を尖らせる。
それまで静かにお茶を飲んでいた王子様が、コト、とカップを置いた。
「ふと気付いたのだが、記憶が無いということは、王宮での調教の記憶も消えたのか」
ちょうきょう!? 上品な口元からすごい言葉が出てきて、僕は目をむいた。
「ええ、そのようです。今のリュカは初心でかわいいですよ」
エディが平然と微笑む。
僕はカーッと頬が熱くなるのを感じた。
昨夜の記憶が体の奥に蘇る。
「ん? その言い方だとまるでそなた……」
「んな! まさか、貴様!」
「昨日休ませると言っておきながら!」
王子の呟きに、勇者と短髪の男が気色ばむ。
エディは楽しそうに目を細めた。
「ふふふ」
「ふふふじゃねぇ!」
勇者が片腕で僕をぎゅっと抱いて、もう片手でエディを指差す。
「エドゥアール、お前というやつは!」
「レアンドル、静かにせよ」
「静かにしていられるか! ってことはあれだろ? リュカの処女いただきましたってことだろ?」
「処女の訳があるか。愛玩奴隷だぞ。何人の男を咥えてきたと思っている」
「でも、気持ち的には処女だろうがぁ! リュカぁ、後でたっぷり上書きしてやるからなぁ、楽しみにしてろよぉ」
んな! な! な!
僕は頭からピューッと湯気が出そうな気分だった。
勇者が両腕で抱きすくめてくるから、恥ずかしいのに逃げ場がない。
なんてこった。うそでしょ神様。
今まで何で気付かなかったんだ、僕は!
愛玩奴隷って、『愛玩』って、つまりは性奴隷ってことじゃないか!
ああ、やっと分かった。だからリュカはブサイクになりたかったんだ……。
「勇者殿、まずは剣士殿の番ですよ。二、三日したら、剣士殿のテントへリュカを向かわせます。その次には必ず勇者殿のもとへやりますから。それでよろしいですか、ジュリアン様」
王子様は銀髪をさらりと揺らしてうなずいた。
「うむ、私はレアンドルの後でかまわぬ」
え? え?
ちょっとこれ、僕、ここにいる全員と夜のお相手をすることになっていない……?
え、そんな澄ました顔でさらっと言うこと?
レストランの予約をするみたいに、あっさり決めること?
僕は現実を受け止めきれずに、ぽーっとその光景を眺めていた。
・
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