異世界で美少年奴隷になっちゃった?!

緋川真望

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第2話 まさか癒しの大魔導士さまと

2-(6) 戦争が起きます


 汚してしまったシーツの上にぐったりと横たわる。
 息が上がってしまって、じんじんと体が痺れていて、動けなかった。

 エディは自分のものを布で拭いて、すぐに服の中に隠した。魔導士のローブ姿でベッドに腰かけ、僕の髪を撫でてくれる。

「エディは……裸にならないんですね……」

 昨日も今日も、着衣のままで僕を抱いていた。

「ええ。胸にひどい傷跡があるので、誰にも見せたくないのです」
「え、ご、ごめんなさい、僕……」
「いいのですよ。リュカが私に興味を持ってくれるのは、とても嬉しいことです。でも」

 エディは僕の目をじっと覗き込んだ。

「私以外の御三方に対しては言葉に気を付けた方がいいですね。機嫌を損ねると……」
「こ、殺されるんですか?」
「はは、まさか。みんなリュカにぞっこんですからね。殺すというより、いじめちゃうでしょうね」
「いじめるって、拷問ですか?」
「いえいえ、そんな……。うーん、ふふふ。分かりやすく言うと、リュカが逃げ出したくなるくらいに繰り返し繰り返しセックスするってことですね。気絶するまで、いえ、気絶してもやめてくれない方もいるかも?」
「え………」

 僕は蒼ざめて、楽しそうに微笑んでいるエディを見上げた。

「……気を付けます」
「はい、気を付けてくださいね」

 エディがまた髪を撫でてくる。リュカの髪はふわふわしていて柔らかいから、触り心地がいいんだろう。

 僕が陽介だった頃に、頭を撫でられた記憶はほぼ無い。幼い頃はきっとあったはずなんだけど、弟の雄介が撫でられている光景しか思い出せない。

「リュカ、私のテントにいる内に教えて欲しいことや、して欲しいことがありますか」
「えっと……」

 この世界の常識はまだまだ知らないことばかりで、教えてもらわなくちゃならないことは、きっと山のようにある。この国のこととか、愛玩奴隷を含めた身分制度のこととか、もちろん日常の生活習慣のこととかも……。

 けれど、僕は……。

「キス」
「え」
「キス、して欲しい……」

 エディがパチパチと瞬きした。

 ううう、言ってしまった……。

 恥ずかしすぎて顔を隠す。
 まぁ、大事なところは丸見えなんですけど。

「キス、気に入ったんですか?」
「はい……昨日みたいに、いっぱいして欲しいです……」

 指の隙間から声を出すと、エディがクスリと笑った。

「おいで、リュカ」

 抱き上げられて、顎に手を置かれる。
 くいっと、少しだけ僕の口を開かせて、エディの唇が重ねられる。

 ああ、やわらかい……舌が熱い……吸われると気持ちいい……。

「エディ……」
「リュカ、かわいいですね」

 何度も何度もキスされると、まるで愛されているみたいで幸せな気分になる。
 僕はくたっと力を抜いて、エディに寄り掛かった。
 いい匂いがして、温かくて、すごく優しい男の人だ。

「あの、エディ」
「なんですか」
「僕……このままずっと、エディのそばにいてはだめなんですか」

 エディはぎゅっと僕の体を抱きしめた。

「リュカは私のそばにいたいんですか」
「はい」
「どうして?」
「だって、エディは優しいから…………僕、ほかの人のところへ行くのが怖い……」

 エディはさらに強く僕を抱きしめた。

「そんなことを言われたら、リュカを連れて逃げ出したくなりますね……」

 切なげな声で、エディが囁く。

「あの、逃げるって、どうして……?」

 ずっとこのテントにいるっていうわけには、いかないのかな。

 エディは呼吸を整えるようにしばらく何も言わず、優しく背中を撫でてくれた。

「リュカ、その気持ちはおそらく刷り込みによるものです」
「すりこみ……雛鳥ひなどりが初めて見たものを親と認識するっていう、あれですか?」
「おや、そういう知識はあるんですね」

 あ、やばっ。
 奴隷って、そういうことを知らないものなの?

「あ……は、はい……なんとなく頭に浮かびました」
「そうですか……。リュカは川で溺れて記憶をなくし、心細い時に私のテントで共に過ごしました。最初に優しくした私に、好意を持つのは自然なことです。でも……」

 エディは少し遠い目をした。

「記憶をなくす前のリュカは、私ではなくジュリアン様に一番懐いていたんですよ」

 え、ジュリアンってあの王子?
 サラサラ銀髪の男の人?
 意外な名前が出てびっくりする。

「あの、王子様ですか」
「ええ、今日四人でお茶を飲んだ時、勇者殿があなたを抱っこしていましたけど、今までのリュカなら必ずジュリアン王子の膝に乗っていました」
「そ、それって不敬とかって怒られないんですか」
「ええ。ジュリアン様本人が許していましたから……」

 じゃぁ、美少年リュカは王子様に恋をしていたのかな?
 一時的にこの体に入っている僕が、王子ではなくエディにべったりしていると、元に戻った時に困るかも知れない。

 僕は元の世界でひどいいじめを受けていて、誰かと触れ合うのは殴られるか蹴られるかする時だけという、みじめな思いをしてきた。
 でも、この世界に来て、奴隷とはいえ美少年リュカのこの体で、エディという優しい人にいっぱい触ってもらった。

 信じられないくらいの幸せをもらったと思っている。
 リュカにはいくら感謝しても足りないくらいだ。
 だから、僕はリュカの恋の邪魔をしてはいけない。
 少なくとも、王子様には嫌われないようにしておかないと……。

 そんなことを考えていたら、エディが僕にキスをしてきた。
 それは僕を気持ちよくさせるための技巧的なキスではなくて、まるで感情をぶつけてくるような、貪るようなキスだった。

「んんっ…………エディ……?」
「私は……リュカをとても、とても愛おしく思っています……」

 エディの瞳は少し潤んでいるように見えた。

「リュカを一目見た時から、私の魂はリュカのものです。そばにいたいなどとかわいいことを言われると、本気でリュカを連れて逃げ出したくなります……!」

 僕をぎゅうっと抱きしめるエディの体が震えている。
 僕はなぜか、胸の中がきゅんっと痛くなった。
 こんなに愛されている『美少年リュカ』が羨ましい……。

「でも」

 でも?

 エディは抱きしめていた腕を離すと、急に真面目な顔になって僕を見た。

「もしも私がリュカを連れて逃げたら、確実に戦争が起きます」

 ん……………?
 戦争? 戦争って、あの戦争のこと?

「戦争っていうのは、あの、大げさなんじゃ……? 喧嘩するくらいですよね?」
「我々が喧嘩をすると、国全体を、もしかしたら世界を巻き込みますからね」
「ええ?」
「勇者、剣士、そして私の三人は、たった一人で数万人の兵士よりはるかに戦力が高いのです。そしてあの王子は、もちろん王族ですから数万人以上の兵士を動かす権力を持っています」

 わー、この世界の戦力バランス、絶対おかしい。

「リュカを取り戻すためなら、彼らは何でもしますよ」
「えっと、でも、……たかが奴隷のために?」

 エディは少し冷たい目をして、ため息を吐いた。

「リュカはいったいどんな手を使ったんでしょうね。趣味嗜好の違う四人全員を、これほど虜にしてしまうなんて」

 虜にするって、なんかすごい淫靡いんびな響きだ。
 リュカって……もしかして、きれいなだけじゃなくて、魔性だったの?

「戦争を起こしてリュカのすべてが手に入るなら、私はとっくにそうしています」

 こういう話、陽介のいた世界でも映画とかで見たことがある気がする。
 ギリシャ神話だっけ? 三国志だっけ? 一人の女のために戦争起こしちゃうっていう話……でもそれって、物語の中だけでしょう?

「でも、戦争を起こしてもリュカが手に入るかは分からない……。しかもリュカに怖い思いをさせてしまうでしょう? だから、リュカは誰か一人のものになってはいけないんです。今はまだ……」

 エディが僕の右手を取った。祈るように目を閉じて、指先にキスしてくる。

「だから、私がいつもリュカを想っている証にこれを……」

 エディの長い指先が何かを描くように、僕の手首をなぞる。

「エディ、くすぐったいです……」
「少し、じっとしていてください。おまじないをかけますから」

 僕の右手首に、筆で書いたようなきれいな模様が浮かび上がる。それは華奢なブレスレットのように手首を一周して、一瞬だけぽうっと光ると消えてしまった。

「はい、できあがりです」
「今のは、何ですか?」
しらせの術というお守りみたいなものです。リュカが本気で恐怖を感じたり、体を傷付けられたりしたら、私に分かるようになっています。本当に怖いことがあったら、私が必ず助けに行きますから」

 僕は自分の右手首を左手でぎゅっと握った。
 じんわりと胸の中が熱くなる気がする。

「ありがとうございます。エディ」

 僕はエディのきれいな顔に顔を近づけ、その唇に唇をぎゅっと押し付けた。
 へたくそだけど、僕の精一杯の感謝のキスだった。

 口を離すと、エディは大きく目を開いて僕を見ていた。
 数秒間、固まったように僕を見て、それからやっとニコッと笑った。

「かわいいことを……」

 と小さく言って、今度はエディからキスをしてくれた。

 柔らかな唇の感触、ぬめる舌の感触、熱く漏れ出す吐息……。
 また、体が熱くなってくる。
 僕は無意識にエディに腰を擦り付けていた。

「いやらしいですね、リュカ」
「あ……ごめんなさ……」
「一度では足りなかったのですか」
「あ、あの……僕……」

 恥ずかしくて目を伏せると、エディはそのまぶたにキスをしてきた。

「私は足りませんでしたよ。今度はいっぱいキスしながらしましょうね……」
「はい……うれしいです……あっ……ああっ」

 敏感なところにエディの指が触れてきて、僕の体は喜びに震え始めた。






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