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第2話 まさか癒しの大魔導士さまと
2-(7) 「魔導士の思惑」
私はエドゥアール・シルヴェストル、『癒しの大魔導士』と呼ばれている。
特に癒しの魔法を得意としているわけではない。現在の国内に私以上の使い手がいないだけで、今は亡き師匠なら私の数十倍もうまく癒しの魔法を使いこなせていた。
本来の私が最も得意とするのは炎の魔法で、その気になれば紅茶を一杯淹れる間に、王都を焼き尽くすことも可能だ。
ただ、勇者一行に加わるようにと私に王命が下った時、すでに勇者が『紅蓮の勇者』と名乗っており、『炎の大魔導士』ではイメージが被ると言われたため、不本意ながら『癒しの大魔導士』と呼ばれることになった。
『やっぱ、それぞれにキャラ立ちしてないとさ、戦隊ものみたいに!』
出自が平民のためか、勇者は砕けた口調で時々よく分からないことを言う。
まあ、私の生家も、貴族と呼ぶのも恥ずかしいほどの片田舎の男爵家なのだが……。
シルヴェストルの領地には、数十種類の魔物がいるおかげで手付かずになっている広い森と湖がある。誰にも邪魔されずに魔導の研究をしたい時には、よくその湖のほとりにテントを立てて、数か月間こもったものだった。
比較的穏やかな気候の領地で、森から離れれば魔物はほぼ出没しないこともあって民は平和に暮らしており、私は自分の領地を愛していた。
五男なので家を継ぐ必要もなく、王都でこのまま暮らしてもいいのだが、私はいずれ愛する領地へ戻り、魔導の研究をして静かに暮らしたいと願っている。
この戦争が終わったら、一生研究に没頭できるだけの報奨金がもらえる。領地の森の奥へ研究所を兼ねた屋敷を建てて、リュカと二人きりで暮らすつもりだ。
「大魔導士様……」
食後のお茶を飲みながら魔導書を読んでいると、トイレに行っていたはずのリュカがもじもじしながら戻って来た。
「どうしました? また何か、分からないことでも?」
「あの、いえ、そうじゃなくて」
「リュカ? 顔が赤いですね。熱でもあるんでしょうか」
「えっと、ちがくて、僕、自分で」
「自分で?」
「自分で、ほぐしてみました……」
「……はい?」
その細い手を見ると、どうやら脱いだ下着を握り込んでいるようだった。奴隷は自分で洗浄薬を入れてほぐしておくのだと教えたことを、律義に実践したらしい。
「こっちにおいで」
リュカはおずおずと近寄って来た。
「この下は、何も身に着けていないのですか」
「は、はい……」
私は、奴隷用の粗末なチュニックの端を、ぺらりと指先でめくる。
ぴくっと、リュカの体が小さく跳ねる。
「ふふ、かわいいですね。半分起き上がっている……」
「うう……」
「私に触って欲しいんですか」
リュカは真っ赤になって、こくりとうなずいた。
そんな仕草を見るだけで、ずくり、と体の中心が熱くなる。
この子は記憶を失って、一昨日が初めての経験だったはずなのに、もうおねだりの仕方を覚えてしまった。
「では、愛玩奴隷なのですから、言葉に出して誘ってごらんなさい」
「あぅ」
言葉に詰まったかのように口元を押さえるリュカ。
「え? なんて? 聞こえませんよ」
ちょっと意地悪に促してみる。
「う……大魔導士様……ぼ、僕を、触ってください……」
「大魔導士様? 二人きりの時は何と呼ぶんでしたっけ?」
「あ……! エディ……。エディ、お、お願いです……」
上目づかいで囁き、指先で私のローブをきゅっとつまむ。
幼さと、妖艶さの混じった仕草に、くらりと眩暈がする。
「よくできましたね。いい子です」
リュカをひょいと抱き上げて、ベッドへ横たえる。
記憶を失っただけなのに、体重までも軽くなった気がする。
おそらく、小さな子供のような表情がそう錯覚させるのだろう。
期待に少し開いている唇に、深いキスをする。
不器用に吸い返してくるのも愛しい。
チュニックをまくり上げて胸の突起を舌で転がす。
敏感に白い体が跳ねる。
熱を含んだか細い声が漏れる。
「リュカ、かわいい。ほんとうにかわいいです」
駆け引きも無く、矜持も無く、ただ与えられる刺激を素直に受け入れる姿は、あの誇り高い『リュカ』のものとは思えなかった。
「リュカ、私にどうして欲しいか言ってみてください」
「あ…………いっぱい、キスして、ほし……んあっ、あんっ」
「それから?」
「キスしながら……入れて……ゆっくり、動かして………」
「ゆっくりでいいんですか?」
「あ……だって……すぐイっちゃうの、やだ……」
昨夜、リュカが自分からキスしてきたというだけで、天地がひっくり返るようなショックを私が受けたことを、この子は知らない。
そして今、リュカが自分から私を欲しがったというだけで、心臓が止まりそうなほど驚愕していることも、この子は気付いていない。
どこまでも凛とした佇まいを崩さないリュカ。
奴隷に落ちても誇りを失わないリュカ。
冷たい孤高の魂を持つリュカ。
あの子は、いったいどこへ行ってしまったのか……。
同じ顔で、声で、体で……いたいけな子供のように甘えてくるリュカは、私が中へ入ってくるのを喜んで受け入れている。
「あ、ああっ……」
「気持ちいいですか」
「きもち、よくて……うれ、し……」
素直すぎるほどに、快感を隠さないリュカ。
―― ああ、本当に、この子が記憶を失ってくれて良かった ――
そんなことを思うなんて、私は悪い大人かも知れない。
「ゆっくり、揺らしますよ」
「は、はい……んっ、んっ、あっ……」
腰を動かしながら、唇を吸う。
リュカが幼子のように、夢中でしがみついてくる。
ぞくぞくと愉悦が這い上る。
冷たい魂を持つ『リュカ』は、私がいくら「愛している」と言っても、まったく信じてくれなかった。その、冷たく冴えた瞳に魅せられ、さらに私の想いは募っていった。
愛玩奴隷としての立場をわきまえ、けして逆らいはしなかったけれど、リュカは誰にも本音を見せようとはしなかった。
私を頼って欲しい。
私に甘えて欲しい。
つらいことがあるなら、私にすがって欲しい。
魂を捧げてもいいほどに想っているのに、リュカはけして心を開いてはくれなかった。
触れられるのは、体だけ。
何度抱いても、遠い存在。
永遠に私の想いは届かないと思っていた……。
「リュカ……」
それが、たった一度死にかけたくらいで記憶を失い、ここまで簡単に落ちてくるとは……。
私は自分が癒しの魔法を使えることを、神に感謝した。
白紙に戻ったリュカの心に、私という存在を大きく刷り込めたのだから。
「あ……エディ……」
誰にもなびかないはずのあの『リュカ』が、まるで私の愛を求めるように必死にしがみついてくる。
「リュカ……かわいい……」
記憶など、もう戻らなくていい。
雛鳥のように私を慕う青い瞳の、何と可憐で愛しいことか。
私は必ずこの子を手に入れる。
今はまだ、時期ではないが、いずれ必ず私一人のものにしてみせる。
どうせあの三人は、女のことも愛せるのだ。
王都に戻れば、彼らには山のように縁談が舞い込むだろう。絶世の美姫でも、三国一の美女でも勝手に娶って、何人でもかわいい子供を作ればいい。
代わりに、私にはリュカを残してほしい。私は女など愛せないのだから。
でも、まだ早い。
彼らと正面からぶつかるのは、まだ危険すぎる。
何より、リュカを巻き込んで怖い思いをさせたくはない。
「あ……あっ……イき……そ……」
リュカが眉根を寄せて、快感に集中しているのが分かる。
私はリュカの呼吸に合わせて、抽挿のリズムを速めた。
「うあ、あ、あ、イく……! イっちゃう! エディ……エディ……!」
きゅうきゅうと締め付けながら、リュカの体が震える。
「あーっ………あ、……あぁ…………」
ぐったりと力の抜けたリュカの中で、私のものはまだ硬く熱を持っている。
「リュカ、まだ頑張れそうですか」
その頬に手を当てると、リュカの口元が微笑んだ。
「……はい……いっぱい、してください……エディともっとつながっていたい……。明日には、ここを出ないといけないんでしょう……?」
明日には、あの何を考えているのか分からない大男のもとへリュカを渡さなくてはならない。
剣士殿は、特にひどいことをする男ではないと思うが、表情が乏しく威圧感がある。
まぁ……むしろ、少しくらいひどいことをして、リュカに嫌われてくれた方が嬉しいのだが。
今の私にできることは、リュカの心をできるだけ私に引き付けておくこと。
優しい男を演じ、甘い言葉を吐き、体に快楽を沁み込ませておくこと。
刷り込み効果は大きいと思うが、それに甘んじていては他の三人に足をすくわれる。
「私を忘れないでくださいね。リュカのことをとても大事に思っているのですから」
以前のリュカに「愛している」という言葉を否定されて以来、私はそれをうまく口にできなくなった。
「本当に、大切で、かわいく思っています……」
リュカはうっとりとした表情で私を見つめる。
「嬉しいです……エディ……」
リュカが私に微笑む。
心が喜びに打ち震える。
もしもこの子に何かあったら、私は命を懸けるだろう。
「リュカ……」
キスするのが好きだと言っていたリュカに、何度も何度もキスをする。
幸せそうな顔を見ながら、また少しずつ腰を揺らしていく。
「は……あっ……」
感じやすいリュカは、またかわいい声を出し始める。
首にも胸にも、私がつけた跡が残っているが、明日までには癒しの魔法で消してしまわなくてはならない。
でもいつか、必ず……私だけのものに。
内側に渦巻く祈りと欲望を吐き出すように、リュカの中にすべて注ぎ込む。
リュカの体は喜んで受け入れる。
ほんの少しの間だけ、この子を征服したような満足感がある。
だがすぐにまた新しい欲が鎌首をもたげてくる。
今夜は、少しくらいひどくしてもいいだろうか。
リュカにどれだけ跡をつけても、どれだけ激しく疲れさせても、どうせ癒しの魔法をかけるのだから……。
・
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