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第3話 まさか剛腕の大剣士さまと
3-(1) 名前で呼んで
剣士サマは朝から迎えに来た。よほどリュカのことを気に入っているらしい。
僕はまだ寝ぼけていて、大きな男の人がテントに入ってくるのをベッドの上でぼんやりと見ていた。
最初の日も、次の日も、エディは僕を抱いてくれた。
だからエディは昨夜、剣士様のもとへ行く前だからゆっくり休みなさいと言ってくれた。
それなのに、僕ははしたなく自分から誘って、エディに抱いてもらった。しばらく別の人のところへ行かなくちゃならないなら、エディの感触を忘れたくなかった。エディはいっぱいキスしてくれて、いっぱい優しく触ってくれた。体中どこもかしこも、エディの匂いに染まっている気がする……。
僕のこの気持ちは恋なのかな?
それとも、エディの言う通り、刷り込みっていうやつなのかな?
「おはよう、リュカ」
ベッドでまだうとうとしていた僕は、すごく高いところから見下ろされてビクッと体をこわばらせた。
剣士様、でかい。学校のバスケ部のエースより背が高くて、ラグビー部のキャプテンよりがっしりしている。
短髪でキリッとしていて、一見爽やかスポーツ男子っぽいイケメンなのに、目つきが鋭すぎてちょっと怖い。
「まだ眠いか」
挨拶もせず固まっている僕の頭を、すごく大きな手がポンポンと優しく叩いた。
「すまん、早く来すぎたな。もう少し寝ているといい」
「おや、よろしいのですか」
後ろから、もうとっくに着替えているエディが問いかける。
「ああ、大魔導士殿にも迷惑をかける。つい心が逸って早朝から来てしまったが、リュカに無理をさせるつもりは無い」
「では、朝食をご一緒に。今のリュカの記憶の状態についてもお話ししましょう」
エディがテーブルの鈴をチリンと鳴らす。
僕はハッと飛び起きた。
身分の高い人がもう身支度を終えているのに、奴隷の僕がいつまでも惰眠を貪ってなんていられない。
「す、すみません。起きます!」
と、スケスケローブ姿でベッドの上に起き上がる。
ちょうどそこへ兵士AとB君、それからあの年嵩の使用人が入ってきた。
ああ、しまったぁ。B君の視線が冷たい。
奴隷の分際で性懲りもなくって、あの目は絶対に思っている。
「朝食を二人分と、水桶と新しい布を用意してください」
エディの命令で、テーブルには朝食が、僕のいるベッドの横に水桶と布が置かれた。
エディが水桶の水面に指先でちょいちょいと触れる。
「さ、リュカ、顔を洗いなさい」
「は、はい」
水はすごく温かかった。それで、さっきのエディの『ちょいちょい』が魔法だったと気付く。僕はその優しさにキュンとなりながら、温水で顔を洗う。
すぐそばにいたB君が忌々しそうな声で、ぼそっと言った。
「お前なんか、大剣士様に抱き潰されて壊されちまえばいいんだ」
ぎくっとしてB君を見上げる。意地悪をされたり悪態をつかれたりするのは慣れているんだけど、今のセリフは僕の不安を見事に言い当てていたので、かなりダメージがあった。
こっそりと剣士を見る。
あんな立派な、というかイカツイ体の人に抱かれるのは正直怖い。
しかも、二つ名が『剛腕の大剣士様』だよ!
『癒しの大魔導士様』のように優しくしてくれるとは、とても思えない……。
でも、魔性の美少年である『リュカ』が相手を一人にしぼると確実に戦争が起きるなんて脅されたら、まぁ、頑張るしかない……よね、ううう。
僕に見られていることに気付いたのか、エディと話していた剣士がふっとこちらに顔を向けた。
そして、爽やかスポーツ男子みたいな顔でニコッと笑った。
わ、笑うと意外にかわいい。
つられるようにして剣士に笑い返した時、いきなりバサーッとテントの入り口が開けられて赤いものが突っ込んできた。
「エドゥアール! お前! リュカを電撃でいじめているって本当か!」
あ、勇者だ、と僕が気付いた時にはもう彼の剣先がエディの鼻先に突き付けられていた。
「おや、それはどちらのかわいい子が告げ口を?」
エディはまったく動じずに、剣の先を見ながら穏やかに微笑んでいる。
「は? どちらのって、ええと、名前は忘れたけど……。とにかくだな! お前がリュカに魔法で折檻していると聞いて俺は」
「違います!」
僕は叫んだ。
「エディはそんなことしません! エディが言ったのはただの冗談です!」
「は? エディ?」
「え」
「エディだと?」
「あ」
しまった。人前では大魔導士様って呼ぶんだった!
「へぇ、ずいぶんと親し気に呼ぶじゃねぇか、リュカ」
「あ、いえ……大魔導士様は折檻なんてしないので……」
ごまかそうとしても無理だったみたいで、勇者は剣を収めてつかつかと僕の前に来た。
「俺が誰だかわかるか」
「ゆ、勇者様です」
「名前は?」
「え」
「俺の名前を言えるか?」
サーっと血の気が引いた。
や、ヤバイヤバイ、勇者の名前、何だったっけー?
勇者が怖い顔で見下ろしている。
どうしよう、機嫌を損ねてはいけない人の機嫌を損ねてしまった……。
蒼ざめている僕の前に大きな体が割り込んできた。
「レアンドル、そこまでにしておけ。リュカは記憶が無いのだと聞いただろう?」
「だがな、こうエドゥアールばかりに懐かれては」
剣士が勇者を手で制して、僕に向き直る。
身をかがめて、目を合わせて、優しく言った。
「リュカ、俺の名前はフィリベールだ。呼びにくければフィルと呼んでもいい。呼んでみてくれるか?」
「フィル……さま」
「いや、『様』はいらない。魔導士殿をエディと呼ぶように、公式な場でなければフィルと呼び捨てにしてくれてかまわない。ほら、呼んでみてくれ」
「は、はい、フィル」
「うん、素直でかわいいな、リュカ」
大きな手がガシガシと頭を撫でた。
あんなに怖かった剣士が、意外と話が通じそうで安心する。
「ちょ、ちょっと待て! お前らばかりずるいぞ! 俺はレアンドル、レオでいい。レオって呼んでくれ!」
勇者が顔をグンと近づけて、期待に満ちた目で僕を見つめてくる。
なんかこの人、圧がすごい。
「レオ」
小さく呼んだとたんに、勇者はうおーっ!と天井に向かって叫んだ。
「まじかぁ! あの! リュカが! 俺の名前を!」
勇者は興奮気味に僕を抱え上げ、ちゅ、ちゅ、と何度もキスしてくる。
わわ、なんだ? 何が起こったの?
「何だよー、お前! 以前なら、絶対に『勇者様』ってしか呼んでくれなかったのになぁ! わーっはっは、記憶を失くすのも悪いことばかりじゃねぇなぁ! くぅーっ、かわいすぎるぞぉ、リュカ!」
と、僕を抱えてぐるぐると回り始める。
ええー? リュカが名前呼びをしなかったなんて、知らなかったし!
もしも本物のリュカに何か深い考えがあったんだとしたら、元に戻った時に困っちゃうかもしれない。
ごめん、リュカ。僕また変なことしちゃったみたいだ。
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