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第3話 まさか剛腕の大剣士さまと
3-(8) 「大剣士の純情」
俺はフィリベール・ヴァランタン、『剛腕の大剣士』と呼ばれている。
自分では特に剛腕とは思っていないし、俺の剣さばきの一番の強みはその速度だ。相手の攻撃が届く前に、こちらの攻撃が届く。相手が百人だろうが二百人だろうが、馬に乗っていようが魔法や矢を射かけてこようが、先に攻撃が届いた方が勝つ。
子供の頃から戦いにおいては一度も負けたことが無く、俺は周囲から『最強の剣士』もしくは『最速の剣士』と呼ばれていた。
だが、「勇者と共に魔物討伐に参加せよ」とのお言葉を陛下より拝命した時、レアンドルという名の勇者が言ったのだ。
『最強? いやいや、人類最強は俺だろ? お前は、そうだなぁ、見た目からして剛腕だな。剛腕にしとけ、な、大剣士様!』
自信過剰でお調子者、もしかしてバカなのかと思ったくらいなのだが、付き合ってみれば勇者は意外に気のいい男であった。
俺はその友情の証に、今でも『剛腕の大剣士』を名乗り続けている。
リュカは初めて会った時から俺を知っていたという。
王都で開かれた御前試合を第二王子の取り巻きの一人として見学したらしい。
男の愛玩奴隷というものに関しては、存在は知っているという程度で興味を持ったことは無かった。そもそも俺は、自由の無い奴隷を抱くというのがあまり好きではない。王都ではごくたまに、女の愛玩奴隷を饗応の一環として差し出されることがあったが、俺はいつも断っていた。
だから、俺は今の自分に驚いている。奴隷の、しかも男の子であるリュカにこれほど本気になってしまうとは……。
リュカを召し出したのはほんの興味本位だった。この地に陣を置いてから、暇が続いていたせいもある。レアンドルが毎日のように愛玩奴隷を召し出して、楽しんでいるようだったのもひとつのきっかけだった。
とにかく、きっかけが何であれ、リュカを初めて抱いたその夜に、俺はもうリュカの魅力に落ちていたのだ。
リュカは将官達に人気があった。毎日誰かに召し出されていた。その内に、なぜかレアンドルと魔導士と王子殿下と俺の四人しか指名しなくなっていた。多分、その三人の内の誰か、もしくは全員が、他の将官達に圧力をかけたのだろう。
リュカを何度か召し出し、互いの体が馴染んできた気がしたある晩、リュカは俺の腕の筋肉を撫でて「いいなぁ」と呟いた。そして、俺の試合を見た時にどんなに興奮したかを子供みたいに楽しそうに話した。いつの日か平民になって、剣を習うのが夢だと無邪気に語った。
「僕がもしも平民になれたなら、剣の先生になってくれませんか?」と……。
俺は適当に相槌を打つこともできず、正直に告げてしまった。
「お前が平民になるのは難しいだろう」と。
リュカは口角だけ無理に引き上げて微笑み、知っていますと小さく言った。そして、顔をそらして天井を見上げた。泣きたいのを堪えているのだと分かった。
その時になって初めて、俺はリュカの隠していた悲しみを知ったのだ。
どういう経緯で愛玩奴隷になったのか、リュカは一切語ろうとしなかったが、普段から微笑みを欠かさず召し出されれば嬉しそうに足を開いた。まるで愛玩奴隷が天職であるかのように男を受け入れていたので、そのすべてが演技だとは夢にも思ったことが無かった。
俺は本当に鈍感な男だった。
―『平民になって、剣を習いたい』―
寝物語に漏らしたそれだけがリュカの本音で、あとはすべて生きるための嘘だったと気付いたのは、リュカが記憶を失くすほんの数日前のことだった。
「緑色、好きなんですか?」
夜、服を脱ごうとしてウエストの飾り紐に手をかけた時、リュカが言った。
その視線は緑色の飾り紐から、棚に置いたマジックバッグや剣の鞘などに移っていく。
確かに、俺の持ち物は緑色が多いが、特に好きだからという理由ではない。
「いや。レアンドルがうるさかったから仕方なくな」
「勇者様が?」
「ああ、俺達は英雄なのだからそれぞれに象徴するような色が無くてはならない、などとやたら主張するのでな」
「象徴するような、色?」
リュカのまつげがパチパチと瞬く。
「ああ、勇者は赤で、俺は緑、魔導士は黒で、第三王子は青だそうだ」
「勇者様が赤、フィルが緑、エディが黒で、王子様が青……」
リュカが確認するように繰り返す。
「あはは、別に覚えなくていいぞ。まぁ、俺は装備にこだわりがあるわけでは無いから、新調する機会があるごとに、やつの言う通り緑色にしてやったんだが」
「そうなんですね……なんか、アイドルとかの推し色みたい」
「あいどるって何だ?」
聞くと、リュカはなぜかビクッと体を震わせた。
「え? ええーと、何でしょう? ちょっと記憶が曖昧で……」
「そうか。以前にレアンドルが何か言ったのかもしれないな。あいつは平民の出だから、時々よく分からない面白いことを言うんだ」
「そ、そうなんですね……。ええと、あの温泉で剣には錆止めの魔法がかかっているって言っていましたけど、攻撃の魔法がかかった剣は無いんですか? 炎の剣とか氷の剣とか」
明らかに話題を変えようとしている。
曖昧な記憶を、無理にほじくり返されるのも嫌なのかもしれない。
俺はリュカをひょいと抱き上げてベッドに座った。服を脱がせてやりながら、話を続ける。
「んー、そうだな。そういう剣も無くはないが、扱いが難しいな。もともと魔法が得意な者でないと、自分の手を火傷したりしてしまう。俺の剣技はスピード重視だから、そんな余計なものをつけるとかえって集中力をそがれてしまうんだ」
「なるほど。魔法を使えばいいというものでは無いんですね」
「ああ」
「フィルが剣で戦うところ、見てみたいです」
男の子らしいキラキラした目で、リュカが言う。
「やっぱりリュカは剣が好きなんだな。記憶が無くなっても、そういうところは同じだな」
「えっと、そうなんですね」
「やっぱり今でも剣を習いたいか?」
「え? ええと……多分、重くて持てないです」
リュカは自分の両腕を持ち上げて俺に見せた。
筋肉が無くて、細くて柔らかい子供のような腕だ。
「そうだなぁ。大剣は無理だろうが、細身の短剣ぐらいなら……」
リュカが不安そうに視線を下に向けたので、俺は話題を変えることにした。
「そう言えば、リュカは俺の家に代々封じられている古代の魔剣の話が好きだったなぁ」
「古代の魔剣!」
リュカがパッと顔を上げる。
「どんな剣なんですか? 教えてください」
「そうだな。俺の家はヴァランタンという代々続く騎士爵家でな、その昔、俺のご先祖様が……」
俺は話しながら、髪と体の洗浄薬を取りに棚に向かい、リュカを振り向く。
リュカは幼い子供のように楽しそうに話を聞いている。
あの日、魔物に襲われ川で溺れ、魔導士のテントで目覚めたリュカは、怯えたように俺達を見ていた。別人のようだと思っていたら、翌日になって、リュカが記憶を失くしていることを知った。
あのリュカが、まるで色気のない幼子のような表情をしていて、俺はおそらくもうこの子には欲情しないだろうと思っていた。すべてを忘れた無垢な子が他の三人に抱かれることを思うと、不憫だとさえ思っていた。
せめて俺のもとにいる間は体を休めてあげようと……温泉への遠出で気分転換でもさせようと……思っていたはずなんだが……。
リュカは、今まで生きてきた人生を完全消去したかのように、すべてを忘れていた。
自由を奪われた悲しみもつらさも、捨てきれない男としてのプライドも、平民になりたいというささやかな願いも、全部をきれいに忘れ去っていた。
軽くキスしただけで真っ赤になり、「ドキドキする」などと素直に口に出し、俺を憧れるような目で熱っぽく見つめてくる。それだけで、きゅっと心臓をつかまれたかと思った。記憶を失くした幼いリュカは、またあっさりと俺を陥落させた。
休ませるなどと思ったことをさっぱりと忘れて細い体を愛撫していた。あまりに素直な反応がかわいくてたまらなくなり、夢中になって抱いてしまった。
「わぁ、くすぐったい!」
古代の魔剣のおとぎ話を聞かせた後、髪と体を洗浄してやる。
振りかけた洗浄薬はリュカの体を泡で包み、あっという間にスーッと消えていく。
「あ、なんかすごく良い匂いです。これだけで洗えるなんて、便利ですね!」
リュカがふわふわの金髪を子犬のようにプルプルっと振った。
「魔導士のところでは髪の洗浄薬を使わなかったのか」
「はい、水魔法で洗ったと言っていました」
「言っていた?」
「えっと、僕、あれの後にすぐ寝ちゃうので覚えていなくて……」
ほんのりと赤くなって、恥じらうようにうつむく。
すべてを忘れ去った今のこの子は、魔導士に抱かれることも、俺に抱かれることも、すんなりと受け入れてしまっている。何も知らない白紙に戻った心に、愛玩奴隷とはそういうものだと教えられたせいだろう。あの魔導士が、男に抱かれる快楽を白紙の体に刷り込んでしまったせいもあると思う。
奴隷に身を落として、愛してもいない相手との行為を強要される。これは本来、男として人としての尊厳を傷つけられる非道な行為なのだが、今のリュカはそれすらもよく分かっていない。
ただ、男に優しく触れられることを素直に喜んでいる……。
「リュカ」
手を伸ばして頬に触れる。顔を近づけると、反射的に目をつむる。口付けると、つたないながらも吸い返してくる。初々しく恥じらい、そして期待を込めた瞳で俺を見る。
これはけして演技ではないのだ。
「リュカ、かわいいな」
抱き上げて、俺のベッドへ横たえる。ランタンの明かりの中で青い瞳を見つめて、怖がっていないことを確かめる。
記憶を失くしてから、華奢な体がいっそう細くなった気がする。食事もとっているし、数日で痩せるはずもないが、頼りない表情がそう思わせるのかもしれない。
俺は胸の突起に口を付けた。リュカの体がぴくんと跳ねる。右側を舌で、左側を指で刺激していくと、リュカが小さく声を出し始める。
たったそれだけの愛撫で、リュカの中心がもう反応し始めている。
「ほんとに感じやすくなったな」
「あ……だって……嬉しいから……」
「嬉しいのか、これが」
「あ、あんっ……だって、僕なんかを、優しく触ってくれるから……」
「なんかって何だ。自分を卑下するな」
「でも…………あっ、だめ」
俺がリュカのものを咥えようとすると、白い手が邪魔をしようとする。
「ダメなのか?」
「だって、またすぐイっちゃう」
「そうか、じゃぁ、違うところにキスしてみようか」
俺はリュカの体を抱き上げて、そっとうつぶせにした。
「あの……フィル?」
「リュカは背中もきれいだな」
言って、背中の真ん中にキスを落とす。
「ん」
背筋に沿って何度もキスを落としていく。滑らかな肌を撫でて尻の丸みをなぞる。
「んん、は、んっ、んっ」
キスするたびにぴくぴくと反応して、リュカがシーツをぎゅっと握る。
唇を徐々に下へ下へと動かして行っていよいよ割れ目の近くに来た時、それまでかわいい声を上げていたリュカが、いやいやと首を振った。
「ダメです……汚い……」
「洗浄薬を使えばきれいだろ?」
「あ、でも」
俺は洗浄薬を指先で押し込む。数秒待ってから、そこに舌を這わせた。
「きゃう」
リュカがかわいい悲鳴を上げて逃げようとする。
「リュカ、逃げるな」
「だって、だって、そんなとこ」
「洗浄薬を入れたんだ。何も汚くない」
両手で尻を押さえつけて、また穴に口付ける。
「う、ううー」
リュカの泣きそうな声を聞きながら、俺は舌でぴちゃぴちゃと音を立てる。
抵抗を許さず、俺はそこへ何度か舌を押し込んだ。
「や、あ、ああっ」
体全体にギュッと力を入れたかと思うと、次の瞬間リュカは脱力した。
「リュカ?」
軽い体をごろんと仰向けると、リュカが手で前を隠していた。
「出したのか」
リュカが涙目でうなずく。
「こんなこと……だめです」
「何がダメなんだ?」
「だって、フィルみたいに立派な剣士様が、僕なんかの汚いところを」
「ちゃんと洗浄したぞ」
「でも」
俺はふと思いついてニッと笑った。
「じゃぁ、リュカがきれいにしてくれ」
「きれいに?」
「ああ、リュカのそのかわいい口で」
と、リュカの前に舌を突き出す。
リュカは軽く目を開くと、はいと返事して、俺の舌をおずおずと口に含んだ。
不器用に小さな舌が動くのが、愛しい。
俺は我慢できなくなり、その後頭部を押さえて、リュカの口中を侵すように何度も深く口付けた。
「んんっ」
リュカが目を閉じて、しがみついてくる。
俺はキスを続けながら、その足を大きく開いた。
俺のものをそこに押し付け、ゆっくりと押し開く。
「ああっ」
リュカが声を上げて背中をそらす。
俺は構わず、一気に深く貫いた。
びく、びく、びく、とリュカが痙攣する。
「痛いか」
「ち、違う……僕、もう」
「え?」
挿れただけで、リュカの先端から白いものがトロ、と漏れている。
俺はその様子に興奮してしまい、ぐい、ぐい、と腰を動かす。
「うあ、ああっ」
突き入れるたびに、喘ぎ声と一緒に、リュカの精液が溢れてくる。
「そんなにいいのか、リュカ」
「いい……すごくいい……」
「俺に抱かれて嬉しいか」
「う……れし……うれし、です……うぁっ……ああ……」
その後は夢中だった。
俺はリュカの中に一度出してもおさまらず、体力のないリュカの体を欲しいままに蹂躙してしまっていた。
力を失い、体液まみれになって横たわる細い体を布で拭いて、洗浄薬を振りかける。口の中も、後ろの穴も、洗浄薬を入れて後始末する。シーツをはいで、新しいシーツに替えて、寝間着を着せたリュカを寝かせる。
下働きを呼ぶ気にはならなかった。
リュカのこんなしどけない姿は誰にも見せたくない。
「リュカ、すまない」
また気絶するまでしてしまった……。
ポーションを口移しで少しずつ飲ませる。癒しの魔法が使えないのは悔しかった。
ぐったりしているリュカの隣に横たわり、その髪をそっと撫でる。
小さく可愛らしい口が開いた。
「エディ……」
リュカが寝惚けたまま、すり寄ってくる。
「んん……エディ……」
少しの間、息が止まった。
「リュカ、俺だ。俺はフィルだ」
リュカがぼんやりと目を開ける。
ふにゃっと、その顔が笑う。
「……フィルぅ……?」
「ああ、俺はフィルだ。間違えるな……」
「はい……」
リュカは幸せそうに微笑んだまま、また眠ってしまった。
胸の奥が、ぎゅうっと締め付けられる思いがする。
以前のリュカは俺に寝顔を見せたりしなかった。違う男の名前を呼び間違えたりもしなかった。
誰にも心を開かなかった以前のリュカも残酷だったが、今のこの子は逆の意味で残酷だと気付いた。
俺はもう一度、リュカの髪を撫でる。
反射のようにリュカが抱きついてくる。
今度は誰の名前も呼ばなかったが、この子は誰に抱きついているつもりなんだろうか。
あの日リュカがなぜ、一人で森へ行ったのかは知らない。だが、もしかしたら自ら死のうとしたのではないか、という考えが脳裏をよぎったことがある。
愛玩奴隷は年を取って誰にも召し出されなくなると、下働きの奴隷になる。犯罪奴隷だった場合は罪の重さにより、借金奴隷ならその金額により年数は違うが、その年季を勤め上げれば平民になれる道がある。リュカはそうやって、いつか平民になることを望んでいたんだろう。
だが、リュカはそれを望むには圧倒的に美しすぎた。レアンドルも魔導士も王子殿下も、そして俺も、リュカを自分の専属奴隷にと願っていた。誰かの専属になれば贅沢な暮らしが保証されるが、身分は一生奴隷のままだ。
美しすぎるがゆえに、自らの望みを諦めねばならない。その絶望感が、リュカを苛んでいたのではないか。
何もしてやれなかった罪悪感が俺の中にしこりのように残っている……。
「リュカ……」
寝ている少年の唇に優しく唇を重ねる。
静かな寝息を聞きながら、俺はそっと、柔らかい体を抱きしめた。
この子は、もしかしたら記憶を失って良かったのかもしれない。
記憶を失くした今のこの子は、男に優しくされることや愛されることを、何も疑わずに喜んでいる。
素直で純粋で従順で…………無知だ。
今のリュカなら、平民になどなれなくても、男に愛されて一生を過ごすことを嫌だとは思わないだろう。
俺はヴァランタン家に戻って騎士になるつもりなど無い。報奨金を手に入れた後で、独立して剣の道場を立ち上げるつもりだ。リュカが以前に望んでいた通り、その道場で剣を教えてやることも出来る。
二人で一緒に暮らして、自分が奴隷だってことを忘れるくらいに、可能な限り自由を与えてやることも出来る。
リュカが俺を選んでくれたなら、生涯かけて守ると誓おう。
――でも。
リュカがもし魔導士を望むのなら、隣にいるのは魔導士でもいいと思っている。
この子が幸せになれるのならば、共にいるのが俺でなくてもかまわない。
リュカの幸福のためならば、俺は何を置いても全力を尽くすつもりだ。
リュカ、もう二度と、たった一人で危険な森へ入らないで欲しい。
何もしてやれなかったという後悔は、もう絶対にしたくないから……。
・
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