異世界で美少年奴隷になっちゃった?!

緋川真望

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第4話 まさかゴブリンやオークやトロールと???

4-(2) 愛玩奴隷の現実


 勇者のテントは赤かった。
 テントそのものも、ベッドも毛布もシーツも赤い。
 しかも、毎晩複数プレイをするためなのか、ベッドがキングサイズよりもさらに馬鹿でかいサイズだった。

 赤いシーツの上に金髪に白い肌の半裸の男の子たちが並んでいるところは、まるで映画で見た吉原の遊女みたいで、色っぽいというか、艶っぽいというか、あんまり現実感が無い光景だった。



 僕はフィルのテントを出てから一度宿舎へ行き、今日召し出されるみんなと一緒に、自分で洗浄薬を入れて自分で穴をほぐした。
 僕が一人で恥ずかしさに悶えているのに、アベルを含め今夜の召し出しが決まっている他のみんなは、世間話をしながら特に表情も変えずに指を出し入れしているのがショックだった。愛玩奴隷って、プロの娼婦みたいだ……。

 僕も愛玩奴隷である自分に慣れてきたと思っていたけど、まだこんなことで恥ずかしがってしまう。愛玩奴隷リュカの体で生きていきたいなら、彼らを見習っていかなきゃいけないんだよね……。
 が、がんばるぞ……。



 勇者がバスローブみたいな形の赤い寝間着を着て、大きなベッドに上がってくる。

「勇者様ぁ、今日も呼んでくれて嬉しい」
「今日は一番に僕を抱いてくださいね」
「勇者様とするのが一番好き。いっぱい愛してくださいね」

 きゃぴきゃぴと勇者の体に群がって、すり寄っていくアベル達三人の後ろで、僕は固まっていた。

 ど、どうしよう。
 僕も『勇者様ぁ』って甘い声を出さなきゃダメ?

「リュカ」

 勇者が僕の方へ片手を伸ばす。
 その場の空気が、ぴしりと凍った。

 わぁ、まただ。
 みんなの目が怖い。

 僕はおずおずと勇者に近づいた。
 勇者は嬉しそうに笑って僕を抱きしめ、その場に押し倒した。
 みんなが見ている前で、深く口付けてくる。

「んん……」

 三人の冷たい目が僕を見下ろしている。
 勇者は情熱的に僕の唇を奪う。
 
 なんだろ、僕はキスされるのが好きなはずなのに。
 なんだろ……心が冷えていく気がする。

 こんなの、いやだよ……。

 じわりと涙が滲んだ。
 嫌だと思っても、嫌だとは言えない。
 だって、僕は奴隷だから。

 僕が必死に耐えていると、勇者が不思議そうな顔で口を離した。

「リュカ……?」
「ねぇ、勇者様、何か楽しいことをしましょうよ」

 アベルが腰をくねらせるようにして勇者にすり寄る。

「そうそう、この前の蜂蜜ゲームとかは?」
「それが良い、蜂蜜のゲーム楽しいですぅ」

 三人がかわいい声を出すのを聞いて、勇者はニカッと笑う。

「おっ、そうしようか。今日は誰が一番色っぽくできるかなぁ?」

 と、おどけるようにしてベッドから降り、小さな壺を持ってくる。
 ふたを開けて指を突っ込むと、とろりとした液体を指に付けてこちらへ差し出した。

「ほうら、舐めろ! 一番うまくできた子を一番先に抱いてやるぞ」

 わぁっと歓声を上げて、三人がその指に群がる。
 僕もやらなきゃ……そう思うのに、体が動かない。



 僕は思い出していた。
 陽介だった頃の、ある夏の放課後、気の弱いいじめられっ子が何人も集められて、いかにも不良というグループに囲まれた時のことを。
 彼らは残酷だった。
 全員を殴ってお金を出させると、いきなり踊れと言ってきたのだ。

『一番うまく踊れたやつは帰って良いぞー。一番へたくそな奴はズボン没収―。下半身丸出しで帰れよー』

 僕は帰りたい一心で必死に踊った。僕にはプライドも何も無かった。馬鹿にされて笑われているのに、怒るどころか、ご機嫌を取る様にへらへらと笑い返していた……。



 四つん這いになって、みんなと並んで勇者の指を舐める。
 甘い味が口に広がると同時に、視界が歪んだ。

「リュカ?」

 僕は奴隷だ。
 最底辺の存在だ。
 強いものにこびを売って生きるしかない。
 陽介の頃と何も変わっていないんだ……。
 エディとフィルが優しいからって、僕はすっかり勘違いして調子に乗っていたんだ。

「リュカ、泣くな」

 ふわりと抱きしめられた。

「どうしたんだ、なんで泣いてる?」

 僕の目からは、知らないうちに涙が流れていた。
 勇者が慌てたように、僕の髪を撫でている。

「ごめんな……さ……」
「謝らなくていい。体調が悪いのか?」

 僕は首を振った。
 勇者には分からないんだと思った。
 だって、愛玩奴隷が媚を売るなんて当たり前のことだから。

 アベルが心配そうな顔で僕を見た。

「あの、リュカは宿舎に戻らせて休ませてはどうでしょうか。僕達三人で精一杯ご奉仕しますので」

 勇者はふーっと溜息を吐いた。

えた」
「え」
「リュカの泣き顔を見たら、萎えちまった。今夜はもう戻ってくれ」
「ですが」
「悪かったな。詫びとして宿舎にたっぷり焼き菓子を届けさせるよ、な、今夜は帰れ」
「はい、分かりました……」

 アベルは僕の手に触れた。

「行こう、リュカ」
「いや、リュカはここに置いて行……」
「勇者様、リュカが記憶を失くしたことは聞いていますか」
「ああ、エドゥアールに聞いたぞ」

 アベルは悲しそうな目をして僕と勇者を見た。

「リュカは今、きっと混乱しているんです。僕達は、愛玩奴隷として王宮に連れて行かれて、男の人にご奉仕できるようにちゃんと教育を受けているんですけど」
「ああ、もとは女の愛玩奴隷しかなかったところを、第二王子が国中から美少年をかき集めたらしいな」
「はい……。最初の頃、僕たちは王宮で調教されて、毎日毎日泣いていたんです」

 アベルの細い手が、僕の目元を拭う。

「今の僕達なら、勇者様のような身分が高くて素敵な殿方に愛されるのは光栄だと思いますし、喜びを感じています。でも、リュカはきっと、あの頃の何も知らない子供に戻ってしまって途惑っているんでしょう。慣れるまで少し、待っていただけませんか」

 勇者は僕の頭を撫でた。

「分かった……。リュカ、今日はお休み」

 そして、アベルの頭もぽふぽふと撫でた。

「お前も優しい子だ。今日はお休み」
「はい……勇者様」

 アベルの頬がぱっとピンクに染まった。



 他の二人が不満そうな顔を見せたんだけど、アベルは僕達を引き連れて勇者のテントを後にし、愛玩奴隷の宿舎に戻った。

 僕はもう泣き止んでいたんだけど、アベルは僕をそっと抱きしめてくれた。

「怖かったよね……リュカ」
「ちょっと、アベル、甘やかすなよ!」
「そうだよ! いくら記憶が無いからって、あの場で泣くってどういうこと?」
「仕方ないでしょ。君達だって、王宮ではぴーぴー泣いてたんじゃないの?」
「そんな前のことどうだっていいよ。分かってるでしょ、僕達には時間が無いんだよ」
「そうだよ、せっかく勇者様にアピールできると思ったのにさ」
「あの……時間って……?」

 僕が聞くと、二人は呆れたように肩をすくめた。
 アベルは僕をベッドに腰かけさせて、横に座った。

「ほんとに全部忘れているんだね」
「う、うん、ごめん……」
「ね、リュカ。愛玩奴隷っていうものにはどうしても期限があるんだよ」
「期限?」
「そ、男の人に愛される期限。まぁ大人になった奴隷を好む人もいなくはないけど、たいていは若い子の方がよく召し出されるんだ。誰も召し出してくれなくなったら、僕らは下働きの奴隷になるしかないでしょ」
「でも、下働きになったら、いつか平民になれるって聞いたけど」

 アベルは悲し気に首を振った。

「現実的には、それは無理だろうね」
「ええ、どうして?」
「平民になるまで、体がもたないと思う。早死にする子がほとんどだから」
「早死に……」

 アベルは自分の腕を僕に見せた。

「ほら、この腕、すごく細いでしょ。鍛えるのを禁止されているから、筋肉が全然無い」
「うん。僕もだ……」
「下働きになったら、僕らはまったくの役立たずなんだ。今まで、僕らの身の回りの世話をしていた他の下働きからは、ひどいいじめを受けるようになる。それに下働き奴隷の宿舎では、その……毎日のように仲間から犯されるようになるんだよ」
「仲間から?」
「だって、下働きの奴隷は結婚もできないし、娼婦を買うお金なんてないでしょ。だから、そんな彼らの中に元愛玩奴隷が放り込まれたら、どんな扱いを受けるか分かり切ったことでしょう?」

 僕はごくっとつばを飲みこんだ。

「僕らが生き残るためには、できるだけ早く、身分の高い殿方の専属にしてもらうしかないんだよ」

 専属っていうのはどこかで聞いたような……?

「えっと、専属って……?」
「専属奴隷って言うのは、国で定められた法に基づいてきちんとした契約をしてもらえる奴隷のことだよ。まぁ、僕ら自身が契約するわけじゃなくて、今の持ち主と新しい持ち主が契約するわけだけど」

 僕の今の持ち主は王宮だって聞いた気がする。この子達も同じなんだよね。

「それでね、専属契約で新しいご主人様になった人は、もしも将来僕らに飽きてしまっても、死ぬまで衣食住の面倒を見なくちゃいけないんだよ」
「そうそう、専属契約してもらえたら、一生安心ってこと!」
「しかも今従軍してここに来た愛玩奴隷はたった10人だし、戦地だから女の子の奴隷もいないわけ!」
「で、ここの野営地では、勇者様、剣士様、魔導士様、第三王子様と、それから辺境伯様と将官様達……すごく良い引き取り先が、何人もいる! こんなチャンスめったにないんだよ!」
「うん、僕らはここにいられるうちに、専属にしてくれる方を捕まえなくちゃってはりきっているんだ」
「ね? 必死になるのも分かるでしょ」

 僕はこくこくとうなずいた。

「すごく、よく分かった」
「だから、リュカ。早く誰か一人に決めてよ」
「え?」
「あんたが思わせぶりな態度をとっているから、四人もの殿方がリュカリュカって夢中になっているじゃない。ほんと、迷惑なんだけど」
「リュカが一人に決めれば、他の三人は僕達に目を向けてくれるかもしれないでしょ」
「あの、でも」
「でも?」
「僕が誰か一人のものになると戦争が起こるって、大魔導士様が言っていて……」
「はぁー?」

 アベルを含め、三人がシラけたような目で僕を見た。

「『戦争』と来たか」
「ふうん、魔性のリュカ様は言うことが違うね」

 いやぁ……ははは、そうだよね。
 戦争とか言われた時、僕も同じように思ったもん。

「たしかに、大げさすぎるよね……」

 苦笑する僕を、アベルが何かを考えるようにじっと見た。
 ちょっと怖い目をするから、僕は首を傾げた。

「アベル?」
「ううん、何でもない。とりあえず、リュカ、後始末しちゃおうよ」
「後始末?」
「うん、お尻にぬるぬるが残っていると気持ち悪いでしょ。口用の洗浄薬を入れるんだよ」

 アベルは僕の手に青い錠剤をぽとんと乗せた。

「はい、これ使って」
「ありがとう」
「……ねぇ、リュカ」

 アベルは内緒話をするように顔を寄せてきた。

「ちょっと相談したいことがあるんだけどさ」
「僕に相談?」
「うん、だって僕らは友達でしょ?」
「友達?」
「それも忘れちゃったの?」
「ごめん……。でも、アベルと友達なんて嬉しいよ」
「そう……。二人きりで話したいから、宿舎の外でもいい? 見張りの兵士には話をしておくから」
「うん、もちろん。でも大丈夫なの?」
「大丈夫。みんな息抜きに散歩くらいするよ。こんな僻地じゃ、どうせどこへも逃げられないんだし」
「そっか」
「じゃ、後始末して着替えたら、こっそり宿舎を出て森の方へ向かって」
「森? あの、森は危ないんじゃ……」
「手前だよ、手前。森に入ったら危ないから、その手前の大きな木のところで待っていて」
「うん、分かった」

 わあ、ちょっと嬉しいかも。
 同じ年頃のこんなにきれいな子が、僕の友達なんて!
 しかも、友達から内緒の相談事をされるなんて!
 陽介だった頃は友達なんて一人もいなかったから、僕はちょっとワクワクしていた。

「じゃ、あとでね」
「うん、あとでね」

 まつげの長いアベルがかわいく笑うので、僕もニコッと笑い返した。





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