異世界で美少年奴隷になっちゃった?!

緋川真望

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第4話 まさかゴブリンやオークやトロールと???

4-(5) 勇者さまと王子さま

 腕の痺れで目が覚めた。

 僕の胸には赤い髪のレオが顔をうずめていて、あれ?と思う。
 なぜか僕は横を向いて、両腕でレオの頭を抱いていた。レオの頭が乗っている腕の部分が、正座をしている時の足のようにビリビリと痺れて痛い。

 はっきり覚えていないけれど、レオが泣いているのを慰めている内にこうなったのかな……?

 エディもフィルも僕を抱きしめて眠ってくれていたから、いつもと逆の体勢はちょっと不思議な感じだ。僕が大人の男の人を、胸に抱いているなんて。

「レオ……?」

 呼びかけてみても、ぐっすり眠っているようでレオは全然動かない。
 腕を外したら起こしちゃうかな。
 ちょっと困っていると、上から白い手が伸びて、そっとレオの頭をずらした。

「相変わらず子供っぽい男だ」

 レオを見下ろして静かに言うと、第三王子様が僕のわきに手を入れて、ぐいっと抱き上げた。
 サラサラの銀髪が肩で揺れている。
 薔薇の花のような香水がふわりと香った。

「王子様……」

 あ、えっと、殿下って呼ぶのかな?

「私はジュリアンだ、リュカ。王子は何人もいる」
「あ、はい、ジュリアン様」
「うむ、それで良い」

 ジュリアンが美しく微笑む。

 な、なんか、キラキラしてる……。

「リュカ、体はどうだ?」
「えっと、もう大丈夫です。どこも痛くありません」
「そうか。安堵した」

 僕を抱いたジュリアンが、またふわりと笑う。
 昔の少女漫画みたいに、背中に薔薇でもしょってそうな雰囲気だ。

 周りを見ると、エディもフィルもいなかった。
 テントの中はランタンが灯っているけど、外の明かりが入らないので、今が何時頃かは分からない。

 そう言えば、時間の単位はどうなっているんだろう?
 この世界に来てから、時計を見たことが無い。

「あの、エディ……じゃなくて大魔導士様と大剣士様は……?」

 ジュリアンが少し眉を動かす。

「リュカはやはりあの二人が良いのか? 私では不服か?」
「そ、そんな、滅相も無い! 僕はただ……」

 ジュリアンはくすっと笑った。

「そんなに怯えなくともよい。分かっておる。私との思い出はすべて忘れてしまったのだろう?」

 ジュリアンの手が愛しそうに僕の髪を撫でる。

「今まで二人で何を語らったのかも、どのように抱き合い、どのような夜を過ごしたのかも……」
「え、は、あの、はい……えっと、僕、思い出せなくて…………」

 なんか、あまりにも高貴な風情に気後れしてしまって、僕はおどおどと答えた。
 王子様という生き物は、愛玩奴隷とエッチしたことを、こんなきれいな言葉で表現するんだ……。

 ジュリアンは悲しそうに目を伏せた。
 間近で見ると、まつげも銀色だった。

「思い出さずとも良い。そなたが生きていただけで、何よりの喜びだ」

 ジュリアンは、そっと僕の頬に唇を寄せた。

 以前のリュカは王子に懐いていたと、エディが言っていたのを思い出す。
 胸の中にちくりと罪悪感が沸き起こる。

 だってここには、ジュリアンの大事にしていたリュカはいない。
 僕は真っ赤な偽物だ。

 はじめは、いつかリュカに体を返すのを覚悟していたはずなのに、僕はどんどん欲張りになって、この体を手放したくないと思い始めている。本物のリュカが戻ってきても、この体は返したくない。愛玩奴隷として何人の男の人に抱かれたってかまわない。どうやったら、一生リュカとして生きられるかと、そんなことばかり考えてしまっている。

 うつむいた僕を、ジュリアンが覗き込む。

「リュカ、私が嫌いか」
「いいえ、まさかっ」
「では、好いてくれるか」
「えっと、あの……」

 ジュリアンは王子様だけあって、仕草も表情も洗練されていて上品できれいだし、声が落ち着いていて優しいし、細身に見えて僕を軽々と抱き上げるくらいに実は体付きもしっかりしていて……。

「ジュリアン様は、す、素敵な方だと思います……」

 何となく頬が熱くなるのを感じてまたうつむくと、指先で顎を上向かされた。
 間近にきれいな顔が迫ってくるのを見て、僕は目を閉じた。

 数秒の間を置いてから、柔らかな唇が触れてくる。
 ああ、男の人とキスをするのもけっこう慣れてきたな……と考えていると、口の中に何かが入って来た。それは舌では無くて、小さくて硬くて甘くて……あ、キャンディー?

 びっくりして目を開くと、数㎝の距離でジュリアンが笑っていた。

「薔薇の香りの飴玉だ。好きであろう?」
「あ、は、はい……おいしいです……」

 口移しって、なんか、なんか、普通のキスよりちょっとやらしくない?

 ジュリアンはよくリュカにこんなことをしていたのかな?
 僕は口の中で飴を転がしつつ、パチパチと瞬きをする。

 ジュリアンは僕を抱いたままで椅子へ座った。
 そして急に、はーっと大きく溜息をついた。

「その目は何だ。何をじろじろと見ている」

 えっと思って振り向くと、ベッドの上で頬杖をついてレオがこちらをじとーっと見ていた。

「別に。かわいいリュカのかわいい反応を見ていただけだが?」
「ほう……そうか。確かにリュカはかわいらしいな。まるで何も知らない子供に戻ったようで、こういう表情もなかなかいものだ」

 微笑みながら、ジュリアンはレオに見せつけるように僕の頬にちゅ、ちゅ、とキスをする。

 わわ、なんか、レオがすごい目で見ているんですけど?

 柔らかい口が耳たぶに吸い付いてきて、僕の体がぴくりと跳ねた。

「あっ……ジュリアン様……くすぐったい……」

 レオが飛び起きるようにして、一瞬で横に立った。

「そこまでにしてもらおうか、これは俺のリュカだ」
「リュカはまだ王宮のものだ。そなたの専属ではあるまい」
「いずれそうなる。俺は『勇者さま』だぞ」
「私は『王子さま』だが?」

 二人が漫才みたいなことを言って冷たく睨み合うので、僕はものすごく焦った。
 ちょっと待ってー、戦争起こさないでよー。

「あ、あの……喧嘩、しないで……ください……」

 ジュリアンの着ている白いブラウスを指先でつかむ。
 肌触りが滑らかな生地で袖にレースがついていて、しかもきれいな水色の宝石のようなボタンが並んでいる。襟元にはひらひらレースのネクタイというかリボンのようなものが巻かれていた。
 仮にも戦地でこんな格好をしているなんて、さすが王子様というべきか。
 しかも、めちゃくちゃ似合っているし。

 ジュリアンは僕のその手を上から包んだ。

「そなたがそういうなら、今はやめておこう。レアンドルも良いな」
「分かってるって。俺もリュカを怖がらせるつもりは無い」

 レオがテーブルの上の鈴を鳴らす。
 エディのところにいたB君達にそっくりな格好の兵士が三人入ってきて、ビシッと踵を合わせた。

「顔を洗う準備と、あと飯……は、ジュリアンも食うか?」
「そなたのところで出るリゾットとやらは口に合わん。パンにしてくれるか」
「だってさ、よろしく」

 レオの投げやりな命令にも兵士は眉ひとつ動かさずに、またビシッと踵を合わせてから出て行った。
 というか、今ちょっと聞き捨てならないワードが出たような。

「レオ、あの、リゾットって……?」

 もしやお米? お米なの?

「ああ、リュカも苦手だったよな。大丈夫、パンもいっぱいあ……」
「ううん! 僕、それ食べてみたい!」

 ヨーロッパ風の異世界では多分もうありつけないだろうと諦めていた。でも、ここにもお米があるならば……!

「食べてみてもいい……ですか?」
「もちろんだ。魚の塩漬けも入っていてうまいぞ」

 魚の塩漬け! おお! この世界で初めての魚!
 嬉しくて、笑顔になってしまう。

 ああ、出来るならば、塩鮭のおにぎりとか食べたいなぁ……。
 あと、魚と言ったらさんまの塩焼きに大根おろしを添えて、ちょっとだけ醤油をかけて、とか……ああ、もしもこの世界に醤油があるなら豚の生姜焼きとか、肉じゃがとか食べたいなぁ……。

 僕は昨日死にかけたばかりだったのに、のんきにそんなことを思っていた。

「で?」

 僕がよだれの出そうな妄想をしている横で、レオがどっかりと椅子に座って、ジュリアンに向き合った。

「あの二人はどこへ行った?」

 レオの声は今まで聞いたことも無いくらいに低くて怖い響きだった。






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