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第4話 まさかゴブリンやオークやトロールと???
4-(6) アベルを助けてください……
エディとフィルがどこにいるのかとレオが怖い顔で聞いた。
ジュリアンは表情も変えずに答えた。
「今頃犯人を絞り上げている」
座ったばかりなのに、スッとレオが立ち上がった。
「俺も行く」
「やめろ」
「なんでだよ!」
「レアンドルが行くと犯人から供述を引き出す前に殺しかねん」
「うっ……それは」
レオが図星をさされたように顔をしかめる。
「分かっているだろう? リュカを森の奥まで運び、魔物を召喚して襲わせるなど……あの者一人でとうてい出来ることではない。必ず協力者がいる。いや、協力者というより恐らく黒幕がな」
「だが、リュカをあんな目に合わせたんだぞ。あの糞ガキ、八つ裂きにして心臓を抉り出して骨まで全部すり潰してもまだ収まらねぇ……」
「この騒動の背景がすべて分かってからにしろ。どうせ死罪は免れん」
上品な口から怖い言葉が出てきて、僕はジュリアンを見上げた。
「死罪とか、犯人とか、何の話ですか?」
「それは」
その時、兵士の格好をした使用人が「失礼します」と言って入って来た。
水桶や布を置いたり、テーブルの上に食器を並べたりし始める。
レオが兵士に何かを言うと、準備の途中で兵士達がびしっと踵を合わせるのが見えた。
「しばらく入ってくるなよー」
と、レオが彼らを追い出す。
「あの……?」
僕は、抱っこしてくれているジュリアンの顔を見上げる。
ジュリアンは少し硬い顔でうなずいた。
「そなたを罠にはめて殺そうとした愚か者のことだ」
「罠……?」
「ああ。あのアベルっていう自惚れたクソガキだよ」
「アベルが?」
僕はレオの怒った声に首を傾げた。
アベルが僕を殺そうとした?
「どういう意味ですか? だって、僕を襲ったのは魔物の群れです。僕が不注意で森に入ってしまったから……」
「リュカ、昨日、俺のテントを出てから何があったか、覚えているか」
「え? えっと、あの子たちと宿舎に戻って少し話をして……洗浄薬で後始末をしてから、アベルと待ち合わせをしていた森の入り口に行きました」
「それで? 自分から森の奥へ入ったのか?」
「え……? いいえ……アベルを待っている内になんだか眠くなって……あの大きな木に寄り掛かって……」
あれ? それからどうしたんだっけ?
レオは、かわいそうな子を見るように溜息を吐いた。
「あのガキは宿舎に睡眠薬入りの洗浄薬を持っていた。それをお前に使わせて、森の入口へ行くよう誘ったんだろう。待ち合わせにアベルは来たか?」
僕は首を振った。
「でも、殺そうとするなんて、そんなはずありません。アベルは優しい子です。ぼ、僕の友達です」
エディが宿舎で電撃を見せて脅した時も、僕がレオの部屋で泣いてしまった時も、僕を気遣って優しい言葉をかけてくれた。
それになにより、アベルは、僕にできた初めての友達なのに。
「そうか、リュカはその者を信じていたのだな……。裏切られてさぞかしつらかろう」
ジュリアンも、同情するように僕を見下ろした。
裏切る? アベルが? 僕を?
どうして……?
「リュカ。そなたは未だ誰とも専属契約を結んでおらぬ。まだ王宮の所有物なのだ。王宮のものに手を出すのは何よりも重い罪だ。その者は死を持って償うことになる」
え……?
罠にはめられたとか、アベルが犯人だとか、ショックなことばかり言われただけでなく、さらに追い打ちをかけるように現実を教えられる。
そうか、罪って、僕に対する殺人未遂とかそういう罪じゃないのか……。
僕は王宮の愛玩奴隷だ。だから、人間としてではなく『王宮の所有物』として扱われるらしい。僕が王宮のものではなくただの奴隷ならば、きっと殺しても大した罪にはならなかったんだろう。
ジュリアンの言葉を聞いて、ここは異世界なんだとまざまざと思い知らされた。
「アベルは……殺されるんですか……?」
声が震える。
「ああ、その者は奴隷であろう? 剥奪されるような身分も財産も無い。命を持って贖うしかないのだから、確実に死罪だ」
ぎゅうっと内臓をつかまれたかのように息苦しくなる。
僕はジュリアンの胸にすがりついた。
「お願いです、ジュリアン様。アベルを殺さないでください」
ジュリアンはピクリと片眉を上げた。
「リュカ、そのような聞き分けの無いことを言ってはならぬ」
「でも、ジュリアン様は王子様でしょう? アベルを死罪にしないように命令出来るんじゃないですか?」
レオが後ろから僕の肩をつかんだ。
「リュカ。子供みたいなことを言うな。権力を持つ者が法を無視するようになれば、国は乱れるぞ」
いつも子供っぽいことばかり言うレオが、こんな時ばっかり正論を吐く。
いかにも立派な勇者サマみたいな顔をして見下ろすから、悔しくなった。
目の端にじわっと涙が滲んでくる。
「でも、アベルはまだ子供です! きっと大人に脅されたか、言葉巧みに騙されたに決まっています!」
『陽介』のいた世界の倫理を持ち出しても無駄なことは分かっていたけど、言わずにはいられなかった。
「アベルはまだ大人じゃないから、ちゃんとした判断力が無いんです! 子供に更生する機会を与えずに殺しちゃうなんて、そんなのひどすぎます!」
ぽろぽろと涙がこぼれてくる。
アベルは王宮に連れてこられてから、愛玩奴隷としての調教で毎日泣いていたと言っていた。未成年の子供を奴隷にしておいて、罪を犯せばあっさり死罪にするなんて、この世界はひどく恐ろしい場所だと思った。僕だって、ひとつボタンを掛け違えていれば、同じ運命をたどっていたかもしれないのに……。
「リュカ……!」
レオがまた何か言いかけるのを、ジュリアンが首を振って黙らせた。
「リュカ、泣き止みなさい。どんなことがあっても法は曲げられぬ」
「ジュリアン様……でも」
ジュリアンは優しく僕を抱きしめ、温かい手で背中をさすってきた。まるで泣き止まない赤ちゃんをあやすような仕草だった。
「リュカ。殺されかけたのはそなた自身なのだぞ。それでもアベルという愚か者の助命を私に請うのか」
「はい……はい、どうかお願いします……」
ジュリアンはそっと息をついた。
「分かった……。もしかしたら、そなたが言うようなこともあったのやも知れぬな……。アベルという者が脅されたり騙されたりしていないか、それもきちんと考慮すると約束しよう」
抱きしめてくれた胸から直接響く声は、静かで優しい。
子供へのごまかしではなく、真摯に言ってくれているんだと思った。
「はい……はい、ありがとうございます……」
ジュリアンの形のいい白い指が僕の涙を拭い、優しく僕を腕からおろした。
「さ、顔を洗って身支度をしなさい。私は彼らの様子を見てこよう」
と言って立ち上がる。
レオが慌てたようにぐいっと強く僕の手を引き寄せた。
そしてまるで庇うみたいに、僕を後ろにやって自分の体で隠す。
「ジュリアン……分かっていると思うが、今のリュカは常識も何もかも忘れている赤ん坊みたいなもんだ。今の会話はすべてお前の胸の中に納めておけよ」
「無論だ。ここでのことはすべて不問にする」
「……ならいい」
ふっとレオが息を吐く。
ジュリアンは厳しい目でレオを見た。
「それよりも、リュカから片時も目を離すでないぞ」
「分かっている。黒幕が分かるまでは宿舎にも返さない」
「うむ、それが良い。まだその命を狙われている可能性もある……。リュカ、後でエドゥアールをこちらへ寄越す。また癒しの魔法をかけてもらいなさい」
「は、はい……」
レオの後ろにいる僕に向かって安心させるように微笑むと、ジュリアンはテントを出て行った。
ほうっとレオが深く息を吐く。
「リュカ……まったく、肝が冷えたぞ」
「え」
「何も分かっていないんだろうが、奴隷が王族に意見するなんて、その場で殺されても文句は言えないんだ」
えええええ?
そうなの!?
僕、やらかした?
ジュリアンが優しいからって、僕、調子に乗っちゃってたんだ。
奴隷ってのは、人間じゃなくて所有物扱いだって言われたばかりなのに。
血の気が引いて、少し眩暈がする。
レオは僕の体をぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫だ、リュカ。ジュリアンだって、お前にべた惚れなんだ。多少の無礼は笑って許してくれるさ。それに……」
レオは一瞬、遠くを見る目をした。
「もしもジュリアンがリュカを殺そうとするなら、俺はジュリアンごとこの国を滅ぼしてやるしな」
静かな口調で言われると、本気みたいで怖すぎる。
「もしもリュカが死んだら、この国土のすべてを焦土に変えて、生き物の住めない世界に変えてやるから」
ぞくっと寒気がした。
レオ、自分が勇者じゃなくて魔王的発言をしているって、気付いている?
「ぼ、僕、気を付けます。だから……怖いこと、言わないで……」
「へ? 怖かったか?」
レオは慌てたように僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ごめんなー。もう怖いことは言わないから。さ、顔洗って飯にしよう、な?」
レオがいつものようにニカッと歯を見せるので、僕はうなずいて水桶に近寄った。
エディがいないので、当たり前だけどそれは冷たい水だった。
僕が顔を洗い始めると、レオはテーブルの上の鈴を鳴らした。
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