異世界で美少年奴隷になっちゃった?!

緋川真望

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第5話 まさか紅蓮の勇者さまと

5-(7) 男に触れられるのが嫌なら


 次の日も、またお粥もどきが出た。レオは前世で食べたような炊き立てのご飯が食べたいらしいんだけど、お米の種類の問題か、調理方法をレオがうまく説明できないせいか、お粥みたいに柔らかくなるか焦げ付くかのどちらかになってしまうらしい。

 僕も炊き立てのご飯が食べたいけれど、どうしたらいいのか分からなかった。
 僕がもしも料理を得意としていたら、この世界の料理文化を一歩前へ進められたかもしれないけど、『陽介』だった時には家庭科の授業以外で料理をしたことが無かった。授業では炊飯器のスイッチをピッと押すだけだったし。

 ほかにも経済の知識とか武器や戦術の知識とか、なにかしら得意なことがあればこの世界の役に立ったかもしれないのに、僕は何一つとして得意なものが無い……。

 今だって、リュカの美しい体に入れたから生きていられるんだってことを、はっきり自覚している。もしも『陽介』のままで異世界転移していたら、きっと数日で野垂れ死にしていたと思う。

「「はぁ……」」

 レオと僕の溜息が重なる。

「醤油やみそがあったらなぁ……」

 レオはスープを一口すすって言った。

 うんうん、激しく同意! めちゃくちゃ同意! 言えないけど。




 エディやフィルのところにはお貴族様がたまに来ていたけど、レオのテントにはあの三人しか来ない。レオは元々平民だったというからお貴族様を嫌っているのか、それともお貴族様の方がレオを嫌っているのか。

「勇者様、大魔導士様が入室をご希望でございます」

 午後になって、エディが訪ねてきた。

「入りますよ、勇者殿」
「はは、今日はちゃんと挨拶するんだな」
「ええ、昨日は失礼しました」

 レオと僕はベッドでごろごろしていたんだけど、レオは立ち上がってテーブルの上の鈴を鳴らした。

「エ……」

 僕は一瞬、エディに駆け寄ろうとしたんだけど、また変な空気になったら困るのでベッドの上から動かなかった。

 鈴で呼ばれて入って来たのは、そろいのシャツと長ズボンを履いた男の人達だ。フィルのところの使用人さんと似ていたけど、服はもうちょっと上等そうだった。
 レオがお茶を用意させると、焼き菓子と蜂蜜入りの小さな壺とお茶を二人分セットして出て行った。

「やっと門番を置いたのですね」
「ああ、ジュリアンが俺んところの世話係を全員連れて行って、代わりにって言って、自分の直属を貸してくれたんだ。リュカが滞在している間は、門番は絶対に必要だってさ」
「そうですね。どんな賊が相手でも勇者殿御自身には危険が無いのでしょうけど、リュカは自分で自分の身を守れませんからね」

 エディはベッドにいる僕のそばへ来てくれた。

「リュカ、体の調子はどうですか」

 僕はちらっとレオを見て不機嫌になっていないのを確かめてから、エディに近づいた。

「昨日と全然違います。すごく動きやすいし軽い感じです」
「そう、良かったです……」

 優しい手が頬に触れてきたので、僕は反射的に頬ずりした。
 ラベンダーみたいないい匂いがする。

「少し、じっとしていてくださいね」

 と、エディの指が僕の首の後ろを触る。
 体がひっくり返るような感覚にじっと耐えていると、すぐにエディの指が離れた。

「安定しているようですね。良かった……」
「はい、ありがとうございます」

 エディは僕の体をふわりと抱きしめた。
 いい匂いが僕を包む。
 僕はエディの匂いを大きく吸って、深呼吸した。

「勇者殿にひどいことをされていませんか」

 耳元に口を付けるようにして小声で聞かれたので、僕もひそひそ声で返す。

「大丈夫。お話していただけです」
「聞こえてるぞー」

 レオが言って、お茶をすすった。
 僕とエディは顔を見合わせてくすっと笑った。

「そういや他の二人はどうした。リュカの顔を見に来るかと思っていたんだが」

 レオがお茶に蜂蜜を入れてカチャカチャとスプーンを回している。
 エディはテーブルについて、お茶のカップを持った。
 僕はレオの膝に抱っこしてもらった方がいいのか分からなくて、そのままベッドに座っていた。

「ああ。急用で王都に向かったようですよ」
「王都に? 転移魔法でか?」
「はい」
「なんで突然? 人間用の転移陣は魔石を多く使うし体に負担もかかるし、よほどのことが無ければ使わないだろ?」
「よほどのことがあったのでしょう」

 レオはむっと眉根を寄せた。

「エドゥアール、何か知っているのか」
「いいえ、詳しくは。しかし予想はつきます。昨日アベルの供述を聞いて、今日は勇者殿のところの世話係の兵士を全員連れて行ったのでしょう? その者達の証言などから今回の一件の首謀者が割れたのでは無いですか」

 がたっと音を立ててレオが立ち上がった。

「俺も行く」
「おや、リュカを置いて?」
「なに?」
「勇者殿がここを留守にするなら、リュカは私のテントへ連れて行きますね」
「それはだめだ」

 レオは飛びつくようにして僕の体を抱きしめた。

「エドゥアールばっかりリュカを独り占めするな」
「では王都へ行くのは諦めてください」
「だがあいつら貴族相手だと罰が甘くなるだろ」
「いえ、ジュリアン様はきちんと法にのっとった形で一番重い罰を与えると思いますよ。あの方だって、今回の件ではひどくお怒りでしたから」
「そうか?」
「ええ、そうです」
「じゃぁ、一族郎党皆殺し……」
「にはしません」
「しないのかよ!」

 なんだか漫才みたいな軽い口調で、怖いことを言っている。

「レオ、皆殺しとか言わないでください」

 僕はレオの体にしがみついた。

「リュカ……でも、お前を殺そうとした犯人だぞ」
「僕、助けられたし、もう大丈夫ですから」
「勇者殿、リュカを怖がらせないでください」
「怖がらせるつもりは無いって!」

 レオはかがんで、僕の顔を覗き込んだ。

「リュカは本当に優しいな。殺されかけたってのに、あの糞ガキの命乞いまでして」

 ええと、優しいわけじゃなくて、日本人なだけなんだけど……。

 レオは前世の記憶があっても日本人的な発想はしないみたいだ。15歳で記憶を取り戻した時も、味覚以外に影響は無かったと言っていたし。

 勇者レオも、この優しそうなエディも、戦争に参加していたんだから、きっとたくさん人を殺してきたんだよね。

 ここでは日本よりもずっと命の価値が軽い気がする。別世界にいるんだと、ふいに強く感じた。

「そんな不安そうな顔をするな、リュカ。……うん、分かった! もう怖いことは言わない。この件は全部ジュリアンに任せるからな」
「それがよろしいと思います」

 エディは微笑み、テーブルの上にポーションの小瓶を3つ置いた。

「怖がらせたお詫びに、今夜はリュカを優しく慰めてやってください」

 レオがグルンと首を回して振り返る。

「いいのか……!」
「ええ。魔力も安定しているようですし」
「そうか! リュカ! お許しが出たぞ!」

 え? え? 何のお許し?

「ただし、くれぐれも無理はさせずに……リュカがもし……」
「分かってるって! 気を失ったら無理に起こさない、だろ?」
「はい……。この子は以前のリュカとは違います。素人と同じですから」

 そこまで言われてやっと気付いた。
 エッチOKというお許しか。
 無邪気に喜ぶレオを見て、僕は顔が熱くなってくるのを感じてうつむいた。

 ふと、視線を感じて顔を上げる。
 エディが感情の無いような顔をして、僕を見ていた。

「エディ……?」

 不安になって名前を呼ぶ。
 エディは、いつもより少し低い声で言った。

「リュカ、もしも……もしもあなたが男に体を触れられるのが嫌なのなら……」
「嫌なんかじゃないです!」

 僕は慌てて首を振った。

「僕、あの時、何も分からなくて怖かったけど、エディに触ってもらえて嬉しかったです。記憶を失くす前のことは分からないけど……今の僕はエディにまた触って欲しい……エディにまた抱いて欲し……」
「俺の前でそんな話をするな」

 大きな手が僕の口をふさいだ。

「勇者殿……」
「エドゥアール、俺はリュカの嫌がることをするつもりは無ぇよ。もしも男に触られたくないって言うなら、もう絶対に触らない。でも、リュカは昨日、俺にも抱いて欲しいって言ったぞ」

 エディの目が大きく見開かれた。

「リュカが……?」
「ああ、そうだよな、リュカ?」

 本当のことなので、僕はこくりとうなずいた。

「ほらな。リュカはまだ誰も選んじゃいない。はっきりとリュカが誰かの専属になるまで、しばらくこのままだな」

 エディは目を伏せた。

「ええ……そのようですね……」

 うつむいたエディは、何だか、今にも泣いてしまいそうに見えた。
 え、やだ。エディが泣くのは嫌だ。

 エディ……?

「えいー?」

 呼ぼうとしたけど口をふさがれていたので変な声になった。

 エディは顔を上げた。
 その顔はいつも通りに優しく微笑んでいた。

 あれ? 今のは僕の見間違い?

「リュカ……。私はあなたが幸せならそれでいいのです。勇者殿に触って欲しいと以前にも言っていましたものね……」
「ああ。お前にも触って欲しいとついさっき言ってたけどな」
「ええ、そうでしたね……」

 エディはじっと僕を見た。
 その目は困っているような、悲しんでいるような、でもいつも通りに優しいような感じがして、僕にはエディの感情は読み取れなかった。

「リュカ、次にまた私の番が来たら、リュカがして欲しいことを何でもしてあげましょう。記憶を失くしたり死にかけたりで大変でしたが、これから少し、自分のことを考えてみてください。誰かの専属になりたいのか、もしくはなりたくないのか……。リュカの一番の望みは何か、私に教えて欲しいのです」

 僕の一番の望み……?
 そんなの、はっきり分かり切っている。

―― もう二度と、誰にもいじめられないこと。

 僕の望みはただそれだけなんだけど……?

 僕が口をふさがれたままパチパチと瞬きしていると、エディはふっと微笑んでみせてから、静かにテントを出ていった。


 エディがテントを出てすぐ、レオは入り口から顔を出して見張りの兵士に何かを言った。
 そして戻ってくるなり、するすると僕の服を脱がし始めた。

「あ、あの、今すぐ……? 夜まで待たないのですか……?」
「もう待てない」

 レオはばさりと自分の服を脱いだ。







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