37 / 121
第5話 まさか紅蓮の勇者さまと
5-(9) 「勇者の初恋」
俺はレアンドル・テオドール、『紅蓮の勇者』だ。
この世界の最強にして唯一の勇者でもある。
紅蓮と名乗ったからって、別に炎の魔法が一番得意なわけじゃない。
雷系だろうが、氷系だろうが、風系だろうが、聖光系だろうが攻撃魔法なら何でも出来る。
俺の髪が真っ赤なことと、なんとなく響きがかっこいいから『紅蓮』ってつけてみただけだ。
やっぱヒーローなんだから、センスのいい二つ名がないとかっこつかないと思うんだ。
世界中央教会とかいうところの一番偉いやつが、神託を受けたとか言って大騒ぎしたのは、俺が10歳になったばかりの時だった。
『テアドール村のレアンドルというガキが今の勇者だよー』とかなんとかいうことを、教会特有の難しい言葉で告げたらしい。
で、ジュリアンの親父が、『勇者様』である俺に対して仰々しい迎えを寄越し、俺を王都に呼び寄せた。
俺は勇者に特別憧れていたわけじゃなかったけど、自分がどのくらい強いのかを試してみたいとは思っていた。だから村のみんなに盛大に送り出されて、意気揚々と王都へ乗り込んだんだ。
その時に、身分がどうのこうのとうるさく言うやつがいて、姓が無いのはまずいからって、生まれ育った村の『テオドール』という名を姓にもらった。
うん、結論から言うと、俺はやっぱり強かった。
勇者っていう称号は伊達じゃない。
ドラゴンが暴れていると聞けば退治に行き、シーサーペントが出現して漁が出来ないと聞けば退治に行き、アンデッドが大量発生していると聞けば浄化に行った。
それは国内に限らない。勇者を輩出した国は、他国にも貢献しなくちゃならないんだと。俺はジュリアンの親父に言われるままに、ドワーフの国にもエルフの国にも、他の人間の国にも行って、魔物のせいで危機に瀕している村とか街とか都市とかを救って歩いた。前世で言うところの災害派遣みたいなもんかなぁ。
ほんと、ジュリアンの親父は人使いが荒いんだ。
それから、今年になって戦争もあった……。
最強の勇者がこの国にいると分かっていて、なんで魔族の国は侵攻しようと思ったのか。
角が生えているとはいえ、人と似た姿の相手を攻撃するのは、正直にいえばちょっと嫌だった。
俺とエドゥアールとフィリベールが参加したから、なんかもう戦況は一方的だったし。
やっと休戦協定を結ぶって聞いた時は、心底ほっとした。
人型の生き物を殺すことに、どんどん慣れていく自分が嫌だったから。
今、魔族の王様とジュリアンの親父は世界中央教会で『お話し合い』をしているらしい。ただ、魔族の国の王にはなかなかに魔力の強い息子がいて、ちょっと心配だから国境近くで見張っていなさいっていうことになった。それで、今回の名ばかり討伐軍が派遣されることになり、俺たちの参加も勝手に決められていたんだ。
ま、いいよ。
戦争が終わるならその方がいいし、何より、俺はここでリュカに会えたしな。
リュカには一目惚れだった。いや、一目っていうか、一回っていうか。
それまで男を抱いたことは一度も無かったけれど、試しに抱いてみたらものすごく良かったんだ。男の子があんなにいいもんだとは、目から鱗って言うか、食わず嫌いでもったいなかったなと後悔したくらいだ。
リュカは俺が話す前世の記憶も無条件で信じてくれたし、話し上手で聞き上手で、とにかく一緒にいるだけで楽しかった。
俺はリュカが大好きになったし、リュカも俺のことが大好きなんだと思っていた……。
リュカは全身を脱力させて、べとべとの体のままベッドに横たわっている。
終わった後にすぐ自分で後始末していた以前のリュカとは別人のようだ。
エドゥアールとフィリベールが数日前に警告してきた通りだった。
「リュカ……」
リュカの金色のまつげが震え、うっすらとまぶたが上がる。
青い瞳は焦点が合わないかのように揺れている。
「れお……」
俺を呼ぶその声がひどく枯れていて、俺は少し慌てた。
「ごめん、リュカ。寝ていていいから」
頭を撫でると、リュカは安心したように目を閉じた。
無理をさせるなとしつこく進言してきたあの魔導士のムカつく顔が浮かぶ。
「ちっ」
俺は舌打ちして立ち上がった。
体用の洗浄薬を取ってきて、リュカの全身に振りかける。泡立って消えるのを待ってから軽く布で拭いてやる。足を持ち上げるとゴポッと変な音がして、後ろから俺の出したものがどろりと溢れてきた。
うわ、何回出したっけ? ちょっとやり過ぎたよな……。
青色の洗浄薬を使って後ろの穴も後始末してやる。力の無い体を支えて下着を履かせてやり、俺と揃いの赤い寝間着を着せてやる。
俺は愛玩奴隷に対して、というより今まで寝たどんな相手に対しても、ここまで世話してやったことはない。
「あーあー、何やってんだろうなぁ、俺」
小さく呟き、天を、というか赤いテントの天井を見上げた。
奴隷のくせに、と思っているわけじゃない。
体を動かせないほどに抱いたのは俺だしな。
ただ、体力の無い男の子を嫉妬のあまり気絶するまで抱くなんて、自分がよく分からなくなっただけだ。
「俺もバカだが、お前もバカだぞ、リュカ」
リュカが誰を想っているかなんて、リュカの目を見ていりゃ鈍感な俺でもさすがに気付く。俺が気付くくらいだから、多分、フィリベールもジュリアンも気付いているはずだ。
分かっていないのは本人同士のみ。
そのくせ「あなたが幸せならそれでいいのです」などと澄まして言いやがって、あの阿呆が。
「くそっ、ムカつくっ」
何が一番ムカつくかって、それは自分自身に対してだ。
リュカが無自覚なのをいいことに、愛玩奴隷として体を開かせた。
めちゃくちゃに感じさせて俺の体の虜にしてしまえば……なんて、姑息かつ哀れな期待を抱いてしまったのは否定できない。
リュカは確かに、俺の下ですげぇよがって喘いでいたけど……。
ぐったりしている華奢な体を撫でる。
「んん……」
リュカは少し眉をしかめた。
「ごめ……なさ…………もうむり……です……」
ああ、やっぱりやりすぎたか。
俺は細い体の隣に横たわって、あいつの声真似で囁いてみる。
『……リュカ、私です、エディですよ……』
リュカの口元がほころび、両手で俺の腕にしがみついてきた。
「エディ……」
けっ。
予想通り過ぎて、むしろ笑いが込み上げてくるぜ。
「エディ………かないで……」
行かないで、それとも泣かないで、か?
リュカは俺に頭を擦り付けてくる。
小動物みたいで、ものすごくかわいい。
眺めている内に、リュカのかわいい顔がゆらぁっと滲んできた。
両目から涙が出ていた。
なんだよ、こんなんありか?
俺は、終わってしまった今になって気付いた。
ああ、これが、初恋だったんだなって。
記憶を失う前のリュカは、恵まれた見た目とともに強い心を持っていたらしい。
もしも妹のことが無ければ、リュカは愛玩奴隷になることも無く、学問でも商売でも剣や魔法の冒険でも、どんな人生の道を選んでも逞しく生き抜いていたはずだった。
記憶を失う前のリュカはそれだけの資質を持っていたんだと、ジュリアンやフィリベールの言葉を聞いて、やっと俺はその事を知った。
俺に召し出された時のリュカはいつも楽しそうだったが、女のように組み敷かれることを本気で喜んでいたのかは、今となっては分からない。
ただ、俺の前世の話を聞いている時だけは、演技ではなく素だったと思っている。毎回熱心にいろんな質問をしてきて、熱心に聞き入っていた。一般家庭の生活のこと、通貨のこと、学校のこと……あれは物珍しい話を楽しんでいたんじゃなくて、違う世界の日本という国に憧れていたんじゃないかと思う。もしかしたらリュカは、まったく違う異世界で奴隷じゃない人生を生きてみたかったのかもしれない……。
その頃の俺は、リュカを俺の専属にしてやるのがリュカの幸せだと思っていた。
でも、平民になるのがリュカの望みだったのなら、それは迷惑な話だっただろう。
誰の専属にもなりたくないから、俺達四人を誘惑して争わせて、時間稼ぎをしていたのかもしれない。
本当のことは、もう聞けない。
リュカはすべての記憶を失くしてしまった。
「ずるいやつだな、お前は」
人のことを誘惑しておいて、勝手に記憶を失って、子供みたいになったかと思うと、俺じゃない男を好きになるなんて……。
「エディ……」
かすれた声。あいつを求める手。
「はいはい、ここにいるって」
あいつの代りにそっと抱きしめて背中を撫でてやると、リュカはすぅすぅとかわいい寝息を立て始めた。
昼間からサカってしまったから、リュカが目を覚ましたのは深夜だった。
ポーションを渡して飲ませてやると、リュカは勇者様の話を聞きたいと言った。
「前世のことを思い出した時って、どんな感じだったんですか?」
好きでもない男にさんざん抱かれたくせに、無邪気な顔して笑っていやがる。
無自覚天然小悪魔系ヒロインかよ。
心の中で突っ込みつつ、華奢な体を抱き寄せる。
リュカは抵抗なく俺の胸に寄り掛かって来た。
記憶を失って訳の分からない頃に、自分が愛玩奴隷で四人の男に共有されているんだと教えられたから、それが当たり前と受け入れてしまったらしい。
リュカは俺達四人に懐いている。素直で従順な愛玩奴隷として。
青い瞳をじーっと見ていると、リュカは瞬きして首を傾げた。
「レオ?」
あー、くそかわいいな。
まったく未練が消えてくれない。
前世での俺の名前は加藤竜也といった。享年24歳、中肉中背、イケメンでもブサメンでもない。絵にかいたような平凡な人生を生きた。
成績は常に平均よりちょっと上、野球部ではギリギリレギュラー入り、交際歴はまぁ多くはないがそれなりにかわいい子が二人、大学は三流の私立、就職先は中堅どころの手堅い商社。特に目立つことも無かったけれど、まぁ、順調といえば順調な人生だった。
不慮の事故で死んだわけだが、あっという間の即死だったから、強烈な未練とか恨みも残らなかった。
だから、なんで転生したのかも分からないし、なんで前世の記憶が蘇ったのかもまったくもって分からない。
前世の記憶が蘇った時にはすでに15歳を超えていて、レアンドルとしての強い自我があったためなのか、思い出しても俺の性格にはほとんど影響が無かった。『そんなこともあったなぁ……』っていうくらいの遠い他人事みたいな記憶だった。
そもそも、自分が転生者だと気付いた時点で、俺はすでに教会から神託を受けた正真正銘の『勇者』だった。
だから、前世でたまに読んだことのある異世界転生物のラノベみたいな展開は、俺には起こらなかったし、ぜんぜん必要も無かったんだ。
例えば、わざわざ冒険者ギルドに登録してワイバーンかなんかを討伐してきて、『新人のFランク冒険者なのに、ワイバーンを?!』みたいにギルド受付のお姉さんに称賛される必要は無かったし。
例えば、旅の途中でいじめられている奴隷かなんかを拾ってやって『あなたは命の恩人です!』みたいな崇拝の目を向けられる必要も無かったし。
例えば、『俺、できるだけ目立ちたくないんだよな』とか嘯きながら村や町を救って『あなたは救世主です!』なんて讃えられて目立ちまくる必要も無かった。
そもそも誰にも虐げられていなかったから、『ざまぁ』する相手もいなかったしな。
だって、すでに勇者だったし。
すでに国の救世主だったし。
つまり俺はその時とっくに、『俺TUEEE』な状態で、地位も名誉もあるし、女にもモテるし、勝手に金が入ってくるし、ま、前世の記憶があろうと無かろうとまったくなんの影響も無かったのだ。
「あははは」
意味が分かっているのかいないのか、リュカは楽しそうに笑った。
「レオはかっこいいです」
と言って、俺の目をじっと見てくる。
「かっこいいか?」
「はい、勇者であることが当たり前で、自然で、前世の記憶にも振り回されないくらいに自分を強く持っていて、しかも世界最強なのに僕なんかにも優しくしてくれて、レオはすごくかっこいいです」
リュカの目は少し潤んでいた。
俺はなぜかちょっと不安になって、リュカの体を両手で抱きしめた。
リュカは前世の記憶なんて無いと言ったけれど、絶対に何かを隠している。
考えていることがすぐ表情に出るくせに、隠し事が出来ると思っているのが間違いだ。
でも、話したくないなら無理に聞こうとは思わない。
今のリュカはひどく不安定で、ほんのちょっとしたことで心も体も壊れてしまいそうだ。
なぁ、リュカ……お前、あいつには、本当のことを全部話すつもりなのか……?
勇者として生きてきて、欲しいものは何でも手に入ってきた。
思い通りにならないものはまず無かった。
この世界では、勇者である俺の幸運レベルは最大値なんだと思う。
でも。
たったひとつだけ、欲しくて欲しくてたまらないのに、どうしても手に入らないものがある。
「リュカ……」
リュカのかわいい笑顔も、柔らかい髪も、滑らかな肌も、耳に心地いい声も、全部、全部、俺だけのものにしたいのに。
あいつを……あいつらを皆殺しにして手に入るならとっくにそうしている。
俺は世界で唯一の勇者、最強の男だ。
エドゥアールだろうがフィリベールだろうが、ジュリアンの率いる何万という軍勢だろうが、全員殺すだけの力はある。
だけど。
そんなことをして手に入れても、リュカはもう俺に笑いかけてはくれないだろう。
恐怖の目も嫌悪の目もいらない。
俺が欲しいのは、俺だけに向けられるリュカの楽しそうな笑顔だ。
「俺は、リュカが欲しいよ……」
耳元で呟くと、リュカは迷いなく「はい」と答えた。
「どうぞ、もう一回、しますか?」
と、せっかく着せたローブをはだけさせた。
俺はこっそり溜息をついて、はだけた赤いローブを元に戻してリュカを抱き寄せた。
「もう一回眠ろう。抱きしめたまま眠っていいか」
聞くとリュカは嬉しそうにうなずいて、俺の胸に顔をうずめた。
小さくて、柔らかくて、温かい体。
俺の腕の中にいるのに、俺のものじゃない存在。
俺はまた涙が出てきた。
おかしいな……勇者って、普通、主役だよなぁ。
・
この世界の最強にして唯一の勇者でもある。
紅蓮と名乗ったからって、別に炎の魔法が一番得意なわけじゃない。
雷系だろうが、氷系だろうが、風系だろうが、聖光系だろうが攻撃魔法なら何でも出来る。
俺の髪が真っ赤なことと、なんとなく響きがかっこいいから『紅蓮』ってつけてみただけだ。
やっぱヒーローなんだから、センスのいい二つ名がないとかっこつかないと思うんだ。
世界中央教会とかいうところの一番偉いやつが、神託を受けたとか言って大騒ぎしたのは、俺が10歳になったばかりの時だった。
『テアドール村のレアンドルというガキが今の勇者だよー』とかなんとかいうことを、教会特有の難しい言葉で告げたらしい。
で、ジュリアンの親父が、『勇者様』である俺に対して仰々しい迎えを寄越し、俺を王都に呼び寄せた。
俺は勇者に特別憧れていたわけじゃなかったけど、自分がどのくらい強いのかを試してみたいとは思っていた。だから村のみんなに盛大に送り出されて、意気揚々と王都へ乗り込んだんだ。
その時に、身分がどうのこうのとうるさく言うやつがいて、姓が無いのはまずいからって、生まれ育った村の『テオドール』という名を姓にもらった。
うん、結論から言うと、俺はやっぱり強かった。
勇者っていう称号は伊達じゃない。
ドラゴンが暴れていると聞けば退治に行き、シーサーペントが出現して漁が出来ないと聞けば退治に行き、アンデッドが大量発生していると聞けば浄化に行った。
それは国内に限らない。勇者を輩出した国は、他国にも貢献しなくちゃならないんだと。俺はジュリアンの親父に言われるままに、ドワーフの国にもエルフの国にも、他の人間の国にも行って、魔物のせいで危機に瀕している村とか街とか都市とかを救って歩いた。前世で言うところの災害派遣みたいなもんかなぁ。
ほんと、ジュリアンの親父は人使いが荒いんだ。
それから、今年になって戦争もあった……。
最強の勇者がこの国にいると分かっていて、なんで魔族の国は侵攻しようと思ったのか。
角が生えているとはいえ、人と似た姿の相手を攻撃するのは、正直にいえばちょっと嫌だった。
俺とエドゥアールとフィリベールが参加したから、なんかもう戦況は一方的だったし。
やっと休戦協定を結ぶって聞いた時は、心底ほっとした。
人型の生き物を殺すことに、どんどん慣れていく自分が嫌だったから。
今、魔族の王様とジュリアンの親父は世界中央教会で『お話し合い』をしているらしい。ただ、魔族の国の王にはなかなかに魔力の強い息子がいて、ちょっと心配だから国境近くで見張っていなさいっていうことになった。それで、今回の名ばかり討伐軍が派遣されることになり、俺たちの参加も勝手に決められていたんだ。
ま、いいよ。
戦争が終わるならその方がいいし、何より、俺はここでリュカに会えたしな。
リュカには一目惚れだった。いや、一目っていうか、一回っていうか。
それまで男を抱いたことは一度も無かったけれど、試しに抱いてみたらものすごく良かったんだ。男の子があんなにいいもんだとは、目から鱗って言うか、食わず嫌いでもったいなかったなと後悔したくらいだ。
リュカは俺が話す前世の記憶も無条件で信じてくれたし、話し上手で聞き上手で、とにかく一緒にいるだけで楽しかった。
俺はリュカが大好きになったし、リュカも俺のことが大好きなんだと思っていた……。
リュカは全身を脱力させて、べとべとの体のままベッドに横たわっている。
終わった後にすぐ自分で後始末していた以前のリュカとは別人のようだ。
エドゥアールとフィリベールが数日前に警告してきた通りだった。
「リュカ……」
リュカの金色のまつげが震え、うっすらとまぶたが上がる。
青い瞳は焦点が合わないかのように揺れている。
「れお……」
俺を呼ぶその声がひどく枯れていて、俺は少し慌てた。
「ごめん、リュカ。寝ていていいから」
頭を撫でると、リュカは安心したように目を閉じた。
無理をさせるなとしつこく進言してきたあの魔導士のムカつく顔が浮かぶ。
「ちっ」
俺は舌打ちして立ち上がった。
体用の洗浄薬を取ってきて、リュカの全身に振りかける。泡立って消えるのを待ってから軽く布で拭いてやる。足を持ち上げるとゴポッと変な音がして、後ろから俺の出したものがどろりと溢れてきた。
うわ、何回出したっけ? ちょっとやり過ぎたよな……。
青色の洗浄薬を使って後ろの穴も後始末してやる。力の無い体を支えて下着を履かせてやり、俺と揃いの赤い寝間着を着せてやる。
俺は愛玩奴隷に対して、というより今まで寝たどんな相手に対しても、ここまで世話してやったことはない。
「あーあー、何やってんだろうなぁ、俺」
小さく呟き、天を、というか赤いテントの天井を見上げた。
奴隷のくせに、と思っているわけじゃない。
体を動かせないほどに抱いたのは俺だしな。
ただ、体力の無い男の子を嫉妬のあまり気絶するまで抱くなんて、自分がよく分からなくなっただけだ。
「俺もバカだが、お前もバカだぞ、リュカ」
リュカが誰を想っているかなんて、リュカの目を見ていりゃ鈍感な俺でもさすがに気付く。俺が気付くくらいだから、多分、フィリベールもジュリアンも気付いているはずだ。
分かっていないのは本人同士のみ。
そのくせ「あなたが幸せならそれでいいのです」などと澄まして言いやがって、あの阿呆が。
「くそっ、ムカつくっ」
何が一番ムカつくかって、それは自分自身に対してだ。
リュカが無自覚なのをいいことに、愛玩奴隷として体を開かせた。
めちゃくちゃに感じさせて俺の体の虜にしてしまえば……なんて、姑息かつ哀れな期待を抱いてしまったのは否定できない。
リュカは確かに、俺の下ですげぇよがって喘いでいたけど……。
ぐったりしている華奢な体を撫でる。
「んん……」
リュカは少し眉をしかめた。
「ごめ……なさ…………もうむり……です……」
ああ、やっぱりやりすぎたか。
俺は細い体の隣に横たわって、あいつの声真似で囁いてみる。
『……リュカ、私です、エディですよ……』
リュカの口元がほころび、両手で俺の腕にしがみついてきた。
「エディ……」
けっ。
予想通り過ぎて、むしろ笑いが込み上げてくるぜ。
「エディ………かないで……」
行かないで、それとも泣かないで、か?
リュカは俺に頭を擦り付けてくる。
小動物みたいで、ものすごくかわいい。
眺めている内に、リュカのかわいい顔がゆらぁっと滲んできた。
両目から涙が出ていた。
なんだよ、こんなんありか?
俺は、終わってしまった今になって気付いた。
ああ、これが、初恋だったんだなって。
記憶を失う前のリュカは、恵まれた見た目とともに強い心を持っていたらしい。
もしも妹のことが無ければ、リュカは愛玩奴隷になることも無く、学問でも商売でも剣や魔法の冒険でも、どんな人生の道を選んでも逞しく生き抜いていたはずだった。
記憶を失う前のリュカはそれだけの資質を持っていたんだと、ジュリアンやフィリベールの言葉を聞いて、やっと俺はその事を知った。
俺に召し出された時のリュカはいつも楽しそうだったが、女のように組み敷かれることを本気で喜んでいたのかは、今となっては分からない。
ただ、俺の前世の話を聞いている時だけは、演技ではなく素だったと思っている。毎回熱心にいろんな質問をしてきて、熱心に聞き入っていた。一般家庭の生活のこと、通貨のこと、学校のこと……あれは物珍しい話を楽しんでいたんじゃなくて、違う世界の日本という国に憧れていたんじゃないかと思う。もしかしたらリュカは、まったく違う異世界で奴隷じゃない人生を生きてみたかったのかもしれない……。
その頃の俺は、リュカを俺の専属にしてやるのがリュカの幸せだと思っていた。
でも、平民になるのがリュカの望みだったのなら、それは迷惑な話だっただろう。
誰の専属にもなりたくないから、俺達四人を誘惑して争わせて、時間稼ぎをしていたのかもしれない。
本当のことは、もう聞けない。
リュカはすべての記憶を失くしてしまった。
「ずるいやつだな、お前は」
人のことを誘惑しておいて、勝手に記憶を失って、子供みたいになったかと思うと、俺じゃない男を好きになるなんて……。
「エディ……」
かすれた声。あいつを求める手。
「はいはい、ここにいるって」
あいつの代りにそっと抱きしめて背中を撫でてやると、リュカはすぅすぅとかわいい寝息を立て始めた。
昼間からサカってしまったから、リュカが目を覚ましたのは深夜だった。
ポーションを渡して飲ませてやると、リュカは勇者様の話を聞きたいと言った。
「前世のことを思い出した時って、どんな感じだったんですか?」
好きでもない男にさんざん抱かれたくせに、無邪気な顔して笑っていやがる。
無自覚天然小悪魔系ヒロインかよ。
心の中で突っ込みつつ、華奢な体を抱き寄せる。
リュカは抵抗なく俺の胸に寄り掛かって来た。
記憶を失って訳の分からない頃に、自分が愛玩奴隷で四人の男に共有されているんだと教えられたから、それが当たり前と受け入れてしまったらしい。
リュカは俺達四人に懐いている。素直で従順な愛玩奴隷として。
青い瞳をじーっと見ていると、リュカは瞬きして首を傾げた。
「レオ?」
あー、くそかわいいな。
まったく未練が消えてくれない。
前世での俺の名前は加藤竜也といった。享年24歳、中肉中背、イケメンでもブサメンでもない。絵にかいたような平凡な人生を生きた。
成績は常に平均よりちょっと上、野球部ではギリギリレギュラー入り、交際歴はまぁ多くはないがそれなりにかわいい子が二人、大学は三流の私立、就職先は中堅どころの手堅い商社。特に目立つことも無かったけれど、まぁ、順調といえば順調な人生だった。
不慮の事故で死んだわけだが、あっという間の即死だったから、強烈な未練とか恨みも残らなかった。
だから、なんで転生したのかも分からないし、なんで前世の記憶が蘇ったのかもまったくもって分からない。
前世の記憶が蘇った時にはすでに15歳を超えていて、レアンドルとしての強い自我があったためなのか、思い出しても俺の性格にはほとんど影響が無かった。『そんなこともあったなぁ……』っていうくらいの遠い他人事みたいな記憶だった。
そもそも、自分が転生者だと気付いた時点で、俺はすでに教会から神託を受けた正真正銘の『勇者』だった。
だから、前世でたまに読んだことのある異世界転生物のラノベみたいな展開は、俺には起こらなかったし、ぜんぜん必要も無かったんだ。
例えば、わざわざ冒険者ギルドに登録してワイバーンかなんかを討伐してきて、『新人のFランク冒険者なのに、ワイバーンを?!』みたいにギルド受付のお姉さんに称賛される必要は無かったし。
例えば、旅の途中でいじめられている奴隷かなんかを拾ってやって『あなたは命の恩人です!』みたいな崇拝の目を向けられる必要も無かったし。
例えば、『俺、できるだけ目立ちたくないんだよな』とか嘯きながら村や町を救って『あなたは救世主です!』なんて讃えられて目立ちまくる必要も無かった。
そもそも誰にも虐げられていなかったから、『ざまぁ』する相手もいなかったしな。
だって、すでに勇者だったし。
すでに国の救世主だったし。
つまり俺はその時とっくに、『俺TUEEE』な状態で、地位も名誉もあるし、女にもモテるし、勝手に金が入ってくるし、ま、前世の記憶があろうと無かろうとまったくなんの影響も無かったのだ。
「あははは」
意味が分かっているのかいないのか、リュカは楽しそうに笑った。
「レオはかっこいいです」
と言って、俺の目をじっと見てくる。
「かっこいいか?」
「はい、勇者であることが当たり前で、自然で、前世の記憶にも振り回されないくらいに自分を強く持っていて、しかも世界最強なのに僕なんかにも優しくしてくれて、レオはすごくかっこいいです」
リュカの目は少し潤んでいた。
俺はなぜかちょっと不安になって、リュカの体を両手で抱きしめた。
リュカは前世の記憶なんて無いと言ったけれど、絶対に何かを隠している。
考えていることがすぐ表情に出るくせに、隠し事が出来ると思っているのが間違いだ。
でも、話したくないなら無理に聞こうとは思わない。
今のリュカはひどく不安定で、ほんのちょっとしたことで心も体も壊れてしまいそうだ。
なぁ、リュカ……お前、あいつには、本当のことを全部話すつもりなのか……?
勇者として生きてきて、欲しいものは何でも手に入ってきた。
思い通りにならないものはまず無かった。
この世界では、勇者である俺の幸運レベルは最大値なんだと思う。
でも。
たったひとつだけ、欲しくて欲しくてたまらないのに、どうしても手に入らないものがある。
「リュカ……」
リュカのかわいい笑顔も、柔らかい髪も、滑らかな肌も、耳に心地いい声も、全部、全部、俺だけのものにしたいのに。
あいつを……あいつらを皆殺しにして手に入るならとっくにそうしている。
俺は世界で唯一の勇者、最強の男だ。
エドゥアールだろうがフィリベールだろうが、ジュリアンの率いる何万という軍勢だろうが、全員殺すだけの力はある。
だけど。
そんなことをして手に入れても、リュカはもう俺に笑いかけてはくれないだろう。
恐怖の目も嫌悪の目もいらない。
俺が欲しいのは、俺だけに向けられるリュカの楽しそうな笑顔だ。
「俺は、リュカが欲しいよ……」
耳元で呟くと、リュカは迷いなく「はい」と答えた。
「どうぞ、もう一回、しますか?」
と、せっかく着せたローブをはだけさせた。
俺はこっそり溜息をついて、はだけた赤いローブを元に戻してリュカを抱き寄せた。
「もう一回眠ろう。抱きしめたまま眠っていいか」
聞くとリュカは嬉しそうにうなずいて、俺の胸に顔をうずめた。
小さくて、柔らかくて、温かい体。
俺の腕の中にいるのに、俺のものじゃない存在。
俺はまた涙が出てきた。
おかしいな……勇者って、普通、主役だよなぁ。
・
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!
モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。
その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。
魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。
その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?!
ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
魔王に転生したら、イケメンたちから溺愛されてます
トモモト ヨシユキ
BL
気がつくと、なぜか、魔王になっていた俺。
魔王の手下たちと、俺の本体に入っている魔王を取り戻すべく旅立つが・・
なんで、俺の体に入った魔王様が、俺の幼馴染みの勇者とできちゃってるの⁉️
エブリスタにも、掲載しています。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。