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第6話 まさか氷の第三王子さまと
6-(5) 色目を使うな
ジュリアンの膝でうとうとしかけた時、人が近づいて来る気配で目を覚ました。
「殿下、グレゴワール卿がお待ちでございますが」
使用人の声にジュリアンがハッとしたように顔を上げる。
「そうだったな。すぐ行く」
ジュリアンはお貴族様と約束があったみたいだった。
だから、僕を抱いた後すぐに着替えたらしい。
ジュリアンは優しく僕を抱き上げて、ベッドに横たえた。
レースの布の向こうで控えていたルーが、すっとジュリアンに近づく。
「ルー、カイルがいるからついてこなくて良い。リュカの世話を頼む」
言われて、返事の代りみたいにルーはビシッと踵を揃えた。
「リュカが欲しがるものなら、菓子でも何でも与えてよい。リュカを私と思って仕えるように。それから、他の者をリュカに触れさせるな。そなたも、極力リュカの肌には触れるな。よいな」
ルーがまたビシッと踵を合わせる。
「ああ……。黙っていろという命令は解除する」
「ありがとうございます」
「うむ」
ジュリアンは僕に向き直って、優しく髪を撫でる。
「リュカ、私が戻るまで少し時間がかかるかも知れぬが、ゆっくり休んでいなさい。必要なものはルーに言うように」
「はい……」
恋人にするみたいにキスをしてから、ジュリアンは寝室を出て行った。
残されたのは、一部始終を見られていた奴隷と見ていた奴隷の二人きり、ちょっと気まずい。
「あの……ルーさん」
「ルーと呼び捨ててかまわない。私もリュカと呼ぶ」
「はい。ルー、喉が渇いたので、お水をください」
「水でいいのか、果汁でも蜂蜜入りの茶でも用意できるが」
「では、果汁をお願いします」
「分かった」
ルーがレースの布をめくって出て行こうとするのを、僕は呼び止めた。
「あの、今、何時頃ですか」
「何時?」
「あの、えっと、時間……えっと時計ってありますか……?」
「時計だと?」
ルーが眉をしかめる。
ん? もしかしてこの世界には時計が無いの?
「愛玩奴隷に時計が必要とは思えないが」
「え、そうなんですか? あの、ちょっと見てみたいと思っただけなので」
「……分かった。用意させる」
用意させる?
僕が不思議に思っている内にルーは果汁の入ったコップを手に、ジュリアンの使用人らしき中年の男を引き連れて戻って来た。
おお、この人、ちょっとぷよぷよだ。
この世界にも太っている人、ちゃんといたんだ。
「なぜ奴隷ごときに、貴重な魔道具を見せねばならんのだ」
あれ? ぷよぷよさん、なんか怒ってる?
「欲しがるものは何でも与えよとの、殿下のお言葉ですので」
「はぁ? 奴隷に時計を与えよとおっしゃったのか? 時計ひとつで奴隷を何十人買えると思っているのだ!」
「いえ、時計は見せるだけで十分でございます」
えええ? 時計ってそんなに高価なものなの?
どうしよう、なんかけっこうな大事になってしまったみたい。
ルーは僕にコップを手渡すと、ベッドのそばにテーブルを持ってきた。
ぷよぷよさんがその上に、直径20㎝くらいの平たくて丸い石を置いた。白くてきれいな模様がいっぱい掘ってあって、真ん中がへこんでいる。数字らしきものも無いし、長針も短針も無い。
「これが、時計ですか……?」
僕はぷよぷよさんの顔を見上げて聞いた。
「はぅっ」
ぷよぷよさんはボッと火が出そうなくらいに、いきなり真っ赤になった。
「……あ、ああ、そうだ、こここれが時計だ……!」
「どうやって時間が分かるんですか?」
「こここれに魔石をはめると、さ、ささ作動する」
さっきまで怒っていたのに、今はおかしなくらいにキョドっている。
なんだろう?
やっぱり、王子様の寝室に入るのは緊張するのかな?
僕は首を傾げながら、コップの果汁を飲んだ。
「あ……冷たくておいしい」
「コップの底に魔族の国から取り寄せた吹雪の石が使われている」
ルーが簡潔に説明してくれる。
「吹雪の石……」
「触れるものの温度を奪う石だ」
コップの中を覗いても、柑橘系の果汁の色だけで変わったところは無いように見える。でも、このジュースはキンキンに冷えている。
「へぇ、そうなんですね。すごくおいしいです」
この世界に来て、初めて冷たいものを飲んだなぁ。
「ど、奴隷にそんな高価なコップを使うのか……?」
ぷよぷよさんがそれを見て絶句したので、僕もびっくりした。
え? このコップも高価なの?
不安になってルーを見る。
「殿下は、殿下に仕えるようにリュカに尽くせとおっしゃりましたので」
「で、殿下に仕えるように……!?」
ぎょっとしたように目を見開いたぷよぷよさんは、次に、怯えたように僕を見た。
「で、ではっ、時計を作動いたしますので、ご、ご覧ください」
急に姿勢を正して丁寧に言うので、ぷよぷよさんが何を考えたのか分かった。
僕の機嫌を損ねたらジュリアンの怒りを買うと思ったらしい。
そんな告げ口みたいなこと、僕はしないのに。
「はい、お願いいたします」
僕はなるだけ機嫌良さそうにニコッと笑った。
ぷよぷよさんが震える指で宝石みたいなきれいな魔石を持ち、白い石のへこんでいるところにストンと入れた。
とたんに、部屋中にキラキラした粒状のものがぶわっと広がった。さらに、魔石の下から二色の水が溢れ出してくる。紫色の水と黄色の水だ。溢れて流れてテーブルを濡らすかと思ったけど、それは見えない大きなボウルがそこにあるみたいに円い形に中空に溜まっていった。
部屋中に広がった光の粒は、ひとつひとつ大きさが違っていて、数百もありそうだ。
なんだか、プラネタリウムみたいだと思った。
「わぁ……きれい……」
僕が上を見上げて声を漏らすと、ぷよぷよさんは自分が褒められたようにどや顔をする。
「これは実際の星々と同じ動きをしておるのだ、です」
「そうなんですか? わぁ……」
本当にプラネタリウムだったとは。
僕は地球から見た天体のこともそんなに詳しくないので、異世界との違いはよく分からない。ただきれいだな、と思うだけだ。
下の方に浮いている水を見ると、黄色の水はうっすらと発光していて、紫の水はラメが入っているみたいにキラキラしている。
僕はベッドから降りて立ち上がろうとしたけど、ガチャリと鎖が鳴って足をつながれていることを思い出した。鎖の長さが足りなくて、ベッドからは降りられない。
仕方が無いので、ベッドの上に膝立ちになって二色の水を上から覗いた。
水は円グラフみたいに二色に分かれていて、黄色い方が少し多かった。
紫の水も、黄色の水も、それぞれ十等分になるようにメモリのような線が浮かんで見えた。
そのすべてが、宙に浮いている。
この世界に来て初めて、いかにもファンタジーな道具を見たかも。
ぷよぷよさんが宝石を削ったような赤い針を水の中心に浮かべる。針は自動的に動いて、ある一点を差し示した。
「今は昼の7時と三分の一ほどですな」
言われても、地球で言うと何時なのかが分からない。
僕はじっと時計を見た。
針は黄色い水の方の真ん中よりメモリ二つ分と少し、左にずれた位置にある。
『昼の』7時と言うからには『夜の』7時もあるんだろう。
二色はきっちり半々ではなくて黄色の方が多い。
ええと、そうすると……。
「黄色いのが昼で、紫色が夜ですか」
「は、はい、その通りです」
「じゃぁ、ここが日の出で、ここが日の入りですか」
色の境目を指で示すと、中年男はうなずいた。
「は、はい。その通りです」
「じゃぁ、昼を十等分、夜を十等分になっているから、季節によって昼の一時間と、夜の一時間がまったく違う長さになるんですね」
「よ、よくお分かりで」
いえいえ、あんまりよく分かりませんけど。
きっと考え方は、歴史の教科書に載っていた和時計に似ている気がするけど……。
確かあれは、昼を6等分、夜も6等分にした不定時法とかいう名前だったはず……。
不定時法かぁ、しかも十等分の……。
一日を24時間にきっちり分ける定時法に慣れた身には、ちょっと……というか、かなり分かりにくい。
この世界は太陽も一つだし、月も一つだし、体感だと一日の長さも多分地球と同じくらいに感じるから、それほど極端な違いはないと思う。
ということは、ええと、十等分だと昼の5時がだいたい正午に近いだろうから、昼の7時は午後だよね。今は多分、夕方よりは少し早い時間帯なのかなぁ。
うう、難しい……。
「あの、時計を持っていない人はどうやって時刻を知るんですか」
「それは教会で」
「教会?」
「は、はい。どこの村や町でも教会が時の鐘を鳴らすので、誰でも時間が分かりますです」
「なるほど……」
この世界に来て二週間くらいは経ったはずだけど、今更になってやっとこの世界の時間の常識を知った。
教会なんて、ここの近くには無い。だから今まで時の鐘を聞いたことが無かったんだ。
うーん、衣食住には困っていないとはいえ、僕はのんびりしすぎている気がする。いつまでもこの世界に対して無知なままではいけないと思う。
エディに頼んで、もうちょっとこの世界の暮らしのこととか教えてもらおうかなぁ。
あと一日か二日ぐらいで、エディのところに戻れるだろうし。
「貴重な時計を見せてくださって、ありがとうございました。また、分からないことがあったら、教えてもらえますか?」
僕の横顔をじぃっと見ていたぷよぷよさんに、にっこりと愛想笑いをする。
大丈夫だよ、機嫌損ねていないよ、と。
「は、はい、もちろんでございます!」
ぷよぷよさんが赤い顔で目尻を下げる。
そのぷっくりした右手が僕の方へ動いてくる。
あれ、頭を撫でようとしている?
そう思ったとたん、ルーが短剣を抜いて彼の喉元に突き付けていた。
「軽々しく殿下のものに触れるな」
「ひっ、ひゃい!」
意味不明な声を上げると、ぷよぷよさんは慌てて僕から離れた。
「し、失礼しました!」
と、無造作に時計の魔石を外した。
部屋に広がっていた天体が一瞬で消え去り、黄色と紫色の水がしゅるりと白い石に吸い込まれ、赤い宝石の針がカツンとテーブルに落ちた。
ぷよぷよさんはあたふたとそれを拾い、白い石と魔石をつかんで早足に去っていった。
「リュカ」
ルーが険しい顔をして短剣を鞘に納めた。
「むやみやたらと色目を使うな。殿下に言われたばかりだろう?」
「い、いろめ?」
どこが?
今の会話のどこら辺が色目なの?
「無自覚か……」
ルーは困った子を見るように、溜息をついた。
・
「殿下、グレゴワール卿がお待ちでございますが」
使用人の声にジュリアンがハッとしたように顔を上げる。
「そうだったな。すぐ行く」
ジュリアンはお貴族様と約束があったみたいだった。
だから、僕を抱いた後すぐに着替えたらしい。
ジュリアンは優しく僕を抱き上げて、ベッドに横たえた。
レースの布の向こうで控えていたルーが、すっとジュリアンに近づく。
「ルー、カイルがいるからついてこなくて良い。リュカの世話を頼む」
言われて、返事の代りみたいにルーはビシッと踵を揃えた。
「リュカが欲しがるものなら、菓子でも何でも与えてよい。リュカを私と思って仕えるように。それから、他の者をリュカに触れさせるな。そなたも、極力リュカの肌には触れるな。よいな」
ルーがまたビシッと踵を合わせる。
「ああ……。黙っていろという命令は解除する」
「ありがとうございます」
「うむ」
ジュリアンは僕に向き直って、優しく髪を撫でる。
「リュカ、私が戻るまで少し時間がかかるかも知れぬが、ゆっくり休んでいなさい。必要なものはルーに言うように」
「はい……」
恋人にするみたいにキスをしてから、ジュリアンは寝室を出て行った。
残されたのは、一部始終を見られていた奴隷と見ていた奴隷の二人きり、ちょっと気まずい。
「あの……ルーさん」
「ルーと呼び捨ててかまわない。私もリュカと呼ぶ」
「はい。ルー、喉が渇いたので、お水をください」
「水でいいのか、果汁でも蜂蜜入りの茶でも用意できるが」
「では、果汁をお願いします」
「分かった」
ルーがレースの布をめくって出て行こうとするのを、僕は呼び止めた。
「あの、今、何時頃ですか」
「何時?」
「あの、えっと、時間……えっと時計ってありますか……?」
「時計だと?」
ルーが眉をしかめる。
ん? もしかしてこの世界には時計が無いの?
「愛玩奴隷に時計が必要とは思えないが」
「え、そうなんですか? あの、ちょっと見てみたいと思っただけなので」
「……分かった。用意させる」
用意させる?
僕が不思議に思っている内にルーは果汁の入ったコップを手に、ジュリアンの使用人らしき中年の男を引き連れて戻って来た。
おお、この人、ちょっとぷよぷよだ。
この世界にも太っている人、ちゃんといたんだ。
「なぜ奴隷ごときに、貴重な魔道具を見せねばならんのだ」
あれ? ぷよぷよさん、なんか怒ってる?
「欲しがるものは何でも与えよとの、殿下のお言葉ですので」
「はぁ? 奴隷に時計を与えよとおっしゃったのか? 時計ひとつで奴隷を何十人買えると思っているのだ!」
「いえ、時計は見せるだけで十分でございます」
えええ? 時計ってそんなに高価なものなの?
どうしよう、なんかけっこうな大事になってしまったみたい。
ルーは僕にコップを手渡すと、ベッドのそばにテーブルを持ってきた。
ぷよぷよさんがその上に、直径20㎝くらいの平たくて丸い石を置いた。白くてきれいな模様がいっぱい掘ってあって、真ん中がへこんでいる。数字らしきものも無いし、長針も短針も無い。
「これが、時計ですか……?」
僕はぷよぷよさんの顔を見上げて聞いた。
「はぅっ」
ぷよぷよさんはボッと火が出そうなくらいに、いきなり真っ赤になった。
「……あ、ああ、そうだ、こここれが時計だ……!」
「どうやって時間が分かるんですか?」
「こここれに魔石をはめると、さ、ささ作動する」
さっきまで怒っていたのに、今はおかしなくらいにキョドっている。
なんだろう?
やっぱり、王子様の寝室に入るのは緊張するのかな?
僕は首を傾げながら、コップの果汁を飲んだ。
「あ……冷たくておいしい」
「コップの底に魔族の国から取り寄せた吹雪の石が使われている」
ルーが簡潔に説明してくれる。
「吹雪の石……」
「触れるものの温度を奪う石だ」
コップの中を覗いても、柑橘系の果汁の色だけで変わったところは無いように見える。でも、このジュースはキンキンに冷えている。
「へぇ、そうなんですね。すごくおいしいです」
この世界に来て、初めて冷たいものを飲んだなぁ。
「ど、奴隷にそんな高価なコップを使うのか……?」
ぷよぷよさんがそれを見て絶句したので、僕もびっくりした。
え? このコップも高価なの?
不安になってルーを見る。
「殿下は、殿下に仕えるようにリュカに尽くせとおっしゃりましたので」
「で、殿下に仕えるように……!?」
ぎょっとしたように目を見開いたぷよぷよさんは、次に、怯えたように僕を見た。
「で、ではっ、時計を作動いたしますので、ご、ご覧ください」
急に姿勢を正して丁寧に言うので、ぷよぷよさんが何を考えたのか分かった。
僕の機嫌を損ねたらジュリアンの怒りを買うと思ったらしい。
そんな告げ口みたいなこと、僕はしないのに。
「はい、お願いいたします」
僕はなるだけ機嫌良さそうにニコッと笑った。
ぷよぷよさんが震える指で宝石みたいなきれいな魔石を持ち、白い石のへこんでいるところにストンと入れた。
とたんに、部屋中にキラキラした粒状のものがぶわっと広がった。さらに、魔石の下から二色の水が溢れ出してくる。紫色の水と黄色の水だ。溢れて流れてテーブルを濡らすかと思ったけど、それは見えない大きなボウルがそこにあるみたいに円い形に中空に溜まっていった。
部屋中に広がった光の粒は、ひとつひとつ大きさが違っていて、数百もありそうだ。
なんだか、プラネタリウムみたいだと思った。
「わぁ……きれい……」
僕が上を見上げて声を漏らすと、ぷよぷよさんは自分が褒められたようにどや顔をする。
「これは実際の星々と同じ動きをしておるのだ、です」
「そうなんですか? わぁ……」
本当にプラネタリウムだったとは。
僕は地球から見た天体のこともそんなに詳しくないので、異世界との違いはよく分からない。ただきれいだな、と思うだけだ。
下の方に浮いている水を見ると、黄色の水はうっすらと発光していて、紫の水はラメが入っているみたいにキラキラしている。
僕はベッドから降りて立ち上がろうとしたけど、ガチャリと鎖が鳴って足をつながれていることを思い出した。鎖の長さが足りなくて、ベッドからは降りられない。
仕方が無いので、ベッドの上に膝立ちになって二色の水を上から覗いた。
水は円グラフみたいに二色に分かれていて、黄色い方が少し多かった。
紫の水も、黄色の水も、それぞれ十等分になるようにメモリのような線が浮かんで見えた。
そのすべてが、宙に浮いている。
この世界に来て初めて、いかにもファンタジーな道具を見たかも。
ぷよぷよさんが宝石を削ったような赤い針を水の中心に浮かべる。針は自動的に動いて、ある一点を差し示した。
「今は昼の7時と三分の一ほどですな」
言われても、地球で言うと何時なのかが分からない。
僕はじっと時計を見た。
針は黄色い水の方の真ん中よりメモリ二つ分と少し、左にずれた位置にある。
『昼の』7時と言うからには『夜の』7時もあるんだろう。
二色はきっちり半々ではなくて黄色の方が多い。
ええと、そうすると……。
「黄色いのが昼で、紫色が夜ですか」
「は、はい、その通りです」
「じゃぁ、ここが日の出で、ここが日の入りですか」
色の境目を指で示すと、中年男はうなずいた。
「は、はい。その通りです」
「じゃぁ、昼を十等分、夜を十等分になっているから、季節によって昼の一時間と、夜の一時間がまったく違う長さになるんですね」
「よ、よくお分かりで」
いえいえ、あんまりよく分かりませんけど。
きっと考え方は、歴史の教科書に載っていた和時計に似ている気がするけど……。
確かあれは、昼を6等分、夜も6等分にした不定時法とかいう名前だったはず……。
不定時法かぁ、しかも十等分の……。
一日を24時間にきっちり分ける定時法に慣れた身には、ちょっと……というか、かなり分かりにくい。
この世界は太陽も一つだし、月も一つだし、体感だと一日の長さも多分地球と同じくらいに感じるから、それほど極端な違いはないと思う。
ということは、ええと、十等分だと昼の5時がだいたい正午に近いだろうから、昼の7時は午後だよね。今は多分、夕方よりは少し早い時間帯なのかなぁ。
うう、難しい……。
「あの、時計を持っていない人はどうやって時刻を知るんですか」
「それは教会で」
「教会?」
「は、はい。どこの村や町でも教会が時の鐘を鳴らすので、誰でも時間が分かりますです」
「なるほど……」
この世界に来て二週間くらいは経ったはずだけど、今更になってやっとこの世界の時間の常識を知った。
教会なんて、ここの近くには無い。だから今まで時の鐘を聞いたことが無かったんだ。
うーん、衣食住には困っていないとはいえ、僕はのんびりしすぎている気がする。いつまでもこの世界に対して無知なままではいけないと思う。
エディに頼んで、もうちょっとこの世界の暮らしのこととか教えてもらおうかなぁ。
あと一日か二日ぐらいで、エディのところに戻れるだろうし。
「貴重な時計を見せてくださって、ありがとうございました。また、分からないことがあったら、教えてもらえますか?」
僕の横顔をじぃっと見ていたぷよぷよさんに、にっこりと愛想笑いをする。
大丈夫だよ、機嫌損ねていないよ、と。
「は、はい、もちろんでございます!」
ぷよぷよさんが赤い顔で目尻を下げる。
そのぷっくりした右手が僕の方へ動いてくる。
あれ、頭を撫でようとしている?
そう思ったとたん、ルーが短剣を抜いて彼の喉元に突き付けていた。
「軽々しく殿下のものに触れるな」
「ひっ、ひゃい!」
意味不明な声を上げると、ぷよぷよさんは慌てて僕から離れた。
「し、失礼しました!」
と、無造作に時計の魔石を外した。
部屋に広がっていた天体が一瞬で消え去り、黄色と紫色の水がしゅるりと白い石に吸い込まれ、赤い宝石の針がカツンとテーブルに落ちた。
ぷよぷよさんはあたふたとそれを拾い、白い石と魔石をつかんで早足に去っていった。
「リュカ」
ルーが険しい顔をして短剣を鞘に納めた。
「むやみやたらと色目を使うな。殿下に言われたばかりだろう?」
「い、いろめ?」
どこが?
今の会話のどこら辺が色目なの?
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ルーは困った子を見るように、溜息をついた。
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