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第6話 まさか氷の第三王子さまと
6-(6) リュカが欲しい
僕の体液で汚れた薔薇刺繍の布を畳んで、僕が果汁を飲み終わったコップと一緒にルーは控えの部屋に置いた。そしてすぐに、ベッドの横に戻ってくる。
「汚れたものを洗濯係に持って行きたいが、リュカを一人にはできないな」
「僕、一人でも大丈夫ですよ」
「とても大丈夫とは思えない。あの堅物の教師を一瞬で落としたのを見てしまうと……」
「教師? さっきの男の人ですか?」
「ああ、奴は殿下の教育係の一人だ。今まで、男の愛玩奴隷になど興味を持ったことも無かったのに」
「さっきのは、僕が子供っぽいから頭を撫でようとしたんじゃ?」
ルーは首を振った。
「奴の視線に気づかなかったのか? あの男は、殿下がつけた歯の跡や、そのローブから透ける胸や股間を何度も見ていたぞ」
「え?」
僕は急に恥ずかしくなって体を縮めた。
「殿下のテントの、しかもこの寝室に入れるのは限られた者だけだが、区切っている布はこのように透けるものだ」
と、ルーは控えの部屋との境に垂れている布を指差した。
「近くを通りがかったものが、半裸のリュカに魅かれてふらふらと入ってきかねない」
エディのところにいた時からこんな感じのスケスケローブを着せられて、もうだいぶ慣れてきたけど、これってほんとエッチな服だよね。
今着ているのは淡いピンク色で、袖や裾のレース模様は薔薇の花だ。
改めて自分の体を見下ろすと、やっぱりちょっと恥ずかしいかも。
僕は体育座りをして、体を隠すように自分の肩を抱いた。
ルーが控えの部屋から毛布を持ってくると、僕の肩にかけてくれた。
「ありがとう、ルー」
優しさが嬉しくてにっこり微笑むと、ルーはあからさまに大きな溜息を吐いた。
「それだ」
「え、なに?」
「その笑顔が無邪気すぎて、いろいろ良くないな」
「え? え? どういう意味?」
「私に隷属の術がかかっていなければ、今にも押し倒してしまいそうだという意味だ」
僕はびっくりして毛布をぎゅっと体に巻いた。
「警戒しなくてもいい。隷属の術は絶対だ。殿下が命じない限り、私がリュカを抱くことは無い」
悲しいのかつらいのか、それとも誇らしいのか。
ルーの表情は変わらなくて、感情は読み取れない。
「隷属の術って、どういうものなんですか」
「知らないのか」
「僕、死にかけた時にそれまでの記憶を全部失ったんです。だから、あんまり常識を知らなくて」
「聞いてはいたが、予想以上の常識知らずだな。それに言動が幼い」
うっ! ルーってけっこう直球だ。
「隷属の術は名前の通り、心を縛り、自分の主に対して絶対服従になる術だ。王族は常に暗殺の危険がともなう。そば近くに仕える者には、裏切らない証がいる」
「ジュリアン様にお仕えしている人達は、みんなその術をかけられているんですか?」
「いや……」
ルーは少し表情を曇らせた。
術にかかっているからといって、常に無表情ではないみたい。
「本当は全員にかけて欲しいのだが、ジュリアン様はお優しいから希望者にしか隷属の術をかけないのだ。この野営地に随行した者では私ともう一人しかいない」
「それは、少ないんですよね」
「ああ、いつでも暗殺に警戒しなくてはならない王族としては、有り得ない人数だ」
「暗殺……」
現実感の無い言葉だけど、奴隷の僕だって殺されかけたんだし、この世界ではよくあることなのかな……。
「隷属の術とは心を縛る術だ。王族にしか使うことを許されていない。なぜなら、忠誠心の無いものをむりやり隷属させると、その者の心はあっという間に疲弊して、数ヶ月から数年で死に至るからだ」
「死んでしまう……んですか」
「ああ。だから殿下は自ら願い出た者にしか使わない。何十人、何百人と平気で術の支配下に置く王族もいるが、殿下は違う」
僕はちょっと心配になってルーを見上げた。
「あの、ルーは大丈夫なんですか」
「ああ、私は隷属の術をかけてからすでに十年以上殿下にお仕えし続けている。もとからの忠誠心が厚かったため、隷属の術がまったく心の負担ではないからだ」
ルーは初めて、僕に笑顔を見せた。男の子っぽい、誇らしげな笑顔だった。
「ジュリアン殿下はこの国に必要なお方だ。命を捧げても惜しくは無い」
ジュリアンがなかなか戻って来ないので、僕はしばらくルーと話をしていた。
話といっても、僕が疑問に思っていることを聞いて、ルーが教えてくれただけだ。
王宮にはとても大きな時計があってしかも常に作動しているとか、ジュリアンには15人も兄弟姉妹がいるとか。
この野営地での料理はどうしているのかを聞いたら、高台の方にあるテントには、つまり身分の高い方達のテントには、それぞれ調理場用テントが横にあるらしい。本物の火は使わずに、魔石で煮炊きをするらしい。
平地の方にいる一般兵や奴隷達は、普通のキャンプみたいに石を積んで簡易的なかまどのようなものを作り、火を使って簡単な料理を作るという。
「でも、何万人もの兵士さんの食糧とか、どうしているんですか」
「それは、定期的に転移魔法で……」
ルーは途中で言葉を止めてすっと立ち上がり、レースの布をめくり上げた。
ジュリアンが戻って来ていた。
「ジュリアン様」
僕はそちらへ近づこうとしたけど、右足がガチャッと後ろへ引っ張られた。
「痛っ」
あ、そうだった。鎖がついていたんだった。
「リュカ」
「はい」
呼ばれてジュリアンを見る。
「リュカ」
「はい……」
なんだろう?
ジュリアンが僕をじっと見つめてくる。
「ルー、新しい敷布を」
ルーが控えの部屋に小走りで行くと、ジュリアンはひらひらレースのネクタイを乱暴に解いて、ポイと床へ落とした。
次に自分のひらひらブラウスのボタンも片手で外していく。
あ、なんだ。ジュリアンって、自分でも着替えられるんだ。
ルーが急いで戻ってきて、ベッドのシーツの上にさっきのと色違いの薔薇刺繍の布をかけていく。僕は邪魔にならないように移動して、布を敷くのを手伝った。
ジュリアンはどんどん服を脱いで、そこらへんに散らかしていく。ルーがそれをひとつひとつ拾って、控えの部屋へ持っていく。
裸になったジュリアンはベッドに上がってきて、僕が肩から掛けていた毛布を剥いだ。
透けるローブをはだけさせて、胸の真ん中に耳を当ててくる。
なんだろ? 心臓の音を聞いているのかな?
「ジュリアン様……?」
ジュリアンは僕の両手首をぎゅっとつかんで、のしかかる様にしてキスをしてきた。
情熱的に、奪い取るみたいな、激しいキスだった。
僕は逃げないのに、すごく強い力で手首をつかんでくる。
かなり痛い。
ジュリアンはどうしたんだろう?
なんだかちょっと様子がおかしい。
貴族様との会談で、嫌なことでもあったのかな?
「殿下、リュカの両手に鎖をつけますので」
ルーの声がする。
「いらぬ」
「しかし、決まりですので」
「この子に何が出来る」
ジュリアンは身を起こして、つかんでいた僕の手首を持ち上げた。
つかまれた指の跡がくっきりと残っている。
「この細い手で、私を殺せるとでも?」
ルーは困った顔で黙った。
「心配いらぬ。カイルも共に戻っている」
「はい、ここに」
聞いたことのない低い声がした。
ビクッとして声がした方を見ると、寝室の隅に跪いている男の人が見えた。
ちょうどランタンの明かりも届きにくい場所で、黒っぽい服のせいか影みたいに見える。
「洗浄薬を」
ジュリアンが言うと、ルーがまた急いで控えの部屋へ走る。
カイルと呼ばれた人はそこにじっとして動かない。
「リュカ、カイルのことは気にしなくていい。私の護衛だ」
「はい……」
もうルーにも性行為の一部始終を見られているから、他の護衛に見られるのも同じかもしれない。
でも、カイルという人はちょっと不気味で、なんとなく怖い。無表情なのに、うっすら笑っているような、気味の悪い目で僕を見ている。
ルーが持ってきた洗浄薬を受け取ると、ジュリアンは僕の足を広げようとした。
カチャンと右足の鎖が鳴る。
「ルー、鎖をはずせ」
ルーはもう何も言わず、僕の足の鎖を外した。
両足を広げて洗浄薬を押し込み、ジュリアンは性急に指で中をほぐし始める。
「う……ん……」
どうしたんだろう。
ジュリアンは何かを焦っているみたいだ。
鎖でつながれて目隠しをされても怖くは無かったのに、今はなぜか少し怖い。
この異常な空気に体が委縮してしまって、ジュリアンの愛撫にも僕の中心が反応しない。
「リュカ………私はリュカが欲しい……」
ジュリアンの薄い青の目が、僕を見下ろす。
きれいな目の奥に、何か強い感情を隠しているようで、やっぱり少し怖い。
「は、はい……。ジュリアン様、僕を抱いてください……」
でも、僕はできるだけ体の力を抜いた。
僕は愛玩奴隷だ。
欲しいと言われているのに、逃げることはできない。
僕の体がまだ熱を持たないうちに、ジュリアンがぐいっと入って来た。
「うあっ」
つい悲鳴みたいな声を出してしまって、ジュリアンがハッとしたように目を開いた。
怖い表情が一瞬で消えて、心配そうな目でジュリアンが僕を見下ろす。
「痛かったか」
「いえ……だいじょうぶです……」
痛みは無い。
数時間前にも抱かれたばかりだし、この体は男の人を受け入れるように出来ている。
それに、相手はジュリアンだから、ひどいことをされるとは思わなかった。
「大丈夫です……うごいて……ください……」
「すまない、だが今すぐリュカを抱きたい」
「はい……抱いてください……」
ジュリアンがゆるゆると腰を動かし始める。
「は……あ……」
ジュリアンが僕を組み敷いて貫いているのを、ルーとカイルは同じ部屋の中で見ていた。
控えの部屋に行こうともしないで、同じ場所に佇んでいる。
多分、僕の鎖を全部外してしまったので、警戒しているのかも知れなかった。
僕みたいな愛玩奴隷に、ジュリアンをどうこうできる力なんてあるはずがないのに。
恥ずかしいのは嫌だとか、護衛を部屋の外へ出してとか、わがままを言えばもしかしたらジュリアンは聞いてくれるかもしれない。
でも、ルーのジュリアンに対する真摯な忠誠心を知ってしまったせいで、彼らを否定することはちょっとできなかった。
僕が恥ずかしいのを我慢すればいいだけのことだ。
ぎゅっと目を閉じて、僕はジュリアンにしがみついた。
「ジュリアン様……」
ジュリアンが応えるように両腕で抱きしめ、僕の体を持ち上げた。
向かい合って抱き合いながら、下から突き上げられる。
「あ、ああ……」
自分の体重でジュリアンのものが深く入ってくるのを感じる。
体が少しずつ熱を帯びてくる。
ゆすられるたびに声が出る。
「う、うあ、あ、あ……」
僕は自分がどんどん愛玩奴隷らしくなっていくのを感じている。
知らない人に見られているというのに、体はきちんと気持ち良くなって熱くなっていく。
たとえどんな状況でも、男の人に抱かれるのを体が喜んでいる。
「ああ……ジュリアン様……きもち、いい……」
ジュリアンが僕の首に残る傷跡をまた強く噛んでくる。
条件反射みたいに、ぞわっと背筋に快感が走る。
「やぁ、あ、あんっ」
僕の口から出るよがり声が大きくなってしまう。
「リュカ……リュカが欲しい……」
耳元で熱い吐息と共に囁かれる。
欲しいって、言われても……。
僕は今こうやってジュリアンのものになっているのに、これ以上何が欲しいんだろう?
愛玩奴隷の僕は、自分以外に何も持っていない。
僕にあるのは、本物のリュカからもらったきれいな顔ときれいな体だけ……。
「私はリュカが欲しい……」
目を開くと、ジュリアンが真っすぐに僕を見ていた。
「はい……ジュリアン様……いくらでも、抱いてください……」
「リュカ……」
いくらでも、という言葉は使わない方が良かったのかもしれない。
その後、僕が気を失うまで、ジュリアンは何度も何度も僕を抱いた。
いや、もしかしたら、ジュリアンがしたのは一回か二回だけなのかもしれない。
とにかく、僕は何度も何度もイかされた。
ジュリアンの胸の中で気絶してしまうまで。
目が覚めた時には、僕の声はガラガラに枯れて、体のあちこちにジュリアンの歯形が残っていた。
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