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第8話 まさか未来の大魔王さまと
8-(6) 「未来の大魔王の逡巡」
角無し族は魔力が少なく、体も脆い。
リュカはその角無し族の中でも、ひときわ虚弱で脆弱だった。
余が一睨みしただけで、ぶるぶると震えて泣きそうな顔をする。
そういう顔を見たいわけではないのに。
ああ……またリュカを怯えさせてしまった……。
午後の茶を飲んで静かに心を落ち着けていると、カミーユが楽しそうに寄ってきて、余に耳打ちしてきた。リュカがこっそりと自慰にふけっていたと。
それくらい男なら誰でもすることだろうが、あのリュカが自分のものを慰めているところを想像すると、妙に艶めかしい気がしてしまう。
思い浮かべただけで何となく体が熱くなってくるが、表情には出さずにカミーユを見返す。
「それくらいのことをいちいち報告しなくともよい」
「ええー? だって、あれは愛玩奴隷なんだよ。さっさと体に教えてやればいいじゃないか。誰が自分のご主人様なのかってことをさ。アランらしくないよ、あんな見かけだけきれいなガキに遠慮するなんて」
同席の許可も出していないのに勝手に女官に茶を頼むと、カミーユは顔をしかめながら向かいの椅子にドスンと座った。
いつも本気だか嘘だか分からないような軽い言葉しか言わない男だが、今はなぜか少し苛ついているようだった。
余は首を振った。
「カミーユ、むりやりではだめなのだ。リュカの方から余を欲しがるようでないと」
「はあ? 何言ってるの? いつも相手の心なんて考えない、傍若無人で傲岸不遜、暴虐非道なアランはどこ行ったんだよ」
誰もが思っていてもけして口にしない言葉を、カミーユはいつもさらりと口にする。
「随分とひどい言いようだな」
「違うとでも?」
「いや、違ってはおらぬ」
この国では力が正義だ。
一番強い者が法だ。
父上のほかに余にかなう者は無く、父上が不在の今、この国の中で余に逆らう者など一人もいない。
生まれながらにして魔力が豊富で、物心ついた頃にはすでに次期王だと周囲に認識されていた。
勇者を輩出した『かの国』では王の長子が王位を継ぐそうだが、我が国では一番の強者が継ぐと決まっている。兄弟姉妹は数十人いるが、誰も余ほどの魔力を持ってはいない。余の魔力は未だ成長していて、その内に父上さえ凌ごうかという勢いだ。必然的に、余が王位を継ぐことは決定している。
誰もが余に傅き、誰もが余に媚び諂う。
ゆえに、余は相手の気持ちなどを慮ったことは無い。
そういえば、なぜかいつも近くにいるカミーユのことですら、その心の内に何を思っているのかなどと一切考えたことも無かったな……。
余はふいに目の前の男のことが気になってきた。
「カミーユ」
余と同じ金色の目を覗く。
「なに?」
「どうしてカミーユはいつも余の近くにおるのだ?」
「は?」
「そばにいるのが当たり前すぎて、今まで考えたことも無かったのでな」
今まさに口へ運ぼうとしていた菓子を、カミーユはぼとりと落とした。
「どうしたの、アラン? どっか痛いの?」
「どこか痛くないと聞いてはいかぬのか」
「そんなことないけど」
「ではなぜなのだ? 答えよ」
カミーユはふふっと小さく笑ってから、余に言った。
「それは俺がアランのお兄ちゃんだからだよ」
余は首を傾げた。
「兄はほかに十人以上いるが」
「何人いようが、みーんなアランを嫌ってるだろ。俺ぐらいだよ、ずっとアランのそばにいてやれるお兄ちゃんは」
「カミーユは余を嫌っておらぬのか」
「アランのそばにいると、いつも面白いことがあって楽しいよ」
「そうか」
「そうだよ」
そしてカミーユはもうひとつ菓子をつまんで食べようとして、またぼとりと落とした。
「どうした?」
余を見つめるカミーユの顔が、妙に赤面している。
「なんで笑ってるのさ、アラン」
「笑っているか?」
「笑ってるよ、そんな笑顔初めて見たよ」
「そうか、余もカミーユがそばにいると面白いと思ってな」
カミーユは赤面したまま、子供のように口を尖らせた。
「うー、アランはずるい。アランのバカ」
大の男が子供のようにすねた物言いをする。
共にいて面白いと言って、なぜバカと言われるのか。
まったく意味が分からなかったが、カミーユが楽しそうに笑い出したので、無礼は不問とすることにした。
夕食はリュカを広間に招いて、テーブルに載りきらないほどの馳走を並べた。
着飾らせたリュカは相変わらず美しかったが、まだ余が恐ろしいのか、終始びくついていた。心配になるほど少食で、仕方が無いので食後にポーションを一本飲ませた。
この奴隷は、余が何を差し出しても受け取らぬ。
笑顔を見せたのは、お守りを返した時のほんの一瞬だけだった。
女を口説いたことすらない余には、リュカをどうやって振り向かせればいいのか、皆目見当もつかない。
遠見の術で見たあの男らが羨ましくて妬ましい。
何の苦労もせずにリュカに懐かれ、当然のようにリュカを胸に抱いていた。
髪を撫でられうっとりと閉じられるその金色のまつ毛に触れてみたかった。
安心しきったように男の胸にしがみつく細い指先まで、はるか遠くから凝視していた。
今、ポーションの瓶を持っている指は同じように美しいのに、私の胸にはしがみついてくれない……。
余はリュカの泣き叫ぶ顔を見たいわけでは無かったので、無理強いはせずに鳥籠に返した。あからさまにリュカは安堵の表情をしていた。
溜息をもらす余を、カミーユがじっと見ている……。
そのまましばらく広間に残り、ぼんやりと酒を飲んでいた余を女官が呼びに来た。
カミーユが、余の寝室で待っているという。
いぶかしく思いながら向かうと、階段三段分高くなっている寝台の前でカミーユがニヤニヤしながら待っていた。
「いつまでも煮え切らないアランに俺から贈り物をあげる」
そう言って、まるで舞台役者のような大げさな身振りで寝台のカーテンを開けた。
広い寝台の真ん中にぽつんと細い体が横たわっている。
「リュカ……」
透けるように薄いローブ一枚だけを羽織らされて、下着すらもつけていない。
傷はだいぶ癒えたはずだが、右手の包帯が痛々しかった。
余はどうして、平気であんなことが出来たのだろう。
「かの国の愛玩奴隷はいつもこんな格好をして男を誘うらしいよ。素っ裸じゃないところが、妙に色っぽいよね」
「カミーユ、どういうつもりだ。余は無理強いするつもりは無いと告げたであろう」
「むりやりじゃないよ。きっとこの子もアランを欲しがる」
柔らかい布団の上で、リュカがなまめかしく身をよじった。
白い肢体がいやに煽情的だ。
リュカは頬を紅潮させて、ふぅっと湿った息を吐く。
明らかに様子がおかしい。
「おい、リュカに何をした」
「媚薬をちょっとね」
「カミーユ、お前……」
振り向こうとすると、カミーユの指が余の首に何かの液体を付けた。
甘い匂いがして驚く。
「これは……しじま草の香りか?」
「そ、よく魔導士なんかが精神を落ち着かせるのに使う香水だね」
「なぜ余にこんなものを」
「リュカに近づいてみれば分かるよ。その匂い、好きみたいだから」
余が眉をしかめると、カミーユは手を上げて小さな革袋を渡してきた。
「ことが終わったら返してやって。妹の形見なんだって」
「カミーユ、なぜ媚薬など」
「怒らないでよ。きれいなだけのガキに振り回されているアランなんて、ほんとつまらない。うじうじしているアランは、そばにいても楽しくないよ」
「だが」
「んん……」
その時、リュカが小さく喘ぐような声を出した。
「ふふ、早く抱いてあげなよ。その薬、効果が強いから放置されると苦しいと思うよ」
いつもの軽薄な口調で言って、カミーユはいたずらが成功した子供みたいにご機嫌な様子で去っていった。
扉が勢いよく閉じられる。
「ん……ふぅ……」
しんとした寝室に、リュカの吐息だけが聞こえる。
「リュカ……」
呼びかけると、リュカはうっすらと目を開いた。
熱っぽい瞳がどこを見ればいいか分からないかのように揺れている。
「ああ……あつい……」
寝台の上でリュカが呟く。
余はふらふらと誘われるように寝台に登った。
小さな革袋を枕元に置いて、薄いローブの上から痩せた胸に触れてみる。細い体はとても熱くなっていた。リュカのものがかわいそうなほどに立ち上がって、触れて欲しそうに先端を濡らしている。
そっと金の髪を撫でる。
はぁっとリュカが息を漏らす。
物欲しそうに開かれた唇に、唇を重ねる。
驚いたことにリュカが吸い返してくる。
「んん……」
細い両腕が余に抱きついてきた。
「リュカ……!」
胸が震える。
夢にまで見た美しい少年が、余を求めてしがみついてくる。
華奢な体をひしと抱きしめ、その首に唇を押し付ける。
「ああ……エディ……」
ぎくりと体が硬直した。
「エディ、お願い……」
リュカは余の首に抱きついて、はしたなく体をこすりつけてくる。
「僕に、触って……くださ…………エディ……」
エディ?
エディというのは何者か?
リュカは一体誰に向かって、このようにいやらしい言葉を囁いているのか。
「リュカ、余が分からぬのか」
「んん……切ないよぉ……」
あられもなく身をよじる姿に、下半身が熱くなる。
「お願い……触ってぇ……」
耳をとろかすような切ない声に理性を侵食されてしまう
ためらいつつ手で包むようにそれを撫でてやると、リュカの体が喜びに震え始める。
「は……ああ……気持ちいい……いいよぉ、エディ……」
エディ、それは勇者の名前ではない。
勇者の専属奴隷が他の男の名を呼ぶなど、リュカは自分が何をしているのか気付いているのか。
「お願い……はやく……くるし……」
余はぎゅっと目を閉じた。
たとえリュカが誰を求めていようと、余を誰の代りにしようと、この蠱惑的な誘いには抗えぬ。
遠見の術で一目見たあの瞬間から、余はもうとっくに抗えなくなっているのだ。
余はリュカの足を開いた。
リュカが期待を込めたように微笑む。
洗浄薬の瓶を探したが、それらしきものは見つからない。
あれが無くても男の体と交われるのだろうか。
余は女の体しか知らないから、どうすればいいのか正直よく分からなかった。
とりあえず、後ろの蕾に一本だけ指を差し込んでみる。
「ああっ」
ぬるりと抵抗なく指が入り、リュカは嬉しそうに声を上げる。
すでに準備はされていたらしい。
リュカの様子を見ながらゆっくりと指を出し入れしてみる。
「あっ……ああっ……」
気持ちがいいらしく、指の動きに合わせてリュカが声を上げる。
恐る恐る指を二本、そして三本と増やしていく。
リュカの腰がいやらしく動いて、中が吸い付くようにうねり始める。
「もう……もう入れてくださ……」
あの怯えて小動物のように震えていた子が自分から足を開いて、まるで淫らな娼婦のように誘ってくる。
余はそこに至って、自分が服を脱いでいないことに気付いた。慌てて脱ごうとするがひどくもどかしく、ズボンと下着を脱ぎ捨てて、上衣は着たままでリュカにのしかかった。
「挿れるぞ」
「はい……」
こんな小さな蕾に余のものを挿れて壊れないかと心配したが、今更やめてやることも出来ない。ぐっと押し付けるとリュカのそこは温かくて、きつくて、いやらしく収縮している。加減してやることも出来ずに、余はそのまま一気に根元まで深く入った。
「あ、あああっ」
「リュカ……!」
遠見の術で一目見た時からずっと狂おしいほどに求めていた。
欲しかったものが今、ここにある。
「あ……あ……」
リュカは体をそらし、苦しそうに息をする。
なだめるように髪を撫でてやる。
「リュカ、全部入れたぞ」
「はい……はい、嬉しいです……エディ……」
余を誰かと勘違いしたまま、リュカが涙を零す。
「リュカ……」
余はゆっくりとリュカの体をゆすり上げた。
「うあ、あ、あ……」
リュカはすぐに甘い声を上げ始める。
その反応から、男に抱かれるのに慣れた体だと分かる。
この子は愛玩奴隷として、いったい何人の男に体を開いてきたんだろうか。
「ああ……エディ……」
幸せそうな顔をして、余に揺らされながら違う者の名を呼ぶ。
「気持ちいいよぉ……エディ……」
体全部で余を感じて、その快感に酔いしれながら、また違う者の名を呼ぶ。
「リュカ」
「エディ……」
何度も違う名を呼ばれるのが嫌で、キスで口をふさぐ。
「んん、ん……」
舌が必死にからみついてくる。
不器用に強く吸われる。
そこにひたむきな情熱を感じて、喜びと苦しみを同時に味わう。
余は狂おしいまでの嫉妬をぶつけるように、強く腰を打ち付け続けた。
「あ、あ、あ、だめ……出る……!」
リュカの手がぎゅうっと余の服をつかんできた。
がくがくと震えて、余のものをきゅうきゅうと強く締め付けてくる。
「くっ……」
余はたまらず、リュカから自分のものを抜いた。シーツの上に余のものが飛び散る。
しばらく二人分の呼吸音だけが寝台の上に響く。
いつも女の方から言い寄られていたので、余は相手をむりやりに犯したことなど一度も無かった。
それが今、卑怯にも、媚薬などを使って朦朧としている者を凌辱してしまった……。
後悔と羞恥で余はリュカのそばから離れようとした。
「いやぁ……まって……」
リュカの手が余の服をつかんでくる。
「まだ、やめないでぇ……」
「リュカ……? 今のでイけなかったのか?」
驚いて確認すると、リュカの腹は白い液体で汚れている。
「ううん……イったけど……でもまだ……あつくて……」
「だが……」
「お願い……お願いだから……エディ」
しつこく求めてくる体を両腕で抱きしめる。
余はこんなにも華奢な体を抱いたのは初めてだった。
胸も腰も薄くて、余を受け入れるだけでも苦しそうに思える。
一度しただけでぐったりしているのに、続けて欲しいと懇願されるとは。
「本当に続けて大丈夫なのか」
リュカはこくりとうなずいた。
「いつもみたいに、後で……癒しの魔法を………」
癒しの魔法。
つまり、エディなる者は高位の魔導士か。
そこで余はハッと思い出した。
かの国の大魔導士の名は確か、エドゥアール。
その男がリュカの……。
余はリュカの体をきつく掻き抱いた。
「んん……」
リュカが甘い声を出す。
頭が混乱する。
いつもみたいに、とはどういうことだ?
勇者の専属奴隷でありながら、リュカは大魔導士とも通じているのか?
もしそれがばれたらどうなる?
あの偽善者ぶった男はどうする?
勇者はリュカを殺すのか?
もちろん殺すに決まっている。
余だったら殺す。
魔導士もろともに殺してやるとも。
リュカ、余がさらってきたのはむしろ、お前にとっては幸運だったのではないか。
愛玩奴隷をしていた割に、感情を隠すのが下手な子だ。
このように寝言で想い人の名を呼ぶようでは、いずれ早い内に不義がばれたであろう。
こうなると、やはり勇者には返してやれぬ。
お前を助けるためには余のもとに置いておくしかないではないか。
「ああん……中が切ない……お願い、エディ、もう一回してぇ………」
こんなにいやらしい体の中に秘めた想いを宿しているなら、余がその想いごとすべてを隠してやるしか……。
・
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