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第8話 まさか未来の大魔王さまと
8-(8) 想い人の代りに
幸せな夢を見ていた。
エディの優しい香りに包まれて、貪るように何度も抱き合う。
深いところでつながったまま、ゆったりとしたリズムで揺らされている。
耳元に熱い息がかかり、服を着たままの温かい腕が抱きしめてくれている。
「ああ……エディ……」
腕を伸ばして首に抱きつく。
柔らかな髪を撫でる。
指先に硬いものが触れる。
「え……」
強い違和感を覚える。
これは何……?
エディの頭に、角が……。
「あ……うそ……」
パチンと、まるでスイッチを切り替えるみたいに夢から覚めた。
僕を抱きしめ、僕を貫き、僕を揺らしているのは……。
「ア……ラン……さま……?」
目の前にいるのはアランだった。
僕を上から組み敷いて一番深いところまでつながっている。
「や……いや……どうして……」
アランに対する恐怖と、つい先ほどまで優しく触れてきた手の感触が、頭の中で一致しない。
「薬の効果が切れたか」
「え……」
くすり……?
アランは気まずそうに目を伏せたが、僕の体を離そうとしない。
大きな褐色の手が僕の目をふさいできた。
「好きな男を思い浮かべておれ」
「え……アランさ……」
「すまぬ、リュカ。余はもう途中でやめられぬ」
そう言って目をふさいだまま、腰を小刻みに動かし始める。
「んあっ、ああっ」
体の奥から強烈な快感が沸き起こってくる。
柔らかい唇が首に吸い付いてくる。
アランの熱いものが僕の奥の気持ちいいところを的確に突いてくる。
何が起こっているのか分からなくて、快楽に流されていく。
「や……ああ、あ、あ、」
つくづく思う。
僕は愛玩奴隷に向いている。
誰に抱かれても、こんなに淫らな声が出る。
「うあ……あ……」
両目が熱くなってくる。
溢れてきた涙に気付いて、アランが目から手を外した。
「泣くな、リュカ。悪いのは余だ」
「ああ……」
「許せ……!」
アランが僕の体をきつく抱いて、体全部をぶつけるように激しく揺さぶり始める。
「いやぁ、ああっ」
強制的に頂点まで持って行かれて、僕はアランの下で達していた。
アランがグイっと自分のものを引き抜き、僕のお腹の上にどぷ、どぷ、と精液を吐き出してきた。
生温かい液体がお腹の上で二人分混ざって、ゆっくりと冷えてゆく。
荒い息で胸を上下させて放心したようにお腹の上のそれを見ていると、アランが布でぐいぐいと拭いてきた。
「すまない、リュカ」
うつむいた顔に白い髪がかかり、アランの表情が見えない。
「言い訳にしかならぬが、余はこんなことを無理強いするつもりは……いや、すべて余が悪い。お前をこうしたくて、かの国からさらってきたのだからな」
体をつなげたせいだろうか、それとも薬の効果のせいだろうか、目の前のアランが今はそれほど怖くはなくなっていた。
「あの……僕、カミーユさんにむりやり何か飲まされたのは……覚えています……」
「そうか……」
アランはやはり視線をそらしたままだ。
昨夜、鳥籠の檻に戻って寝ようとしたら、カミーユから液体の入ったグラスを渡された。
嫌な感じにニヤニヤしているから、なんだか気味が悪くてそれを返そうとしたら、むりやり押さえ込まれて飲まされた。
でも、その後の記憶はおかしい。
僕はエディと抱き合っていた。
エディの体にすり寄って、エディにキスして甘えて、エディに自分を抱くようにとせがんで……何度も、何度もせがんで……。
ラベンダーの優しい香りが、カーテンに仕切られた寝台の中を満たしている。
アランの体からエディと同じ匂いがしてくる。
きっとその香水のせいで、アランをエディと思い込んでしまったんだ……。
アランはうつむき気味に困ったような顔をして下着とズボンを履いている。
そんな表情をさせているのは、自分だと思った。
「ごめんなさい……」
言うと、怪訝そうに見下ろしてくる。
「なぜ謝る。薬などを用いて卑怯な真似をしたのは余の方だ」
「そうなんでしょうけど……僕は……その……」
薬が残っているのか、頭がちゃんと働かない。
体中に、甘い行為の余韻が残っている。
まだすぐそばにエディがいるような感じがしてしまう。
「僕はとても幸せな……幸せな夢を見ていましたから……」
だるくて起き上がれないけれど、どこも痛くはない。
見える範囲には何の跡もついていない。
軽く足を動かしてみても後ろからアランのものは垂れてこない。
きっとアランはさっきのように、全部外に出したんだろう。
自分の体の状態を見れば、アランが極力優しく触れてくれたのが分かる。
だから僕はずっと幸福な夢の中で、エディに優しく抱いてもらえていたんだ。
「ごめんなさい……」
心の中に湧き上がるものをうまく言い表せなくて、僕はまた謝る。
アランは小さく息を吐いた。
「エディというのは、何者だ」
ハッとしてアランを見る。
「抱き合っている間中、幾度も余をそう呼んでいた」
「ごめんなさ……」
「謝らなくていい。エディというのは、かの国の『癒しの大魔導士』エドゥアールのことなのか」
僕はうなずいた。
ごまかしてもしょうがない。
アランが大きく息をついて、肩を上下させる。
「お前は勇者レアンドルの専属奴隷だったはずだが」
「はい」
「専属になった後もエドゥアールと通じていたのか」
僕は首をふった。
「僕はエディにひどいことをしてしまったので……きっともう……嫌われて……」
言葉にすると、つらくなる。
偽物が本物のふりをして甘えてきたなんて、きっと気持ち悪いと思われている。
本物へ向けられた情愛を、偽物が騙して受け取っていたのだから。
幸せな夢からつらい現実へ引き戻され、ぽろぽろと涙がこぼれてきた。
「エディ……」
甘い夢から覚めたくなかった。
幻でもいいからエディに抱かれていたかった。
こんなことを思うなんて、エディにもレオにもアランにも失礼なのに……。
「ごめんなさい……」
アランが大きくため息をつく。
「こうなると、やはりリュカを勇者のもとへは返せぬな」
僕は顔を上げた。
アランの指が僕の涙を拭う。
「専属奴隷の契約書を読んだか」
「え、いえ……」
「奴隷が自分の主以外と通じた場合、主には奴隷を処分する権利があるはずだ。勇者との睦言で他の男の名前を呼んだ場合、リュカはその場で殺されかねぬ」
また、はらはらと涙が零れる。
こうやって、あの野営地より遠く離されてから、今まで自分がどれだけエディを頼りに思っていたか、どれだけエディに甘えていたのかを知った。不安になる度に僕の頭に浮かぶのはいつもエディの優しい顔ばかりだ。
今頃になって自分の心を知ったところでどうしようも無いのに、エディの存在が大きすぎて僕の中から消せる気がしない。
アランの言う通りに、レオに抱かれている最中に呼び間違えるということは……無いとは言えない……。
たとえ契約がどうであれ、レオはいきなり僕を殺したりはしないだろうけど、でもきっと嫌な気持ちにはなると思う。偽物でも守ってやると言ってくれた誠実なレオに対して、僕は何も返せない……。
カミーユがどうして僕をずるくて汚いと言ったのか、やっとはっきり分かった。
確かに僕は、ずるくて汚い。
「リュカ」
ふわりと、優しい香りをさせてアランが僕を抱きしめた。
そして耳元で信じられないことを言った。
「余が代わりになろうか?」
「え……」
アランの声は穏やかで落ち着いていた。
「余のことは何度違う名で呼んでも良い。リュカがずっと、薬と香水で甘い夢を見ていたいのなら、この先も、余が想い人の代わりをしてやろうか」
何を言われているのか、すぐには分からなかった。
この人は誰だろう。
アランは僕をむりやりさらってきて、平気で手首を焼くような男だったのに。
まるで魔法にかかったみたいに、今、僕を優しく抱きしめている。
どうしてこんな僕に対して、そこまで言ってくれるんだろう。
僕が愛されたいと望んだから……?
三つ目の神様がそれを叶えてくれたから……?
きれいな顔と体を手に入れて、優しさをたくさんもらって幸せにしてもらえたけれど、僕は周りの人を一人でも幸せに出来たんだろうか?
「やめてくれよ……」
かすれた男の声が寝台の向こうから聞こえた。
人がいると思わなかったので、僕はびくりとした。
「やめてくれよ、アラン!」
叫びながらカミーユがカーテンを勢いよく開いた。
僕は自分の体を隠すように身を縮めた。
脱ぎ捨てられていたローブを、アランが肩にかけてくれる。
「カミーユ、いくらお前でも無礼が過ぎるぞ」
「じゃぁ、俺を殺せばいい。アランはこの国の次の王なんだ。しかも、歴代の王の中で一番偉大な大王になろうかというほどのすごい魔力を持っているんだ。そんなすごい俺の自慢のアランが、誰かの代りでもいいとか誇りの無いことを言うなよ!」
カミーユの目には涙が溜まっていた。
その金色に輝く目が僕を睨む。
「こんなきれいなだけで中身の無い奴隷なんかに入れあげちゃってさ、くだらないよ……!」
カミーユの手が腰に伸びて、何か光るものを取り出す。
「媚薬じゃなくて毒を飲ませれば良かった。この淫魔め……!」
振り上げられた手にギラリと刃物が光った。
アランがすっと手を伸ばした。
キン、と小さな音がした。
カミーユの握っていた短剣が、パキパキパキと割れて、いくつもの小さな欠片になっていく。
「え……」
僕が恐怖ですくんでいる一瞬の間に、凶器は消えていた。
開けられたカーテンの向こうから差し込む光を反射して、さっきまで短剣だったものが小さな欠片になって光りながら落ちていく。
「カミーユ、余の前で刃物など何の役にも立たぬのは知っているだろう」
カミーユは顔を真っ赤にしてアランを睨んでいる。
「そんなこと分かってるよ。アランの、バカ……」
アランが不思議そうに首を傾げる。
「なぜまたバカと言うのだ?」
「分かんないのかよ! 俺はアランが誰かの代りをするなんて絶対の絶対に嫌だよ! アランにはアランだけを愛してくれるかわいいお嫁さんをもらって欲しいんだ。アランが楽しくないと俺も楽しくないんだよ!」
「カミーユ……」
アランが何かを言いかけた時、ぐらりと体が揺れた。
一瞬、自分が眩暈を起こしたのかと思ったけど、揺れているのは僕だけじゃなかった。
ゴゴゴゴ……と地響きが聞こえてきて、寝台がぐらぐらと揺れる。ごてごてした部屋にある美術品なんかがいくつも倒れてガシャンガシャンと派手な音を立て始める。
地震?
この世界に来てから初めての地震だ!
ええと、隠れるとこ……頭を守るものは……。
きょろきょろとしている僕をアランが胸に抱き寄せる。
「カミーユもこちらへ来い」
アランが手を伸ばす。
「ど、どういうこと? この城は勇者だって攻められない。どんな攻撃だって、吹雪の石が吸収するのに!」
アランは慌てふためくカミーユの手を引っ張り、寝台に登らせる。
アランの周囲に風が巻き起こり、僕ら三人を守るように包み込んだ。
「ここまでだな」
ふう、とアランは息を吐いた。
「え? なに? なにが?」
カミーユはパニックになったように落ち着かない。
「余を殺しに来たようだ……」
「ええ? この力は勇者なの? でもこの城は」
アランはゆっくりと首を振る。
「吹雪の城にも攻略方法はある。吹雪の石が吸収する以上の魔力をぶつければ良いのだ」
「は? そんなことできるわけが……」
「今、この城の外に巨大な魔力を持つ者がいる。勇者以上の魔力を持つ何者かだ」
「勇者以上? そんな奴いる? あ、父上?」
「いや、父上も余も、勇者でさえその足下に及ばない。これは……まさに圧倒的な力だ……」
アランは、どこか恍惚とした表情でそう言った。
・
エディの優しい香りに包まれて、貪るように何度も抱き合う。
深いところでつながったまま、ゆったりとしたリズムで揺らされている。
耳元に熱い息がかかり、服を着たままの温かい腕が抱きしめてくれている。
「ああ……エディ……」
腕を伸ばして首に抱きつく。
柔らかな髪を撫でる。
指先に硬いものが触れる。
「え……」
強い違和感を覚える。
これは何……?
エディの頭に、角が……。
「あ……うそ……」
パチンと、まるでスイッチを切り替えるみたいに夢から覚めた。
僕を抱きしめ、僕を貫き、僕を揺らしているのは……。
「ア……ラン……さま……?」
目の前にいるのはアランだった。
僕を上から組み敷いて一番深いところまでつながっている。
「や……いや……どうして……」
アランに対する恐怖と、つい先ほどまで優しく触れてきた手の感触が、頭の中で一致しない。
「薬の効果が切れたか」
「え……」
くすり……?
アランは気まずそうに目を伏せたが、僕の体を離そうとしない。
大きな褐色の手が僕の目をふさいできた。
「好きな男を思い浮かべておれ」
「え……アランさ……」
「すまぬ、リュカ。余はもう途中でやめられぬ」
そう言って目をふさいだまま、腰を小刻みに動かし始める。
「んあっ、ああっ」
体の奥から強烈な快感が沸き起こってくる。
柔らかい唇が首に吸い付いてくる。
アランの熱いものが僕の奥の気持ちいいところを的確に突いてくる。
何が起こっているのか分からなくて、快楽に流されていく。
「や……ああ、あ、あ、」
つくづく思う。
僕は愛玩奴隷に向いている。
誰に抱かれても、こんなに淫らな声が出る。
「うあ……あ……」
両目が熱くなってくる。
溢れてきた涙に気付いて、アランが目から手を外した。
「泣くな、リュカ。悪いのは余だ」
「ああ……」
「許せ……!」
アランが僕の体をきつく抱いて、体全部をぶつけるように激しく揺さぶり始める。
「いやぁ、ああっ」
強制的に頂点まで持って行かれて、僕はアランの下で達していた。
アランがグイっと自分のものを引き抜き、僕のお腹の上にどぷ、どぷ、と精液を吐き出してきた。
生温かい液体がお腹の上で二人分混ざって、ゆっくりと冷えてゆく。
荒い息で胸を上下させて放心したようにお腹の上のそれを見ていると、アランが布でぐいぐいと拭いてきた。
「すまない、リュカ」
うつむいた顔に白い髪がかかり、アランの表情が見えない。
「言い訳にしかならぬが、余はこんなことを無理強いするつもりは……いや、すべて余が悪い。お前をこうしたくて、かの国からさらってきたのだからな」
体をつなげたせいだろうか、それとも薬の効果のせいだろうか、目の前のアランが今はそれほど怖くはなくなっていた。
「あの……僕、カミーユさんにむりやり何か飲まされたのは……覚えています……」
「そうか……」
アランはやはり視線をそらしたままだ。
昨夜、鳥籠の檻に戻って寝ようとしたら、カミーユから液体の入ったグラスを渡された。
嫌な感じにニヤニヤしているから、なんだか気味が悪くてそれを返そうとしたら、むりやり押さえ込まれて飲まされた。
でも、その後の記憶はおかしい。
僕はエディと抱き合っていた。
エディの体にすり寄って、エディにキスして甘えて、エディに自分を抱くようにとせがんで……何度も、何度もせがんで……。
ラベンダーの優しい香りが、カーテンに仕切られた寝台の中を満たしている。
アランの体からエディと同じ匂いがしてくる。
きっとその香水のせいで、アランをエディと思い込んでしまったんだ……。
アランはうつむき気味に困ったような顔をして下着とズボンを履いている。
そんな表情をさせているのは、自分だと思った。
「ごめんなさい……」
言うと、怪訝そうに見下ろしてくる。
「なぜ謝る。薬などを用いて卑怯な真似をしたのは余の方だ」
「そうなんでしょうけど……僕は……その……」
薬が残っているのか、頭がちゃんと働かない。
体中に、甘い行為の余韻が残っている。
まだすぐそばにエディがいるような感じがしてしまう。
「僕はとても幸せな……幸せな夢を見ていましたから……」
だるくて起き上がれないけれど、どこも痛くはない。
見える範囲には何の跡もついていない。
軽く足を動かしてみても後ろからアランのものは垂れてこない。
きっとアランはさっきのように、全部外に出したんだろう。
自分の体の状態を見れば、アランが極力優しく触れてくれたのが分かる。
だから僕はずっと幸福な夢の中で、エディに優しく抱いてもらえていたんだ。
「ごめんなさい……」
心の中に湧き上がるものをうまく言い表せなくて、僕はまた謝る。
アランは小さく息を吐いた。
「エディというのは、何者だ」
ハッとしてアランを見る。
「抱き合っている間中、幾度も余をそう呼んでいた」
「ごめんなさ……」
「謝らなくていい。エディというのは、かの国の『癒しの大魔導士』エドゥアールのことなのか」
僕はうなずいた。
ごまかしてもしょうがない。
アランが大きく息をついて、肩を上下させる。
「お前は勇者レアンドルの専属奴隷だったはずだが」
「はい」
「専属になった後もエドゥアールと通じていたのか」
僕は首をふった。
「僕はエディにひどいことをしてしまったので……きっともう……嫌われて……」
言葉にすると、つらくなる。
偽物が本物のふりをして甘えてきたなんて、きっと気持ち悪いと思われている。
本物へ向けられた情愛を、偽物が騙して受け取っていたのだから。
幸せな夢からつらい現実へ引き戻され、ぽろぽろと涙がこぼれてきた。
「エディ……」
甘い夢から覚めたくなかった。
幻でもいいからエディに抱かれていたかった。
こんなことを思うなんて、エディにもレオにもアランにも失礼なのに……。
「ごめんなさい……」
アランが大きくため息をつく。
「こうなると、やはりリュカを勇者のもとへは返せぬな」
僕は顔を上げた。
アランの指が僕の涙を拭う。
「専属奴隷の契約書を読んだか」
「え、いえ……」
「奴隷が自分の主以外と通じた場合、主には奴隷を処分する権利があるはずだ。勇者との睦言で他の男の名前を呼んだ場合、リュカはその場で殺されかねぬ」
また、はらはらと涙が零れる。
こうやって、あの野営地より遠く離されてから、今まで自分がどれだけエディを頼りに思っていたか、どれだけエディに甘えていたのかを知った。不安になる度に僕の頭に浮かぶのはいつもエディの優しい顔ばかりだ。
今頃になって自分の心を知ったところでどうしようも無いのに、エディの存在が大きすぎて僕の中から消せる気がしない。
アランの言う通りに、レオに抱かれている最中に呼び間違えるということは……無いとは言えない……。
たとえ契約がどうであれ、レオはいきなり僕を殺したりはしないだろうけど、でもきっと嫌な気持ちにはなると思う。偽物でも守ってやると言ってくれた誠実なレオに対して、僕は何も返せない……。
カミーユがどうして僕をずるくて汚いと言ったのか、やっとはっきり分かった。
確かに僕は、ずるくて汚い。
「リュカ」
ふわりと、優しい香りをさせてアランが僕を抱きしめた。
そして耳元で信じられないことを言った。
「余が代わりになろうか?」
「え……」
アランの声は穏やかで落ち着いていた。
「余のことは何度違う名で呼んでも良い。リュカがずっと、薬と香水で甘い夢を見ていたいのなら、この先も、余が想い人の代わりをしてやろうか」
何を言われているのか、すぐには分からなかった。
この人は誰だろう。
アランは僕をむりやりさらってきて、平気で手首を焼くような男だったのに。
まるで魔法にかかったみたいに、今、僕を優しく抱きしめている。
どうしてこんな僕に対して、そこまで言ってくれるんだろう。
僕が愛されたいと望んだから……?
三つ目の神様がそれを叶えてくれたから……?
きれいな顔と体を手に入れて、優しさをたくさんもらって幸せにしてもらえたけれど、僕は周りの人を一人でも幸せに出来たんだろうか?
「やめてくれよ……」
かすれた男の声が寝台の向こうから聞こえた。
人がいると思わなかったので、僕はびくりとした。
「やめてくれよ、アラン!」
叫びながらカミーユがカーテンを勢いよく開いた。
僕は自分の体を隠すように身を縮めた。
脱ぎ捨てられていたローブを、アランが肩にかけてくれる。
「カミーユ、いくらお前でも無礼が過ぎるぞ」
「じゃぁ、俺を殺せばいい。アランはこの国の次の王なんだ。しかも、歴代の王の中で一番偉大な大王になろうかというほどのすごい魔力を持っているんだ。そんなすごい俺の自慢のアランが、誰かの代りでもいいとか誇りの無いことを言うなよ!」
カミーユの目には涙が溜まっていた。
その金色に輝く目が僕を睨む。
「こんなきれいなだけで中身の無い奴隷なんかに入れあげちゃってさ、くだらないよ……!」
カミーユの手が腰に伸びて、何か光るものを取り出す。
「媚薬じゃなくて毒を飲ませれば良かった。この淫魔め……!」
振り上げられた手にギラリと刃物が光った。
アランがすっと手を伸ばした。
キン、と小さな音がした。
カミーユの握っていた短剣が、パキパキパキと割れて、いくつもの小さな欠片になっていく。
「え……」
僕が恐怖ですくんでいる一瞬の間に、凶器は消えていた。
開けられたカーテンの向こうから差し込む光を反射して、さっきまで短剣だったものが小さな欠片になって光りながら落ちていく。
「カミーユ、余の前で刃物など何の役にも立たぬのは知っているだろう」
カミーユは顔を真っ赤にしてアランを睨んでいる。
「そんなこと分かってるよ。アランの、バカ……」
アランが不思議そうに首を傾げる。
「なぜまたバカと言うのだ?」
「分かんないのかよ! 俺はアランが誰かの代りをするなんて絶対の絶対に嫌だよ! アランにはアランだけを愛してくれるかわいいお嫁さんをもらって欲しいんだ。アランが楽しくないと俺も楽しくないんだよ!」
「カミーユ……」
アランが何かを言いかけた時、ぐらりと体が揺れた。
一瞬、自分が眩暈を起こしたのかと思ったけど、揺れているのは僕だけじゃなかった。
ゴゴゴゴ……と地響きが聞こえてきて、寝台がぐらぐらと揺れる。ごてごてした部屋にある美術品なんかがいくつも倒れてガシャンガシャンと派手な音を立て始める。
地震?
この世界に来てから初めての地震だ!
ええと、隠れるとこ……頭を守るものは……。
きょろきょろとしている僕をアランが胸に抱き寄せる。
「カミーユもこちらへ来い」
アランが手を伸ばす。
「ど、どういうこと? この城は勇者だって攻められない。どんな攻撃だって、吹雪の石が吸収するのに!」
アランは慌てふためくカミーユの手を引っ張り、寝台に登らせる。
アランの周囲に風が巻き起こり、僕ら三人を守るように包み込んだ。
「ここまでだな」
ふう、とアランは息を吐いた。
「え? なに? なにが?」
カミーユはパニックになったように落ち着かない。
「余を殺しに来たようだ……」
「ええ? この力は勇者なの? でもこの城は」
アランはゆっくりと首を振る。
「吹雪の城にも攻略方法はある。吹雪の石が吸収する以上の魔力をぶつければ良いのだ」
「は? そんなことできるわけが……」
「今、この城の外に巨大な魔力を持つ者がいる。勇者以上の魔力を持つ何者かだ」
「勇者以上? そんな奴いる? あ、父上?」
「いや、父上も余も、勇者でさえその足下に及ばない。これは……まさに圧倒的な力だ……」
アランは、どこか恍惚とした表情でそう言った。
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