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おまけの章 はじめてのやきもち
(2) 再会
エディは僕の後ろを青の洗浄薬で後始末して、水魔法で二人一緒に体を洗い始める。
行為の後はいつもそうしてくれるから、僕はもうすっかり遠慮せずに甘えるようになっていた。
「はぁ……しあわせぇ……」
今日は起き抜けにエッチをしてしまったので、僕は幸福感にゆらゆらうっとりと漂いながら二度寝に突入しそうになっていた。
「ヨースケ、今日はもう、学校をお休みしましょうか」
エディは甘い声を出して、僕の頬に口付け、腰を抱き寄せてくる。
「……はい……休みます……」
ちゃんと勉強をして世の中の役に立つ人間になるのが目標なのに、意志の弱い僕はエディの甘い言葉にうなずいてしまった。
でも、もう、これはしょうがない気がする。だって、エディが色気ありすぎるのが悪い。エディがエッチ上手すぎるのが悪い。エディがイケメンすぎて、優しすぎて、僕を甘やかしすぎるのが悪い。
うん、それより何より、僕がエディを好きすぎるのが悪い……。
「エディ……」
僕が湿った声を出してエディにすり寄ったその時、こつこつこつとかなり控えめなノックが聞こえて来た。
「エドゥアール様……今、よろしいでしょうか」
扉の向こうから呼びかける遠慮がちな声はスチュアートのものだ。
僕はさっきまであげていた大きな喘ぎ声を思い出して、カーッと顔が熱くなった。
これ、絶対に、聞かれたよね。
だってあまりにもタイミングが良すぎる……。
多分スチュアートはエディに用事があったんだけど、部屋の中では僕が派手にアンアン言っていたから話しかけられないでいたんだ。それできっと、僕とエディのエッチが終わるのをそこでじっと待っていたんだ。
「ああ、かまわない。どうした」
僕は慌てて毛布の中に体を滑り込ませたのに、エディは平然と髪をかきあげて扉の方を向いた。カーテンの隙間から入ってくる陽の光が、エディの胸の傷を照らしている。
「その……ご来客です」
「今日は面会の予定はなかったはずだが」
この国のお貴族様は、ただ会うだけでも面倒な手続きがいる。相手を訪問したい場合はまず手紙でお伺いを立てて、その相手から招待されなければ勝手に訪れてはいけないのだ。
「その……相手は大変に身分の高い方でして」
でも、色々なルールもしきたりも、身分の高い人が身分の低い人を訪れる場合はすべてを無視できる。
エディは『癒しの大魔導士』の称号も返上してしまって、今は男爵の息子というだけの立場なので、貴族の中ではかなり身分が低いらしい。
「こんな朝早くから来るような不躾な輩はどこのどいつだ」
「それが、その……」
スチュアートはいつもと違って、なんだか歯切れの悪い口調だ。
「びっくりさせたいから名を告げるなと言われまして」
びっくりさせる?
なんだろ、何かのサプライズ?
「びっくり……」
エディが少し眉根を寄せた。
「分かった。正装を用意してくれ」
「すでに用意してございます」
「そうか、いつも助かる」
「ありがたきお言葉でございます」
スチュアートの足音が遠ざかっていく。
エディはぎゅっと僕を抱き寄せて、ふっと息を吐いた。
「今日は一日中、ヨースケのかわいい声を聞いているつもりだったのに、残念です」
「……僕も」
「え」
「僕も、一日中エディとくっついていたかったです」
ほんの少し驚いているようなエディに、僕は自分からちゅっと口付けてベッドを降りた。
「びっくりなお客様って誰でしょうね。楽しみです」
「……そうですね」
僕とエディは身支度を終えて、おそろいの正装用のローブを着て一階へ降りた。いつか僕がエディと同じローブの正装が良いと言ったのを覚えていて、エディが作らせてくれたものだ。宝石みたいな小さい石がたくさん縫い付けられていて、動くたびにキラキラ光る。
僕はエディに手を引かれて応接室に入った。
ソファに男の人が二人座っている。
僕はその姿を一目見るなり、大きく叫んだ。
「レオ! フィル!」
懐かしい二人を見て心が跳ねる。
「わー、すごい、びっくりです!」
叫びながらワーッと駆け寄ろうとしたけど、僕の手を握ったままエディが離さないので、かくんとバランスを崩してエディに寄り掛かった。
「わ……エディ?」
「なるほど、びっくりですね」
にこりともしないで、エディが言った。
「何だよ、エドゥアール。久しぶりだってのに愛想がねぇな」
「もう少し常識的に訪ねてくだされば、こちらも歓迎したのですけれど?」
「ああ、悪い、魔導士殿。レアンドルがヨウスケを驚かせると言ってきかなくてな」
ああ、この空気。
一気にあの国境沿いのテントで過ごした日々が蘇る。
「すごくびっくりしました。会いに来てくれるなんて嬉しいです」
レオもフィルもぜんぜん変わりないように見える。
二人は正装ほどではないけれど、テントにいた頃よりは改まった格好をしていた。長袖のシャツに刺繍入りのベストを着て、ひらひらのクラヴァットを付けている。
「元気そうだな、陽介。相当エドゥアールにかわいがってもらっているせいか、肌艶もいいな」
「え? え……と」
は、肌艶?
「香るように色気マシマシになっちゃって、淫らでかわいい鳴き声もますます淫らでかわいくなっちゃって」
「え……え……?」
からかうように言われて頬が熱くなってくる。
喘ぎ声、ここまで聞こえていたの?
僕の声、そんなに大きかったの?
「すまない。そういう気まずいことが無いように、わざわざ朝の時間に訪問してみたのだが」
フィルはすまなさそうな顔半分、ちょっと面白そうな顔半分といった感じで僕とエディを見た。
エディは僕をひょいと抱き上げて、彼らの向かい側のソファに座った。
膝に乗っている僕のお腹に片腕を回してくる。
「それは大変失礼しました。でも、このヨースケに朝から積極的に誘われてしまったもので……それを断れる男がいると思います?」
「エ、エディ……!」
僕は恥ずかしくなって、エディの胸に顔をうずめた。
「ほんとか?」
「何がです?」
「陽介から誘ったってやつ」
「本当ですよ、ねぇ?」
エディが僕を見下ろすので、僕は真っ赤になりながらうなずいた。
「は、はい。僕からエディに、その、くっついて、えっと……」
下半身をこすりつけたなんて、恥ずかしすぎてここでは言えない。
レオは目をすがめてエディを見た。
「エドゥアール、お前、俺達と同じように相手の魔力の大きさを感知できるよな。俺とフィリベールが近づいて来るのが、だいぶ前から分かっていたんじゃないのか?」
「いいえ、まさか。私は愛しいヨースケに全神経を注いでいたので、お二人のことなどまったく気が付きませんでしたよ」
まったく、というところを強調してエディは澄ました顔をした。
「そうかぁ? わざと俺とフィリベールに聞かせたんじゃないのか。陽介のかわいらしい声を」
「いえいえ。ヨースケのかわいい囀りを誰かに聞かせるなんて、そんなもったいないことをわざわざ私がするはずがないでしょう」
「風魔法を使えば、完全に音を遮断することもできたはずだ。それをしなかったのは……?」
「ああ、ヨースケに夢中でそこまで頭が回りませんでした」
「はぁ、しれっと言うよな」
そこまで、ちょっと怖い顔をしていたレオは、肩をすくめてちょっと笑った。
ツンと澄ました顔をしていたエディも、くすっと笑みを漏らす。
「お二方とも、お変わりないようで安堵しました」
「ああ、お前のその巨大な魔力のこととか、ヨースケの中の奇妙な気配とか、いろいろ聞きたいことはあるが、まぁ二人とも元気そうで何より」
「そうだな。魔導士殿もヨウスケも、以前より健康そうで安心したよ」
和やかな雰囲気で微笑み合う三人を見て、僕はホッとした。
「あの、ジュリアン様は元気ですか?」
レオはニコッと笑ってうなずいた。
「ああ、王太子の就任式に向けて忙しくしているようだが、元気だぞ。一緒に来られなくて残念がっていた」
ジュリアンは、王太子だったお兄さんが病気で亡くなってしまい、二番目のお兄さんまで病気になってしまったので、今度王太子になるのだそうだ。
王太子とは次の王様になる人だから、きっとなかなか会えないんだろうな。
すごく喜ばしいことなんだろうけど、僕はちょっとだけ寂しい気がして、エディに寄り掛かった。
エディが僕の髪を撫でながら、ふたりに聞いた。
「それで? 今回の突撃訪問の目的は何でしょうか? ヨースケの様子を見に来ただけですか?」
「いや、それだけじゃねぇよ」
レオとフィルは楽しそうな顔で僕を見た。
「約束を果たしに来たんだ」
「約束?」
「ああ。この勇者様自ら冒険者の初心者講習をしてやるって約束しただろ。陽介、ダンジョンへ行くぞ」
・
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