100 / 121
おまけの章 はじめてのぼうけん
(5) 差し伸べられる手
ほんのりと光る果実を舌に乗せてみても、ほとんど味がしなかった。奥歯でぐっと噛みしめると、口の中で果実が割れて甘酸っぱい果汁が一気に広がる。
「……わ、おいしい」
思わず呟き、もうひとつ実を取ろうと手を伸ばして、僕はアッと声を上げた。
伸ばしたその手が淡く光っていたのだ。
「え、え、なにこれ」
手を少し動かすだけで、宝石の粉を撒き散らすみたいにキラキラと小さな光が弾ける。面白くて、ゆらゆらと目の前で手を動かすと、ふわふわキラキラと光の粉が広がっていく。
「すごい。なんか、きれいです」
エディを見上げて笑いかけると、うっとりと溜息まじりに僕を見つめてきた。
「ええ、きれいです……。本物の女神のようですね」
「ああ、まさに……」
フィルもほうっと息を吐いてうなずく。
自分で自分の姿が見えないからよく分からないけれど、どうやら手だけではなくて、僕の全身からキラキラの光が漏れ出しているようだった。
「おお、すげぇな……スマホで撮りてぇ」
ラウルの声が聞こえて振り向くと、その横でレオが笑った。
「あはは、俺もそれは何度も思ったことがある。きれいなものを見ると動画撮ってみんなに見せてやりたくなるよな」
「ああ。あっちにいた時は当たり前だったけど、いつでも画像が撮れるって実はすごいことだったんだなぁ」
僕も同じことを思ったことがあるので、嬉しくなって両手を上げる。
「はい、はい! 僕も何回も思いました! エディの写真いっぱい撮って、自分だけのアルバム作りたいって!」
レオとラウルがふっと鼻で笑う。
「まぁ、バカップルの話は置いておいて」
「ええ、ひどい、レオ」
「気合い入れるぞ。構えろ」
レオは剣を抜いてぐるりと360度見回した。
僕もつられるように視線を動かすと、草原のはるか先の方に土埃が上がっているのが見えた。前も後ろも右も左も、僕達の方へ向かって、何かが迫ってくるみたいだ。
「あれは」
「ハデスガーデン名産のオークの群れだな」
「オークの? じゃぁもしかして」
僕が輝きの実のなる木を振り向くと、フィルがうなずく。
「そういうことだ。輝きの実を食べた者からは、魔物を引き寄せる光と匂いが発せられるんだ」
「輝く覚悟ってそういう意味?!」
僕は自分の体を見下ろす。めちゃくちゃきれいな光なのに、実はこれが魔物ホイホイだったとは。
「よーし、陽介を中心にするぞ。エドゥアールは陽介の横に」
「はい」
エディが返事して僕の横に立つ。
「フィリベールは後ろから来るのをすべて仕留めろ」
「分かった」
フィルが僕の後ろの方へ移動して、剣を構える。
「俺は前方から来るやつを片っ端から斬っていく。ラウルは俺の後ろでドロップ品を拾ってくれ。魔石は後で拾ってもいいが、オークの肉は」
「分かってる。砂がつかないように空中でキャッチ、だろ」
ラウルはマジックバッグから薄い布製の手袋を出すと、両手にそれを着けた。
「その通り。でも、あいつら足は遅いけど輝きの実の効果でとにかく数がすごいからな。ラウルは素早いから大丈夫だと思うが、無理して全部取ろうとしなくていいからな。魔石や肉なんかよりお前の方が大事なんだからな」
「ああ、分かってる。無理はしない」
ラウルは嬉しそうに微笑んでレオを見た。
「それに、勇者様のそばが一番安全、だろ?」
レオも嬉しそうにニカッと笑い返す。
「もちろん俺のそばがどこよりも安全だ」
それからレオはまだ光り続けている僕に優しい顔を向けて来た。
「陽介は槍のカバーをはずして、どんと構えて待っていればいい」
「は、はい」
「できるだけ弱そうなやつを、一匹ずつ後ろへ流す。いいか陽介、落ち着いてまっすぐ前に槍を突き出せ。ミスリル製だから当たれば刺さる。刺されば、それで仕留められるから」
「は、はい! がんばります!」
「エドゥアールは陽介が危なくなった時だけ手を出すように。そうじゃないなら手出しは無用だ。我慢しろよ。いいな」
「分かっています」
やがて、遠くに見えていた土埃がどんどん近付いて来て、ドドドドッと大群の足音が近付いて来て、そして、魔物の姿が見えて来た。
「えぇ? あれぇ?」
僕はひっくり返った変な声を出してしまった。
ここはハデスガーデン、冥界の王の庭という名のダンジョンだ。そこに巣食うオークと聞いたら、普通のオークよりさらに怖いものを想像してしまうと思うんだけど?
例えば体がすごく大きかったり、角が生えたりしている凶暴なやつを。
でも、違った。
「なんですか、あれ! ぷぎゅぷぎゅ言ってますよ!」
それは、丸くて、コロコロしていて、つぶらな瞳の、子ブタ???
「か、かわいい」
ぷぎゅぷぎゅぷぎゅぷぎゅと鳴き声を発して、ぬいぐるみみたいな丸いフォルムのものが原っぱを埋め尽くすように増殖していく。
「うわぁ、一匹持って帰りたい」
抱きしめたいくらいにかわいい魔物が、短い足を必死に動かして走ってくる。
「ダメだぞ、陽介! 見た目で油断するな! そいつら牙は鋭いし、顎の力も強いし、噛まれたら相当ダメージあるぞ」
「えええ! そうなんですか? 分かりました! 気を付けます!」
僕は気を取り直して槍をかまえた。
やがて足の遅い子ブタ型オークの群れが僕達の所へ到達した。……かのように見えたけれども、レオのいる側も、フィルのいる側も、オークは近づくことも出来ずに、瞬時にキラキラと消えていく。
「わ、わ、すごい」
フィルの剣さばきがものすごいスピードだってことは、魔剣を取りに行った時に見て知っていたんだけど、レオも負けず劣らず速い剣技を見せている。
レオの手前でオークは光りながら消えていき、時々落ちてくる何かをラウルが空中でキャッチしてすぐマジックバッグに突っ込んでいく。
カツン、カツン、と魔石が地面に転がり、その中にピンクの塊がボヨンと落ちた。よく見るとそれは美味しそうな剥き出しのお肉だと分かった。
「わわ、お肉がそのままドロップするんですか?」
「ああ! 面白いだろ! 血抜きなんかの下処理も済んでいてすぐ料理できるんだぞ!」
ラウルが走りながら叫ぶ。
「おー、そうなんだ! それは親切です!」
「あはは、ほんと親切だな」
「陽介! ここらで一匹後ろへやるぞ」
レオの声がしたすぐ後に、丸っこい子ブタが転がるように僕の前に出て来た。
つぶらな目を見てしまい、僕は一瞬、うっと怯んだ。
「うぅ、なんか、かわいい」
これに槍を突き刺すの?
このかわいい子ブタちゃんに?
「ヨースケ、落ち着いて。槍を前に出すだけですよ」
「は、はい」
エディに励まされ、僕は槍を持つ手に力を込めて子ブタ型オークをぐっと睨んだ。オークも僕を睨みつけると、いきなりガァッと口を開いてギラリと牙を見せ一直線に突進してきた。
「ひゃっ」
「ヨースケ、今です!」
「は、はい、えいや!」
槍を前に突き出す。その穂先がするりとオークの体に吸い込まれた。拍子抜けするくらいに手ごたえがなくて、次の瞬間、キラキラッと光りながらオークが消え、何かが空中にポンと現れた。
「あっ、わっ、どうしよ」
両手に槍を持っていた僕がアワアワしている内に、横からすっとラウルが手を伸ばしてそれをキャッチした。
さらに、僕の足元にカツンと小さな魔石が落ちる。僕は慌ててしゃがんで、落ちた魔石を拾った。
「おお……魔石……」
それは指先くらいの小さいものだったけど、自分で取ったと思うとめちゃくちゃきれいに見える。
「日野、やったな。肉と魔石、初ゲットだ」
「はい! やりました!」
「肉は後で料理してやる。自分で取ったと思えば味も格別だぞ」
ウィンクをしながら、ラウルはキャッチしてくれたお肉をマジックバッグにしまった。
「うー、楽しみすぎです!」
エディがポンポンと僕の頭に触れて来て、僕の手の中の魔石を指差した。
「その魔石は、失くさないように自分のマジックバッグにしまっておきましょう。その様子なら、まだ何匹かいけますね」
「はい、まだいけます! 任せてください!」
僕はちょっと興奮していて、鼻息荒くすぐにまた槍をかまえた。
「勇者殿! よろしいですか」
「分かってる! また一匹そっちにやるぞ!」
それからレオとフィルが何百匹も倒していく間に、僕は5匹の子ブタ型オークを倒してお肉と魔石をゲットしたのだった。
汗をかいたのはラウルと僕だけだった。
エディは僕のそばにいてくれて動いていないから分かるけれど、レオとフィルはあれだけの数のオークを倒したのに、まったく息も切れていない。
「楽しかったか、陽介」
ニコニコとレオが聞いてきて、僕はぶんぶんと勢い良くうなずいた。
「はい! めっちゃくちゃ楽しかったです!」
僕が倒した5匹からは魔石が5つ、お肉はふたつドロップした。お肉はラウルが持っていてくれるけど、僕はマジックバッグの中からゲットした5つの魔石を出して、しみじみと眺めた。
自分の力で取ったものだと思うと、誇らしくて胸がドキドキしてくる。
「魔石はそのまま持っていてもいいですし、買取所で売ってお金に換えてもいいんですよ」
エディが教えてくれたけど、すぐには決められない。記念にこのまま持っておきたい気もするし、お金に換えたいような気もする。だって、それは僕がこの世界に来て、初めて自分で稼いだお金ってことになるから。
「えっと、どうするかもうちょっと考えます」
僕はまたマジックバッグの中に、そっと大事に魔石をしまった。
「では、少し休憩しようか。休める場所は……」
フィルがぐるりと草原に目をやり、急に眉をしかめた。
レオも、エディも、何かに驚いたようにびくっとして、周囲を見る。
「エディ? どうしたんですか」
「ヨースケ、こっちに」
エディがこわばった顔で僕を手招きし、フィルが普通の剣の方ではなく、マジックバッグから魔力剣の柄を出した。すぐに柄から魔力の刀剣がシュンと顕現する。
「おい……これは、何の気配だ?」
「分かりません。でも、確実に巨大な何かがいますね」
「ああ、かなりやばい感じがするぞ」
僕が輝きの実を食べた時よりも、はるかに強い警戒心を見せて三人が身構える。
僕とラウルだけ何が起こっているのか分からなくて、きょとんと顔を見合わせた。
次の瞬間。
それは何の前触れも無く、何の音も立てず、いきなり起きた。
コンパスで丸く切り取ったように、僕らの下の地面がふっと消えたのだ。
一瞬だけ、ふわりと重力が無くなったみたいに僕らは真っ暗闇の上に浮かんで、そして……。
「ヨースケ!」
「陽介!」
「ヨウスケ!」
三人が僕へ手を伸ばすのが目に映った。
それは本当にたった一瞬の出来事だったはずなのに、僕にはスローモーションみたいにゆっくりと全部が見えていた。
エディが風魔法で浮かんで僕の方へ腕を伸ばす。
フィルが魔力剣を変化させて鞭のように輝きの実のなる木にからませ、浮かび上がりながら僕へと手を伸ばす。
レオが赤い髪をなびかせ、両手で僕をつかまえようとする。
―――――― ダメだ。
そんなことしちゃダメだ。
僕に手を伸ばしちゃダメだ。
馬車が揺れたり道でつまづいたりしただけなら、それは苦笑いだけで済む。3人とも僕を守ろうとしてくれて、でも一番近いエディが助けてくれて、ほかの二人はちょっと気まずい。そんな笑い話にもならないようなささいなことだ。でも、今はダメだ。笑い話じゃすまないんだ。
「だめ……!」
その叫びが声になったのかどうか。
血の気が引いた。
僕の目にはラウルが映っていた。ラウルは悲鳴も上げず、驚いたような顔をしてバランスを崩し、真っ暗闇の中へ落ちていく。
「ラウル!!!」
僕の悲鳴と同時にレオがハッと振り向く。
でも、そこにはもうラウルはいなかった。
「……わ、おいしい」
思わず呟き、もうひとつ実を取ろうと手を伸ばして、僕はアッと声を上げた。
伸ばしたその手が淡く光っていたのだ。
「え、え、なにこれ」
手を少し動かすだけで、宝石の粉を撒き散らすみたいにキラキラと小さな光が弾ける。面白くて、ゆらゆらと目の前で手を動かすと、ふわふわキラキラと光の粉が広がっていく。
「すごい。なんか、きれいです」
エディを見上げて笑いかけると、うっとりと溜息まじりに僕を見つめてきた。
「ええ、きれいです……。本物の女神のようですね」
「ああ、まさに……」
フィルもほうっと息を吐いてうなずく。
自分で自分の姿が見えないからよく分からないけれど、どうやら手だけではなくて、僕の全身からキラキラの光が漏れ出しているようだった。
「おお、すげぇな……スマホで撮りてぇ」
ラウルの声が聞こえて振り向くと、その横でレオが笑った。
「あはは、俺もそれは何度も思ったことがある。きれいなものを見ると動画撮ってみんなに見せてやりたくなるよな」
「ああ。あっちにいた時は当たり前だったけど、いつでも画像が撮れるって実はすごいことだったんだなぁ」
僕も同じことを思ったことがあるので、嬉しくなって両手を上げる。
「はい、はい! 僕も何回も思いました! エディの写真いっぱい撮って、自分だけのアルバム作りたいって!」
レオとラウルがふっと鼻で笑う。
「まぁ、バカップルの話は置いておいて」
「ええ、ひどい、レオ」
「気合い入れるぞ。構えろ」
レオは剣を抜いてぐるりと360度見回した。
僕もつられるように視線を動かすと、草原のはるか先の方に土埃が上がっているのが見えた。前も後ろも右も左も、僕達の方へ向かって、何かが迫ってくるみたいだ。
「あれは」
「ハデスガーデン名産のオークの群れだな」
「オークの? じゃぁもしかして」
僕が輝きの実のなる木を振り向くと、フィルがうなずく。
「そういうことだ。輝きの実を食べた者からは、魔物を引き寄せる光と匂いが発せられるんだ」
「輝く覚悟ってそういう意味?!」
僕は自分の体を見下ろす。めちゃくちゃきれいな光なのに、実はこれが魔物ホイホイだったとは。
「よーし、陽介を中心にするぞ。エドゥアールは陽介の横に」
「はい」
エディが返事して僕の横に立つ。
「フィリベールは後ろから来るのをすべて仕留めろ」
「分かった」
フィルが僕の後ろの方へ移動して、剣を構える。
「俺は前方から来るやつを片っ端から斬っていく。ラウルは俺の後ろでドロップ品を拾ってくれ。魔石は後で拾ってもいいが、オークの肉は」
「分かってる。砂がつかないように空中でキャッチ、だろ」
ラウルはマジックバッグから薄い布製の手袋を出すと、両手にそれを着けた。
「その通り。でも、あいつら足は遅いけど輝きの実の効果でとにかく数がすごいからな。ラウルは素早いから大丈夫だと思うが、無理して全部取ろうとしなくていいからな。魔石や肉なんかよりお前の方が大事なんだからな」
「ああ、分かってる。無理はしない」
ラウルは嬉しそうに微笑んでレオを見た。
「それに、勇者様のそばが一番安全、だろ?」
レオも嬉しそうにニカッと笑い返す。
「もちろん俺のそばがどこよりも安全だ」
それからレオはまだ光り続けている僕に優しい顔を向けて来た。
「陽介は槍のカバーをはずして、どんと構えて待っていればいい」
「は、はい」
「できるだけ弱そうなやつを、一匹ずつ後ろへ流す。いいか陽介、落ち着いてまっすぐ前に槍を突き出せ。ミスリル製だから当たれば刺さる。刺されば、それで仕留められるから」
「は、はい! がんばります!」
「エドゥアールは陽介が危なくなった時だけ手を出すように。そうじゃないなら手出しは無用だ。我慢しろよ。いいな」
「分かっています」
やがて、遠くに見えていた土埃がどんどん近付いて来て、ドドドドッと大群の足音が近付いて来て、そして、魔物の姿が見えて来た。
「えぇ? あれぇ?」
僕はひっくり返った変な声を出してしまった。
ここはハデスガーデン、冥界の王の庭という名のダンジョンだ。そこに巣食うオークと聞いたら、普通のオークよりさらに怖いものを想像してしまうと思うんだけど?
例えば体がすごく大きかったり、角が生えたりしている凶暴なやつを。
でも、違った。
「なんですか、あれ! ぷぎゅぷぎゅ言ってますよ!」
それは、丸くて、コロコロしていて、つぶらな瞳の、子ブタ???
「か、かわいい」
ぷぎゅぷぎゅぷぎゅぷぎゅと鳴き声を発して、ぬいぐるみみたいな丸いフォルムのものが原っぱを埋め尽くすように増殖していく。
「うわぁ、一匹持って帰りたい」
抱きしめたいくらいにかわいい魔物が、短い足を必死に動かして走ってくる。
「ダメだぞ、陽介! 見た目で油断するな! そいつら牙は鋭いし、顎の力も強いし、噛まれたら相当ダメージあるぞ」
「えええ! そうなんですか? 分かりました! 気を付けます!」
僕は気を取り直して槍をかまえた。
やがて足の遅い子ブタ型オークの群れが僕達の所へ到達した。……かのように見えたけれども、レオのいる側も、フィルのいる側も、オークは近づくことも出来ずに、瞬時にキラキラと消えていく。
「わ、わ、すごい」
フィルの剣さばきがものすごいスピードだってことは、魔剣を取りに行った時に見て知っていたんだけど、レオも負けず劣らず速い剣技を見せている。
レオの手前でオークは光りながら消えていき、時々落ちてくる何かをラウルが空中でキャッチしてすぐマジックバッグに突っ込んでいく。
カツン、カツン、と魔石が地面に転がり、その中にピンクの塊がボヨンと落ちた。よく見るとそれは美味しそうな剥き出しのお肉だと分かった。
「わわ、お肉がそのままドロップするんですか?」
「ああ! 面白いだろ! 血抜きなんかの下処理も済んでいてすぐ料理できるんだぞ!」
ラウルが走りながら叫ぶ。
「おー、そうなんだ! それは親切です!」
「あはは、ほんと親切だな」
「陽介! ここらで一匹後ろへやるぞ」
レオの声がしたすぐ後に、丸っこい子ブタが転がるように僕の前に出て来た。
つぶらな目を見てしまい、僕は一瞬、うっと怯んだ。
「うぅ、なんか、かわいい」
これに槍を突き刺すの?
このかわいい子ブタちゃんに?
「ヨースケ、落ち着いて。槍を前に出すだけですよ」
「は、はい」
エディに励まされ、僕は槍を持つ手に力を込めて子ブタ型オークをぐっと睨んだ。オークも僕を睨みつけると、いきなりガァッと口を開いてギラリと牙を見せ一直線に突進してきた。
「ひゃっ」
「ヨースケ、今です!」
「は、はい、えいや!」
槍を前に突き出す。その穂先がするりとオークの体に吸い込まれた。拍子抜けするくらいに手ごたえがなくて、次の瞬間、キラキラッと光りながらオークが消え、何かが空中にポンと現れた。
「あっ、わっ、どうしよ」
両手に槍を持っていた僕がアワアワしている内に、横からすっとラウルが手を伸ばしてそれをキャッチした。
さらに、僕の足元にカツンと小さな魔石が落ちる。僕は慌ててしゃがんで、落ちた魔石を拾った。
「おお……魔石……」
それは指先くらいの小さいものだったけど、自分で取ったと思うとめちゃくちゃきれいに見える。
「日野、やったな。肉と魔石、初ゲットだ」
「はい! やりました!」
「肉は後で料理してやる。自分で取ったと思えば味も格別だぞ」
ウィンクをしながら、ラウルはキャッチしてくれたお肉をマジックバッグにしまった。
「うー、楽しみすぎです!」
エディがポンポンと僕の頭に触れて来て、僕の手の中の魔石を指差した。
「その魔石は、失くさないように自分のマジックバッグにしまっておきましょう。その様子なら、まだ何匹かいけますね」
「はい、まだいけます! 任せてください!」
僕はちょっと興奮していて、鼻息荒くすぐにまた槍をかまえた。
「勇者殿! よろしいですか」
「分かってる! また一匹そっちにやるぞ!」
それからレオとフィルが何百匹も倒していく間に、僕は5匹の子ブタ型オークを倒してお肉と魔石をゲットしたのだった。
汗をかいたのはラウルと僕だけだった。
エディは僕のそばにいてくれて動いていないから分かるけれど、レオとフィルはあれだけの数のオークを倒したのに、まったく息も切れていない。
「楽しかったか、陽介」
ニコニコとレオが聞いてきて、僕はぶんぶんと勢い良くうなずいた。
「はい! めっちゃくちゃ楽しかったです!」
僕が倒した5匹からは魔石が5つ、お肉はふたつドロップした。お肉はラウルが持っていてくれるけど、僕はマジックバッグの中からゲットした5つの魔石を出して、しみじみと眺めた。
自分の力で取ったものだと思うと、誇らしくて胸がドキドキしてくる。
「魔石はそのまま持っていてもいいですし、買取所で売ってお金に換えてもいいんですよ」
エディが教えてくれたけど、すぐには決められない。記念にこのまま持っておきたい気もするし、お金に換えたいような気もする。だって、それは僕がこの世界に来て、初めて自分で稼いだお金ってことになるから。
「えっと、どうするかもうちょっと考えます」
僕はまたマジックバッグの中に、そっと大事に魔石をしまった。
「では、少し休憩しようか。休める場所は……」
フィルがぐるりと草原に目をやり、急に眉をしかめた。
レオも、エディも、何かに驚いたようにびくっとして、周囲を見る。
「エディ? どうしたんですか」
「ヨースケ、こっちに」
エディがこわばった顔で僕を手招きし、フィルが普通の剣の方ではなく、マジックバッグから魔力剣の柄を出した。すぐに柄から魔力の刀剣がシュンと顕現する。
「おい……これは、何の気配だ?」
「分かりません。でも、確実に巨大な何かがいますね」
「ああ、かなりやばい感じがするぞ」
僕が輝きの実を食べた時よりも、はるかに強い警戒心を見せて三人が身構える。
僕とラウルだけ何が起こっているのか分からなくて、きょとんと顔を見合わせた。
次の瞬間。
それは何の前触れも無く、何の音も立てず、いきなり起きた。
コンパスで丸く切り取ったように、僕らの下の地面がふっと消えたのだ。
一瞬だけ、ふわりと重力が無くなったみたいに僕らは真っ暗闇の上に浮かんで、そして……。
「ヨースケ!」
「陽介!」
「ヨウスケ!」
三人が僕へ手を伸ばすのが目に映った。
それは本当にたった一瞬の出来事だったはずなのに、僕にはスローモーションみたいにゆっくりと全部が見えていた。
エディが風魔法で浮かんで僕の方へ腕を伸ばす。
フィルが魔力剣を変化させて鞭のように輝きの実のなる木にからませ、浮かび上がりながら僕へと手を伸ばす。
レオが赤い髪をなびかせ、両手で僕をつかまえようとする。
―――――― ダメだ。
そんなことしちゃダメだ。
僕に手を伸ばしちゃダメだ。
馬車が揺れたり道でつまづいたりしただけなら、それは苦笑いだけで済む。3人とも僕を守ろうとしてくれて、でも一番近いエディが助けてくれて、ほかの二人はちょっと気まずい。そんな笑い話にもならないようなささいなことだ。でも、今はダメだ。笑い話じゃすまないんだ。
「だめ……!」
その叫びが声になったのかどうか。
血の気が引いた。
僕の目にはラウルが映っていた。ラウルは悲鳴も上げず、驚いたような顔をしてバランスを崩し、真っ暗闇の中へ落ちていく。
「ラウル!!!」
僕の悲鳴と同時にレオがハッと振り向く。
でも、そこにはもうラウルはいなかった。
あなたにおすすめの小説
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!
モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。
その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。
魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。
その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?!
ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
魔王に転生したら、イケメンたちから溺愛されてます
トモモト ヨシユキ
BL
気がつくと、なぜか、魔王になっていた俺。
魔王の手下たちと、俺の本体に入っている魔王を取り戻すべく旅立つが・・
なんで、俺の体に入った魔王様が、俺の幼馴染みの勇者とできちゃってるの⁉️
エブリスタにも、掲載しています。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。