異世界で美少年奴隷になっちゃった?!

緋川真望

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おまけの章 はじめてのぼうけん

(5) 差し伸べられる手

 ほんのりと光る果実を舌に乗せてみても、ほとんど味がしなかった。奥歯でぐっと噛みしめると、口の中で果実が割れて甘酸っぱい果汁が一気に広がる。

「……わ、おいしい」

 思わず呟き、もうひとつ実を取ろうと手を伸ばして、僕はアッと声を上げた。
 伸ばしたその手が淡く光っていたのだ。

「え、え、なにこれ」

 手を少し動かすだけで、宝石の粉を撒き散らすみたいにキラキラと小さな光が弾ける。面白くて、ゆらゆらと目の前で手を動かすと、ふわふわキラキラと光の粉が広がっていく。

「すごい。なんか、きれいです」

 エディを見上げて笑いかけると、うっとりと溜息まじりに僕を見つめてきた。

「ええ、きれいです……。本物の女神のようですね」
「ああ、まさに……」

 フィルもほうっと息を吐いてうなずく。

 自分で自分の姿が見えないからよく分からないけれど、どうやら手だけではなくて、僕の全身からキラキラの光が漏れ出しているようだった。

「おお、すげぇな……スマホで撮りてぇ」

 ラウルの声が聞こえて振り向くと、その横でレオが笑った。

「あはは、俺もそれは何度も思ったことがある。きれいなものを見ると動画撮ってみんなに見せてやりたくなるよな」
「ああ。あっちにいた時は当たり前だったけど、いつでも画像が撮れるって実はすごいことだったんだなぁ」

 僕も同じことを思ったことがあるので、嬉しくなって両手を上げる。

「はい、はい! 僕も何回も思いました! エディの写真いっぱい撮って、自分だけのアルバム作りたいって!」

 レオとラウルがふっと鼻で笑う。

「まぁ、バカップルの話は置いておいて」
「ええ、ひどい、レオ」
「気合い入れるぞ。構えろ」

 レオは剣を抜いてぐるりと360度見回した。

 僕もつられるように視線を動かすと、草原のはるか先の方に土埃つちぼこりが上がっているのが見えた。前も後ろも右も左も、僕達の方へ向かって、何かが迫ってくるみたいだ。

「あれは」
「ハデスガーデン名産のオークの群れだな」
「オークの? じゃぁもしかして」

 僕が輝きの実のなる木を振り向くと、フィルがうなずく。

「そういうことだ。輝きの実を食べた者からは、魔物を引き寄せる光と匂いが発せられるんだ」
「輝く覚悟ってそういう意味?!」

 僕は自分の体を見下ろす。めちゃくちゃきれいな光なのに、実はこれが魔物ホイホイだったとは。

「よーし、陽介を中心にするぞ。エドゥアールは陽介の横に」
「はい」

 エディが返事して僕の横に立つ。

「フィリベールは後ろから来るのをすべて仕留めろ」
「分かった」

 フィルが僕の後ろの方へ移動して、剣を構える。

「俺は前方から来るやつを片っ端から斬っていく。ラウルは俺の後ろでドロップ品を拾ってくれ。魔石は後で拾ってもいいが、オークの肉は」
「分かってる。砂がつかないように空中でキャッチ、だろ」

 ラウルはマジックバッグから薄い布製の手袋を出すと、両手にそれを着けた。

「その通り。でも、あいつら足は遅いけど輝きの実の効果でとにかく数がすごいからな。ラウルは素早いから大丈夫だと思うが、無理して全部取ろうとしなくていいからな。魔石や肉なんかよりお前の方が大事なんだからな」
「ああ、分かってる。無理はしない」

 ラウルは嬉しそうに微笑んでレオを見た。

「それに、勇者様のそばが一番安全、だろ?」

 レオも嬉しそうにニカッと笑い返す。

「もちろん俺のそばがどこよりも安全だ」

 それからレオはまだ光り続けている僕に優しい顔を向けて来た。

「陽介は槍のカバーをはずして、どんと構えて待っていればいい」
「は、はい」
「できるだけ弱そうなやつを、一匹ずつ後ろへ流す。いいか陽介、落ち着いてまっすぐ前に槍を突き出せ。ミスリル製だから当たれば刺さる。刺されば、それで仕留められるから」
「は、はい! がんばります!」
「エドゥアールは陽介が危なくなった時だけ手を出すように。そうじゃないなら手出しは無用だ。我慢しろよ。いいな」
「分かっています」

 やがて、遠くに見えていた土埃がどんどん近付いて来て、ドドドドッと大群の足音が近付いて来て、そして、魔物の姿が見えて来た。

「えぇ? あれぇ?」

 僕はひっくり返った変な声を出してしまった。

 ここはハデスガーデン、冥界の王の庭という名のダンジョンだ。そこに巣食うオークと聞いたら、普通のオークよりさらに怖いものを想像してしまうと思うんだけど?
 例えば体がすごく大きかったり、角が生えたりしている凶暴なやつを。
 でも、違った。

「なんですか、あれ! ぷぎゅぷぎゅ言ってますよ!」

 それは、丸くて、コロコロしていて、つぶらな瞳の、子ブタ???

「か、かわいい」

 ぷぎゅぷぎゅぷぎゅぷぎゅと鳴き声を発して、ぬいぐるみみたいな丸いフォルムのものが原っぱを埋め尽くすように増殖していく。

「うわぁ、一匹持って帰りたい」

 抱きしめたいくらいにかわいい魔物が、短い足を必死に動かして走ってくる。

「ダメだぞ、陽介! 見た目で油断するな! そいつら牙は鋭いし、顎の力も強いし、噛まれたら相当ダメージあるぞ」
「えええ! そうなんですか? 分かりました! 気を付けます!」

 僕は気を取り直して槍をかまえた。

 やがて足の遅い子ブタ型オークの群れが僕達の所へ到達した。……かのように見えたけれども、レオのいる側も、フィルのいる側も、オークは近づくことも出来ずに、瞬時にキラキラと消えていく。

「わ、わ、すごい」

 フィルの剣さばきがものすごいスピードだってことは、魔剣を取りに行った時に見て知っていたんだけど、レオも負けず劣らず速い剣技を見せている。

 レオの手前でオークは光りながら消えていき、時々落ちてくる何かをラウルが空中でキャッチしてすぐマジックバッグに突っ込んでいく。

 カツン、カツン、と魔石が地面に転がり、その中にピンクの塊がボヨンと落ちた。よく見るとそれは美味しそうなき出しのお肉だと分かった。

「わわ、お肉がそのままドロップするんですか?」
「ああ! 面白いだろ! 血抜きなんかの下処理も済んでいてすぐ料理できるんだぞ!」

 ラウルが走りながら叫ぶ。

「おー、そうなんだ! それは親切です!」
「あはは、ほんと親切だな」
「陽介! ここらで一匹後ろへやるぞ」

 レオの声がしたすぐ後に、丸っこい子ブタが転がるように僕の前に出て来た。

 つぶらな目を見てしまい、僕は一瞬、うっとひるんだ。

「うぅ、なんか、かわいい」

 これに槍を突き刺すの?
 このかわいい子ブタちゃんに?

「ヨースケ、落ち着いて。槍を前に出すだけですよ」
「は、はい」

 エディに励まされ、僕は槍を持つ手に力を込めて子ブタ型オークをぐっと睨んだ。オークも僕を睨みつけると、いきなりガァッと口を開いてギラリと牙を見せ一直線に突進してきた。

「ひゃっ」
「ヨースケ、今です!」
「は、はい、えいや!」

 槍を前に突き出す。その穂先がするりとオークの体に吸い込まれた。拍子抜けするくらいに手ごたえがなくて、次の瞬間、キラキラッと光りながらオークが消え、何かが空中にポンと現れた。

「あっ、わっ、どうしよ」

 両手に槍を持っていた僕がアワアワしている内に、横からすっとラウルが手を伸ばしてそれをキャッチした。
 さらに、僕の足元にカツンと小さな魔石が落ちる。僕は慌ててしゃがんで、落ちた魔石を拾った。

「おお……魔石……」

 それは指先くらいの小さいものだったけど、自分で取ったと思うとめちゃくちゃきれいに見える。

「日野、やったな。肉と魔石、初ゲットだ」
「はい! やりました!」
「肉は後で料理してやる。自分で取ったと思えば味も格別だぞ」

 ウィンクをしながら、ラウルはキャッチしてくれたお肉をマジックバッグにしまった。

「うー、楽しみすぎです!」

 エディがポンポンと僕の頭に触れて来て、僕の手の中の魔石を指差した。

「その魔石は、失くさないように自分のマジックバッグにしまっておきましょう。その様子なら、まだ何匹かいけますね」
「はい、まだいけます! 任せてください!」

 僕はちょっと興奮していて、鼻息荒くすぐにまた槍をかまえた。

「勇者殿! よろしいですか」
「分かってる! また一匹そっちにやるぞ!」

 それからレオとフィルが何百匹も倒していく間に、僕は5匹の子ブタ型オークを倒してお肉と魔石をゲットしたのだった。





 汗をかいたのはラウルと僕だけだった。
 エディは僕のそばにいてくれて動いていないから分かるけれど、レオとフィルはあれだけの数のオークを倒したのに、まったく息も切れていない。

「楽しかったか、陽介」

 ニコニコとレオが聞いてきて、僕はぶんぶんと勢い良くうなずいた。

「はい! めっちゃくちゃ楽しかったです!」

 僕が倒した5匹からは魔石が5つ、お肉はふたつドロップした。お肉はラウルが持っていてくれるけど、僕はマジックバッグの中からゲットした5つの魔石を出して、しみじみと眺めた。
 自分の力で取ったものだと思うと、誇らしくて胸がドキドキしてくる。

「魔石はそのまま持っていてもいいですし、買取所で売ってお金に換えてもいいんですよ」

 エディが教えてくれたけど、すぐには決められない。記念にこのまま持っておきたい気もするし、お金に換えたいような気もする。だって、それは僕がこの世界に来て、初めて自分で稼いだお金ってことになるから。

「えっと、どうするかもうちょっと考えます」

 僕はまたマジックバッグの中に、そっと大事に魔石をしまった。

「では、少し休憩しようか。休める場所は……」

 フィルがぐるりと草原に目をやり、急に眉をしかめた。
 レオも、エディも、何かに驚いたようにびくっとして、周囲を見る。

「エディ? どうしたんですか」
「ヨースケ、こっちに」

 エディがこわばった顔で僕を手招きし、フィルが普通の剣の方ではなく、マジックバッグから魔力剣の柄を出した。すぐに柄から魔力の刀剣がシュンと顕現けんげんする。

「おい……これは、何の気配だ?」
「分かりません。でも、確実に巨大な何かがいますね」
「ああ、かなりやばい感じがするぞ」

 僕が輝きの実を食べた時よりも、はるかに強い警戒心を見せて三人が身構える。
 僕とラウルだけ何が起こっているのか分からなくて、きょとんと顔を見合わせた。

 次の瞬間。
 それは何の前触れも無く、何の音も立てず、いきなり起きた。
 コンパスで丸く切り取ったように、僕らの下の地面がふっと消えたのだ。
 一瞬だけ、ふわりと重力が無くなったみたいに僕らは真っ暗闇の上に浮かんで、そして……。

「ヨースケ!」
「陽介!」
「ヨウスケ!」

 三人が僕へ手を伸ばすのが目に映った。

 それは本当にたった一瞬の出来事だったはずなのに、僕にはスローモーションみたいにゆっくりと全部が見えていた。

 エディが風魔法で浮かんで僕の方へ腕を伸ばす。
 フィルが魔力剣を変化させて鞭のように輝きの実のなる木にからませ、浮かび上がりながら僕へと手を伸ばす。
 レオが赤い髪をなびかせ、両手で僕をつかまえようとする。

―――――― ダメだ。
 そんなことしちゃダメだ。
 僕に手を伸ばしちゃダメだ。

 馬車が揺れたり道でつまづいたりしただけなら、それは苦笑いだけで済む。3人とも僕を守ろうとしてくれて、でも一番近いエディが助けてくれて、ほかの二人はちょっと気まずい。そんな笑い話にもならないようなささいなことだ。でも、今はダメだ。笑い話じゃすまないんだ。

「だめ……!」

 その叫びが声になったのかどうか。
 血の気が引いた。

 僕の目にはラウルが映っていた。ラウルは悲鳴も上げず、驚いたような顔をしてバランスを崩し、真っ暗闇の中へ落ちていく。

「ラウル!!!」

 僕の悲鳴と同時にレオがハッと振り向く。
 でも、そこにはもうラウルはいなかった。






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