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この石が私なんです!

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(この女の声なかなかいいじゃない♪)
その頃よく通る透き通る声にセキはうっとりとしていた。
そして横の洋服店の窓ガラスに映る姿をチラッと見て確認する。
派手ではなく暗い色合いだが質の良い服を着ている。彼女は身分の高い女性のようだ。

灰色の髪はゆったりとカールし、緑の目は翡翠のように美しい。
端正な顔つきの女性だ。
しかし目の下にはにつかわない大きなクマがあった。

(姿もきれいな人ね。勇者様はこういう人お好きかしら)

しかしもう一度くるりと振り返ってセキは驚いた。
先程見つけた勇者の姿が見当たらない。
よく見ると奥の道の方へ、勇者がこっそり逃げようとしているではないか。

「どこ行くんですか!セレウス様ー!」
セキは走り出した。

「ずっと旅をしてきた私と貴女の間じゃないですか。置いていくなんて酷いです!」

「うわ、追いかけてくるぞ。しかも早い」

セキはあっという間に間を縮めると勇者の前へ回り込んだ。

勇者は周りから目立たないように小走りで逃げていたのだが、それにしてもこの女性の足は意外と早い。

「どういうことですか?旅の方!
あなた達も私達の災厄と何か関係あるんですか?!」
金髪の少女も息を切らしながら追いかけてきた。

「これは蜃気楼か?俺は夢でも見てるのか?
なんで俺が巻き込まれてるんだ?」
勇者も混乱している。

しかし誤解されてはかなわない。
「知らないぞ!君と俺、会うの初めてだよな。誰かと人違いをしてるんだろ」

必死な面持ちで否定するセレウスだが、セキはニコリと微笑んだ。

「セレウス様!初めて正面から拝見しましたが、どこから見てもやっぱり素敵です。
でも人違いじゃないですよ。
実は私、この女性の体と私入れ替わってるみたいなんです」

「入れ…は?何のことだ?」
「だからこの女の人と私が、先程入れ替わったんですよ」

セキはスッと屈むと、勇者の靴紐に手を差
し込んだ。

「何をするんだ?!」
「あった。これこれ」

動じず立ち上がったセキの指は小さな石を持っていた。

「これ、これですよ!私はこれです」
「石……?」
「そうです!私、貴女の靴に挟まっていた石なんです!」

誇らしげな顔をしたセキに対して、その場にいた全員が何それ、という顔をしていた。

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