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30 神々の遊戯 三人称視点
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その世界に果てはない。
どこまでも広がる空間に木々のように立つのはぎっしりと蔵書の詰まった古びた本棚である。
無限なる図書館(インフィニトゥム・ビブリテオカ)。
世界の記録――アカシックレコードが所蔵され、管理される場所だった。
空間を照らすにはどこか頼りないランプの光だけだ。
その場に似つかわしくない姦しい声が木霊した。
「彼女にプレゼントを上げようと思うの」
「あなたも?」
「もう十分じゃないのー?」
声の主は三人の少女らしきモノだった。
一人は実に愛らしい姿をしているように見えた。
光輝く、豪奢な黄金色の髪にあどけない顔をした美しい少女だが、その背には皮膜の張られた蝙蝠のような翼を持ち、瞳には妖しげな光を帯びていた。
その目で見つめられるとイキモノは石と化すと噂される恐ろしい女神だ。
今、一人も愛らしい姿をしていた。
月の光を映したような白金色の長い髪にあどけない顔をした美しい少女だった。
だがその背から、二対の翼が生えている。
艶やかな濡れ羽色の羽毛で覆われた黒い翼だった。
その声を聴いたイキモノは心を失うと噂されるこれまた、恐ろしい女神だ。
最後の一人が彼女達をして、少女らしきモノとしか例えようがない原因だった。
その顔は人のそれではない。
黒猫そのものだ。
黒猫の頭部を持ち、何とも愛らしい声で明るい会話をしていた。
しかし、姿こそ異形であるものの三人の中で最も穏健な性質をしているのは何とも皮肉である。
「このままだとあの子もあなたみたいな翼が生えるじゃない?」
「何ですって! この羽が悪いって言うの?」
「そうは言ってないけど? ただ、この翼の方がいいんじゃない?」
「でも、あの子は本来、こっちの羽なんだから」
「まぁまぁ。あくまで個人的な感想であって、主観の違いってのだよぉ。ね? そうだよね?」
険悪になりかけた空気を察した黒猫の顔をした女神が、場を仲裁するのもいつものことだった。
一見すると犬猿の仲のように見える二人だが、仲は悪いどころか、かなり親密な関係である。
ただ、互いに我が強いがゆえの衝突だ。
苦労するのは仲裁しなければならない猫の顔の女神なのだが。
「本来、あの子はまだ死んじゃいけなかったんだし……」
「だよね」
「それはその……起きちゃったことは仕方ないよねぇ」
「「「…………」」」
三女神は顔を見合わせると言葉を失くした。
あの子とは人間に特別警戒変異体三号と名付けられた『黒き獣』により、強制的にステラ・プラッツへと転生させられた星野美心(ほしの みこ)のことだった。
『黒き獣』は一種の舞台装置だった。
神々――蕃神の用意した不自然ではない自然なる死を装い、転生者を誕生させる舞台装置だ。
あの日、『黒き獣』が起動し、動き出したのは誤作動によるものだった。
本来はまだ動いてはいけないモノが動いてしまったのだ。
その結果、まだ転生する予定にない魂が転生したのである。
「早すぎたのよね。あの子の魂は……」
「傷だらけだったもんね」
「だから、待ったので十分じゃないかなぁ?」
「そう?」
「十分じゃないし、面白くないわ」
「えぇ……」
星野美心は本来、まだ転生予定になかった。
それに加え、過酷な人生を送っていたことも影響し、回収された魂――コアと呼ばれる生命体の魂が具現化されたきれいな宝石は、修復しなければならないほどに破損していた。
その為、じっくりと修復する時を与えた。
それが人間の世界では百年以上の時が経過していたのだ。
ただし、女神達にとって、百年は欠伸をしている間に過ぎる程度の認識だった。
「それに色々と趣向を凝らした方がゲームも面白くなるじゃない?」
瞳がアメジストから、血のように赤いルビーの色に変じた黒翼の女神が蠱惑的な笑みを浮かべ、提案した。
「それもそうよね。じゃあ、こっちにも梃入れしようよ」
蝙蝠羽の女神も実にあっけらかんとした様子で同意する。
「えぇ……そんな無責任な。でも、ゲームを公平にするにはその方がいいのかなぁ」
最も穏健なはずの猫頭の女神も一瞬、逡巡したものの同意した。
ステラの前に広がるのは障害多き暗雲なのか、それとも希望に満ちた青空なのか。
それはまだ誰にも分からない。
どこまでも広がる空間に木々のように立つのはぎっしりと蔵書の詰まった古びた本棚である。
無限なる図書館(インフィニトゥム・ビブリテオカ)。
世界の記録――アカシックレコードが所蔵され、管理される場所だった。
空間を照らすにはどこか頼りないランプの光だけだ。
その場に似つかわしくない姦しい声が木霊した。
「彼女にプレゼントを上げようと思うの」
「あなたも?」
「もう十分じゃないのー?」
声の主は三人の少女らしきモノだった。
一人は実に愛らしい姿をしているように見えた。
光輝く、豪奢な黄金色の髪にあどけない顔をした美しい少女だが、その背には皮膜の張られた蝙蝠のような翼を持ち、瞳には妖しげな光を帯びていた。
その目で見つめられるとイキモノは石と化すと噂される恐ろしい女神だ。
今、一人も愛らしい姿をしていた。
月の光を映したような白金色の長い髪にあどけない顔をした美しい少女だった。
だがその背から、二対の翼が生えている。
艶やかな濡れ羽色の羽毛で覆われた黒い翼だった。
その声を聴いたイキモノは心を失うと噂されるこれまた、恐ろしい女神だ。
最後の一人が彼女達をして、少女らしきモノとしか例えようがない原因だった。
その顔は人のそれではない。
黒猫そのものだ。
黒猫の頭部を持ち、何とも愛らしい声で明るい会話をしていた。
しかし、姿こそ異形であるものの三人の中で最も穏健な性質をしているのは何とも皮肉である。
「このままだとあの子もあなたみたいな翼が生えるじゃない?」
「何ですって! この羽が悪いって言うの?」
「そうは言ってないけど? ただ、この翼の方がいいんじゃない?」
「でも、あの子は本来、こっちの羽なんだから」
「まぁまぁ。あくまで個人的な感想であって、主観の違いってのだよぉ。ね? そうだよね?」
険悪になりかけた空気を察した黒猫の顔をした女神が、場を仲裁するのもいつものことだった。
一見すると犬猿の仲のように見える二人だが、仲は悪いどころか、かなり親密な関係である。
ただ、互いに我が強いがゆえの衝突だ。
苦労するのは仲裁しなければならない猫の顔の女神なのだが。
「本来、あの子はまだ死んじゃいけなかったんだし……」
「だよね」
「それはその……起きちゃったことは仕方ないよねぇ」
「「「…………」」」
三女神は顔を見合わせると言葉を失くした。
あの子とは人間に特別警戒変異体三号と名付けられた『黒き獣』により、強制的にステラ・プラッツへと転生させられた星野美心(ほしの みこ)のことだった。
『黒き獣』は一種の舞台装置だった。
神々――蕃神の用意した不自然ではない自然なる死を装い、転生者を誕生させる舞台装置だ。
あの日、『黒き獣』が起動し、動き出したのは誤作動によるものだった。
本来はまだ動いてはいけないモノが動いてしまったのだ。
その結果、まだ転生する予定にない魂が転生したのである。
「早すぎたのよね。あの子の魂は……」
「傷だらけだったもんね」
「だから、待ったので十分じゃないかなぁ?」
「そう?」
「十分じゃないし、面白くないわ」
「えぇ……」
星野美心は本来、まだ転生予定になかった。
それに加え、過酷な人生を送っていたことも影響し、回収された魂――コアと呼ばれる生命体の魂が具現化されたきれいな宝石は、修復しなければならないほどに破損していた。
その為、じっくりと修復する時を与えた。
それが人間の世界では百年以上の時が経過していたのだ。
ただし、女神達にとって、百年は欠伸をしている間に過ぎる程度の認識だった。
「それに色々と趣向を凝らした方がゲームも面白くなるじゃない?」
瞳がアメジストから、血のように赤いルビーの色に変じた黒翼の女神が蠱惑的な笑みを浮かべ、提案した。
「それもそうよね。じゃあ、こっちにも梃入れしようよ」
蝙蝠羽の女神も実にあっけらかんとした様子で同意する。
「えぇ……そんな無責任な。でも、ゲームを公平にするにはその方がいいのかなぁ」
最も穏健なはずの猫頭の女神も一瞬、逡巡したものの同意した。
ステラの前に広がるのは障害多き暗雲なのか、それとも希望に満ちた青空なのか。
それはまだ誰にも分からない。
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