【完結】愛されないあたしは全てを諦めようと思います

黒幸

文字の大きさ
5 / 56

第5話 題名は確か、『淑女への子守歌』

しおりを挟む
「ふわぁ~」

 長いこと寝てた気がする。
 体のあちこちが痛いし、頭の奥の方でチクッとした痛みを感じた。

「あれ?」

 自分でやった覚えがないのに髪が三つ編みになってる。
 それにあたしの髪の色はこんな色だったかな?

 窓から、優しく照らすように銀の光が入ってきた。
 月の光に照らされて、あたしは思い出した。
 月の女神様が願いを聞き届けてくれたんだわ。

 もう何も感じない。
 今までなんて、無駄なことをしていたんだろ。

 早く、こうしていれば良かったのに。
 愛されたいなんて、願ったからいけなかったの。
 最初から、そんな思いを捨てれば、良かったのよ。
 何でこんな簡単なことに気が付かなかったのかしら?

 あたしはエミー。
 エミーだけど、エミーじゃない。

 誰にも愛されなかったエミーは傷ついて、眠ってる。
 心の奥深くで傷つき、涙を流しながら、眠ってる。
 誰も入って来れない茨に守られて、眠ってる。



「忘れないように書いておこう」

 まだ、痛む節々を無視して、何とか起き上がって、筆記具を手に考えた。

 ここは小説の世界だっていうことに気が付いた。
 題名は確か、『淑女レディへの子守歌ララバイ』。

 貴族の家に生まれた四姉妹の愛憎物語。

 慈愛に満ちた母親ミリアム。
 聡明な長女マルチナ。
 快活な次女ユスティーナ。
 心優しい三女エヴェリーナ。
 四女のアマーリエはおしゃまな子。

 燃え上がる炎のように赤い髪とサファイアのように澄んだきれいな瞳でお人形さんみたいにかわいい女の子。
 誰からも愛される末っ子。

 でも、そんなのは全部、嘘だわ。
 エミーは自分が愛されていると感じたことがない。
 愛されたいと願って、どんなに明るく振る舞っても決して、報われない。

 顔も良く知らない父親と名乗る髭もじゃの人。
 それでも数回しか、会ったことがない髭もじゃの人の大きな手で抱っこされて、頭を撫でられると嬉しかった。

 でも、あなたが戦争に行ってるから、エミーは生まれた日すら祝ってもらえないって、知ってた?
 奴隷を解放する正義の戦いだから、仕方ないって?
 エミーもずっとそう思ってたんだ。
 だけど、もう限界だったのよ。

 姉の代わり。
 姉のお古。
 姉のスペア。

 だから、エミーは眠ってしまった。
 全てに耳をふさいで、目を閉じて、閉じこもってしまった。

 私は何をすれば、いいのかしら?
 小説の中ではどうなっていたのか、思い出さなきゃ!

ロビーロベルトかぁ」

 四姉妹とロビーの名を書いて、確信した。
 彼がキーマンなのは間違いない。
 確か、ロビーが好きなのはユナユスティーナだったはず。
 ユナは恋愛に興味がなくって、ロビーの片思いに終わるの。
 可哀想なロビー。
 でも、もっと可哀想なのはエミーなんだから。
 そんなロビーのことが大好きでユナの代わりとしか、見ていない彼のことを一途に愛して、そして……。
 死ぬ!

 ロビーはとても優れた人として、描かれていた。
 剣を取っても騎士になれるだけの実力を持っていて、勉強も出来るし、何よりも優しい人だった。
 第一王子のトマーシュは正当な血筋というだけで無能で残忍な性質で描かれていて、このままだと国の未来が危ういということでロビーにも王位継承権を与えるべきという話になるのよね。

 これに危機感を持ったのがトマーシュの母親である王妃ディアナでトマーシュをけしかけた。
 暗殺者に襲撃されたロビーだけど、騎士になっていたユナが助けに来て、形勢は逆転。
 油断したところを振りかざされた凶刃がロビーに迫る。
 その時、自らの身体を盾にして、彼を守ったのがエミーだった。
 そのお陰でロビーは窮地を脱して、暗殺者を撃退することに成功するんだけど……。

「あんたって子はどうして、こんな無茶を!」
「エミー! どうしてなんだ」

 ロビーの胸に抱かれた血塗れのエミーの命の灯が消える。
 こうしてエミーは物語途中で退場なのよね。

「あぁ、ないない」

 決めた。
 ユナとロビーは避けることにしよう。
 愛されようとしたって、無駄なんだから。
 小説での最期まで愛されないって、どういうこと?



 お母様とマリーマルチナは優しいけど、ただ優しいだけじゃない。
 そこには本音と建前がある。
 小説の内容を思い出して、ようやく、気が付いた。

 エヴァエヴェリーナはどうだった?
 思い出さなきゃ、エヴァはどうなった?
 あの子だけ、表も裏もない。

「エヴァも死ぬ」

 あの子の病気は仮病なんかじゃない。
 本当に重い病なのに自分のことよりもエミーのことを気にかけてくれた子だ。
 このままだと一年後、エヴァの症状はさらに重くなって、衰弱死する。

 どうすれば、いいのかしら?
 エヴァはみんなに愛される子だし……。
 悩んでもしょうがない。
 会ってから、考えればいいわ。

 大事なメモを隠してから、あたしは再び、夢の世界へと旅立った。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。

私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです

しーしび
恋愛
「結婚しよう」 アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。 しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。 それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・

可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。

ふまさ
恋愛
 小さくて、可愛くて、庇護欲をそそられる姉。対し、身長も高くて、地味顔の妹のリネット。  ある日。愛らしい顔立ちで有名な第二王子に婚約を申し込まれ、舞い上がるリネットだったが──。 「あれ? きみ、誰?」  第二王子であるヒューゴーは、リネットを見ながら不思議そうに首を傾げるのだった。

離婚したいけれど、政略結婚だから子供を残して実家に戻らないといけない。子供を手放さないようにするなら、どんな手段があるのでしょうか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 カーゾン侯爵令嬢のアルフィンは、多くのライバル王女公女を押し退けて、大陸一の貴公子コーンウォリス公爵キャスバルの正室となった。だがそれはキャスバルが身分の低い賢女と愛し合うための偽装結婚だった。アルフィンは離婚を決意するが、子供を残して出ていく気にはならなかった。キャスバルと賢女への嫌がらせに、子供を連れって逃げるつもりだった。だが偽装結婚には隠された理由があったのだ。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

病弱を演じる妹に婚約者を奪われましたが、大嫌いだったので大助かりです

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。 『病弱を演じて私から全てを奪う妹よ、全て奪った後で梯子を外してあげます』 メイトランド公爵家の長女キャメロンはずっと不当な扱いを受け続けていた。天性の悪女である妹のブリトニーが病弱を演じて、両親や周りの者を味方につけて、姉キャメロンが受けるはずのモノを全て奪っていた。それはメイトランド公爵家のなかだけでなく、社交界でも同じような状況だった。生まれて直ぐにキャメロンはオーガスト第一王子と婚約していたが、ブリトニーがオーガスト第一王子を誘惑してキャメロンとの婚約を破棄させようとしたいた。だがキャメロンはその機会を捉えて復讐を断行した。

処理中です...