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第30話 あたし、見たんです
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「好きなところでくつろぐといい」
ビカン先生の研究室へと案内されたけど、相変わらずの汚い部屋にビックリしちゃう。
机の上には書類の束が乱雑に積まれていて、今にも崩れそう。
無造作にただ、入れておきましたとしか見えない縦になったり、横になった本が突っ込まれた本棚。
床にまで入りきらなかった本が散乱してて、足の踏み場もない。
「は、はい」
「はあ」
「先生。やっぱり、あたしが掃除を……」
「余計なことはしないでもらおうか、ネドヴェト嬢」
「は、はぁい」
以前、先生の部屋のあまりの汚さに見かねて、掃除したことがある。
先生は迷惑そうな顔をしてたけど、許可を出してくれたのだ。
生徒の善意の申し出だから断れなかったというのもあるんだと思う。
でも、実はあたし、掃除なんてまともにしたことがなかった。
自分の部屋の片付けをして、整理整頓をすることはあっても掃除したことがない。
マリーもそうだったから、あたしが特別おかしい訳じゃないと思う。
ユナは騎士になりたいからなのか、毛ばたきやほうきを片手によく屋敷の中を駆け回っていたけど。
だから、ユナがしていたようにとりあえず、目に付いた物を片っ端から捨てることにした。
結果として、掃除を始めようとした段階で「それはそこに置いておきたまえ、エミー」と先生の雷が落ちた。
何とも理不尽な雷だと思った。
先生にとってはこの魔境の方が居心地がいいんだろう。
それとなく、先生が余所見をしている時に邪魔な本をどけて、三人が腰掛けられるスペースを作った。
ロビーとユリアンは多分、この研究室が初めてなんだろう。
戸惑うのも無理はないと思う。
それから、現段階で分かっていること、疑問に思っていることをディベート形式で話し合った。
ディベートだからってこともないんだけど、結構、白熱したやり取りになってしまい、思っている以上に時間が経っていたようだ。
先生は口を挟むことなく、黙っていて時折、何かブツブツと呟いているようだった。
「ネドヴェト令嬢。ポボルスキー令息」
先生の呼び方がさらに他人行儀になった気がする。
他人であるのは間違いないけど、少しくらいは認めてくれたのかと思ってたのはあたしの勘違いだったみたい。
でも、ユリアンのことも仰々しく、呼んでるから気のせいかしら?
あたし達の話を聞きながら、辞書みたいに分厚い本に目を通してた先生の翡翠の色をした瞳がこちらに向けられる。
「君達の話を聞いて、不自然な点があるのに気付かなかったかね?」
先生がスッと目を細めて、あたしとユリアンに鋭い視線を向けてきた。
悪いことをしてないのに何だか、怒られてるみたいでそわそわしてくる。
「二人とも大事なことを話していないな。話したまえ」
有無を言わさない強い言い方だった。
ロビーは何のことか、分かってないんだと思う。
あたしとユリアンを心配してると隠そうともしない。
先生の言ってるのは多分、あたしが見た小説『淑女への子守歌』のことなんだろう。
ユリアンが何を隠してるのかは分からないけど、これは言わない限り、許してもらえそうにない。
ユリアンはまだ、迷ってるようだから、あたしが先に話すしかない。
「あたし、見たんです」
ビカン先生の研究室へと案内されたけど、相変わらずの汚い部屋にビックリしちゃう。
机の上には書類の束が乱雑に積まれていて、今にも崩れそう。
無造作にただ、入れておきましたとしか見えない縦になったり、横になった本が突っ込まれた本棚。
床にまで入りきらなかった本が散乱してて、足の踏み場もない。
「は、はい」
「はあ」
「先生。やっぱり、あたしが掃除を……」
「余計なことはしないでもらおうか、ネドヴェト嬢」
「は、はぁい」
以前、先生の部屋のあまりの汚さに見かねて、掃除したことがある。
先生は迷惑そうな顔をしてたけど、許可を出してくれたのだ。
生徒の善意の申し出だから断れなかったというのもあるんだと思う。
でも、実はあたし、掃除なんてまともにしたことがなかった。
自分の部屋の片付けをして、整理整頓をすることはあっても掃除したことがない。
マリーもそうだったから、あたしが特別おかしい訳じゃないと思う。
ユナは騎士になりたいからなのか、毛ばたきやほうきを片手によく屋敷の中を駆け回っていたけど。
だから、ユナがしていたようにとりあえず、目に付いた物を片っ端から捨てることにした。
結果として、掃除を始めようとした段階で「それはそこに置いておきたまえ、エミー」と先生の雷が落ちた。
何とも理不尽な雷だと思った。
先生にとってはこの魔境の方が居心地がいいんだろう。
それとなく、先生が余所見をしている時に邪魔な本をどけて、三人が腰掛けられるスペースを作った。
ロビーとユリアンは多分、この研究室が初めてなんだろう。
戸惑うのも無理はないと思う。
それから、現段階で分かっていること、疑問に思っていることをディベート形式で話し合った。
ディベートだからってこともないんだけど、結構、白熱したやり取りになってしまい、思っている以上に時間が経っていたようだ。
先生は口を挟むことなく、黙っていて時折、何かブツブツと呟いているようだった。
「ネドヴェト令嬢。ポボルスキー令息」
先生の呼び方がさらに他人行儀になった気がする。
他人であるのは間違いないけど、少しくらいは認めてくれたのかと思ってたのはあたしの勘違いだったみたい。
でも、ユリアンのことも仰々しく、呼んでるから気のせいかしら?
あたし達の話を聞きながら、辞書みたいに分厚い本に目を通してた先生の翡翠の色をした瞳がこちらに向けられる。
「君達の話を聞いて、不自然な点があるのに気付かなかったかね?」
先生がスッと目を細めて、あたしとユリアンに鋭い視線を向けてきた。
悪いことをしてないのに何だか、怒られてるみたいでそわそわしてくる。
「二人とも大事なことを話していないな。話したまえ」
有無を言わさない強い言い方だった。
ロビーは何のことか、分かってないんだと思う。
あたしとユリアンを心配してると隠そうともしない。
先生の言ってるのは多分、あたしが見た小説『淑女への子守歌』のことなんだろう。
ユリアンが何を隠してるのかは分からないけど、これは言わない限り、許してもらえそうにない。
ユリアンはまだ、迷ってるようだから、あたしが先に話すしかない。
「あたし、見たんです」
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