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第42話 計画を壊す者
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(???????視点)
もう思い出せない。
ワタシは誰?
顔も思い出せない。
ワタシは何をしていたのか。
誰だったのか。
辛うじて、覚えている名前がカイだったことだけだ。
そして、今、ワタシのいるこの世界がワタシの世界ではない……。
それも知っている。
ワタシがワタシとして、目覚めた時。
姉と妹がいた。
覚えられないほど、たくさんの姉と妹がいる。
ワタシの知らない姉と妹だ。
「わたしたちは神の娘」
「世界を正しき方向に」
彼女らは口を揃えて、言う。
何の疑問も持たずに言う。
ワタシハチガウ。
帰りたい。
ココハワタシノバショデハナイ。
姉妹はそれぞれの運命に従って、世界に散っていった。
ワタシも例に洩れず、己の運命とやらに従わされた。
なぜ、従わないといけないのか。
心ではそう思っているのに体は勝手に動いてしまう。
神はどこまでも身勝手な存在らしい。
ワタシの居場所はココではないのに……。
心の中にいつしか、禍々しく黒い炎が燻ろうともワタシは運命とやらに従わなくてはいけない。
「そんな運命はつまんないよな?」
ある日、ワタシの前に現れた妙な装束の男が言った。
道化服に身を包んだ男は、僅かに口角を歪めた気味の悪い笑顔を浮かべている。
それなのにワタシは嫌悪感を抱かない。
不思議だ。
「それが使命だから」
そう答えるのがワタシの常だった。
神の娘であるワタシにはそう答えることしか、許されない。
ワタシの心を無視して、意思をないがしろにして、唇がそう紡ぐのだ。
「運命なんて、ちゃんちゃらおかしいと思わないか。ええ? 思うだろ? 壊したいと思うよな? 思うだろ? 違うか?」
男が握手でもしようというのか、手を差し出した。
手を取れと言わんばかりに……。
「さあ。選べ。己が運命に抗え」
ワタシは拒絶しようと言わんばかりに震えの止まらない手を伸ばし、男の手を握った。
ワタシの心が神の与えた体に初めて、勝ったのだ。
喜びに打ち震えるワタシに男が囁く。
「壊そうぜ。大地を! 世界を! なあ。それはとても、楽しいことなんだ。壊した時に俺は生きているって、実感出来るんだぜ。最高だろ。お前には分かるはずだ。そうだろ、ラーズグリーズ」
そう。
ワタシの名はラーズグリーズ。
十三番目の戦乙女。
計画を壊す者。
その日、ワタシは庇護すべき存在の少女を壊した。
ワタシを止める者は誰もいない。
懐かしい夢を見た。
思い出したくない思い出と言った方が正しい嫌な夢だ。
ワタシは既に何者だったのか、思い出せない。
帰りたい。
ただ、それだけを願っていた。
なぜ、帰りたいのか。
帰って、どうしたいのか。
それすらも覚えていない。
だから、壊した。
帰るには壊さないといけない。
全てを壊した時、ワタシは帰ることが出来る。
あの子に謝ることが出来るのだ。
あの子?
あの子って、誰?
「ヒメちゃん……」
「奥様。どうなされましたか? お加減が宜しくありませんでしたか?」
ベアータの声ではっと目が覚めた。
どうやら、入浴中に転寝していたようだ。
それで変な夢を見てしまったのだろう。
「何でもないわ」
間も無く、終わる。
全てが終わる時が刻一刻と近づいているのだ。
この為にワタシは壊してきた。
あの道化の男に唆されるままにただ、ひたすら壊した。
後悔したことはこれまでになかった。
あの子に似た屈託のない笑顔を見せる少女を壊そうともワタシの心は、少しも痛くはないのだ。
決して、そのようなことはない。
この世界は泡沫の夢に過ぎないのだから。
全てを壊して、ワタシは帰らなくてはいけない。
夢が覚めれば、ワタシは戻れる。
だから、壊してもいい。
全て、壊れてしまえ。
間も無く、終わる。
ジャネタ・コラーとして、生きることも……。
ラーズグリーズとして、生きることも……。
全てが終わるのだ。
それがワタシの希望。
もう思い出せない。
ワタシは誰?
顔も思い出せない。
ワタシは何をしていたのか。
誰だったのか。
辛うじて、覚えている名前がカイだったことだけだ。
そして、今、ワタシのいるこの世界がワタシの世界ではない……。
それも知っている。
ワタシがワタシとして、目覚めた時。
姉と妹がいた。
覚えられないほど、たくさんの姉と妹がいる。
ワタシの知らない姉と妹だ。
「わたしたちは神の娘」
「世界を正しき方向に」
彼女らは口を揃えて、言う。
何の疑問も持たずに言う。
ワタシハチガウ。
帰りたい。
ココハワタシノバショデハナイ。
姉妹はそれぞれの運命に従って、世界に散っていった。
ワタシも例に洩れず、己の運命とやらに従わされた。
なぜ、従わないといけないのか。
心ではそう思っているのに体は勝手に動いてしまう。
神はどこまでも身勝手な存在らしい。
ワタシの居場所はココではないのに……。
心の中にいつしか、禍々しく黒い炎が燻ろうともワタシは運命とやらに従わなくてはいけない。
「そんな運命はつまんないよな?」
ある日、ワタシの前に現れた妙な装束の男が言った。
道化服に身を包んだ男は、僅かに口角を歪めた気味の悪い笑顔を浮かべている。
それなのにワタシは嫌悪感を抱かない。
不思議だ。
「それが使命だから」
そう答えるのがワタシの常だった。
神の娘であるワタシにはそう答えることしか、許されない。
ワタシの心を無視して、意思をないがしろにして、唇がそう紡ぐのだ。
「運命なんて、ちゃんちゃらおかしいと思わないか。ええ? 思うだろ? 壊したいと思うよな? 思うだろ? 違うか?」
男が握手でもしようというのか、手を差し出した。
手を取れと言わんばかりに……。
「さあ。選べ。己が運命に抗え」
ワタシは拒絶しようと言わんばかりに震えの止まらない手を伸ばし、男の手を握った。
ワタシの心が神の与えた体に初めて、勝ったのだ。
喜びに打ち震えるワタシに男が囁く。
「壊そうぜ。大地を! 世界を! なあ。それはとても、楽しいことなんだ。壊した時に俺は生きているって、実感出来るんだぜ。最高だろ。お前には分かるはずだ。そうだろ、ラーズグリーズ」
そう。
ワタシの名はラーズグリーズ。
十三番目の戦乙女。
計画を壊す者。
その日、ワタシは庇護すべき存在の少女を壊した。
ワタシを止める者は誰もいない。
懐かしい夢を見た。
思い出したくない思い出と言った方が正しい嫌な夢だ。
ワタシは既に何者だったのか、思い出せない。
帰りたい。
ただ、それだけを願っていた。
なぜ、帰りたいのか。
帰って、どうしたいのか。
それすらも覚えていない。
だから、壊した。
帰るには壊さないといけない。
全てを壊した時、ワタシは帰ることが出来る。
あの子に謝ることが出来るのだ。
あの子?
あの子って、誰?
「ヒメちゃん……」
「奥様。どうなされましたか? お加減が宜しくありませんでしたか?」
ベアータの声ではっと目が覚めた。
どうやら、入浴中に転寝していたようだ。
それで変な夢を見てしまったのだろう。
「何でもないわ」
間も無く、終わる。
全てが終わる時が刻一刻と近づいているのだ。
この為にワタシは壊してきた。
あの道化の男に唆されるままにただ、ひたすら壊した。
後悔したことはこれまでになかった。
あの子に似た屈託のない笑顔を見せる少女を壊そうともワタシの心は、少しも痛くはないのだ。
決して、そのようなことはない。
この世界は泡沫の夢に過ぎないのだから。
全てを壊して、ワタシは帰らなくてはいけない。
夢が覚めれば、ワタシは戻れる。
だから、壊してもいい。
全て、壊れてしまえ。
間も無く、終わる。
ジャネタ・コラーとして、生きることも……。
ラーズグリーズとして、生きることも……。
全てが終わるのだ。
それがワタシの希望。
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