53 / 56
第53話 このシャルルが退治してくれん
しおりを挟む
叔母様の胸から生えていた棘――黒い刀身が、勢いよく燃え始めた。
まるで剣自身が怒っていて、炎を上げているように見える。
その炎が叔母様の全身をくまなく包んで身を焼いていく。
決して、見たくはない。
だけど、目を離してはいけない。
叔母様はきっと、もう一人のあたしだったと思うのだ。
愛されることを諦めて、それなのにもがいて、周囲の人を傷つけて。
それで最後は自らの身を焼いて、終わる……。
だから、目を離しちゃいけないんだ。
ロビーと手を繋いでるから、そう出来ているのかもしれないと何とはなしに思ったのはなぜだろう。
一人では無理でも二人なら、勇気と力が湧いてくる。
そんな気がしてくる。
『ごめんね』と黒焦げで見る影もなく、辛うじて、それが顔だったと判別出来る叔母様だったものがそう唇を動かしたように見えた。
黒焦げになりながらもきれいな瞳は未だに輝きを失っていない。
それが不気味でもあった。
棘が抜かれて、まるで物を無造作に扱うように叔母様だったものが蹴り飛ばされて、大地に転がった。
あたしの家族に酷いことをして、世界を壊そうとした叔母様は確かに悪い人ではあったけど、こんな最期を迎えるなんて……。
「ふっふふふふっ。はっーははははっ。レーヴァティンは在りし日の姿を取り戻した。愉快愉快」
燃え上がる刀身を意にも介さず、右肩に乗せて、こちらを威圧するように不快な笑い声を上げる男を前にあたし達は指一本さえ、動かすことが出来ない。
恐怖。
戦慄。
色々な感情が入り混じって、体が言うことを聞いてくれないのだ。
「大丈夫だ、エミー。僕がいるから」
そう言ってくれるロビーの手も小刻みに震えている。
自分も怖くて、しょうがないのにその心遣いだけで勇気が貰えて、嬉しかった。
嬉しいんだけど、水を差すように後ろがうるさい……。
「おのれ、この邪神め。このシャルルが退治してくれん!」
握った剣を持つ手が震えているのか、結構うるさい。
耳がガンガンしてきて、鼓膜が破れそうな大声でがなり立てるのはトマーシュ殿下が付けてくれた近衛騎士四人のうちの一人だった。
一番、若い人で確か、シャルルさんだ。
「待て、シャルル。これはロキの罠だ」
男性にしては高めでよく通る声も聞こえた。
きれいに整えられた顎髭をいじりながら、鏡でも見ているのだろうと想像出来る声の主もまた、近衛騎士だ。
アンリさんだったと思う。
「おいらも加勢するぞお」
「待て待て。迂闊に飛び込む馬鹿がおるか」
妙に間延びした声の主はイザークさんで周りを窘めるような落ち着き払った声はリーダー格のアルマンさんだ。
アルマンさんは四人の中で最年長でしかも副団長だと聞いた。
「はははっ。お前さんらの相手は我ではないよ? ほら。アレをどうにかしないとお前さんらの国はおしまいだなぁ。大変だなぁ。はっーははははっ」
最後まであたし達を嘲笑うように高笑いだけを残して、叔母様を殺した男は姿を消した。
文字通り、消えたのだ。
闇に溶け込んでいくように消えていった時のあたしらを見た何の感情も籠っていない目は思い出しただけでも鳥肌が立つ。
呆然として、動けないあたしを他所に四人の騎士さんとロビーが、祭壇に横たえられていたユナを抱えて、助けてくれたが皆、空の一点の見つめたまま、言葉を失っている。
空に描かれた魔法陣が完成して、そこから巨大な何かがゆっくりと姿を現し始めていたのだ。
まるで剣自身が怒っていて、炎を上げているように見える。
その炎が叔母様の全身をくまなく包んで身を焼いていく。
決して、見たくはない。
だけど、目を離してはいけない。
叔母様はきっと、もう一人のあたしだったと思うのだ。
愛されることを諦めて、それなのにもがいて、周囲の人を傷つけて。
それで最後は自らの身を焼いて、終わる……。
だから、目を離しちゃいけないんだ。
ロビーと手を繋いでるから、そう出来ているのかもしれないと何とはなしに思ったのはなぜだろう。
一人では無理でも二人なら、勇気と力が湧いてくる。
そんな気がしてくる。
『ごめんね』と黒焦げで見る影もなく、辛うじて、それが顔だったと判別出来る叔母様だったものがそう唇を動かしたように見えた。
黒焦げになりながらもきれいな瞳は未だに輝きを失っていない。
それが不気味でもあった。
棘が抜かれて、まるで物を無造作に扱うように叔母様だったものが蹴り飛ばされて、大地に転がった。
あたしの家族に酷いことをして、世界を壊そうとした叔母様は確かに悪い人ではあったけど、こんな最期を迎えるなんて……。
「ふっふふふふっ。はっーははははっ。レーヴァティンは在りし日の姿を取り戻した。愉快愉快」
燃え上がる刀身を意にも介さず、右肩に乗せて、こちらを威圧するように不快な笑い声を上げる男を前にあたし達は指一本さえ、動かすことが出来ない。
恐怖。
戦慄。
色々な感情が入り混じって、体が言うことを聞いてくれないのだ。
「大丈夫だ、エミー。僕がいるから」
そう言ってくれるロビーの手も小刻みに震えている。
自分も怖くて、しょうがないのにその心遣いだけで勇気が貰えて、嬉しかった。
嬉しいんだけど、水を差すように後ろがうるさい……。
「おのれ、この邪神め。このシャルルが退治してくれん!」
握った剣を持つ手が震えているのか、結構うるさい。
耳がガンガンしてきて、鼓膜が破れそうな大声でがなり立てるのはトマーシュ殿下が付けてくれた近衛騎士四人のうちの一人だった。
一番、若い人で確か、シャルルさんだ。
「待て、シャルル。これはロキの罠だ」
男性にしては高めでよく通る声も聞こえた。
きれいに整えられた顎髭をいじりながら、鏡でも見ているのだろうと想像出来る声の主もまた、近衛騎士だ。
アンリさんだったと思う。
「おいらも加勢するぞお」
「待て待て。迂闊に飛び込む馬鹿がおるか」
妙に間延びした声の主はイザークさんで周りを窘めるような落ち着き払った声はリーダー格のアルマンさんだ。
アルマンさんは四人の中で最年長でしかも副団長だと聞いた。
「はははっ。お前さんらの相手は我ではないよ? ほら。アレをどうにかしないとお前さんらの国はおしまいだなぁ。大変だなぁ。はっーははははっ」
最後まであたし達を嘲笑うように高笑いだけを残して、叔母様を殺した男は姿を消した。
文字通り、消えたのだ。
闇に溶け込んでいくように消えていった時のあたしらを見た何の感情も籠っていない目は思い出しただけでも鳥肌が立つ。
呆然として、動けないあたしを他所に四人の騎士さんとロビーが、祭壇に横たえられていたユナを抱えて、助けてくれたが皆、空の一点の見つめたまま、言葉を失っている。
空に描かれた魔法陣が完成して、そこから巨大な何かがゆっくりと姿を現し始めていたのだ。
78
あなたにおすすめの小説
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。
婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。
私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。
「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです
しーしび
恋愛
「結婚しよう」
アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。
しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。
それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・
可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。
ふまさ
恋愛
小さくて、可愛くて、庇護欲をそそられる姉。対し、身長も高くて、地味顔の妹のリネット。
ある日。愛らしい顔立ちで有名な第二王子に婚約を申し込まれ、舞い上がるリネットだったが──。
「あれ? きみ、誰?」
第二王子であるヒューゴーは、リネットを見ながら不思議そうに首を傾げるのだった。
離婚したいけれど、政略結婚だから子供を残して実家に戻らないといけない。子供を手放さないようにするなら、どんな手段があるのでしょうか?
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
カーゾン侯爵令嬢のアルフィンは、多くのライバル王女公女を押し退けて、大陸一の貴公子コーンウォリス公爵キャスバルの正室となった。だがそれはキャスバルが身分の低い賢女と愛し合うための偽装結婚だった。アルフィンは離婚を決意するが、子供を残して出ていく気にはならなかった。キャスバルと賢女への嫌がらせに、子供を連れって逃げるつもりだった。だが偽装結婚には隠された理由があったのだ。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
病弱を演じる妹に婚約者を奪われましたが、大嫌いだったので大助かりです
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
『病弱を演じて私から全てを奪う妹よ、全て奪った後で梯子を外してあげます』
メイトランド公爵家の長女キャメロンはずっと不当な扱いを受け続けていた。天性の悪女である妹のブリトニーが病弱を演じて、両親や周りの者を味方につけて、姉キャメロンが受けるはずのモノを全て奪っていた。それはメイトランド公爵家のなかだけでなく、社交界でも同じような状況だった。生まれて直ぐにキャメロンはオーガスト第一王子と婚約していたが、ブリトニーがオーガスト第一王子を誘惑してキャメロンとの婚約を破棄させようとしたいた。だがキャメロンはその機会を捉えて復讐を断行した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる