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第17話 平穏な日々へ

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 ヨハンナ殿下が「こんなこともあろうかと用意していた」と取り出した魔力封じの腕輪でカスペル殿下が目を回している間に制約ギアス込みで装着し、全てが終わりました。

「お嬢様。こちらも片付きました」

 カスペル殿下の力が急に切れたからなのでしょう。
 意識を失ったのか、ダラリと手足の力が抜けたクラシーナを軽々と抱え、セバスが現れました。
 その後ろにはクラシーナのレイピアを手にしたブランカもいます。

 あなた達は一体、どういう体の構造をしているの?
 階段を一段上がる体で一階から、二階までジャンプしてくるなんて、色々とおかしいわ。
 セバスはクラシーナを肩に抱えているのだから、余計に信じられません。

「兄上。お疲れ様」
「ああ。お前もな」

 互いに労わりあうエルヴィン殿下とヨハンナ殿下の姿に、心がほっこりとしていたのに急に冷静になってしまいますよ?

 でも、本当に大変なのはこれからなのかもしれません。
 生まれたままの姿で何やら、色々な液体に塗れてもまるで穢れを知らない幼子のように無垢な顔で気を失っているリューク殿下を見ると何とも、居たたまれない気分になってきます。

「聞いていなかった、知らなかったでは済まされないと思いますよ」
「目を覚ましたら、少しくらいは思い知るって」

 エメラルド色に彩れたジュストコールについた埃を払うとユリが憎々し気に言い放ちましたが、彼女の胸中も複雑でしょう。
 王家のごたごたに巻き込まれたというよりも私が原因で起きてしまったと言っても過言ではありません。

「ユリ。とにかく、今は後片付けをしないとね」
「そうね。ミーナ」



 カスペル殿下が拘束され、彼の影響が消えたことで一気に全てのことが解決へと向かいました。
 リューク殿下に妙な動きがあるということで予め、伝令を送っていたのは事実です。
 セバスが主に動いてくれましたから。

 でも、それ以上にタイミングがいいとしか、言いようがない近衛騎士団の派遣があったのです。
 まるでカスペル殿下が動くことが分かっていたとでも言わんばかりのタイミングの良さです。
 しかも派遣された部隊を率いているのは副団長のマルセル様。
 副団長をわざわざ派遣してくるのも手際が良すぎやしませんか?

「でも、マルセルがあのクズを持って行ってくれたんでしょ? こっちは損はしてないから、いいんじゃない」
「ユリのそういうところは見習いたいわ」
「あたしはミーナのそういうところが羨ましいわ」

 ケラケラと明るく笑うユリを見ているとここ、デ・ブライネ辺境伯領にもようやく平穏が戻って来たのだと実感が出来ます。

 近衛騎士団の派遣の裏には国王陛下ではなく、恐らくフェリクス王太子殿下が積極的に動いたということです。
 もっとも殿下ではなく、暗部に詳しいアンネリーセ王太子妃殿下が焚きつけたというのが真相。
 被害が出るまでカスペル殿下を泳がせていたという点について、納得は出来ませんがこのことを抗議するつもりはありません。

 遠いので勝手にやらせてもらう。
 それが我が家デ・ブライネの矜持でもあるのです。
 お父様、これで合っているのよね?
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