ルーシーの平凡なれど幸福な日常

くろいゆき

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血染めの手紙

 十二歳とは思えないルーシーの着替えは代用品で賄われた。
 予め彼女の為に用意され誂えられたドレスでは大きすぎた。
 兄弟姉妹の多いブリスが機転を利かせ、姪がかつて着ていた服を代用することでどうにか間に合わせたのだ。

「坊ちゃま。お嬢様の体なんですけどね」
「坊ちゃまはやめろと……」
「では旦那様と呼べとでも? 冗談きついですよ」
「全く、君には勝てないな。ふむ。それであの子の体で気になることがあったのか? 栄養が足りずに成長不良以外でか?」

 ケイシーの問いにブリスは無言で頷く。

「お嬢様は栄養失調ですよ。それも重度の……。見ていたら、いたわしさに涙が出てきそうですよ、全く。あばらの骨が浮き出て、手だけでなく足も折れそうな枯れ木みたいなんですよ」
「ふむ。それだけならば……」
「それだけと言ったか、坊ちゃま」
「あぁ、いや。十分な栄養を我が家で与えれば、問題あるまい」
「はぁ。やれやれ」

 呆れたようにわざとらしく、両手を上に上げるジェスチャーをするブリスに内心、微かな怒りを覚えたケイシーだったが、言葉や行動で抗議することはない。
 もし、そうしたのであれば、それ以上のしっぺ返しがあるのを知っているからだ。

「お嬢様の体には服で隠れて、見えないところにたくさん、痣がありましたよ。古いのから新しいのまで痣だらけでおいたわしいのなんのって」
「そうか。思っていた以上に深刻だったということだな」

 ケイシーには思い当たる節があった。
 会ったことのない姪ルーシーの危機を報せる手紙を届けたのは郵便業者ではない。
 ハンターギルドに所属する高ランクのエクスプローラーが手紙を手に訪ねてきたのだ。
 ケイシーが当主を務めるオーディネリー家とギルドの関係性は悪くなかった。
 何も無い小さな田舎町であるペンバルに周辺地域の治安を守るべく、ギルドを招聘したのはひとえにケイシーの尽力によるものである。
 ギルド施設の建築に加え、資金提供したのは誰あろうケイシーである。
 ケチンボと揶揄される吝嗇家のケイシーだが、ここと決めた時は惜しまない。

 そして、ギルド所属のエクスプローラーは厳密に認定されたランクに分けられており、高ランクの者はそれだけで社会的に信用されている。
 それが家を捨てた兄を誑かした女イルミナの手による自分宛の手紙を携えていたとしても……。

 手紙はインクではなく、奇妙な色合いをしていた。
 ブリスから聞いたルーシーの様子を見て、ケイシーは血で書かれたに違いないと確信した。
 のたうつような字で書かれていることから、まともな状況で書かれたものではないことに今更のようにケイシーは気付いたのである。

「夕食はできるだけ栄養の高い物を……いや、違うか。消化のいい雑炊を用意してくれないか」
「はいはい、分かりましたよ、坊ちゃま。あぁ、旦那様」

 先程までの深刻な面持ちはどこへやら。
 ブリスは煽るようなにやけた顔をして、退室した。
 残されたケイシーは「態度を改めるべきか? いや、しかし、どうやって?」と自問自答を始めるのだった。
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