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第1章 最果ての地ニブルヘイム
第2話 死の大地の三兄妹
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全知にして、全能たらんとした神が世界を治めていた。
その名はオーディン。
未来を視る力を持ち、その目で世界の終末を識る唯一の者である。
中央のアスガルドを魔槍グングニルを手にしたオーディンが睨みを利かせる。
識る為に隻眼となった黒衣の男は愛され、そして、憎まれる存在である。
東の地ヴァナヘイムを治めるのはオーディンの貞淑な賢妻フリッグだ。
フリッグはまたの名をフレイアとも呼ばれ、愛と豊穣を約束する慈愛に満ちた女神として、知られている。
だが、彼女には別の一面がある。
全ての魔女の頂点に立つ魔女の王、魔法の大家。
彼女の気性に含まれる激しさは時に夫ですら、抑えられないと言われている。
南の地ミドガルドは勇猛なる御子トールが治めている。
巨人の血を引くトールは美しい容貌と相反する屈強な肉体を持ち、魔法の鎚ミョルニルを手に戦いにおいて、負け知らずの軍神だ。
良く言えば、豪放磊落。
悪く言えば、直情型の単純な性格のせいか、トラブルの原因となることも多い。
西の地アルフヘイムは最も美しき御子バルドルに任せられた。
バルドルはオーディンとフリッグの長子で神々の美しき宝石と称えられたゲェルセミの兄にあたる光の神である。
穏やかな気性とその美しさから、多くの神々から愛され、そして、一部から憎まれることとなる。
北の地ヨトゥンヘイムは奸知に長けた御子ロキが抑えている。
トールと同じく、忌まわしき存在とされた巨人の血を引くローゲは様々な顔を持つ神だ。
炎の化身にして、偉大なる賢者。
狡猾にして、凶悪な本性を秘めた暴君。
その全てが彼に当てはまり、捉えどころのない性質を表している。
そのせいだろうか。
ロキが治める北の大地は冷涼な厳しい気候に支配されており、穀物が育ちにくい。
豊かな土地とは程遠いもので住まう人々の気質はいつしか、荒々しく猛々しいものへと変貌していった。
環境による変質は格別、不思議なことではない。
だが、その変化があまりにも急激で大きければ、伴う痛みも壮絶なものになる。
ロキは父オーディンと同じく、複数の妻を持つ。
その中には義母にあたるフリッグの娘である美しき宝石ゲェルセミがいる。
義理の兄妹にあたるこの二人の婚姻には政略的な意味合いが強い。
血縁をさらに強固にする儀式的なものに過ぎなかったのだ。
ところが大方の予想に反して、ロキとゲェルセミは子を成してしまった。
最初の子は母に似て、美しい容姿の男の子だった。
だが、長じるにつれ、銀糸のようなシルバーブロンドの髪に血の色をした毛が混じるようになっていく。
次第に狂暴性を帯びるようになっていくフェンリルの犬歯はまるで狼のように鋭かった。
二番目の子も息子だった。
濡れ羽色の髪をしており、どこか激しさがある長男とは異なるとても物静かな子だ。
何を考えているのか、分からないその目に大人達が恐怖を覚えるようになるのにさして、時間を要さなかった。
最後に生まれた三番目の子は待望の娘だった。
祖母と母から、美しい容姿と賢さを受け継いだ一族の愛し子。
だが、その両足は呪われ、醜く爛れていた。
血の通わない色をした足は彼女の意に反して、全く、動きを見せなかった。
生まれつき足が不自由な娘を見たロキは三人の子らに無慈悲な宣告を言い渡す。
「呪われし子らよ。貴様らが住む地はここではない」
かくして、怪物と呼ばれた二人の兄と一人の妹――昏き森の魔狼、深き海の妖蛇、凍てつく氷の女帝の三兄妹は最果ての地である極北の地へと追放されたのである。
その名はオーディン。
未来を視る力を持ち、その目で世界の終末を識る唯一の者である。
中央のアスガルドを魔槍グングニルを手にしたオーディンが睨みを利かせる。
識る為に隻眼となった黒衣の男は愛され、そして、憎まれる存在である。
東の地ヴァナヘイムを治めるのはオーディンの貞淑な賢妻フリッグだ。
フリッグはまたの名をフレイアとも呼ばれ、愛と豊穣を約束する慈愛に満ちた女神として、知られている。
だが、彼女には別の一面がある。
全ての魔女の頂点に立つ魔女の王、魔法の大家。
彼女の気性に含まれる激しさは時に夫ですら、抑えられないと言われている。
南の地ミドガルドは勇猛なる御子トールが治めている。
巨人の血を引くトールは美しい容貌と相反する屈強な肉体を持ち、魔法の鎚ミョルニルを手に戦いにおいて、負け知らずの軍神だ。
良く言えば、豪放磊落。
悪く言えば、直情型の単純な性格のせいか、トラブルの原因となることも多い。
西の地アルフヘイムは最も美しき御子バルドルに任せられた。
バルドルはオーディンとフリッグの長子で神々の美しき宝石と称えられたゲェルセミの兄にあたる光の神である。
穏やかな気性とその美しさから、多くの神々から愛され、そして、一部から憎まれることとなる。
北の地ヨトゥンヘイムは奸知に長けた御子ロキが抑えている。
トールと同じく、忌まわしき存在とされた巨人の血を引くローゲは様々な顔を持つ神だ。
炎の化身にして、偉大なる賢者。
狡猾にして、凶悪な本性を秘めた暴君。
その全てが彼に当てはまり、捉えどころのない性質を表している。
そのせいだろうか。
ロキが治める北の大地は冷涼な厳しい気候に支配されており、穀物が育ちにくい。
豊かな土地とは程遠いもので住まう人々の気質はいつしか、荒々しく猛々しいものへと変貌していった。
環境による変質は格別、不思議なことではない。
だが、その変化があまりにも急激で大きければ、伴う痛みも壮絶なものになる。
ロキは父オーディンと同じく、複数の妻を持つ。
その中には義母にあたるフリッグの娘である美しき宝石ゲェルセミがいる。
義理の兄妹にあたるこの二人の婚姻には政略的な意味合いが強い。
血縁をさらに強固にする儀式的なものに過ぎなかったのだ。
ところが大方の予想に反して、ロキとゲェルセミは子を成してしまった。
最初の子は母に似て、美しい容姿の男の子だった。
だが、長じるにつれ、銀糸のようなシルバーブロンドの髪に血の色をした毛が混じるようになっていく。
次第に狂暴性を帯びるようになっていくフェンリルの犬歯はまるで狼のように鋭かった。
二番目の子も息子だった。
濡れ羽色の髪をしており、どこか激しさがある長男とは異なるとても物静かな子だ。
何を考えているのか、分からないその目に大人達が恐怖を覚えるようになるのにさして、時間を要さなかった。
最後に生まれた三番目の子は待望の娘だった。
祖母と母から、美しい容姿と賢さを受け継いだ一族の愛し子。
だが、その両足は呪われ、醜く爛れていた。
血の通わない色をした足は彼女の意に反して、全く、動きを見せなかった。
生まれつき足が不自由な娘を見たロキは三人の子らに無慈悲な宣告を言い渡す。
「呪われし子らよ。貴様らが住む地はここではない」
かくして、怪物と呼ばれた二人の兄と一人の妹――昏き森の魔狼、深き海の妖蛇、凍てつく氷の女帝の三兄妹は最果ての地である極北の地へと追放されたのである。
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